その二十九 作戦選び
「ふう………ただいま~」
魔力の使いすぎか少し体がダルい。
重たくなった体を何とか動かしてソファーに向かうと元気な声が聞こえてくる。
「あー!かつが帰ってきたのじゃ!」
そう言って俺とは正反対に元気なデビが走って来た。
「ちょ、ちょっと今は待ってくれ。早起きして疲れてるんだ。休ませてくれ」
「もしかして、もう行ってきたんですか」
「ああ、早い方がいいだろ」
俺はそのままソファーに横たわる。
ああ、疲れた体が癒される。
すると、横になっている俺に向かって声がかけられる。
「それでどうだったんだよ。その招待状とやらは貰えたのか?」
「いや、直接もらうのは危険だから送ってくれって頼んどいた。あとは来るのを待つだけだ」
「疑う訳じゃないんだけど、来なかったらどうするき?」
「信じるしかない。今の状況ならなおさらだ。……………て、居たのかハイ&ロー」
顔をあげるとそこにはハイ&ローがこちらを見下ろしていた。
「今さらかよ!まあ、さっき帰ってきたばっかりだから別にいいが。て言うかさん付けろって言っただろ」
「いやあ、ロー何か変な語尾つけてないから全然気づかなかったよ」
「え!?それってキャラがないってこと!キャラがないってことよね!?これは危機的状況だわ!ロー、キャラ付けいっきまーす!これで大丈夫なる!」
突然やかましくなったローを俺達は一旦無視する。
「キャラ付け女はほっといて、ハイ。例の結婚式場の場所と構造は分かったのか?」
「ちょっと!キャラ付け女ってどういうことなる!?あれ?でもそれはキャラが合っていいかもしれないわなるね。よし!今日から私はキャラ付け女なる!」
勝手に怒って勝手に解釈して勝手に解決してやがる。
「なあハイ、もう一度聞くけどローの年齢って何歳だ?」
「23だって言ってるだろ。て言うかさんを………もういいや」
何か諦めた様子だが気にしないでおこう。
て言うかとても20代の大人の発言には思えないな。
「それで分かったのか?」
「もちろんなる。問題なく入手してきたなるよ」
そう言って結婚式場の場所が書かれてる地図とその内部の構造が分かる紙を取り出した。
するとハイが不満そうに呟いた。
「何が問題なくだ。本当だったら昨日の時点で回収できたんだぞ」
「え?そうなのか?」
「ちょっちょっとの問題なる。ほんのちょっとの」
「何がほんのちょっとだ!わざわざ変装しなくてもいけたのに、変装したいと言って勝手に中に入って正体がバレたくせに!」
「違うなる!あれは完全にほこりのせいなる!ほこりがなかったら正体はバレなかったある!」
「おいおい、お前ら喧嘩するなよ。とりあえず仕事の反省の話は置いといて、この紙を見ようぜ」
こいつら、最初に会った時は結構仲がいいと思っていたけど、もしかして仲悪いのか?
まあ、喧嘩するほど仲がいいと言うし、これでいいか。
俺は早速ハイ&ローから貰った紙を広げる。
「それで場所はどこら辺でした」
「城からかなり近いな。あそこの大きい建物が結婚式場だったのか」
城に向かう途中でそれらしき建物を見た気がする。
「デカイのじゃ。何かすごいデカイのじゃ」
「貴族の人達も呼ぶのでこれくらいの大きさは妥当でしょう。これなら迷うことは無いですね」
「それじゃあ次は構造だな」
構造が書かれている紙を見るとそこまで特徴的な物はなかった。
気になるところと言えば魔力で動かす電気などを制御する部屋があるくらいだ。
この街は最先端の技術を金で買っているのだろうか?
「お前らここを見てみろ」
そう言ってハイは下の方を指差す。
その指差した所は床の部分だが何やら文字が書かれていた。
「何々、秘密の通路!?まじか!そんなものがあるのか!」
「元々この建物はかなり前に作られたのにも関わらず戦争で受けた傷が1つも無いと言うことで、神が宿ってると言われるようになってな。それで、その神が居る場所で愛を誓うと永遠に結ばれると言われてるんだよ。それくらい昔に作られてるってことは秘密の扉や通路が合ってもおかしくないだろ」
そう言ってハイは嬉しそうにそれを語り出す。
やっぱり怪盗やってると秘密のとかは気になるのか。
「てことは本当にあるってことだよな」
「ああ、これは確実な情報だ。怪盗として誓うよ」
「これは外と繋がってるみたいですね。しかも、ちょうど愛を誓う場所に繋がってますね」
「外から侵入出来るってことか」
これなら確実に中に侵入できるな。
「よし!中に入る方法はこれで行こう」
「これで侵入方法は決まりましたね。今までの作戦をおさらいするとハイさんが囮になって護衛の人を引き付け、その隙にドリルで土の中を進みその秘密の入り口で中に侵入、ミノルさんを救出と言うことでいいですか………何でハイさんは泣いているんですか?」
リドルが作戦の流れを説無為してる途中で何故かハイは号泣していた。
「いや、初めてさん付けされたと思って、嬉しくって………」
「そ、そうですか………僕は誰にでもさん付けするので」
「それでも嬉しいよ!!ありがとなリドル!!」
そう言ってリドルを抱き締める。
こいつもやっぱり変なやつだな。
リドルは抱き締められたことで困惑しながら離れようとしている。
「い、いえ……あの、離してください」
「なあかつ、あのリドルが困っておるぞ」
「ああ、珍しいな。結構ハイって変なやつかもしれないな」
「ん?ちょっと待つのじゃ。それじゃあ招待状を手にいれる必要は無かったんじゃないのか?」
「………………確かに」
もしかして、俺の早起きは無駄になったのか?
