その二 2つの日本
「あーえっとーどういう意味?」
いや、意味なんてもう分かってるはずだ。
でも聞かずにはいられなかった。
「そのまんまの通りだ。俺の十二魔道士になってくれ」
先程と同じ言葉を言われてもまだ俺の頭は混乱していた。
「ちょ、ちょっと待て!一旦落ち着こう!」
「落ち着いてないのはお前だけだぞ」
「ああ、そうだな。ふぅ………一応聞くが十二魔道士って確か、最強の魔法使いってことだよな」
「まあそうだな。王公認の最強の魔法使いの集団だな」
やっぱり俺の知っていた通りの意味だった。
「じゃあ、俺はそれにはなれない」
「何でだ?」
「そんなの俺は強くないからに決まってるだろ。少なくとも最強に数えられるほどの強さは持っていない」
「いや、お前は間違いなく強い。十二魔道士に匹敵するほどの強さを持っている」
「いやいや、実際俺はそんな強くないからな!今まで色んな人やモンスターと戦ってきたけど、仲間がいたから俺は今生きてこられたんだ。俺の1人の力じゃ何も出来ない」
「黒の魔法使いを倒したんだろ?」
その言葉を聞いた瞬間、俺はガルアの顔を見る。
「倒したけど………」
「1人で倒したんだろ?嘘つかなくていいぞ。本人から聞いてる」
「あいつと話したのか?」
「ああ、今この城の地下の監禁部屋にいる。この城は他のどの監獄よりも強固で脱出することは不可能だ」
「そうなのか。それなら安心だな」
まさか、トガがこの城に閉じ込められてるなんて。
ガルアは大丈夫だって言ってたけど本当に大丈夫なのか?
トガは何かを知ってるような気がする。
俺も知らない何かを。
「おい、どーした?ぼーっとして」
「え?あっ何でもない」
今は気にしないでおこう。
少なくとも今は。
「それで返事は?」
「返事?」
「十二魔道士になるかならないかだ!正直言って単独で黒の魔法使いの1人を倒したんだ。あまりあいつらを褒めたくはないが黒の魔法使いだって十二魔道士と引けを取らない強さだ。それを倒したお前も十二魔道士と遜色ないってことだ!」
「あいつとはたまたま運が良くて倒しただけだ。俺の実力じゃ」
「本当にそう思ってんのか?」
真面目な声で俺に問いかける。
「別に弱いとは思ってないよ。修業もつけてもらったし、色んな奴らと戦って成長してきたって思ってるし。昔の自分よりは確実に強くなってると思う。でも、まだ十二魔道士に入れる実力じゃないと思う」
「挑戦したいとは思わないのか?」
「挑戦して、失敗したら意味ないだろ?もし、俺のせいで誰かが死んでしまったら、俺はもうこの世界を生きていく自信がない。もう、嫌なんだよ」
するとガルアは一度ため息をつく。
「俺の知ってる絶対かつはそんな弱虫じゃなかったと思うが。今まで無謀なことなんていくつも乗り越えてきただろ?だから今こうやって笑っていられるんだろ?何も乗り越えられなかったやつは、そんな顔出来ないぞ」
そう言って、俺の顔をまっすぐ見る。
その目は明らかに俺のことを信じている目だった。
俺が十二魔道士に入れると本気で思っている目だった。
「勝算のある戦いをして来ただけだ。それに、何かを乗り越えた時にはいつも仲間がいた。皆のお陰で俺はここに居るんだ」
「仲間がいたお陰で乗り越えられたのかもしれない。だが、勝算のある戦いなんてものは存在しない。昨日の出来事からも分かるだろ?」
昨日の出来事、結婚式のことを言っているのだろうか。
「王から仲間を助け出すなんてこと早々出来ない。不可能かもしれないことを迷わず実行するその行動力。そして、そんな無謀な挑戦にも関わらず、仲間は信じてかつに付いていく、そのカリスマ性。俺が欲しいのはそういうやつだ」
「まてまて、それは買い被りすぎたって。俺はそんなすごいやつじゃないぞ」
「本当なら十二魔道士になるにはいくつかの条件がある。1つは魔力レベルが10、2つ目はいくつかの偉業を成し遂げること、3つ目は圧倒的な強さを持ってること。これらの条件をすっ飛ばしてでもお前は俺の十二魔道士にしたいと思ってる。王がこんなにも言ってるんだぜ?迷う方がおかしいだろ」
ガルアの言う通りだ。
俺はこんなにも必要とされている。
魔力レベル10じゃなくても、偉業を成し遂げてなくても十二魔道士に入れたいと言ってくれている。
俺は……どうすれば………
