その十六 闇のゲーム
「くそ、この階段何処まで下に続いてんだ」
秘密の入り口が開いた所の階段を俺はずっと降りていた。
「ん?光が見えてきたな」
ようやく出口らしきものが見えてきて俺はすぐに駆け降りる。
その光の向こうには何やら大きな物音が聞こえる。
俺は警戒しながらもその光の中に向かった。
「早く始めろー!!」
「今日も期待してるぞー!!」
「殺せ殺せー!!」
そこには大勢のギャラリーが俺を囲むように上の席で騒いでいた。
人の手によって作られたのだろう。
奥には扉が2つあり、中央とその扉を分けるように巨大なガラスが立ちふさがっていた。
「何………だよ……ここは何なんだよ」
異様な光景に思わず体が固まる。
この人たちは一体何者なんだ。
周りの人々の声量に圧倒されていると、突然一際大きな声が聞こえてきた。
「さあーて!ついに挑戦者がやって参りました!それでは早速始めましょうか!!」
そう言って、拡声器を手にした男が客席の隣に設置されている一際目立つ場所から手を広げる。
何なんだ一体、何を始めるんだ!?
ドーム型の形で観客は360°居て、さらに謎のガラスが2つ、あの扉から何か出てくるとしたらガラスが邪魔で俺のところに来ることはない。
モンスターを出して戦わせると思ったけど違うのか?
すると、1つ目の扉が開いた。
「助けて!!お願い!私を助けて!」
そこから出てきたのは鋼鉄のケージに閉じ込められている女の人とそれを押している男の人だった。
何だ?一体どう言うことだ?
「それではもう1つの扉も開きましょう!!」
そう言うともう1つの扉が開いた。
すると最初の扉よりも大きな鋼鉄のケージが出てくる。
「何するのじゃ!妾をさっさとここから出すのじゃ!」
「ねえ皆大変!私の牛乳が失くなっちゃったよ!私の牛乳を持ってる人手ぇ上げて!」
「今はそんなことしてる場合じゃないだろ!俺の経験上、これは完全に捕まってるぞ!」
「デビ!メイ!サキト!お前らそんなとこで何やってんだよ!」
まさか、皆が捕まってたなんて。
そうか、だから皆の姿がなかったのか。
すると俺に気付いたサキトが筆紙に鉄格子を揺らす。
「かつか!?お願いだ、早く助けてくれ!敵の罠にはめられて捕まっちまったんだ!」
「分かった!待ってろ!すぐに助けるから!」
逆にここで見つかったのは不幸中の幸いだな。
こんなガラスすぐに吹き飛ばして助けてやる。
「それでは早速始めましょうか!!まずはゲームの説明をいたしましょう!」
「ゲーム?一体何をするつもりだ?」
何か嫌な予感がする。
すると、男が指を弾く。
その瞬間、俺の近くの地面から2つのボタンが現れた。
何だこれ?
「今、現れたボタンはそれぞれのガラスの扉を開けるボタンです!どちらかのボタンを押せば押した方は開き、押さなかった方は何度押しても開きません!右のボタンは挑戦者のお仲間が居るガラスが開くボタンです!もう片方は挑戦者には全く関係性のない赤の他人です!さぁーて!挑戦者はどちらの方を助けるのでしょうか!!」
「おい!楽しませろよ!ボウズ!」
「殺せ殺せ殺せ!」
助ける?どちらか1つしか開かない?
どういう意味だ?
俺は何から助けるんだ!
「それではこのゲームを盛り上げるモンスターにご登場していただきましょう!」
「モンスター?まさか!」
その瞬間、それぞれの扉が破壊され、壁を壊してモンスターが出てきた!
「「「「うおおおおおーーー!!!」」」」
その瞬間、ギャラリーが一斉に歓声を上げる!
