その二十四 キャラが無さそうである女
「うわぁーん!何で仕事の依頼が失敗になってんのよ~!ちゃんと届けたじゃないのよ~!!」
「おい、飲み過ぎだぞ。ちょっと控えろって」
カウンターには瓶を片手に酔っぱらってる女とそれを注意する男がいた。
あの瓶の量からするに朝っぱらからかなり飲んでいたみたいだな。
それにしても、あいつらいつもここにいるのかな?
あまり気にしたこと無かったがもしかしたら常連だったりするのか?
「よお、少年!他人の食事を盗み見るのはよくないな」
背後から上機嫌な声が聞こえる。
「アカリか。別に盗み見てる訳じゃないが、あの人達は昔からここに来てるのか?」
「ああ、あの人達か。ここ最近ここで飲んでいるね。なに?お酒仲間でも探してるのか少年?それなら、私がなってあげようか?」
アカリはそう言うとぐいぐい顔近づけてくる。
「いや、別にそういうんじゃないから」
相変わらずのダル絡みに俺はアカリを引き剥がすと、酔っぱらっている2人の隣に座る。
「よいしょっと。お仲間さん大変ですね。こんな、朝っぱらから酔っぱらって」
「え?あ、そうなんですよね。こいつ、仕事に失敗したからってやけ酒してんですよ。おい!いい加減やめろって!」
「うっさいわよ!第一何で依頼失敗になるのよ!!私はちゃんと仕事をこなしたのに!」
そう言って酒瓶を片手に愚痴を溢す。
どうやら依頼を失敗した鬱憤を酒で晴らしてるみたいだな。
「何言ってんだよ!元はと言えばお前があの毒を落としたからだろ!」
「はあ!?ほんのちょっとでしょ!誤差の範囲よ!」
「どこがほんのちょっとだ!半分以上ぶちまけただろ!て言うかここ最近の仕事お前のせいで失敗続きなんだぞ!」
何か、口論になってるが大丈夫か?
酒が入っているからか互いにヒートアップしてきている。
「んなぁんだって~!私は失敗してないから~!!」
そう言って、空の酒瓶を片手に持ち振り下ろそうとする。
「おおーい!?ちょっと待て!俺はお前の仲間だぞ!何しようとしてんだ!!」
「うっしゃーい!私の事をバカにするな~!!―――――――」
女の人が勢いよく酒瓶を振り下ろすその瞬間に突然女の人が机にもたれ掛かる。
もしかして死んだか?
そう思ったが表情を見るに単に寝ただけのようだ。
このタイミングで眠りにつくのもどうかと思うが。
「…………はあ、何で俺こんなことしてんだ」
何かものすごく大変そうだな。
それにしても、今の話を聞く限りやっぱりこいつらはハイ&ローだな。
服装は違うが、声が似ているし、フォルムもほぼ同じだ。
仕事は多分ヌマクを盗むことだろうし、毒を溢したって事はヌマクの事を言ってるんだろうな。
しかし、こいつがここまで酒癖が悪いとはおまけにドジらしいし、キャラがたってないって言うわりにはまあまあたってると思うんだけどな。
「大変ですね。お仲間さんのせいで仕事が成功してないみたいで」
「あ、えっと………そうなんですよね。こいつ、ポンコツで全然役に立たないんだよ」
「それってヌマクの話ですか?」
「っ!?……何の話だ?」
一瞬動揺したように見えたがすぐに素の表情に戻る。
なるほど、あくまでもシラを切るって言うんだな。
だったら……………
「おい、ローがまた殴ろうとしてるぞ」
ふっこれならこいつはとっさの事で振り替えるはず。
これで奴の正体を…………
「ロー?誰の事だ?」
そう、にやけた面で言い放った。
「ざんねんだけど、そんなやつらは知らないなあ」
こいつ、まさか反応しないなんて。
俺だったら普通に反応してしまうのに、もしかしてこう言う経験をしたことがあるのか?
