その二十八 ミノルの為なら
「………うーん、よし行くか」
俺は朝の5時に目を覚まし、出発の準備をする。
当然まだ皆は寝ているので起こさないように、足音を出さない程度に階段を降りる。
そして朝の支度を全部終えてから、俺は玄関の扉を開ける。
音をたてないようにゆっくりと。
「それじゃあ、行ってきます」
そう呟いて扉を閉めた。
外は夜が明け日が昇り初めている。
「このくらいの明るさなら出来るな」
そう、実は今回のキンメキラタウンに行く前に試したいことがあった。
「よし、それじゃあ早速やるか。ワープ!」
俺は瞬間移動でギリギリ行ける距離で空中にワープした。
そして当然重力によって体が下に落ちていくが、俺は地面にぶつかる前に再び唱えた。
「ワープ!」
そして、また空中を瞬間移動する。
「ワープ!ワープ!ワープ!よし!成功だ!ちゃんと出来てる」
俺は空中を何度もワープすることで擬似的に空中飛行が出来るようになった。
これなら歩くよりも断然早く目的地につける。
コウバよりは少し遅く魔力もかなり使うが、俺は魔力レベル10も何かあるので、多分無くなったりしないだろう。
「この調子なら午前中には着けるかな」
―――――――――――――――――――――――
「ワープっと。ふう、やっとついたな」
目的のキンメキラタウンに着いて、地面に降りる。
結構時間はかかったが、予想してたよりはまあまあ早く着けたかな。
「よし、それじゃあ早速やるか」
俺はまず門番が居るであろう、門に向かった。
やはり案の定門番がおり、俺は堂々と門番の前に姿を現す。
「ん?お前は、絶対かつか!?」
「ああ、現在キンメキラタウンに追い出されてる絶対かつですよ。それでムラキに頼みたい事が」
その瞬間、目の前に大きな魔法陣が展開される。
「いきなりそんなもん出すってことは話すら聞かないってことか」
「ああ、そういうことだ。分かったら、さっさと帰れ!」
そう言って威圧的に俺を追い出そうとする。
どうやらムラキはかなり怒っているみたいだな。
「少しだけでいい。話を聞いてくれ!」
「しつこいぞ!特に今の時期、ムラキ様は忙しいのだ!お前みたいな奴に構ってる暇はない!」
ひどい言われようだな。
だが、確かに今の時期に俺がここに来るのは避けたいだろう。
だけど、俺だってそう簡単に帰るわけには行かない。
「お願いします!ムラキ様に会わせてください!!」
俺は頭を下げて、門番の人にお願いする。
「分かりやすく媚びてきたな。駄目だ駄目だ!特にお前をムラキ様に会わせることは出来ない!」
「誰が会わせられないんだ?」
その時、聞いたことがある声が聞こえた。
「ムラキ!」
「ムラキ様!?どうしてここに?」
「門の前が騒がしいと報告があってな」
まさかこんなところで出会うとは、このチャンスを無駄には出来ない。
俺はすぐにムラキの元に向かった。
「お願いだ、ムラキ!ミノルに会わせてくれ!」
「誰かと思ったらお前か。ここには近付くなとわざわざ街に紙を配ったのにな」
「1度だけでいい。ミノルに会わせてくれ。頼む!」
俺は再び頭を下げる。
すると、ムラキは馬鹿にするような笑い声を上げる。
「はははは!!おい門番!こいつ今なんて言った!なあ、何て言ったんだ!」
「え、えっと……ミノルに会わせてくれと言っておりますね」
「そうだよな!ミノルに会わせてくれと言っているよな!はははは!はあ………お前バカだな。いや、バカを越えてアホだアホ!」
いや、意味はどっちも同じな気がするが。
「俺様とミノルはこの時期はデリケート何だよなぁ。だから会わせられない!て言うか会わせない!て言うか俺はお前が大嫌いだから絶対に会わせない!」
やっぱりそうだよな。
そりゃあ、会わせたくないよな。
折角結婚できるまで来たのに、俺なんかに邪魔されなくないよな。
「どうしたら会わせてくれるんだ?」
すると、その言葉を聞いてニヤリとムラキが笑う。
やばい、嫌な予感がする。
「土下座しろ。地面に頭が付くくらいのな」
まあ、そうなるよな。
俺はムラキの指示にしたがって大人しく土下座をする。
