その二十二 上にはいつも王が居る
現在ミノルはラミア様と共に脱出を試みていた。
共に走るなかラミアが不安げに呟く。
「はあ……はあ……リドル様大丈夫でしょうか」
「リドルはそう簡単には死にません。なので安心してください。それよりも……この地下が迷路のように入り組んでいて何処が出口か分からないわね」
「ごめんなさい。私も何処が出口か覚えてないのです」
ラミアはさらに悲観的になると、ミノルは慌ててフォローする。
「ラミア様のせいではありませんよ。そんなことより………この男はいつまでこんな調子なの」
「ああ……疲れた。足が痛い、息も苦しいし頭も痛いよ」
そう言って、ガビットは弱音を吐きながらその場でうずくまる。
そんな姿をミノルは呆れながら見ていた。
「ちょっと何立ち止まってるの。シャキッとしなさいよ!さっきまであんな堂々としてたのに急にどうしたのよ?」
「う、うるさいなぁー。あ、あんたに関係ないだろ」
「な!?人が心配してあげてるのに、何なのよその態度は!!」
「ひい!」
そう言って、悲鳴をあげながらさらに体をうずくめる。
そのあまりの怯えっぷりにミノルは疑いの眼差しを向ける。
『本当に…………この男に何があったの?』
「ガビット様はこれで正常だと思いますよ」
「正常ですか?これが?」
ミノルはさっきまでのガビットを思い出しながら、現在のガビットを見比べる。
「いや、失礼ですがとても正常には見えないのですが………」
「ガビット様と最初にお会いした時もそのような雰囲気を持っていましたよ」
「ええ!?てことは本当に?」
「はい、私の知る限りですけど…………」
『もし、そうだとしたら二重人格ってこと?性格も真逆みたいだし、なりたい自分を新しい人格として作ったって考えもあるわね』
「まあ、ガビットの件は置いときましょう。話しても意味はなさそうですし」
「ていうか、ぼ、僕の名前はカビットだぞ。しょ、初対面で間違えるなんて失礼だろ」
「え?そうだったの?てっきりガビットが本名だと思ってたわ」
『てことは人格が変わると名前も変わるってことかしら』
「あなた、大分めんどくさいわね」
「な、何なんだこの女……急に馬鹿にしやがって………」
「そう言うのは、心の中までにしときなさい。それよりも脱出法方を考えないと」
ミノルが再び脱出方法について思案すると、ラミアが特に気にすることなく告げる。
「そこら辺は大丈夫だと思います」
「大丈夫って何がですか?」
「そろそろ来ると思うから」
「そろそろ?――――っ!?何!この地震!!」
その瞬間、物凄い轟音と共に地下が揺れる。
『この音!段々近づいてきてる!?』
「ラミア様!早く逃げ――――」
その瞬間、轟音と共に1人の王が天井を突き破り現れた。
「が…………ガルア様!?」
「よお、ミノル。俺の妹が世話になったみたいだな」
「そ、そそそそんな!とんでもございませんですすよ!」
「いや、何言ってるかわかんねぇ」
『な、何でガルア様がこんなところに!?いや、それよりもこの状況はとてもまずいわ!だって!この状況!絶対私怒られるじゃん!』
ミノルがガルアの登場に心の中で慌てふためいていると、ラミアは険しい表情でガルアを見る。
「お兄様………早かったですね」
「妹が拐われたって知ったら飛んでくるに決まってんだろ。それよりも、絶対かつは何処に居る。あいつ、俺の妹にこんな思いをさせやがって、1発ぶん殴らないと気がすまないな」
「や、やめてください!かつお兄ちゃんのせいじゃないです!私がしっかりしていなかったから………」
だが、ガルアはそんなフォローを気にする様子もなくそのままかつに怒りをにじませる。
「いや、これは完全にあいつのミスだ。周りに認知されてないとはいえ、姿や身なり、仕草は明らかに品が違う。王の妹と知らなくてもこう言う奴等には狙われる。お前も自分がどれ程の立場に居るのかちゃんと理解しろ」
「………ごめんなさい」
ラミアは怒られてしまったからか少し落ち込む。
