その十二 ピンクのやばいやつ
「ねえ、リドル」
「何ですか、ミノルさん」
リドルは手に持っている本からミノルの方に視線を移す。
「かつとデビちゃん、ちょっと遅くない?」
「そうですね。でも、あの2人なら大丈夫ですよ。そう簡単にやられる人たちではないので」
「わ、分かってるわよ。ちょっと遅いから心配で聞いただけよ」
そう言って、ミノルは机に再び突っ伏す。
ほんの数分でミノルは再び顔をあげる。
「ねえ、リドル………」
「2人共遅くないと言いたいんですか?」
リドルは質問を聞かされるのが5回目のため先読みしていた。
「うっ!ご、ごめんなさい。でも、何か心配で」
そう言って、申し訳なさそうに下を向く。
「ミノルさん…………いえ、何でもないです」
「え?何、そうやって途中で止められるとすごい気になっちゃうんだけど」
「いえ、気にしないでください。それより、そんなに心配なら迎えにいきますか?」
「うん!行きましょう!」
待ってましたと言わんばかりに立ち上がる。
「そんなに迎えに行きたかったんですね。だったら最初っからそう言えばいいと思うんですが」
「ごめんなさい。リドル嫌がるかなーって思っちゃって」
「さっきみたいにねちねち言われる方が嫌ですよ」
「ねちねちとは言ってないわよ!」
「何回も言ってる自覚はあるんですね」
「も、もう!からかわなくていいから!ほら、早く2人を迎えに行きましょう!」
ミノルは恥ずかしくなったのか、大きな声をあげて扉を開ける。
「ちょっと待ってください」
リドルは読んでいた本を閉じ、外に出た。
「よし、それじゃあ早速行きましょう!」
「そうですね。それで、これからどうするんですか?」
「え?」
ミノルはリドルの質問に疑問符を浮かべる。
「いや、場所の検討はついてるんですよね?」
「いえ、全く分からないわ」
「全く…………」
リドルは何で探しにいこうとしたんだと思いつつ、自分がやらなければと思考を巡らせる。
「多分かつさん達はラミア様と一緒に居ると思いますよ」
「あっそういえば朝そんな話してたわね」
「僕はその話に居なかったので知りませんが、昨日かつさんの部屋から聞こえてきたのね」
「そうだったのね。てことは先ずは最初にガルア様の城に行きましょうか」
「そうですね。先ずはそこから行きましょうか」
リドルとミノルは目的地を決めそこに向かっていった。
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「ほらー!強面おじさんしっかりしなさーい!おままごとするよー!」
「あの、もうほんとに勘弁してください。もう辛いです」
「勘弁してで済むんだったら、警察はいらないぞ!!」
「いや、もうちょっとまじで無理だ」
「大丈夫大丈夫!おままごとすれば病気も治るから」
「本当にもうお願いします!本当に!」
「違う違う!そこは治るわけないだろー!でしょ?ほら、私と一緒に治るわけないだろ!!せーっの!」
「神様仏様どうか私を助けてください。もう悪さはしないので」
これは一体どういう状況なのか。
ピンクの髪の女の子が強面のおじさんをおままごとに誘っている。
その構図でも余計意味不明なのに、さらに強面のおじさんが女の子に許しをこうと言うこの事実。
ていうか、あいつだよな。
「それじゃあ、早速続きを始めるぞ~!強面のおじさんは引き続き、ロバロボッキャロックスクロメテルノホホンノホンカタビラスカート三世の役をよろしくね」
「名前長すぎだろ!!」
あまりのボケの多さに耐えきれず突っ込んでしまった。
「え?今の声って…………かつっち!?」
やべっ見つかった。
「やっぱりかつっちだ!久しぶり~!!」
そう言って、メイは全力でこっちに走ってきた。
「ひさ……ちょ!ぶつかってくんな―――ぐえっ!!」
案の定おもいっきりタックルされた。
それにより俺は背中から倒れる。
そして、倒れた俺の上にメイが座る。
「ねえ!かつっち!覚えてる!?私はちゃんと覚えてるよーーー!!」
「わ、分かった……分かったから……ちょっ一旦降りてくれ」
急な1撃に俺は気絶しかけながらもメイを退かすように言う。
だがメイはさらに元気な声で跳び跳ね始めた。
「何か変わったね!少し声が小さくなった?それに苦しそうだけど、かつっちもしかして貧血!?それなら大変だ!ドクター!!急患ですよーー!」
あっこれ死ぬやつだ。
俺は色々諦めてまぶたを閉じようとした時、デビがメイの腕をつかむ。
「そろそろ離してやるのじゃ。かつ死んでしまうぞ」
「あっ!デビッち!デビッちも良かったよーー!!もう今度は置いてかないでよ!」
そう言って今度はデビに抱きつく。
それにより俺はようやく苦しみから解放された。
ふぅー助かったのか?
