その二十二 先手必勝
俺達はお金を早速鞄の中に詰める。
何故鞄に入れるかと言うと、持ち運びやすくするためだ。
大きな2つの鞄の中にお金をぎっしりと詰め終える。
「パンパンじゃのう。はち切れそうじゃ」
「鞄はこの数しかありませんからね。まあ、そう簡単には壊れないでしょう」
「それにしても、以外と簡単に集まったな。4億何て大金どうすればいいって思ってたが、集まってよかったよ」
「そうだね~。もしかしたら、神様が私達を見捨ててなかったのかもね~」
「決まっておるじゃろう。妾は良い子じゃからな」
俺とリドルはそれぞれ大きな鞄を手に持つ。
「それじゃあ、さっさと行こうぜ。ミノルを助けに」
「そうですね。行きましょうか」
「待っておるのじゃよ、ミノル!」
俺達は希望を持ってその扉を開けた。
外はもう夕暮れで日が沈みかけていた。
「今日はもうやめた方が良いかもね~」
空を見ながらリツが言う。
「え?何でだよ。道中暗くなるのが気になるのか?大丈夫だよ。ちゃんと警戒してればやられないって」
「そうじゃなくって~夜になるとキンメキラタウンに入れないんだよ~」
「え?そうなのか?」
俺は確認を取る為リドルの方を見る。
するとリドルは歯切れが悪そうに答える。
「えっと……多分、そう言えばそんなことがあったような気がします」
「そっか……何だよすぐには行けないのか。それなら途中まで行って、朝になるまで休めば…………」
「ぜっちゃん!」
そういうと何故かリツは俺の事を睨む。
突然そんな風に見てくるため俺は若干動揺してしまった。
「な、何だよ」
「皆の事~ちゃんと考えてる~?」
その事を指摘されて自分が一人で突っ走っていたことに気づく。
そうだったな。
俺は皆の顔を見渡す。
「ごめん、今日はゆっくり休むか」
「そうですね。急いで、体力を下手に削るより、確実に行きましょう」
「なんか、眠くなってきたのじゃ。妾はもう寝る」
「じゃっ今日はゆっくり休もう。明日の朝、速攻で出発だからな!寝坊するなよ」
「分かりました」
「任せろなのじゃ!」
「頑張ろうね~」
俺達は家の中に戻り、それぞれの部屋へと行く。
俺も部屋に戻るか。
そう思い戻ろうとすると、俺の袖を誰かが掴む。
「ぜっちゃん~今さらだけど~私も泊まって良いの~?」
「え?あ、ああ!別に構わないぞ。リツはもう仲間みたいなもんだしな。好きに過ごしてくれ。寝るとこは、ミノルの部屋で良いか?」
「良いよ~ミッちゃんの良い匂いに包まれて寝よ~」
そう言って上機嫌で階段を上がる。
やっぱり何か不思議な人だな、リツって。
「あ、そーだ~実は渡したい物があるんだよ~」
そう言うと上っていた階段を下りて、俺のところに戻ってくる。
そして、ポケットから何かを取り出し俺に渡す。
「ん?鍵?これが何で俺に渡すものなんだ?」
正直言って全く見に覚えの無い鍵だ。
「これはね~前にぜっちゃん達が借りてった~スイットの中に入ってたものだよ~多分それを吸い込んじゃって、壊れたんだとおもうよ~」
その言葉で俺はようやく思い出す。
初めてスイットを使って、それでデビがぶっ壊した時のスイットか。
そのスイットの中にこれが入ってたのか。
「なるほど、てことはこれは事故で壊してしまったって事だな」
「ちゃんと掃除してたら~こんな物吸い込まなかったんじゃないかな~」
「うっ!ぐうの音も出ないな。ていうか、一応言っとくが俺は壊してないからな!」
「でも、嘘つこうとしたんだよね~?それは良いのかな~?」
リツや笑みの中に段々と怒りが含まれてきた。
これ以上は変なことを言わないようにしよう。
「分かったよ。俺が悪かった。ごめんなさい」
「はい、よろしい~その埋め合わせは、いつか店の手伝いでしてもらうよ~」
そう言えばそんな約束もしてたな。