「俺は遊びで言ってる訳じゃないんだ、かつ。近々島王選が開かれることは知ってるか?」
「ああ、新しい王を決めるやつだろ?」
「その島王選では、それぞれの王の十二魔道士も参加する」
「っ!?」
それぞれの王の十二魔道士、てことは島王選ではそいつらと戦うことになるのか。
「勝てばこの島の王になる。もちろん現王として、本気で勝ちにいく。お前を島王選に参加させることを前提に今話してる」
「俺が、島王選に参加する?」
考えたことがなかった。
そうか、それほど本気で俺を十二魔道士にしようとしてくれているのか。
「1つ聞いていいか?」
「何だ?」
「俺が十二魔道士になったら、パーティーはどうなるんだ?」
「すまないが脱退してもらう」
「やっぱりそうなのか」
そりゃそうだよな。
十二魔道士は王を守ることも仕事の内に含まれてるはずだ。
仲間と冒険にいく時間なんてないはずだ。
「別にそう難しく考える必要はないぞ。パーティーは抜けてもらうがやるなとは言ってない。活動は継続すればいいし、十二魔道士としての仕事も俺が頼んだ仕事をしてくれればいい。それもあまり頼みはしないし、内容も難しいものにはしない」
「確かにそれくらいなら俺にも出来そうだな……でも」
やっぱり、パーティーを抜けることが引っ掛かる。
本当にそれでいいのか?
「まっ、すぐにとは言わない。だが期限は設けてもらう。十二魔道士を島王選でエントリーしなくてはいけないから、期日は1週間。1週間ならまってやる。だがそれ以上は待てない」
「分かった。必ず返事はだす」
「今日はもう帰っていいぞ」
そう言って、部屋の扉を開ける。
「それじゃあ、またな」
「あっちょっと待て!」
出ていこうとする俺をガルアが呼び止める。
「ん?まだ何かあるのか?」
「実はなこの島に不法侵入者が居るみたいなんだ」
「不法侵入者?でも、たしかこの島って外から侵入できないんじゃないのか?」
「ああ、そうだ。人間と半獣は仲が悪い。そんな状態で外に人間なんか招き入れたらまた戦争になっちまうからな」
俺から言わせてもらえれば、外の人間を迎え入れることで人間との仲を取り戻せると思うんだけどな。
「でっその侵入者って誰なんだ?」
「聞いた話によると日本と言うらしい」
「っ!?日本…………?」
何で、ガルアがその言葉を………落ち着け!まだ、俺が日本から来たことはバレてないはずだ。
「お前も聞いたことが無いだろうな。俺も聞いたことがない。どうやらその日本人と言う名前は人名ではなく、地名らしい」
「なっなんでそんなことが分かるんだ?」
落ち着くんだ、平然を装え!
まだ、バレてはないはずだ。
普通にしてれば大丈夫だ。
「それは嘘発見機の記録に残ってたからだ」
記録?はっ!そうか、たしかにあの時、日本のことを喋ってしまっていた。
まさか、ルルさんたちが報告したのか?
いや、そしたら俺が日本人だと言うことをすでに知っていると言うことになる。
ガルアはまだ知らないみたいだし、ルルさんたちが言ったわけではないだろう。
「俺は実際見てないんだけどな。俺の部下が報告してくれたんだ。そこには、日本出身だと言っていたみたいだ」
「な、なるほどねぇー」
「情報はこれだけだ。日本の出身の……いや、日本人と言っとくか」
「っ!?ど、どうして日本人って言うんですか?」
「どうした、急に敬語で?俺はただ日本から来た人物を総称して呼んだだけだぞ。日本出身っていちいち言うのはめんどくさいだろ?」
「そ、そうだな」
よかったーたまたまかー。
「お前も不審な人物を見つけたら、すぐに俺に報告しろ」
「日本人を見つけたらどうするんだ?」
一応聞いておかなきゃ駄目だよな。
するとガルアはニヤリと笑みを浮かべる。
「安心しろ、情報を一通り絞り出したら、殺してやるから。この島のためにもな」
そう言って、拳を強く握りしめる。
やっぱり絶対言わないでおこう。
「そ、そうか!分かった!それじゃあな!!」
俺はすぐにその部屋を出た。
俺はどくんどくんとなっている心臓を押さえる。
「帰ろう………」
まだ、バレてはないがいつかバレる。
俺がガルアの近くにいるなら尚更だ。
でも、ガルアの様子もおかしかった。
やっぱり、外部からの侵入を以上に恐れている。
何でそこまでして、外からの侵入をいやがるんだ?