しかもなんか、勝ち誇った顔をしてムカつくな。
「なるほど、俺の負けだよ。さすがだな、こう言うのには慣れてるのか」
「ああ、そうだな。まっ俺はすごいからな、これくらい当然だな」
「へえ、てことは正体をバレたことは無いんだな」
「もちろんだ!俺は容量がいいからな!怪盗ハイ&ローとバレそうになったことが何度あった…………」
何かに気付くと、その瞬間ハイが大量の汗をかく。
「認めたな今?」
「な、何の事だか?」
否定はしているが目がめちゃくちゃ泳いでるな。
こいつ、アドリブは無理みたいだな。
「それなら、こいつに聞いてみるか?」
「な!?やめろ!」
俺はローの体を揺する。
こいつは今酒に酔ってる。
ボロを出すなら今が絶好のタイミングだろう。
「ほら、起きろって、お前の仲間が呼んでるぞ?」
「や、やめろ!寝かせろ!」
「おい、おい何でそんなこと言うんだよ?仲間なんだろ?起こしてやった方がお前も好都合だろ?」
「そうかもしれないけど、今のタイミングはやめろーー!!」
ハイは慌てて俺の腕を掴んでくる。
「おま!邪魔すんなよ!」
「うるさい!こいつは起こさせないぞ!」
俺とハイが取っ組み合いになっていると、不機嫌そうなローが目を覚ます。
「ううん…………」
「あっ起きたのか!早速聞きたいことがあるんだが!」
「やめろ!おい、何も答えなくていいから!」
「うう、うるさーい!!」
「「ごはっ!?」」
寝起きが不機嫌なせいか、俺とハイは思いっきりぶっ飛ばされた。
―――――――――――――――
「ただいま~…………」
俺は疲労しきった状態で家に帰る。
「お帰りなのじゃ!………何か疲れてるのか?」
「ああ、ちょっとな」
まだ頬が痛む。
あいつ結構強めに殴りやがったな。
「おかえりなさいかつさん、結構時間が掛かっていましたが何をしていたんですか?」
「私達~かつが居ない間に~結構色々作戦考えてたんだよ~」
「そうか、俺も考えた作戦があるんだけど言いか?」
「ていうか、俺達の事を無視するなよ!!」
ローをおんぶしているハイがそう叫ぶ。
「ああ、すまん。忘れてた」
「忘れんなよ!こっちはもう腕がパンパン何だよ!」
確かにハイの腕と足はプルプル震えていた。
「なんじゃ妾にしか見えてないと、思っておったぞ」
「僕も幽霊かなんかと思ってましたよ」
「私も~気にしちゃいけないものだと思ってたよ~」
「そんなに俺、存在感無いか!?いや、仕事上逆に有利なのか?」
何か言ってるが気にしないでおこう。
「こいつは怪盗ハイ&ローだ。今回の作戦に協力してくれるらしいぞ」
「協力と言うか脅迫されたんだけど」
実はあの後、ここで怪盗ハイ&ローが居るぞと叫ばれたくなければ俺に協力しろと言ったのだが、まっそれは言わなくていいよな。
「ええ!そいつらハイ&ローなのか!?サインくれ!」
「デビさん前にもらってるし、要らないでしょう。にしても、気付きませんでしたね。さすが、怪盗ですね」
「いやぁ、それほどでもあるけどよ~」
そう言ってさっきまでの不機嫌そうなハイとは逆に上機嫌になる。
こいつ、自分の事どんだけ評価してんだよ。
「それにしても~その背中の女の人は~ロッちゃんなの~?」
「ああ、そうだ。今は酒に酔いつぶれているが、怪盗の時はそこそこ優秀だぞ。ところで作戦っていったい何の作戦なんだ?」
「あれ?かつさん、この人達に言ってないんですか?」
「そう言えば、言ってなかったな。実は…………」
俺はハイに作戦をたてることになった経緯を説明する。