しっかりと覚えてたのか。
忘れてくれればありがたかったんだけど。
「それよりも~なんの鍵か分かる~?」
「うーん、正直言って、鍵が合った部屋は空いたし、他にこの鍵が使えるところは思い付かないな」
「多分、ここの鍵だと思うんだけど~思い付くまで持ってな~」
「ああ、そうだな。もしかしたら他のところで使えるかもしれないし」
俺はそう言って、鍵をポケットの中にしまう。
色んな事が終わったら、後でちゃんと調べてみるか。
「それじゃあ、お休みなさい~」
そう言って、今度こそ上の階へと上がっていった。
「よし、ゆっくり寝て、早起きするか」
と、思ったらリツが再び顔を見せる。
「何だ?まだなんか話があるのか?」
「部屋の中、いつもみたいに覗いちゃダメだよ~」
「なっ!?覗くわけないだろ!て言うかいつも覗いてないから!」
「ふふふ、おやすみなさい~」
そんな冗談を俺に言って嬉しそうに今度こそ部屋へと向かって行った。
あんなこと言うためにわざわざ戻ってきたのかよ。
「本当によくわかんねえ。あの人は」
俺もすぐに部屋に戻り、ベットの中に潜り込み、目をつぶった。
待ってろよミノル、すぐに向かいに行くから。
―――――――――――――――――
「おーい!!朝だぞー!起きろお前ら!!」
俺はいち早く起きて居間から2階で寝ているやつらを叫んで起こす。
すると最初にリドルが2階から降りてくる。
「かつさん……ずいぶんと早起きですね。いつもは1番遅かったのに」
「こんな時に悠長に寝てられるわけないだろ。おーい!!リツ!デビ!早く下りてこーーい!!………たくっ返事がないってことはまだ寝てんのかあいつら」
いくら叫んでも上のやつらからの返事はない。
デビはいつも寝起きは悪いが、リツももしかしてそうなのか?
「起こしに行きましょうか」
「そうだな。ここで待ってても起きる気配はないし」
結局起こしに行かなきゃいけないのかよ。
昨日、寝坊するなよって念押ししたのに。
「それじゃあ、僕はデビさんを起こしに行くので、かつさんはリツさんをよろしくお願いします」
「ああ、デビがわがまま言ってたら引きずってでも起こさせろよ」
「任せてください」
俺達はそれぞれ起こす人の部屋へと向かう。
さすがに中に入るのはまずいよな。
俺は部屋の扉を数回叩く。
「おい、リツ!もう出るぞ!早く起きろ!」
だが、中から返事はしない。
よほど、熟睡してるのか?
俺は先程よりも強く扉を叩く。
「おい、起きろって!!ミノルを助けに行くんだろ!!」
さらに強い口調と声量で言っても、返事はしない。
こうなったら強行突破だな。
俺は意を決して扉を開けた。
「おい、リツ!起きろ!!」
そこには、ベットでだらしなく寝ているリツの姿が合った。
「たくっ何て格好で寝てんだ。腹だして、みっともないな」
て言うか目のやり場に困る。
だが、そんなことで躊躇してたら一向に起きそうにないし、ここはさっさと終わらせよう。
「おい、リツ!起きろ!!朝だぞ!!もう、朝ですよー!!」
「ううん…………むにゃむにゃ~」
「本当に気持ちいいくらい熟睡だな。こうなったら担いで持っていく…………」
何だ?リツの目元赤くなってる?
昨日はこんな後無かったような気がするけど。
「うう………」
すると寝返りを打つように体を横に大きく動かす。
「そんなことより早く起こさなきゃな。おい、リツ!いい加減起きろ!みんな待ってるぞ」
俺はリツの体を激しく揺らす。
優しくしたところでこいつはもう起きない。
ここは心を鬼にして起こそう。
そう思って体を動かしていると枕が妙に湿っていた。
いや、濡れてるのか?
何で、濡れてんだ?
「ん?ううん………ミッちゃん?起こしに来てくれたの~?」
「おっ!起きたか?て、ミッちゃん?」
もしかして、寝ぼけてミノルと間違えてるのか?
