その七 やりたいこと
「まず最初にお着替えをしましょう!」
そう言って、ラミアは服屋の方を指差す。
今回のは前のとは違って高級店ではなくごく一般的の服屋だった。
「お主王女じゃろ?もうちょっと高い店にはいかないのか?」
くっ!余計なことを言いやがって。
せっかく安い店を選んだって言うのに。
そんな気持ちを持ちつつ俺はデビをにらむ。
「デビもそう思います?たしかに、私はいつも高級なものに身を包んできました。今のこの服もあまり派手ではありませんが、合計で170万ガルアしますし」
「え?そんなにすんのか!?」
やっぱり王の妹、身に付けてるものもそこらの物とはレベルが違うのか。
「まずいのじゃ!妾触ってしまったのじゃ!これはアウトか!?アウトなのか!」
「大丈夫ですよ。気にしないでください」
その言葉をデビは聞いてほっと胸を撫で下ろす。
「それで、実は皆さんのような服を来てみたかったんです。私の服は堅苦しい服しかないので」
「それも十分かわいいと思うけどな」
「これはシニアに無理を言って買ってもらったんです。だから私、こういうお店で服を買いたいと思いまして………もしよろしかったら、かつお兄ちゃんに服を選んでもらいたいな~何て、駄目ですかね?」
そう言って、上目遣いでこちらを見る。
「何枚でも選ぶよ!!」
俺は即了承した。
だってあんな目で見てきたら断れないもん。
「あー!ずるいのじゃ!妾も選んで欲しいのじゃーー!!」
デビは駄々をこね始め俺の服を引っ張ってくる。
「何だよ。別に選んでもいいが買わないからな」
「えー!!何でじゃ!ケチ!」
「ケチって金無いんだから仕方ないだろ」
「それでしたら、私が買いますよ。だから、デビの分も選んであげてください」
そう言って、笑顔で高級そうな財布を取り出す。
うおっ見るからに高そうな財布だ。
「ありがとうなのじゃ!やっぱり持つべき者は友達じゃな」
デビは興奮気味にラミアに抱きつく。
「わ、分かりましたから。デビ、離れてください」
「ああ、すまんのう!それじゃあ、早速行くぞ!」
元々はラミアが行きたいからと言って、来たのに何故あいつがはしゃいでいるのだろうか。
「早く行きましょう!かつお兄ちゃん!」
まっラミアも楽しそうだから別にいいか。
早速店に入るや否やデビが店員に色々勧められていた。
「お客様とてもお似合いです!」
「そうか、そうか!おっ!それも良さそうじゃな!」
「はい!これも素敵です!」
「中々良い服じゃのう。よし、気に入った!ここからここまで全部くれ!」
「何言ってんだバカタレ!」
俺はすぐにデビを店員から引き離す。
こいつは目を離すと本当にろくなことをし
「何をするのじゃ。今、欲しい服が合ったから買おうとしておったのに」
「成金みたいな買い方してんじゃねえよ!」
「別に良いではないか。ラミアが買ってくれるのじゃから」
「お前には遠慮と言う言葉はないのか」
「友達に遠慮はいらないじゃろ」
こいつやっぱり友達になったら悪い影響しか無いな。
「かつお兄ちゃん、かつお兄ちゃん。こんなのどうですか?」
呼ばれた方向に振り向くと、試着室から出てきたラミアが白色のワンピースを着て、その場でくるりと回る。
それを見た瞬間、俺は一瞬で目を奪われた。
「めちゃくちゃ似合ってるよ」
素材がいいからなのか、本来よ服のよさをさらに引き出している。
「本当ですか!嬉しいです!」
そう言って、本当に嬉しそうな顔をする。
「なあなあ、妾はどうじゃ?」
するといつの間にかデビが黒色のワンピースを来てくる。
「おお、似合ってんじゃないの」
「何じゃそれ!?もうちょっと何かあるじゃろ!」
俺は何か言っているデビを無視して、ラミアの方を見る。
「あれ?ラミア何処に行った?」
先程までラミアが白いワンピースを来ていた場所には、すでにラミアの姿がなかった。
その時、俺の肩を誰かがつついた。
俺はすぐに後ろを向く。
そこには魔法使いの服と猫の顔がプリントされたローブに身を包んだラミアの姿があった。
「えへへ、かつお兄ちゃんとお揃いです」
かわいい!!