「ちょっと待つなる。その作戦には唯一の欠点があるなる」
「欠点?何だ?」
今のところ招待状が使えなくなってしまうと言うところと、地面を潜れる機械を作る許可が取れるか以外は無さそうだけどな。
「私がその作戦に関わってないなる」
「よし、後はリツが許可を取れるかどうかだな。そして、招待状も」
「ちょっと!無視するななる!」
今はまだリツは帰ってきてないよな。
結果は分からないがもし、出来なかったとしたら侵入方法をどうするべきか。
「ちょっといいですか」
そう言ってリドルが、手をあげる。
「どうした?」
「先程おさらいしてみると、穴が多い気がするんですよ。まず例の許可が降りなかった場合です。その保険として招待状でしたが、招待状を貰ったとしても誰が行くんですか?」
「それは………確かに決めてなかったな」
正直入れる方法として保険を立てたが何枚貰えるかも分からないし、侵入できたとしてもすぐに正体がバレるかもしれない。
「それと、さっき新しく情報が合ったからしょうがないと思いますが、秘密の入り口まで何でいくつもりですか?例の許可が降りないとそこにいくまでも大変じゃないですか?」
「確かに、そうだな」
何かこうやって改めて言われると色々とちゃんと出来てないな。
「例の許可が降りなかったら、バ車の中に隠れて侵入すればいいのじゃ!招待状を持ってる人が運転すれば怪しまれないと思うのじゃ」
「なるほど、デビ!お前良いこと言うな!よし、それでいこう。バ車の中に隠れてある程度まで中に侵入したらこっそり外に出よう。その時には囮が居るからバレる可能性は少ない。そして、秘密の入り口から入りミノルを救う。よし!招待状の時の作戦はこうだ!」
「それなら……まあ、ギャンブル的な部分はありますが」
「作戦にギャンブルは付きものだぞ。いつもいつも完璧に達成できるわけじゃないからな。こういうのも必要だぞ」
そう言って自慢げにハイが語り出す。
その時、ドアを叩く音が聞こえた。
「もしかしてリツかな?」
そう思い俺は扉をあける。
「お帰り~それで許可は降りたの………え?」
そこに居たのはリツでは無かった。
「はあ、はあ、はあ……やっと見つけましたよ」
そう言ってその人は荒い息を吐きながら俺に紙を渡す。
「え?ちょ、いきなりなんです……これって招待状の紙か!?て、あんたはあの城に居たメイドか!」
そういえば、城の中で会っていたメイドにも似てるな。
俺をぶん殴ったメイドだもんな、どうみても。
「メイド?それよりこれで、ミノルは助かるんですよね?」
この人、もしかしてミノルの為に届けてくれたのか。
「必ず、助けます」
俺はそう言って2枚の招待状を受けとる。
「お願いしますよ。それでは」
そのまま長居することなく、そのメイドは行ってしまった。
「いい人だったな」
俺は早速部屋に戻り2枚の招待状を見せる。
「それって、もしかして………」
「招待状か!?本当に手に入れたんじゃな」
「さっきのお世話係みたいな人が届けてくれたのか?」
「ああ、いい人だったよ。しかも2枚もくれた。これで、決まったな」
「そうですね」
「そうじゃな」
「何が決まったの~」
突然俺の真後ろから声が聞こえた。
「うわっ!?リツか!びっくりしたな。脅かすなよ」
「別に脅かす気は無かったよ~それで何が決まったの~」
「その前に、機械の許可は取れたのか?」
「えっと~後もう少し何だけど~明日くれれば~」
「残念だけど時間切れだ」
そう言って俺は2枚の招待状を見せる。
「ああ~なるほどね~それじゃあ、しょうがないか~」
「それで、どの作戦でいくなる?」
「もちろん、招待状の作戦だ!」