そしてあらかた説明をし終えると何故かハイが涙を流していた。
「仲間の為にそんなことまでするとわ!うおぉぉ!俺は感動したぞ!!それならそうと言ってくれ!最初は脅迫されて渋々了承したが、そう言うことなら話は別だ!俺も全力でお前らに協力するぞ!もちろん、ローもな!」
そう言って眠ってるローを前に突きだす。
「むにゃ?はへ?なに、ここどこ?」
目覚めたばかりで状況を理解出来てないのか虚ろな目でキョロキョロと辺りを見渡す。
「それでは、そろそろ本題に入りましょうか」
「ちょっ待って!意味が分からないんだけど!状況説明を!私に状況説明を求める!」
「はあ………えっとだな」
俺はまた同じ説明をローに説明する。
するとまたもや説明が終わるや否や号泣し始めた。
「うわあぁぁん!そ、そんなことが合ったでござんすか!そんな話聞かれたら、協力するしかないでやんす!!」
「それはありがたいんだけど、その変なキャラをやめてくれ」
「それは無理でやんす!このキャラがなくなったら私のアイデンティティーがなくなっちゃうでござんす!」
「そんなアイデンティティー無くした方がいいぞ」
するとローは名残惜しそうな顔をして、がっくりとうなだれる。
こいつどんだけキャラがほしいんだよ。
「それよりも~ミッちゃんの救出について~何か良い作戦思い付いたんでしょ~?」
「え?ああ、そうだったな。実はこう言うのを思い付いたんだけど」
俺は今回のメインである救出作戦について皆に話し始めた。
「「「えええ!!結婚式に侵入!?」」」
「ああ、ムラキが金を払っても、ミノルの事を手放さないとしたら、それは周りの奴がムラキの仲間だからだ。だが、結婚式になれば色々な人が来る。そこで、この事をムラキに突き付けてやれば、さすがのあいつも言い訳できないだろ。どうだ?良い案だと思わないか?」
するとデビとリドルとリツがお互い顔を見合わせる。
「ふふふ~」
「ははっ」
「なははは」
そして、お互い突然笑いだす。
何だこいつら。
「えっと………どうした?何か気持ち悪いんだけど」
顔を見合わせたと思ったら、いきなり笑いだして何なんだ。
「実はですね、その結婚式に侵入するの」
「妾達も考えてたのじゃ!やっぱり、妾達は仲間じゃな!」
「みんな考えることは~一緒なんだね~」
そうか、だからいきなり笑ってたりしたのか。
「何だ、もうみんな考えてたのか」
「ですが、結婚式にどうやって入るのかはまだ考えられてないんですよね」
「妾は地中に潜って行けば良いと思うのじゃ!」
「それはさっき却下したでしょ。地中を掘る方法が無いと」
デビにしては良い作戦だが、確かに地中を進む魔法は無さそうだな。
それに魔法を使う時に出る魔力で位置がばれる可能性があるし、無理そうだな。
「それじゃあ、どうするのじゃ?」
「俺に1つ考えがあるんだ」
「な~に~?」
「ハイ&ローって変装できるだろ?それで俺たちに変装してくれ。キンメキラタウンに入った後に変装すれば追い出されることはないだろ。それで俺達に変わって結婚式に潜入してお金を―――」
「それはダメだね~」
俺が言いきる前にリツが俺の案を却下する。
「え?どうしてだよ?これなら行けるだろ?」
「それだと~根本的な解決に~なってないと思うな~」
「いやいや、なってるだろ。金はちゃんと払えるし、ミノルも救えるし、これのどこが根本的に解決してないんだよ」
「ぜっちゃん本人が助けなきゃ~本当の意味で~ミッちゃんを救えたと言えないよ~」
本人が助ける?