え?なにこの生き物?
可愛すぎんだけどどうしてくれんの!?
「ラミア、それ買おう!今すぐ買おう!すぐ行こう!」
「そ、そんなに気に入ってくれたんですか?それは、嬉しいんですけど、あんまり大声で言われると恥ずかしいです」
すると、少し恥ずかしそうに顔を赤らめる。
俺、ロリコンじゃないよな。
その時、俺の背中を叩いてくるデビの方を見ると、全身をローブで身を包んでいた。
「ほら、妾もお主と一緒にしてしまったのじゃ」
「いや、お前はいつもそんな感じだろ」
「な!?」
うん、俺はロリコンではないな。
ラミアが特別なだけだ。
「何だか気分が良くなってきちゃいました」
この後、色々な服を試着して俺が終始可愛いと言っていたのは言うまでもない。
俺達は買い物を終えて店を後にした。
「いやーそれにしても色々買ったな」
「かつお兄ちゃんが似合ってるって言ってくれたのでつい」
その純粋さもかわいいな。
まあでも、10着程の服を躊躇わず買うのを見るとやっぱり王女なんだなと思ってしまう。
男気で全部買うと言いたかったが、さすがにそんなことが出来るほど金と度胸がなかった。
「何でじゃ、何で妾だけ買ってもらえないのじゃ。妾だって欲しい服があったのにあんまりじゃ。妾の試着時間を返して欲しいのじゃ」
隣でデビはぶつぶつと文句を言い続けている。
それを見たラミアが申し訳なさそうに声を漏らす。
「かつお兄ちゃん、やっぱりデビの服も買っておけばよかったんじゃ」
「大丈夫だよ。変な贅沢をしちゃうとそれを覚えて、高い物を選ぶようになっちまうからな」
「妾は欲しいものすら買えない貧乏人なのじゃ」
「でも、ちょっとかわいそうですよ」
ラミアは悲しげにデビの方を見る。
本当にラミアはいい子だな。
「分かった、分かった。おい、デビ」
俺はポケットからあるものを取り出す。
「何じゃ。今の妾の心はひえき………何じゃこれは?」
俺はデビに黒いバラの髪飾りをプレゼントした。
「まあ、ちょっとしたプレゼントだよ。こんなもんしかないが、これで我慢してくれないか?」
「こ、こ、こんな物……………」
「やっぱり入らないか?」
するとデビが急に俺の懐に飛び込んでくる。
「うおっ!何だ急に」
「ありがとうなのじゃーー!!かつーーー!!!」
そう言って、号泣していた。
「おま!?何で泣いてんだよ!!」
「かつお兄ちゃん、まさか………」
すると何故かラミアが冷めた目でこちらを見てくる。
「いや、俺のせいじゃないだろ!ん?もしかして俺のせいなのか!?そ、そんなにショックだったのか?」
「違うのじゃ~嬉しいのじゃ~!ありがとうなのじゃーー!」
そう言って、俺のローブを涙でぐちょぐちょにする。
「分かった!分かったから!離れろって!」
俺は無理矢理デビを引き剥がす。
あーあ、服が最悪な状態になってしまった。
すると、デビが早速その髪飾りを髪に付ける。
「どうじゃ?似合うか?」
「ああ、似合ってるよ」
「デビ、可愛いです!」
すると、デビがラミアに向かって自慢気に髪飾りを見せる。
「どうじゃ、ラミア!良いじゃろ?かつからプレゼントされたぞ」
「おい、変な自慢をするな。何か恥ずかしいだろ」
「よかったですね、デビ!私とお揃いですよ」
そう言って、ラミアは白いバラの髪飾りを見せる。
それを見た瞬間、デビの表情が固まる。
「え?そ、それは?」
「私もかつお兄ちゃんから貰ったんですよ。それにしても友達とお揃いの物を持つの夢だったのですごく嬉しいです。これってもしかして、親友みたいですね」
「そ、そうじゃな」
何だか、先程よりも嬉しそうに見えないな。
「どうしたんですか?もしかしていやっでしたか?」
「いや、べつに嫌ではないのじゃ」
そう言いながらも、デビは明らかに納得いっていない様子だった。
「じゃあ、何が不満なんだよ」
「使い回し」
「へ?」
「使い回しじゃろーー!!」
そう言って、俺に襲いかかってきた。
「おおおおい!落ち着けって!使い回しじゃないから!ちゃんと新品だぞ!」
「そう言うことじゃないのじゃ!もう!喜んで損したのじゃ!」
そう言って何故かデビが拗ねてしまった。
何故か知らんが急に怒り出したな。
何なんだ一体?