「まあ、分かってくれればそれでいい。それで、かつは何処に居るんだ?」
「それが、私達も探していて」
「なるほどな。てことはかつも妹の事をまだ見つけられてないってことか。うーん………あいつの事を少し買い被りすぎたかもしれないな」
『まずいわ。何かよくわからないけど、かつの評価が下がってしまう!ここは私が何とかフォローしないと』
「でも、かつは今も必死にラミア様の事を探していると思います!」
「探しているだけで見つけなきゃ意味ないだろ。その間にラミアが死んだらどうすんだ。まあ、探しさえしなかったらぶっ殺してる所だったけどな」
「ああ、そうですね」
『ごめんかつ。私の力じゃ駄目だったみたい』
その時、奥から誰かの声が聞こえた。
「ミノルさーん!ラミア様!ガビットさーん!大丈夫ですか!!その方向から物凄い音が聞こえましたけど………ってガルア様!?これは失礼しました!」
ようやく合流したリドルはガルアの姿を捉えるとすぐに謝罪する。
「別にそんなかしこまんなくていいよ。リドルだったな、かつを見てないか?」
「かつさんですか?すみません、僕達も探してるんですけど」
「ああ、そうだったな。それじゃあ、早速探すか」
「かつさんをですか?分かりました、僕達も微力ながらお供します」
「いや、探すのはかつじゃねぇ」
「え?じゃあ誰を」
すると、ガルアは口元をにやつかせる。
「ここは闇社会の溜まり場。もちろん王として見過ごすわけにはいかない。十二魔道士に闇社会の奴等を捕まえさせてるが、俺はもっとでかいやつを捕まえる」
「なるほど、そう言うことですか」
リドルは同意するように頷くと、ミノルは困惑気味にリドルの方を見る。
「え?なに、リドルは分かったの?」
「察し付いてる奴も居るみたいだな。これだけの大規模な地下街にも関わらずその姿を見せることはなかった。今回はラミアの魔力反応があったからこそ見つけられたが、ここまでの規模をずっと隠し続けるのは相当な権力と金と人材が居る」
「つまり、ガルア様と同じくらいの権力を持つもの、王が関わってる可能性があるということですね」
「まあ、そうだが……お前人のセリフとるなよ」
「申し訳ございません」
リドルはすかさず謝罪する。
「まあいいけど。こうやって話をするのも久しぶりだしな」
「それじゃあ、早速探しましょうか」
「いや、もう場所は分かってる」
―――――――――――――――――――――
「な、何だ今の音!!」
「デビッち!まさか、おならしたの!?」
「そんなわけなかろう!!ていうか、お主もうちょっと空気を読め!」
「まさか、デビがそんなことを言うなんてな。ていうか、今のただの地震か?」
それにしては急に来て急に止まった気がするけど。
「おい!あんたは何か知ってんじゃないのか」
俺は何かを知ってそうな貴族の方を見る。
すると、顔が信じられないほど青ざめていた。
「ま、まさか……そんなわけ……もうばれたのか!?」
「おい、何ぶつぶつ言ってんだ?」
「そ、そんな………嘘だ!嘘だ嘘だ嘘だ!!」
「おい!どうしたんだよ!」
何だ?こいつ、何でこんな急に戸惑ってんだ?
「どうやら妾の威圧でおかしくなってしまったようじゃのう」
「すごいデビッち!さすがおならキングダム!」
「だから、屁などしとらん!!」
その時、再び大きな振動が地下全体を揺らす。
「また来たぞ!さっきよりも大きい!」
「まさかこれもデビッちが!?」
「ふっばれてしまったか」
「なわけねえだろが!」
何だ!?振動がどんどん強くなってるって言うか、こっちに来てないか!?
そう思った瞬間、天井が崩れ誰かが降りてきた。
「うおっ!?何だ!!?」
俺は状況が分からずとりあえず身構える。
その瞬間、一瞬影が見えたと同時に俺は吹っ飛ばされた。
「ぐふっ!?」
殴られた!?
そう感じたのは殴られて1秒後だった。
「くっ!」
「かつっち!?」
「大丈夫だ!!」
俺は追撃を予想してもう1度身構える。
「よお、かつ。今の1撃はラミアを見なかった罪の1撃だ」
この声は……………!