「ミッちゃん~会いたかったよ~」
そう言って俺に抱きついてくる。
「おわっ!?いきなりなにしてんだよ!ちょ、離れろって!」
突然の事で動揺してしまい、俺は足を滑らせる。
「おわっ!?しま―――」
そして、俺は盛大にリツと共にすっ転んだ。
「いてて、おいリツ。大丈夫………」
その時、リツが俺の体を抱き締める。
俺より背が小さく小柄だが、確かに温もりを感じる。
それに良い匂いもするような気がする。
ていうか、している。
しかも、何だか柔らかい感触も………
「もう、1人じゃないからね~ミッちゃんには沢山の友達がいるんだよ~?」
寝ぼけてるのか?
それとも…………
「リツ、かつ!大丈夫か!?ものすごい音が聞こえたのじゃが…………何しておるのじゃ?」
「え?デビ!?いや、ちょっこれは!」
「なるほど、やけに遅いと思っていたら、お楽しみ中だったんですね」
「いや、違うって!これは事故で!」
「最低じゃな。お主がそんな浮気者だとは思わなかったのじゃ」
「だから、違うんだよーーー!!」
――――――――――――
俺達は準備を終えて、鞄を持ちキンメキラタウンまでコウバで行く為にコウバ乗り場に向かっていた。
「何かごめんね~私、朝弱いんだ~」
「そうだったのかよ。ていうか、それならそうって言ってくれよ」
「でも、そのお陰でかつさんは良い思いをしましたけどね」
「べ、別に!そんなこと思ってないからな!」
「これはミノルが帰ってきたら報告じゃな」
「する意味ないだろ!?て言うかやめてくれ!」
すると大きな掲示物が張られているボードの周りに人が集まっている。
「なんじゃ?何か面白いものがあるのか?」
そう言ってデビはボードの方に行ってしまった。
「おい!勝手に行くなよ!」
あいつは朝から面倒なことを起こすんだから。
俺はボードに向かっていったデビの後を追う。
「あそこは確か、臨時の求人募集を貼るところでしたよね」
「でもね~実は何かお知らせをするときにも使うんだよ~」
「お知らせですか」
デビは体が小さいので簡単に人の隙間を縫って入っていった。
俺は間には入れず外からそれを見てることしか出来なかった。
「あいつ、あっという間に人混みの中に………一体何があるんだ?」
「あの、すいません。あそこには何が張られているんですか?」
リドルは周りの人にこの騒ぎがなんなのか質問する。
すると近くの人が嬉々として答えてくれた。
「実はな、キンメキラタウンの王様が結婚するらしいよ。その結婚式場と日時のお知らせが貼られてるんだよ。あと、危険人物の詳細だな」
「え!?結婚!?もしかして―――」
「なんじゃこれはーー!!」
俺が人混みの中に入ろうとした瞬間、最前列で見知った声が響き渡る。
その声を出した犯人が人混みからひょっこり顔を出す。
「皆!これを見るのじゃ!」
そう言って、俺達に2枚の紙を手渡す。
「ん?これって!」
そこには結婚の報告の紙と危険人物が書かれている紙だった。
「『キンメキラタウンの王様、ムラキ様の結婚のご報告。相手は一般庶民のミノルという方。結婚式はキンメキラタウンの由緒正しき式場、ザワイズオルバダで行います。ご招待されてない方は式場には行けませんが、皆さんもお祝いしてくれることをお願いします』何だよこれ…………何でこんな物が!」
「こっちもかなりヤバイですよ。ここに書かれている危険人物って僕達のことみたいです」
もう1枚の紙には俺達の顔の写真が貼られていて、この者達はキンメキラタウンの出入りを禁ずると書かれていた。
「はあ!?何でだよ!」
「どうするのじゃ?妾達、指名手配になってしまったのか?」
すると、1人の男がこちらを指差す。
「まさか、あんたら……例の危険人物か?」
「え?」
「確かに似ているわね。て言うか本物じゃない!?」
「まずいです。一旦ここは離れましょう」
「あ、ああ、そうだな」
俺達は突然の事で戸惑いながらも、騒ぎになる前にその場を後にした。
そして、俺達は一度話し合うためにまた家に戻っていた。
「どう言うことだ?何でいきなりの結婚の報告なんて………」