くそ、何なんだこいつらは。
「さあ!それぞれのモンスターはどれも凶悪モンスターに指定されています!右のモンスターは殺人熊と言って出会ったら最後!相手の息の根を止めるまで攻撃を止めません!もう一方はシルバーウルフ!強力な顎で相手の骨を枝のように砕きます!」
「おおー!いいぞー!!」
「楽しませろよーー!」
「殺せー!!」
「おい!これはやばいぞ!俺の経験上死ぬやつだ!」
「グガァァァァ!!」
「ウォォァォン!!」
2匹のモンスターは大きな雄叫びを上げるとまっすぐ俺の方を見る。
え?まじで。
その瞬間、こっちに真っ直ぐ突っ込んできた。
だが、モンスターは俺の所まではこれずにガラスに衝突する。
「グガア!!」
「グルルル!!」
何度も何度もガラスを叩いたり引っ掻いたりするが壊れることはない。
「ご覧ください!今見た通りこのモンスター達ですらこのガラスを砕くことは出来ません!もちろん、魔法で壊すことも不可能です!彼らを助け出す方法はただ1つ!どちらかのボタンを押してガラスの入り口を開けるのみです!さあ、挑戦者は見ず知らずの女を助けるのか!それとも苦楽を共にしてきた仲間を助けるのか!それではゲームスタートです!!」
観客の歓声とモンスターの声が響く。
どれもこれも不快だ。
欲望が渦巻いているこの場所からすぐに出ていきたい。
でも、それにはどちらかのボタンを押さなければいけない。
なるほど、ゲームって言うのはこういうことか。
「おい!かつ!早く助けてくれ!このままじゃ俺の経験上モンスターに食われちまう!」
「お願いします!どうか私を助けてください!まだ、私は死ぬわけにはいかないんです!」
「ねえねえ、私の牛乳知らなーい?どこ行っちゃったんだろうー」
「おかしいのじゃ……いつもならこんなやつすぐに倒せるのに、魔法が出ないのじゃ」
「さぁーて!挑戦者はまだ迷っているのか動く気配がありません!その間にもモンスターはケージを狙っています!」
モンスターはこちらに行くことを諦めたのかケージの方に視線を移す。
まずいな、このままだと皆やられちまう。
俺が早くボタンを押せば済む話。
でも……何故か手が動かない。
頭では分かっているはずなのに心のどこかで躊躇ってしまう。
「グガァァァ!!」
「おおっと!早速殺人グマが動き出した!!挑戦者の仲間のケージを襲っている!」
「ヤバイ来たぞ!かつ!早くしてくれ!!くそ、お前らも何とか出来ないのか!!?」
「牛乳をください!誰か私に牛乳を恵んでください!!」
「うーん、何か体がおかしいのじゃ。魔法が何故か使えなくてのう」
「は?それじゃあ、どうすんだよ!!くそ!俺はこんなところで死ぬわけにはいかないんだ!かつ!早く助けてくれ!!」
「仲間の1人が挑戦者に助けを求めているが、まだ挑戦者は動く気配を見せません!!このままでは仲間の方が先に食われてしまう!!」
分かってるよ!
実況うるさいな!
俺だって、即決したいなら即決したいよ!
でも………俺1人じゃ決められない。
だって………もう、目の前で誰かを失わないって決めたはずなのに。
「きゃああああ!!」
「グラァ!!!」
「っ!?しまった、そっちの方も動き出したか」
「おおおっと!ついにシルバーウルフも動き始めた!!これで2体のモンスターが動き始めました!このままでは誰も救えずに終わってしまいます!さあ、挑戦者はどちらを選ぶのでしょうか!」
「おおーい!ボウズもっと楽しませろ!」
「殺せ!殺せ!」
まずい!