「ガルア!?」
「妹がお世話になったな」
まずい………この状況は非常にまずい。
絶対怒ってるよな。
「わ、妾はしーらないっと」
「お前もだデビ」
「っ!!な、何じゃ?」
「お前ら揃いも揃ってこのざまか。お前らにはラミアを預けるのはまだ早かったみたいだな!」
「ぐうの音もでねえ」
「ごめんなのじゃ」
そう言って、俺達は正座をする。
その時ガルアの視線が別の方へと移動した。
「おい」
「っ!?」
「何逃げようとしてんだ?」
その視線の先には例の貴族がいた。
貴族もガルアに睨まれたことで青ざめて、全身が小刻みに震えている。
「が、ガルア……………」
「まさかランブール家の当主、ランブール·レッセンが首謀者だとはな。たしかに、昔はそこまで目立っていなかったのにここ最近資産が増えていて引っ掛かっていたが、裏と繋がっていたか」
「うっうるさい!お前に俺の苦労が分かるのか!?他の貴族に馬鹿にされ、見下される毎日に!」
「知らねえよ。どっちみち闇社会で名をあげたところで表舞台で生きていけると思ってるのか?」
「くっ!お前みたいなやつに俺の何が分かるんだ!!!」
そう言って、ガルアに襲いかかるがガルアはそれを余裕でかわし、逆に腹を殴る。
「ぐふっ!」
「起きたら地位も名誉もない牢獄に居るだろうな。まっ自業自得だろう」
あっけなかったな。
本当にこれで終わったのか?
「お兄様!」
「ちょっと待ってくださいよ!」
「あれ?かつさんですか?」
「リドル!?ミノルもラミアも!?それと…………誰だ?」
1人知らない男がミノルに担がれてるが、それ以外は全員居るみたいだ。
て言うかあいつらどうしてここに。
「リドルにミノルも!?何でここに居るのじゃ?」
「あんたたちが全然帰ってこないから心配して探しに来たのよ」
「かつっちのお仲間さんだー!」
「あなたはメイさんですよね。初めましてリドルです」
「おいおい、これはどうなってんだ!?俺の経験上パニック何だが!」
「あっサキト起きたのか」
「な、何なんだこれ。陽キャどもが集まって息苦しい………」
何か、色々混乱してきたな。
こんなに人が一気に増えると収拾がつかないぞ。
「おいお前ら!とりあえずお前らを外に出すぞ!!勝手な行動をするなよ!」
ガルアが場を収まるために声を荒げる。
さすが王の一声だ、一瞬でその場を支配した。
これで誰も安易に口を開くことはできない。
「あっ!ガビッちだ!!何か、久しぶりだねぇ!!」
一人を除いては。
「だ、だから、僕の名前はカビット何だけど」
「お前、早速俺の話を聞いてないな」
その時、また大きく地下が揺れる。
「なっ!何だ!?またガルアがやったのか!」
「俺は何もやってないぞ!」
「またデビッちがおならしたんだ」
「お主はいつまでそれを言っているのじゃ!」
「デビさん…………」
「お主本気にしてるのか!?」
「陽キャ共がうっさい………」
「くっくっく………始まった……お前らはもうおわ―――」
「黙ってろ」
その瞬間、ガルアは何かを伝えようとしていたランブールを手刀で再び気絶させる。
「おい、今確実に何か言おうとしてたけどいいのか?」
「言っただろ。こいつが目覚める時は牢獄の中だと」
こいつ、自分で言ったことは意地でも実行するタイプだ。
すると、揺れがさらに激しくなる。
「かつお兄ちゃん!」
するとラミアがこちらに駆け寄ってくる。
「ラミア!よかった無事みたいだな。ごめんな、怖い思いさせて」
「大丈夫!それより、早くここから逃げよう!」
「そうだな。ガルア!早くここから逃げよう!」
「ああ、そうだな」
「揺れが酷くなってきたのじゃ」
「おいおい、俺の経験上これは崩れる流れだぞ」
「お前ら捕まってろよ!テレポート!!」
俺らは淡い光に包まれてその場を瞬間移動した。