その時、誰かの腹が鳴る。
「ご、ごめんなさい。今日楽しみだったので、朝食食べるの忘れてて」
ぐっ!かわいい!!
恥ずかしそうにお腹を押さえてるのもかわいいし、理由もかわいい!!
「それじゃあ、ご飯食べるか。何処か行きたいところあるか?」
「妾に決めさせて欲しいのじゃ!」
「ん?何処が良いんだ?」
「それはもちろん――――――」
ということで俺達は魔法協会に来ていた。
「お前、結局ここかよ」
「やっぱりこの街はこのお店しかないじゃろ」
「ここお店って言って良いのか?」
「また、ここに来れると思いませんでした!どれ食べようかな~」
そう言って、目を輝かせながらメニューを見ているラミアを見て、まあいっかと思えた。
「皆、決まったか?」
「バッチリじゃ!」
「私もです」
「すんませーん!!ファイヤーバードの唐揚げ定食ひとつ!」
「ここからここまで全部じゃ!」
「私もそれでお願いします」
しばらくすると大人数で料理を運び込まれてくる。
そして、それらの料理が机に置かれる瞬間、失くなっていく。
「うん!うまいのじゃ!これも、うまい!!」
「うん、美味しいですね。私、幸せです」
そういえば、ラミアも大食いだったんだったな。
それにしても、ラミアの食い方は王女様の様に上品にも関わらずめちゃくちゃ食べていて、デビの食べ方は……うん、真逆だな。
「それにしても、良い食いっぷりだな。何か、ばくばく食ってくれるから気持ちが良いな」
「あんまり見ないでください。恥ずかしいです」
「お主は食わなさすぎるのじゃ!妾のように沢山食え!」
恥ずかしそうにしているラミアと口元に食べかすが付いても気にせずに食べ続けるデビ。
本当に性格は真逆だよな。
「そういえば、今更だけどラミアはこんな堂々と街中を歩いても大丈夫なのか?」
「はい、元々大衆の面前には私の姿をお見せしていませんし、呪いのせいで外出も制限されてしまっていたので大丈夫です。今は服装も魔法使いっぽいので、完璧です」
「なら、大丈夫か」
たしかに、ここまで一緒にいるがバレた様子は見られないな。
「それに、1度でいいからこんな風に街をお出掛けしたかったんです。外に出られる時はいつも呪いを治したりするためでしたから。だから、自分の行きたい場所に自分の意思で行ってみたかったんです。だから、今日は私のわがまま聞いてくれますか?」
「ああ、もち――――」
「もちろんじゃ!!」
俺の言葉を遮って、食べながらデビが答える。
「ばか!お前、食べながら喋んな!飛ぶだろ!!」
「次は何処行きたいのじゃ?妾が連れてってやるぞ?」
何だ?急にデビがやる気を出したな。
「本当ですか!?ありがとうございますデビ!」
「任せろ!大食いに悪いやつは居ないからな!」
なるほど、もしかしてこいつはラミアに親近感を持ったのか。
性格とか色々違うけどな。
「それじゃあ、早速行くとしようかのう!」
「はい!」
デビとラミアの料理は綺麗さっぱりなくなっていた。
こいつらの腹どうなってんだ?
「おい、ちょっと待てよ!!」
俺達はその後、ラミアのしたいことを色々やった。
空を飛んだり、モンスターと戦ったり、カルシナシティまで行ってギャンブルしたり、その他にも色々。
そして、いつの間にか空には星空が広がっていた。
「綺麗じゃのう」
「はい、綺麗ですね」
「あんまり、こんな風に夜空を見たことなかったな」
俺達はベンチに腰かけて夜空を見ていた。
それを見て俺は今日を振り替える。
「今日1日どうだった?やりたいことは出来たか?」
「はい!今日は本当に楽しかったです。かつお兄ちゃん、デビ!ありがとう!