「駄目だ。思考がまとまらない。とりあえず早く帰ろう」
無駄に疲れた俺はふらふらとした足取りで、城を出ようとした。
「かつお兄ちゃーん!!」
その時、こちらを呼び掛ける声が聞こえてきて、振り替えると満面の笑みでラミアが近付いてくる。
「っ!?……ラミアか。どうした?」
「かつお兄ちゃん、明日私と遊んでくれませんか?」
「明日?別にいいけど……行きたい場所があるのか」
「ありがとうございます!それじゃあ、明日の朝10時に城まで来ていただけますか?」
「おう、了解。それじゃあまた明日な」
「はい!楽しみにしてます!それじゃあ私は勉強があるから、それでは!」
そう言うとラミアは慌てて行ってしまった。
「まさか、ラミアから誘われるとはな。行きたいところがあるって言ってたけど、何処なんだろうな」
まっ明日の楽しみにとっておくか。
俺はそのまま城を後にするとその道中、何気なくポケットに手を突っ込めると、何かが手に触れる。
「ん?何か入ってるな」
俺はその何かをポケットから取り出す。
それはアンティークな鍵だった。
「あっそう言えば、リツから鍵もらってたんだったな。すっかり忘れてた」
この鍵、多分本の鍵だよな。
「こうなったら善は急げ。早くみんなに知らせないとな」
俺は急いで家へと戻っていった。
―――――――――――――
「おーい!今帰ったぞー!」
家に着いた俺はそう呼び掛けて扉を開ける。
「今のはおかしいじゃろ!?何で分かったのじゃ!」
「デビさんは本当に分かりやすくて楽しいですね」
家の中から楽しげな会話が聞こえてくる。
何か、トランプで遊んでるな。
すると俺の帰りに気付いたミノルがこちらにやって来る。
「あっかつお帰りなさい。どうだった?何か言われたの?」
「ちょっとな、その前に確かめたいことがあるんだ」
そう言って、俺は鍵を取り出す。
「かつ!それって……」
「なんじゃなんじゃ!その鍵は!?」
「急に食いついてきたな。これは俺達が昔壊したスイットの中に入ってたみたいだ。多分、本の鍵だと思う」
俺はデビの腰につけている本を見る。
「この本の鍵なのか!?ついに開くのじゃな!」
「これは少し楽しみですね。一体中身は何が書かれているんでしょうね」
「そうね。もしかしたら、秘密の魔法なんか書かれてるかもしれないわね」
みんな期待に胸を膨らませて、開くのを楽しみにしている。
何だかんだ言って俺もこの本は気になっていたところだ。
「それじゃあデビ、本を貸してくれ」
「ほいっ」
そう言って、俺の手元に本が渡る。
「それじゃあ、開けるぞ」
俺はゆっくりと鍵穴に鍵を差し込む。
そして、ゆっくりと回す。
その時、ガチャンと言う音が鳴った。
どうやら鍵は合っていたようだ。
「開いたのじゃ!」
「開きましたね」
「やっぱりこの本の鍵だったのか」
俺は開いた本をゆっくりと開く。
そしてその本の中身を見て、俺は息を飲んだ。
「…………これって」
「……なるほど、そう言うことですか」
「これは中々ね」
「何なんじゃ?この落書きの数々は」
そう、デビの言った通り、そこに書かれてるのは手書きの魔法陣だった。
と、普通の人なら思うかもしれない。
それは俺にしか分からないことだった。
「それにしても、なんですかね。魔法陣の横に書かれてる文字?のようなものは」
「こんな文字見たことないのじゃ。多分落書きじゃろう」
「僕も知りませんね」
そう、普通の人からはただの落書きに見えるかもしれない。
でも、そこに書かれていたのは紛れもない。
日本語だった。