もう1体のモンスターも動き始めた。
早く決断しないとあの実況者の言った通りになっちまう。
やるしかないんだ。
やるしか…………
「おい、かつ!お前が悩む必要は何もないぞ!相手の方には申し訳ないが普通のやつなら仲間の方を選ぶはずだ。でも、お前が殺したわけじゃない。そもそもの原因はこのゲームを作ったやつだ。だからお前が責任を感じる必要は無いんだぞ!だから早くボタンを押すんだ!」
「サキト……でも、俺は」
「ガアアァ!!」
すると殺人グマがケージを持ち上げる。
「おおおい!やばいぞこれ!!ケージぶっ壊れるぞ!」
「すごいのじゃ!宙に浮いているのじゃ!」
「いえーい!!ふっふぅ~!」
その瞬間、思いっきりケージをぶん投げられてガラスに激突する。
「皆!!」
「うう………目が回ったのじゃ………」
「牛乳吐いちゃいそう………おえ」
「これは俺の経験上……死ぬやつだ………」
「おおっと!殺人グマの強力な一撃だ!!これには流石に挑戦者も焦っているようすだ!!」
まずいぞ!このままじゃ本当に皆死んでしまう。
しょうがない!サキトの言った通りこれは俺のせいではない。
今回は運が悪かったってことで諦めるしかない。
「きゃあああ!!」
「もう一方も大ピンチだ~!!シルバーウルフがケージを噛み砕こうとしている!鋼鉄のケージもシルバーウルフの凶悪な顎の前に無情にも不吉な音が鳴っている!!」
しょうがないんだ!!
「ここでついに挑戦者が動き出した!向かうのは……仲間の所だー!!」
「そ、そんな!!お願いします!どうか、どうか助けて……きゃあ!!」
ごめんなさい!ごめんなさい!ごめんなさい!
これしか方法が無いんだ!
「ついに挑戦者がボタンの前に立ちました!さあ、押してしまえばもう引き返すことは出来ません!さあ、どうするのでしょうか!!」
「よし!いいぞ、かつ!そのまま押すんだ!」
「……………」
「おい、さっきから思ってるがお前ら冷静すぎないか。俺の経験上、こういう場面は必死に説得するところだろ」
「うーん……妾は何故か恐怖心が全然ないのじゃ。もしかしたら死ぬかもしれないこの状況でも別に何も感じないのじゃ」
「色々経験しすぎて感覚が麻痺してるんだろ」
よし!押すぞ!押すしかないんだ!
俺は覚悟を決めてボタンに手を伸ばす。
「覚悟を決めたんでしょうか!ついに挑戦者が手をボタンに乗せます!ここまで来てしまったら、死ぬのは見ず知らずの女なのかぁ!?」
「お母さん!!」
俺がボタンを押そうとした時、そんな声が壊された扉の所から聞こえた。
扉の方を見るとそこには小さな子どもがいた。
「おおっと!!まさかのここで乱入者だ!!お母さんと言っていたのでもしかしてあの女の子供なのか?まさかの子持ちが発覚したぁー!!」
「うおおお!面白くなってきたな!」
「これだよ、こういうのを待ってたんだよ!」
嘘だろ……このタイミングで………
「お母さんに意地悪するな!!」
そう言って、子供がガラスの中に入っていく。
「ばっ!?」
「まさかの子供乱入により、シルバーウルフが標的を変えました!このままでは先に子供が食われてしまうぞ!!」
「何してるの!?早く逃げなさい!」
「やだ!お母さんを置いてけないよ!」
まだ、小さい子だ。
無謀すぎる。
このままでは死んでしまう。
「お願い逃げて!お母さんの言うことを聞きなさい!」
「やだ!だってこのままだとお母さんが……居なくなっちゃうんでしょ!そんなのやだよ!」
「この子は………お願いします!どうか、私の息子を助けてください!私の……たった1人の大切な子なんです!お願いします……お願い………」
そう言ってケージの中で泣き崩れてしまった。
「今度は自分の息子を助けてほしいと挑戦者に願い出したー!さあ、挑戦者は一体どうするのでしょうか」
「息子を殺せー!」
「情けをかけるな!!」
「食いちぎれーー」
いかれてやがる………そりゃそうか、ここに自ら来てる時点でまともなわけないか。
「くそ、このままだとまずいな。まさか、息子が登場するとは。俺も命の危機があるのに、あっちを助けてほしいと思ってしまっている。いや、逆にまだ人の心があると喜んだ方がいいのか………」
「ガァァァ!!」
「うわぁ!!ていうか、こっちも死にそうなんだよな!」
「グルル……」
「う、うう……お、お前なんか全然怖くないぞ!!」
「やめなさい!挑発しては駄目よ!」
俺は……どうすればいいんだ。
仲間か、他人か。
どっちを助けるのが正解なんだ。
「さぁーって、そろそろゲームも佳境に入ってきました!!そろそろ仲間の方のケージの耐久力も失くなってきています!かといって女の方は突然の息子乱入でピンチに陥っています!さあ、挑戦者は決めることが出来るのかぁー!?」
決められるわけないだろ!!