俺は体の痛みを我慢しながらゆっくりと起き上がる。
「いつつ、えーっとメイはデビのこと知ってるのか?」
「そうだよー!デビッちが捕まってたから私達が助けたのじゃーー!」
「おい、お主!妾の真似をするな!」
「デビッちの語尾独特だから楽しいなー!妾は子供だから抱っこしてほしいのじゃ!あめ玉をよこすのじゃ!」
「妾は子供でもないし、そんなことは言わん!」
そう言ってメイに掴みかかろうとするがひらりと避けられる。
「わぁー!デビッちが怒った!にっげろー!!」
「待て!逃がさないのじゃ!!」
そう言ってデビとメイが鬼ごっこを始める。
この会話を聞いてるだけだと子供同士の会話に聞こえてしまう。
「えーっと、状況があまり掴めないんだけど。とりあえず、デビとメイの出会いは分かったが私達ってことはもう1人居るのか?それと、何でメイはここに居るんだ」
「あっそれはね――――――」
その時、走っていたメイの動きがピタリと止まる。
「うわっ!?急に止まるんじゃないのじゃ!!」
全力で追いかけていたデビが停まるわけがなく、そのままデビとメイが衝突する。
それによりメイがデビの上に乗る形で二人は倒れていた。
「いてて………やっちゃったぁ」
「良いから退くのじゃ!」
「何やってんだよ、お前ら」
「えへへ、全然大丈夫なのじゃ!」
「だから、妾の真似をするな!」
メイはデビから離れるとそのままデビの手を掴んで起こしてやる。
メイは相変わらずニコニコしてるな。
ここが何処か分かってんのか?
「とりあえず俺の質問に答えてくれるか?」
「うんいいよー!えっとねえっとね、まず最初に私達って言うのは私のことを助けてくれたカビットだよ!」
「カビット?他に仲間が居るのか?ていうか、助けてもらったって何だよ」
「かつっち質問多すぎ~頭ばくばくパニックになっちゃうよ」
「ああ、すまん」
こいつの独特な言い回しはとりあえず無視するか。
「それじゃあ、カビットってのは何処に居るんだ?」
「カビッちは今ラミッちを助けに行ってるよ」
「ラミッち?ちょっと待て、ラミッちってもしかしてラミアのことか?」
「そうだよー!デビッちがラミッちを助けたいって言ったから3人で助けに行こうとしてたのだー!そしたらデビッちがかつっちの気配がするって言って一旦かつっちを探す人とラミッちを探す人とで別れたの」
「お主の魔力を感じてな。やっぱりお主じゃったな」
「なるほどな。今の状況は分かったけど、それじゃあ何でここにメイが居るんだ?」
するとメイが急に喋らなくなる。
いや、表情が固まっているのか?
「メイ?」
「え?いや、何でもないランブール!私がここにいる理由はじゃかじゃかじゃかじゃん!売られてしまったのでしたー!いや、最悪だろ!!」
自分で言って自分で突っ込んだ。
「てっ売られた!?どう言うことだよ!誰に…………」
その時、俺はムラキの城であった偉そうなおばさんの言葉を思い出す。
たしか、あのおばさんの反応明らかにメイの存在を忘れてたよな。
もしかして本当に…………
「メイ、もしかして売ったやつって」
「えへへへ、何か運が無いなぁ~でも全然気にしてないよ!本当に本当に!」
メイは実の親に捨てられたにも関わらず笑顔を見せていた。
「何じゃ、何じゃ?メイがどうかしたのか?」
「全然なんでもないのじゃー!」
「だからマネするでない!」
本当に平気なのか?
でも、辛そうにはしてないし笑い話みたいにもしてる。
平気……みたいだな。
「それじゃあ、お互いの事情も分かったしラミアを助けにいこう」
「おーい!お前ら!俺抜きで脱出なんて出来ないだろ?」
そう言ってサキトが何故か戻ってきた。
「どうしたサキト?何で戻ってきたんだよ」
「決まってんだろ。仲間を助けに来たのさ」
「自分1人じゃ脱出出来ないから戻ってきたのか?」
その時、サキトが言葉に詰まらせる。
図星か。
「だから仲間が心配だって言っただろ?ところでそこのお嬢ちゃんは誰だ?」
自分が不利になるからって話題を変えやがったな。
その時メイがサキトの元へと興味深そうに歩み寄ってくる。
「ねえねえ、おじちゃんはグレープジュースとオレンジジュースどっちがいい?」
「は?ていうか、誰なんだよ。すまないが俺は知らない人の飲み物は飲まないんだ」
そう言って、メイの質問の回答を拒否する。
「メイは俺の友達だ」
「なるほど、なら信用できるか。俺はオレンジジュースだな」
「りょうかーい!それじゃあいくよ」
そう言ってメイが構える。
何か、投球ホームみたいな構えだな。
「おい、何してんだ?早くオレンジジュースを――――」
「カルシウムプロミネンスアタック!!!」
その時、何処からともなく牛乳を取り出すと、その瓶をサキトの口に向かって思いっきりぶん投げた。
そしてその勢いのまま牛乳の瓶がサキトの口に直撃する。
それのより、サキトは思わず口を押さえた。
「がぼっ!?いった!これ歯抜けてないか!?だいじょぶか!?これだいじょぶか!?」
「うん、大丈夫じゃぞ。前歯がかけただけじゃ」
「そうか、ならなんもよくねえよ!!」
すると、メイが牛乳を持ってサキトの肩を叩く。
「牛乳美味しいよね」
「おい、かつ。長年の経験からして、こいつはやばいやつだぞ」
「サキト、長年の経験がなくてもそれは分かるぞ」




