その十八 デビの探索3
「………着いたのか?」
魔法陣の上に乗っていただけで本当に着いてしまうとは。
「てことはこの階にミノルが居るということじゃな!おーい!ミノルーー!何処に居るのじゃーーー!!!」
大きな声でミノルのことを呼んでみても返事はしない。
「もしかして部屋に閉じ込められて聞こえないのか?多分そう言うことじゃな。なら、部屋を見ていくしかないじゃろう」
妾は早速近くの部屋を開ける。
「ミノル?」
いや、ちがう。
そこにはミノルではなく大人の女性が居た。
「……………」
「……………」
お互い予想だにしないことで目を合わせしばらく呆然としていたが、女の人が口を開く。
「……あの」
その瞬間、妾は扉を勢いよく閉めた。
そしてその場所から走って逃げる。
「やばいのじゃ!見つかったのじゃ!でも、叫ばれてないからセーフじゃな。ギリギリセーフじゃな」
「セーフって何が?」
「っ!?」
妾が後ろを振り返ると、そこには先ほど部屋の中に居た女の人が目の前に立っていた。
「こんにちは。あなたがもしかして例の侵入者?」
「え、えっと………」
やばいのじゃ!
何か上手い言い訳を!
う~ん、ダメじゃ!何も考えられないのじゃ!
「1人でここまで来たの?」
「そ、それは………」
せめてあいつらだけでも。
ミノルの元に行ってくれ!
「妾1人だけじゃ!」
「え?そうなの?」
「な、なんじゃ!文句あるのか!」
ここは意地でも1人といい続けてやる。
するとその女の人が、膝を付けて妾の方に手を伸ばしてくる。
やられる!
そう思った時、痛いのではなく柔らかい感触が体を包む。
「ふえ?」
「偉いわね。こんな小さいのに1人でここまで来るなんて、偉い、偉い」
そう言って妾の頭を抱き締めながら撫でる。
な、何が起きているのじゃ?
何で妾が、抱き締められておるのじゃ!?
突然ことで困惑するがそれらの困惑はこの女の人の温もりによってすべて消された。
何だろうすごく暖かい。
優しい匂いに優しい声、何故だがすごい癒される。
「ここで話してたら風邪引いちゃうから、私の部屋に行こうね」
「うん、行くのじゃ!」
そんな子供のような返事をして、妾は女の人に抱き締められながら先ほどの部屋へと向かった。
「うおー!めちゃくちゃ広いのじゃ!」
その広さは妾がヤッホーっと言ったらヤッホーと帰ってくるほどの広さじゃ。
「ここは私の部屋だから、そうそう人も来ないわ。ここでならゆっくりとお喋りできるわね」
そう言って女の人はベットに座り、その横をトントンと叩く。
妾はすぐに横に座った。
ベットからは女の人の良い匂いが染み付いていた。
「それじゃあお話をする前に、まずは自己紹介をしましょう。私はこの城の王様でもあるムラキちゃんのお母さんのピューよ」
「ピュー?なんか変な名前じゃな。妾はデビじゃ!」
「デビちゃんか。かわいい名前ね」
そう言って優しく微笑む。
「可愛いじゃなくて、かっこいいじゃ!」
「ふふふ、でも私は可愛いも良いと思うわよ」
「別に可愛くなりたい訳じゃないのじゃ!」
すると、妾の頭を優しく撫でる。
「なんか、デビちゃんて子猫みたいでかわいいわね」
「だから、可愛いじゃなくてかっこいいじゃ!」
すると妾のことを持ち上げてピューの膝におかれる。
「私ね。本当は女の子が欲しかったんだ。色んな可愛い服とか生まれる前に作ってたんだけど、いざ生まれたら男の子でね。それでもすごく嬉しかったんだけど、せっかく作ったのに勿体無いって思って小さい頃着せてたんだ。これ、私たちだけの秘密ね?」
そう言って口に人差し指を付けて、いたずらっぽく笑う。
「やっぱり、ミノルに似ているのじゃ」
「ヘ?ミノル?ミノルってもしかしてミノルちゃんのこと?」
「ミノルを知っておるのか!?」
妾はピューの顔を見るため上を向く。
「だってミノルちゃんはムラキちゃんの婚約者でしょ?ミノルちゃんはいい子よ。私の事を気遣ってくれるし、この城の皆と分け隔てなく接して、本当に居るのね、あんな良い子」
「そうじゃろ、そうじゃろ。ミノルは良いやつなのじゃ!」
そう言って、妾は自慢げに頷く。
「でも、時々思い詰めた顔をするのよね。もちろん、皆と居ない時よ。ああ言う良い子は、1人で抱え込んじゃうことが多いから、心配なのよね」
そう言って、少し心配そうな顔を見せる。
「ミノルは何にも言ってくれなかったのじゃ。何も教えてくれなかったのじゃ。そして、突然いなくなって、突然結婚することにもなって、妾は訳が分からないのじゃ!何で、何で何にもいってくれないのじゃ!妾はミノルの友達では無かったのか」
するとピューが妾を包み込むように優しく抱き締める。
「そんなことないわよ。あなたが大切だからあなたが大事だから言わなかったのよ。巻き込みたくなかったんじゃないかしら。ミノルちゃんはそういう子だと私は思うな」
妾はピューの腕を握る。
「ミノルに会いたいのじゃ…………」
「デビちゃん………」
その時、この部屋の扉が勢いよく開いた。
そして、そこに居たのは妾よりも少し背が大きい、子供が居た。
「ムラキちゃん!」
「ムラキじゃと!?と言うことはあいつが妾達が見た男?」
何か、あの時よりも小さいような。
でも、顔はあの時見たあいつじゃな。
てことは本当にムラキなのか?