展開が急すぎる、いつの間にかもうそこまで進んでいたなんて。
「しかも妾達、悪者扱いされてたのじゃ」
「多分~ミッちゃんの心が揺らぐ前に~先に島中に報告をして~あとに引けさせないようにしてるんだね~」
「何だよそれ!卑怯じゃないか!」
あいつ、そんな手を使ってくるなんて。
どんだけミノルを追い詰めれば気が済むんだ。
「しかも、僕達は出入り禁止にされてしまいましからね。余計な事はするなと言うことですかね」
「完全にしてやられたね~」
「相手の方が一枚上手だった見たいですね」
「誉めてる場合じゃないだろ。どうすんだよこれから。無理矢理でもキンメキラタウンに入るか?」
「やめた方が良いと思いますよ。今度こそ本気で追い出されると思いますよ」
「それに~ムラキには~十二魔道士がいるからね~一応王様だからね~」
十二魔道士は王様に使える最強の魔法使いだ。
俺は十二魔道士がどれくらいの強さなのかは知らないが最強と言われているし、多分めちゃくちゃ強いのだろう。
「正直言って、相手にはしたくないですね」
「十二魔道士は恐ろしいのじゃ」
「何だお前ら。十二魔道士と戦ったことがあるのか?」
こいつら、いつの間にかそんなすごいやつと戦っていたのか?
「戦ったって言うより、目の当たりにしたという方が正しいですね」
「まさか、ハイトがあんなに強いとは思わなかったのじゃ」
「ハイトってガルアの所に居た十二魔道士か?やっぱり強いのか」
「妾達が苦戦したモンスターを一瞬で倒したのじゃ。でも、もっとやばそうなやつも居たのじゃ」
「まじかよ。それを聞いたら尚更戦いたくないな」
そう言えば、何で最初にキンメキラタウンに言った時は十二魔道士に会わなかったんだ?
城の中にも潜入してたし、会っててもおかしくなかったのに。
「それで~これからどうするの~?」
「今から行ったとしても中には入れませんからね。しかも、1週間後に結婚式をあげてしまいますし、時間もないです」
「しかも、十二魔道士が居るから簡単にやられちゃうのじゃ。パクって美味しく頂かれちゃうのじゃ」
「デビさん、別に十二魔道士はモンスターではないですよ」
……………駄目だ、何にも思い付かないな。
このままじゃ、ミノルはあいつの物に………
「………そうだ!リツだよ!リツが持っていけば良いんだよ!俺達が駄目なら事情を知っているリツがお金を持っていけば」
「ぜっちゃん…………多文、無理だと思うな………」
「え?何でだよ?金はあるんだし、行けるだろ」
「正直言って、お金を払って即解放なんてことするでしょうか?」
「それは………するだろ!だって、それが約束なんだし!」
「多分しないと思うよ~」
するとリツが俺の言葉を遮る。
「ムラキはね~私が思うに~会った瞬間から~ミッちゃんの事が好きになったんだと思うよ~ほら、子供って純粋でしょ~好きになったら、ずっと恋しちゃうんだよ~」
「でも、金を返せば良いんだろ?それで終わるんだろ?」
「ぜっちゃん、子供はわがままなんだよ~ぜっちゃんも仕方なくお願いを聞いたりしてたでしょ~」
「ああ…………たしかに」
俺はチラリとデビに無意識に視線を移す。
「おい、なぜ今こっちを見たのじゃ」
「いや、何でも。でも、さすがにこの契約書を破るってことはしないんじゃないか?あっちから仕掛けてきてやめるなんて、だったらこっちだって契約書をなしにする権利はあるだろ?」
「子供の王様ほど厄介なものはありませんよ。大人の常識なんて意味ないんですからね」
「え?まじで言ってんの?」
もし、そうだとしたらこんなのどう考えても無理じゃないか?
自分の町の中でならなんでもありってわけかよ。
たしかに城の中の奴らは、ムラキの息がかかってるだろうし自分に都合の悪いことなんていくらでも揉み消せる。
「かつさん?どうしますか?」
「かつ……どうするのじゃ?」
「ぜっちゃん……………」
「………ごめん、ちょっと1人にさせてもらえないか。大丈夫だ。ちょっと冷静になるだけだから」
そう言って、俺は家を出た。




