その四 本の中身
「ふうー何か、疲れたー」
俺は疲れた頃には精神的にも体力的にも疲労しきっていた。
「お帰りなのじゃー、もぐもぐ」
こいつ、ジュース片手に唐揚げをおつまみ感覚で食べてやがる。
「なあ、その唐揚げ1個くれよ」
「しょうがないのう。ほら、あーん」
「いや普通に食べる」
そう言って、皿にある唐揚げを1つつまむ。
「あーなぜ勝手に食べるのじゃ!」
「うーん…………あれ?」
この唐揚げ、味がいつもと違う?
「お?お主、気づいたようじゃな」
「やっぱり味がちょっと違うよな。リドル味変えたか?」
「そんなわけなかろう」
「え?じゃあ……………もしかして、お前が作ったのか?」
ミノルは寝てるし、リドルが作ってないとなるとこいつしかいない。
「大正解じゃー!どうじゃどうじゃ?美味しいか?どうなのじゃ!」
そう言ってこちらににじりよってくる。
「いや、て言うか普通に美味しいな。本当にお前が作ったのか?」
こいつに料理を作る才能があったなんて。
ただの食う専門だと思っていた。
「ふっふっふ、これでお主の妾に対する評価はうなぎ登りじゃな」
「いや、そこまではいかないけど、多少は上がったな。ていうか、何で作れるんだよ」
「リドルに教えてもらったのじゃ。あと、お主らと会う前に野宿とかして、そこら辺のモンスターを料理しておったしな」
「お前、意外と野性的だな」
「妾はサバイバーじゃからな」
こいつ、ちゃんと意味を理解して言ってるのか?
「リドルはどうした?まだ、ミノルの部屋にいるのか?」
「リドルは今お風呂を沸かしとる。ミノルはまだ寝てるのじゃ」
「そうか………ミノルはまだ寝てるのか」
部屋に入って起こすのもあれだし、行かなくてもいいか。
「よし、それじゃあ早速本を貸してくれ」
「よいぞ、ほれ」
そう言って、油でベトベトの手で本を渡す。
「おまっ!ばか!手を拭いてから本を持てよ!」
俺はデビからすぐに本を取って触れたところをふく。
あーちょっと染みになっちまったんじゃないかこれ。
「何をそんなに焦っているのじゃ。どうせその本、大したこと書いてないから、汚しても大丈夫じゃろう」
「今、さっきまで上がった評価がマイナスまで下がったな」
「なんでじゃー!?」
物を大切にしないがさつ女はほっといて、俺はソファーに座る。
早速ページを開くとそこには手書きの魔法陣が描かれていた。
手書きの魔法陣……………これは、時間を操作する魔法の魔法陣か。時を進めたり、戻すことも出来る。戻すのも進めるのも最長5秒まで。
「これは一体どういうことなんだ?」
同じように手書きの魔法陣とその説明が日本語でかかれている。
だが、字が汚いのか少し読みにくい。
まあ、一応読めるからいいんだけど。
どれもこれも見たことも聞いたこともない魔法だ。
もしかして、オリジナル魔法の案なのか?
ここに自分が作りたい魔法を書いて残していたってことなら、その説明と魔法陣を描く理由にもなるな。
問題はなぜ、日本語が使われているかだ。
まあ、考えられる可能性で1番高いのは俺と同じように異世界転移してしまったってことだな。
そうすれば日本語を使ってる理由にもなるし、魔法なんて言う夢みたいな世界に来たんだから、こんな風に色々な魔法を想像して記録したい気持ちもわかる。
そうなると、この屋敷は元々その人がいた屋敷ってことか?
でも、結構人が居なくなってから時間も経ってるよな。
クモの巣だらけでモンスターもいたし。
「なあーかつー暇じゃー!遊ぼうなのじゃー!」
「ちょっと待ってろ。今忙しいんだよ」
「ぶーかつのけちんぼー。空気の読めない男じゃのう」
「いや、それは関係ないだろ」
ん?ページが途中から変わってる?