ラミアは満面の笑みで俺たちに感謝を伝える。
「それはよかった。それじゃあそろそろ行く……………デビ?」
俺が立ち上がろうとした時、デビが俺の肩に頭を乗せる。
どうやら寝てしまったようだ。
「今日は色々やったからな。まあ、しょうがないか」
「かつお兄ちゃん、もうちょっとここにいましょう」
「まあ、そうだな」
ラミアが空を見ながら口を開く。
「かつお兄ちゃん、こんなこと失礼だとは思いますけど、本当はお兄様ともお出掛けしたかったんです」
「お兄様ってガルアのことか?」
「はい、お兄様はいつも忙しそうなので。2人でお出掛けをしたことがあまりないんです。呪いにかかって居ましたし」
たしかに、あいつは色々とやることがあるだろうし、簡単に外出も出来ないだろうな。
「そっか………お兄さんのことは好きなのか」
「…………はい。お兄様はいつも私のことを優先してくれました。私に何かあったら自分の立場も忘れて、最優先してくれるんです。本当に優しいんです。だから、少しでもお兄様の苦しみを無くせるように勉強をしなきゃいけないんです。勉強して、お兄様の仕事を私も出来るようにしたいんです」
「そっか、ラミアが妹だったら幸せだろうな」
「わ、私はお兄ちゃんだって、思ってますよ?」
少し、恥ずかしそうに言う。
お兄さんがお兄さんなら、妹も妹だな。
お互い、好きなんだな。
良い兄妹だな。
……………兄妹?
何か、引っ掛かるな。
この言葉、とてもとても懐かしい。
何なんだ、一体。
「かつお兄ちゃん?」
「え?ああ、何でもないよ。ごめん、ちょっとトイレ行ってくる。デビの事見ててくれ」
「え?あ、はい」
俺はデビを降ろしてトイレに向かった。
―――――――――――――――――――
かつお兄ちゃんはトイレに行くと言ってそのまま行ってしまった。
その場にデビと私が残されてしまった。
「デビ、気持ち良さそうに寝てる。ちょっとだけ、触ろうかな」
デビの柔らかそうなほっぺに私は我慢出来ず、少しつつく。
「あっやっぱり柔らかいな」
私はつい夢中になりつつき過ぎてしまった。
「ふがっ!……何じゃ?」
つつき過ぎたせいでデビが眠たそうにしながら起きてしまった。
「ご、ごめんなさい、デビ。ほっぺたつついちゃった」
「ん~?何かよく分からんが、お腹が減ったのじゃ」
「え?お腹減ったんですか?」
「お!あそこに美味しそうな果物屋があるのじゃ!ラミア行くぞ!」
そう言って、起きたばかりとは思えないほど元気一杯で果物屋に行ってしまった。
ここまで一緒にいてなんとなくだけど、デビは私と何か違う気がする。
一緒にいて、楽しいな。
私はベンチから降りてデビの後を付いていく。
「デビ、まっ―――――――」
その瞬間、口に布を押し当てられる。
何が起きたのか分からず、パニックになり暴れるがすぐに力が入らなくなる。
(あれ?何だか…………意識が………)
意識がどんどん薄れていく。
私はデビの方に自分の手を伸ばす。
そこで、意識は閉ざされた。
――――――――――――
「もう、なんなのじゃ!少し位くれてもよかろうに!というかそもそもラミアが来てくれれば金が払えたのじゃぞ!なぜ、来なか…………あれ?ラミア?」
「おーい、そろそろ帰るぞ」
俺はトイレを済ませ、ラミア達が居る場所に戻る。
帰ってくるとデビが辺りをキョロキョロを見渡していた。
何だ起きたのか。
「何やってんだお前。ついに頭でもおかしくなったか」
「なっとらんわ!大変なのじゃかつ!」
「大変って何がだよ。あっもしかして髪飾りを失くしたのか?それならもう買わないぞ。ほしかったら自分でも―――――」
「ラミアが居ないのじゃ!!」
デビが緊迫とした表情で叫ぶ。
「………は?ラミアなら、そこに…………」
ベンチの方を指差したがそこにはラミアの姿がなかった。
「え?まじで?」
ラミアはその日こつぜんと姿を消した。