俺はリーダーとして仲間を守らなきゃいけない、かといって目の前で殺されそうな人を放ってはおけない!
「しねー!!殺せー!!」
俺は………
「やめてお願い!!息子を殺さないで!!私を狙って!!!」
俺は…………!
「かつ!迷うな!自分の責任を感じる必要は無いんだ!」
俺は!!
「かつっちー」
「っ!?………メイ?」
殺伐とした状況でメイの気の抜けた声が耳の中に入ってきた。
それにより俺は咄嗟にメイの方を向くと、メイは不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「何をそんなに悩んでるの?悩む必要無いでしょ?」
「悩む……だろ。普通に考えて」
「私の知ってるかつっちならーもう答えは出てるはずだぞ」
「っ!?」
「別に気にしなくてもいいんだよ。だから思いっきり押しちゃえー!」
「メイ……お前………」
本当に俺は助けられてばかりだ。
でも………だからこそ俺がちゃんとしなきゃいけない。
「グガァァ!」
「グルルラァァ!!」
俺は決めたぞ!
「おおっと!!ついに挑戦者がボタンに手をかけた!!」
「早くしてくれ!もう壊れそうだ!」
「さっきの言葉本当は妾が言おうとしたのに」
「へへーん!早い者勝ちだよー」
俺が助けたいのは!
俺は自分の決めた方のボタンを押した。
「ついに挑戦者がボタンを押したーー!!ボタンを押した方のガラスの扉が開いたぞー!」
本当に開いた。
これならあいつを助けに行ける。
「そして、モンスターめがけて走っていったー!だが、ここからが本当の問題だー!果たして挑戦者はモンスターを倒せるのか!」
「久しぶりに頭にきたぜ。だから、とびきりの1撃をおみまいしてやるよ」
「グルラァ!!」
俺は手に怒りの魔力を込める。
「インパクト!!」
物凄い轟音と共にモンスターが弾けとんだ。
ガラスに衝突したまま体をピクピクと痙攣させて、そして動かなくなった。
「「「「うおおおおおおお!!!!」」」」
「す……すごい力だぁー!!まさかのシルバーウルフを1発で倒しました!!これには観客の歓声も最高潮です」
倒した、シルバーウルフを。
赤の他人のガラスの扉を開いて。
「まあ、息子が殺されて絶望する表情も見たかったけどな」
「確かにそうだが。俺は仲間が目の前で食われる姿の方が見たかったから結果的に良かったぜ」
俺は檻から女性を解放すると、涙を流しながら何度も頭を下げる。
「ありがとうございます!本当にありがとうございます!!」
「お兄ちゃん、ありがとう!!」
「別に大したことはしてないよ」
「さあ、挑戦者が見知らぬ人を選んだことによって仲間の方が殺される結果となりました。それでは早速皆さんで挑戦者の仲間の最後を見届けましょう!!」
その瞬間、歓声がさらに大きくなる。
人の死ぬ瞬間で歓声を上げるような奴らの言う通りにはさせない。
「グガァァァァ!!」
「くそう!何でかつはあっちを選んだんだよ!」
「妾は最初から分かっておったぞ!」
「自慢することじゃないだろ。くそう!こうなったら戦うしかないか。頼んだぞお前ら」
「ふっ!任せな!私の牛乳瓶の蓋で倒してやる!」
殺人グマの凶悪な爪でケージがどんどんこじ開けられる。
「そろそろケージが開いてきました!凶悪な殺人グマの爪が仲間に降り注ぐ時も近いです」