そうか………これじゃあ、助けたとは言えないよな。
仲間が助けなきゃいけないんだよな。
「…………ごめん、何かまたリツを怒らせるようなこと言ったな」
「大丈夫だよ~ぜっちゃんは不器用だからしょうがないよ~」
「そうじゃ!妾達が絶対助けるのじゃ!他のやつじゃミノルは喜ばないのじゃ!」
「形だけで救ったところで意味ないですよね。僕達が助けることに意味がありますから」
「分かった!分かったって!そんなにみんなで責めなくても良いだろ。それじゃあ、どうする?」
正直言ってさっきのやつが思い付いた案だからもうないんだけど。
「他の案は無いんですか?」
「えっと…………」
俺は新しい作戦を頭の中で必死に考える。
結果、思い付かなかった。
なので、視線でリドルに伝えることにした。
「無いんですね。それじゃあ、今ので思い付いた事があるんですけど、良いですか?」
「何だ?」
「ハイ&ローの人達は僕らを変装させることは出来ないですか?そうすれば、僕達は堂々と正面から行けるんですけど」
「たしかにそうだな。そこんところどうなんだ?」
今まで話に参加してこなかったハイ&ローに注目が集まる。
「え?いや、お前らを変装させることは出来ないからな?何か期待してるけど、これは魔法だから自分以外のやつを変装させられないんだよ。分かる?」
「いや、そんな聞かなくても分かったよ」
それにしても、あの変装は魔法だったな。
そんな魔法は聞いたことないし、もしかしてオリジナル魔法か?
「魔法でしたら、自分を変えることは出来るんですよね。それなら囮になるのはどうですか?」
「え?囮?俺が!?」
「たしかにここの誰かに変装すれば、他のやつらを引き付けることが出来るな。よし!それで行こう」
「待て、待て!俺の意見は?俺の意見を聞けよ!」
俺はハイの方に顔を近づける。
「協力してくれるんだろ?」
「……………分かったよ。囮になれば良いんだろ。危険が迫ったら即刻逃げるからな!」
「了解。それで良いよ。そう言えばその……変装魔法?はローも使えるのか?」
「いや、こいつは使えない。だから、普通の変装をしてもらってる」
ローの方を見るとまだうなだれていた。
こいつ、以外とメンタル弱いんだな。
「僕達が初めて会った時は、別人みたいですけど」
たしかに、初めて会った時と姿を現した時とはえらい違いだったな。
「あいつ、人のマネが得意なんだよ。相手のしぐさや声色、くせや喋り方も完璧にマネ出来る。まっ一種の才能ってやつだな。そのせいか、自分自身を見失ってる感はあるけど」
「そんな、才能があったのか、あいつには」
ただの酔っぱらい女じゃなかったわけだ。
するとデビがハイの前に立つ。
「なあなあ、その魔法を見せてくれないか!」
そう、目をキラキラさせてハイに頼む。
これは断れないな。
「ま、まあそんなに見たいなら見せてあげよう。いくぞ!モノマネ!」
その瞬間、ハイの足元に魔方陣が出現し、光がハイを包み込む。
そして、光が消えるとそこにはハイの姿は無かった。
「え?え?もしかして、リツ!?」
「そうだよ~私がリツだよ~ぜっちゃん、急にどうしたの~」
声も姿も完璧にリツだ。
「すごいのじゃ!リツが2人になったのじゃ!」
「まさか、体型も変わってしまうとは。この技は魔法以外にあり得ませんね」
「そうでしょ~すごいでしょ~これで私のすごさが分かった~?」
「本当にすごいね~びっくりだよ~」
「ああ、ここまで完璧だと逆に欠点がどこなのかが気になるな」
2人が並ぶとさらに凄さが増すな。
「欠点なんてないよ~ほら、胸の柔らかさも本物だよ~触ってみる?」
「え?それじゃあ、お言葉にあま―――」
その瞬間俺とハイは吹っ飛ばされる。
「ぐほっ!な、何で?」
「何で俺も一緒に殴られたんだ?ていうか、リツの姿のままで殴られたんだけど」
「理由が分からないなら~もう1発いこうかぁ~?」
「「本当にすみませんでした」」
俺らは正座になりすぐに謝罪した。
怒ったリツほど怖いものはない。
「おい、大変なのじゃ!ローが拗ねてしまったのじゃ!心が折れたのにみんな構ってくれないんだねってぼそぼそ言ってるのじゃ!」
「おいおい、子供かよ。何歳かは知らないが子供じゃないんだしそれくらいで拗ねるなよ」
「あっお前らに一応言っておくが俺は22でこいつは23だから、一応さん付けはしろよ」
「え?マジで?」
ここまで本当の年齢を聞いて驚いたことは生まれてはじめてだった。