文字が日本語じゃなくて異世界語に変わってるな。
どれどれ、何が書いてあるんだ。
4月10日 天気晴れ
今日初めて、この本を読むことが出来たのじゃ。
だけど、中身は全然大したことがなかったのじゃ。
これはたぶん、落書き帳だと思うのじゃ。
だって、落書きだらけだから。
こんなカッコいい本をそんなつまらないことで終わらせたくないのじゃ!
そう思った時、妾は良いことを思い付いたのじゃ!
そう、日記をつけようと!
こんなこと、思い付くなんて、妾天才!妾最強!ということで今日から日記をつけるのじゃ。
この空きページが全部埋まった時、妾は何をしておるのかのう。
「てっこれなんだ?」
この本の後半のページには何も書かれていなかった。
それをいいことにこいつは日記を書こうとしてるのか。
「おっ!気づいたのか?それはもう妾の日記帳になったから、よろしく」
「よろしくじゃねえよ!勝手に日記帳にするな!」
「お主らは妾がこの本を好きに使ってよいといったじゃろう」
「そんなこと言ってねえよ!俺達が言ったのは持っててくれだ!」
「似たようなもんじゃろう」
「全然ちげえよ」
すると、腕捲りをして少し汗をかいているリドルが出てきた。
「お風呂出来ましたよ。入りたい人から……あっかつさん。お帰りなさい。用は済んだんですか?」
「ああ、一応な。ていうか、お前いつの間にデビに料理を教えたんだ?」
「空いてる時間に少し教えただけですよ。そもそも、デビさんは多少は作れていましたからね」
「そこまで褒めなくてもよいじゃろう」
「いや、別にそんな褒めてる訳じゃないと思うぞ」
こいつは、褒められなれてないのか、少し褒めただけでめちゃくちゃ褒められたと思ってるよな。
「それで、何か分かりましたか?」
「え?」
「その謎の本。手に持っているので。先程まで読んでいたんですよね?」
そう言って、右手に持っている本を指差す。
「そうだな、一応ちゃんと読んだけど、あんまり分かんなかった」
「そうですか………やっぱりなんてことないただの本だったのかもしれませんね」
「ああ、そうかもな」
まだ言えないよな。
周りに迷惑はかけられない。
それに今言った所で混乱するだけだ。
「なんじゃ、結局ただの落書き帳じゃったのか。だったら、日記帳にしてもよいな」
「え?いや、それは」
「日記ですか…………確かに良いかもしれませんね。単純なことですか、思い出を文字で残すのは1日の終わりに最適ですしね」
「まじで、リドル賛成なのか」
て言うかこれ、別に落書き帳でもないんだけど。
「はい、否定する理由もありませんし」
「まあ、確かにそうだけど」
「じゃあ決まりじゃな!」
そう言って、デビは俺から本を奪う。
「あっ!ちょ、勝手に取るなよ!」
「何言っておるのじゃ!これはもう、妾の物じゃ!」
「だから、お前の物じゃない!」
すると、リドルが俺の肩を叩く。
「まあ、良いじゃないですか。日記を書くだけですし、もしかしたらデビさんの破天荒さを少し押さえられるかもしれませんしね」
「うーん、まあ日記だけなら別にいいか」
あの本には日本語で書かれてるだけでこれと言った情報はないしな。
「それより、ご飯どうします?もう食べますか?」
「食べるのじゃ!」
「でも、作るまでに時間がかかるだろ?それじゃあ、先に入って来よう」
先程の出来事もあって今日は疲れたから、お風呂に入って疲れを取ろう。
そう思い俺はお風呂場に向かう。
「妾も入りたいのじゃ!」
何故か平然とデビは俺の後に付いていく。
「いや、何で付いてくるんだよ。そんなに風呂入りたいのか?なら、譲ってやるよ」
「そうなったら、お主が風呂入ってる途中に料理が出来てしまうぞ」
「いや、後で食べればいいだろ」
「駄目なのじゃ!ご飯は暖かい内に食べるのが礼儀じゃ」
「お前、ご飯に対してめちゃくちゃ厳しいな。じゃあ、どうするんだよ」
「にひっ妾に任せておくのじゃ」
嫌な予感しかしないんだけど。