そんなこと、させるわけないだろ。
「挑戦者に選ばれなかった方には死ぬのがこのゲームのルールです!それではそろそろ殺されましょう!!」
「俺が選んだのは………」
俺はデビ達のガラスの方に突っ込んでいく。
「両方助けるだ!!ワープ!」
その瞬間、俺はガラスの中に侵入することに成功した。
「なっ!なんと言うことでしょうか!先程まで外にいた挑戦者が次の瞬間、ガラスの中に入ってしまっています!どうやって入ったんだー!!」
「かつ!俺は来てくれると信じてたぞ!」
「何をいってるのじゃ。さっきまでぶつぶつ文句言ってたじゃろ」
「かつっち!ありがとね!」
「感謝はモンスターを倒してからだろ」
「グガアアァァァ!!」
俺を物凄い形相で見てくる。
完全に敵意剥き出しって感じだな。
「どうやって中に入ったが分かりませんが、挑戦者と殺人グマがそれぞれ対峙しています!挑戦者は殺人グマの爪を掻い潜り倒すことが出来るのか!?」
「かつ!気を付けろよ!絶対に死ぬんじゃないぞ!」
「ああ、分かってるよ」
昔の俺だったらここでびびって逃げまどっていた。
まあ、今もたまにそんな感じだけど、だけど今の俺はまず逃げようとは考えなくなった。
戦う、そう考えられるだけで俺は成長してるんだ。
「グガァァァ!!!」
「インパクト!!」
殺人グマがこちらに爪を振り下ろすよりも早く俺はインパクトをぶつける。
それにより殺人グマの体は吹き飛び、そのまま地面に倒れる。
その瞬間、先程までの歓声が嘘のように静まり返った。
「………た、倒しました!!殺人グマの1撃を間一髪でよけ、見事なカウンターで殺人グマを倒しました!!」
すると、デビ達がケージから外に出る。
そして一目散にこちらに向かってきた。
「かつー!!」
「うわっ!?急に抱きついてくんなよ!デビ!」
「俺の経験上お前ならやれると分かってたぜ」
「サキっちは結構文句言ってた気がするよ」
「ばか!そんなわけないだろ」
まあ、みんな元気そうでよかったな。
すると、実況の人が切り替えるように一つ咳払いをする。
「さて!今回のゲームの結果はまさかのどちらも救われると言う我々も予想だにしない結果となりました!それでは今回のゲームはここまでです。挑戦者の方達は正面の扉からお帰りください」
そう言うと、皆早々に帰っていってしまった。
何だ、意外と呆気なかったな。
「一体何だったんだよ。このゲームは」
「さあな、俺の経験上闇の住人の暇潰しってところか」
「ねえねえ、早くここから出よう。私、何か気持ち悪くなってきちゃった」
「ああ、そうだな。とりあえず外に出よう」
俺達が外に出ようとすると、さっきの女性とその息子が近寄ってきた。
そして、母親と息子が同時に頭を下げる。
「本当にありがとうございました!!」
「ありがとうございました」
「別にいいですよ。俺はただ自分の決めたことを守っただけなので」
「妾はちゃんと分かっておったぞ!お主が誰も見捨てないと」
「いや、正直見捨てようとしていました。すみません」
「結果的に助けていただきましたし、謝る必要はありません」
「メイ、ありがとな。お前のお陰で目が覚めた」
「私はなにもしてないよ。かつっちは自分で考えて撰んだんでしょー」
そう言って、にこりと笑う。
「いや、言わしてくれ。本当にありがとな」