膝を畳み地面に頭を付ける。
屈辱的ではあるがミノルの為ならここはグッと我慢する。
「はっはっは!まさか本当にするなんて、そんなに話したいのか?」
「もう会えなくなるんだろ?だったら最後に話がしたいんだ」
「負けを認めるってことだな?」
「ああ、そうだな」
今は認めてやるよ。
「ふっ久しぶりに面白いものが見えたからお前を少しだけ、ミノルと話させてやるよ。慈悲深いからな俺は」
「ありがとうございます」
「そうと決まれば早速行くぞ!おい、こいつを連れてけ」
そう言ってムラキは意気揚々と城へと向かった。
その後を門番に連れられて歩いていく。
――――――――――
「おい!ミノルー!お客さんが来てるぞ!!」
「今はあんまり人に会いたくは……………かつ?」
「よっ」
その後、少しの間だけ話すことが許可された。
この城のテラスで話せと言われたので俺達はテラスの椅子に腰かけていた。
「久しぶりだなって言ってもほんの数日会ってないだけだよな。ははは………」
「……………………」
気まずいな、何で何も言ってくれないんだ。
とりあえず、短い時間だし早めに用件を伝えようか。
「えっと、実は…………」
「何でここに来たの?」
「え?何でって……」
何で急に喋りだしたんだ。
お陰で本題に入れなくなっちゃったんだぞ。
「もう来ないでって言ったよね」
「言ったっけ?そんなこと」
「言ってなくても何となく分かるでしょ。かつがここに来たって何にも変わらないって」
そう言って冷たい視線を向ける。
ミノル、本気で結婚するつもりなんだな。
「別にわざわざ俺の事を遠ざけないでいいよ。全部知ってるから。お前がここに居る理由もちゃんと知ってるから」
「………………そうなのね。なら、なおさらここに来ても意味がないことは分かるでしょ?」
「いや、それが意味あるんだよな」
すると、ミノルが不思議そうな顔をする。
「どういう事?」
「そのまんまの意味だよ」
「もしかして、持ってるの?」
「ああ、バッチリだぞ」
「そ、そうなのね……………」
その事を聞いたからなのか、先程の厳しい顔つきが少し柔らかくなる。
やっぱりか。
「でも、今のままじゃ持っていったとしても、うやむやにされるかもしれない」
「じゃ、じゃあどうするの?」
「ここから先が本題なんだけど、俺達に結婚式の招待状を送ってくれないか?」
「え?どうする気?」
「招待状さえ送ってくれれば後は俺達が何とかする。だから………」
すると、ミノルは顔を俯かせる。
そして、笑顔で顔をあげる。
「もう、いいよ」
「え?もういいって、どういうことだ?」
「私のためにそんな危険なことしないでよ。私はもう大丈夫だから。その気持ちだけでもう十分」
「ミノル…………」
そうは言っても作り笑いをするミノルをこれ以上見ていられない。
「だからさ、皆は―――――」
「もういいとか、言うなよ」
「かつ?」
「もう十分とか言うなよ。もう自分が犠牲になればいいと思うなよ!」
俺はついミノルに怒鳴ってしまった。
だが、この状況で助けを求めないミノルに俺は腹がたってしまったのだから、もう止められなかった。
「お前いっつもそうだ。何かあっても自分だけがやればいいと思ってる。何で頼ってくれないんだよ。何で助けを求めてくれないんだよ。俺達がそんなに頼りないか?俺達がそんなに信用できないのか!?」
「ち、違う!そう言うことじゃない」
ミノルは否定するが俺はその程度じゃ止めることが出来なかった。
「じゃあ、何で何も言わずに行くんだよ!何で自分1人だけで解決しようとするんだよ!」
俺はそう言いながら興奮ぎみに立ち上がる。
「これは私1人の問題なの!皆を巻き込むわけにはいかないの!」
ミノルも同じように立ち上がる。
互いに視線が合い正面から本音をぶつけ合う。
「そうやっていっつもいっつも、自分が正しいと思ってる!言っとくけどな!お前大分間違ったことしてるからな!」
「な、何ですって!私がいつ間違いを――――」
「間違ってるよ!仲間なんだろ?仲間だったら助け合うのが普通だろ!それとも俺達は赤の他人だったのか!」
「そんなこと言ってないじゃない!」
「言ってるよ!口に出してなくてもそう思われてるとしか思えない!仲間とか言っておきながら関係ないとか、自分の問題だからとか言って、全然本心を話してくれないじゃないか!それが、仲間って言うのか!?」
ミノルはこちらを静かに見つめる。
言ってやった、言いたいこと全部。
だから、後悔はない。
するとミノルがうつむき呟く。
「……………私、駄目なんだよ。人に助けを求めるほどの人生を送ってないもん」
「そんなもんは関係無い」
「関係なくないよ!私は助けられていい程の価値なんてないの!」
「過去とか未来とかどうでもいいんだよ!今だろ!今のお前の気持ちを聞いてんだよ!助けてほしいんだろ!そんな強気にならなくていいんだよ!お前は弱いんだから!平気なふりなんかもうしなくていいんだよ!お前の本心を聞かせてくれ!」
ミノルの瞳には涙がこぼれ落ちる。
「わた、私は………私は!」
その時ベランダの窓を叩く音が聞こえた。
「失礼します。ムラキ様がもう終わりだと」
「分かった。じゃあなミノル。例の件頼んだぞ」
そう言って、俺はベランダを出た。
涙を流したミノルを置いて。
「別れの挨拶はすんだのか?」
ムラキはそう言って少し勝ち誇った顔をして居る。
「ああ、ありがとな。もうここに来ることはないと思うぞ」
「それは、俺様も嬉しいな!ははは!!」
そう言って高笑いをあげる。
「ああ、俺も嬉しいよ」
最後に笑うのはどっちだろうな。
そう思い、俺は城を出ていった。
―――――――――――――――――
かつが帰った後ミノルは放心状態になっていた。
「ミノル大丈夫ですか?ボーッとしていますが」
「だ、大丈夫、少し混乱しちゃっただけだから」
ミノルは涙をふいて、マナの方を見る。
「私、昔すごい悪いことをしちゃったの。償いきれないほどの事をしたの」
「そうなんですね」
「私みたいな人は助けなんか求めちゃダメなの。私なんか幸せになる資格なんてないの」
「そうですか」
「そう、思ってたのに………かつに助け求めてもいいって言われた時、心が軽くなったの」
「そうですね」
「ねえ、マナ。こんな私が誰かに助けを求めていいのかな?」
先程拭いた瞳から再び涙が滲む。
それを見て、マナは優しく抱き締める。
「いいんですよ。あなたは何も悪くないんだから」
「でも、私………!」
「昔のことは昔のことです。ミノルが何をして来たのかも昔のミノルがどんな人なのかも分かりませんが、私は今のミノルを知っています。あなたは優しくて、責任感がある、でもとっても脆い。そんな人が救われない世界なら、誰1人として救われないでしょう」
それを聞いてミノルは貯めていた涙が溢れでる。
「うう……うぐっ私は………またみんなと一緒に居たい………皆と………お話がしたい……ひっぐっ皆とご飯が食べたいよ…………」
「いいんですよ。あなたはそれでいいんです」
「助けて………お願い、私を助けて………!」
そう言いながらマナを強く抱き締める。
マナはミノルは耳元で優しく囁くように言う。
「ミノルはきっと助かります。ミノルの仲間は本当に優しい人達ばかりです。必ず救われますよ」
「………っうわぁぁぁぁん!!」
しばらくはマナの胸の中で涙を流し続けた。
そして、ミノルは涙を拭き取り決意を固める。
「かつに招待状を届ける」
「そうすれば、助けてもらえるんですね」
「可能性はあるみたい。でも、問題はどうやって招待状を手にいれるかだけど………」
「お任せください。私が取りに行きます。そして、届けていきます」
そう言ってマナはゆっくりと立ち上がり、扉の方へ向かう。
「ちょ、ちょっと待って!危険すぎるわ!バレたらクビどころか牢屋に入れられるかもしれないのよ」
「承知の上ですよ」
「っ!どうして………そこまでしてくれるの?」
「ミノルが言ったんですよ。私達は友達だと」
そう言ってマナはミノルの方に顔を向ける。
「私、友達が傷つけられるのが許せない性格なので」
そう言うとにこりと微笑み部屋を出て行った。
「私って本当にバカね」