「ママ!何してるんだ!そいつは侵入者だぞ!何で部屋の中に入れてしかも、何で膝の上に置いてんだよ!ずるいぞ!」
こいつは何を言っておるのじゃ?
て言うかその前に、これは好都合じゃ!
あやつなら絶対に知っておるじゃろう!
「おい、ムラキ!ミノルが居る場所を教えるのじゃ!」
「その前にママの膝から降りろ!」
何を怒っているか分からんがとりあえず降りるか。
妾はピューの膝から降りてムラキの元へと行く。
「さあ、早く教えるじゃ!知っておるのじゃろう!」
妾は問い詰めるが、ムラキは涼しい顔をする。
「教えるわけないだろ。侵入者なら尚更だ」
「なんじゃと!つべこべ言わずに早く教えるのじゃ!チビ!」
「お前!言ってはいけないことを言ったな!俺はチビじゃない!」
「どう考えても、チビじゃろ」
すると顔を真っ赤にして歯軋りをしだす。
「はっ!そんなこと言うが、お前の方がチビじゃないか!」
「なんじゃと!妾はチビではない!」
「なら、背比べしようぜ!それで決着をつけるぞ!」
「良いじゃろう!負けても後悔するなよ!」
そう言って、妾たちは早速背をくっつける。
「ママ!どっちの方が背が高い!」
「う~んと、ずるしてる悪い子が居るから分からないな~」
やば、背伸びしてるのばれたのじゃ。
「何ずるしてんだよ!負けを認めたのか!」
「認めてるわけないじゃろ!これは癖じゃ!背をつけると足が延びてしまうのじゃ!」
「う~ん首を無理矢理あげてる子が居るから分からないな~」
「やば、ばれたか」
「おい、お主!何ずるしておるのじゃ!負けたくないからって見苦しいぞ!」
「何だと、じゃあ正々堂々と行くんだな!」
「当たり前じゃ!」
そう言って妾は正しい姿勢で勝負する。
「う~ん2人共、大分無理してるわね。まあいっか」
そう言って、妾達の頭に掌を置いて測る。
「う~んムラキちゃんの方が高いかな」
「はっはー!ざまあみろ!これで分かっただろ!」
そう言って得意気に妾の方を指差す。
だが、妾は取り乱さず冷静に言い返す。
「お主はその耳も含まれているが、妾はフードの中に耳がしまってあるから、結果的に妾の方が高いのじゃ」
「はっ!?おま、何言って……だったらそのフードを外してもう1回だ!」
「駄目じゃ!お主が負けてしまうじゃろ。妾は大人じゃからこういう気配りが出来るのじゃ」
ふふっ悔しそうにしておる。
ざまぁみろじゃ!
「女の癖に生意気だぞ!」
そう言って妾の方に飛び込んでくる。
「なんじゃ!喧嘩なら買うぞ!」
そう言って殴ろうとした時、妾の拳が空を切る。
「はい、そこまで。喧嘩は終わり」
そう言ってピューは妾2人を持ち上げる。
「2人共、こんなことしてないで、仲良くしなさい。分かった?」
「妾は悪くないのじゃ。あいつから」
「ママ、違うよ。あいつが僕をバカにして」
「2人共、分かった?」
有無を言わさぬその声に、妾はただただはいと言うことしか出来なかった。
「分かったのじゃ」
「分かりました」
「はい、これで仲直り」
そして、強制的に握手をさせられる。
だが、お互い納得は言っていない顔をしていた。
「それで、ムラキちゃん。何しにここに来たの?」
「そ、そうだ!ママ!こいつは侵入者だ!だから捕まえに来たんだよ!」
そう言って妾の事を睨み付ける。
妾はそのまま睨み返す。
「ムラキちゃん、この子を捕まえるのは待ってもらえない?」
「なっ!?どうしたんだよママ!もしかして、こいつに脅されたのか?おい、お前いい加減に――――」
「違うの。これは私が自分でお願いしてるの。この子、ミノルちゃんに会いたがってる。ミノルちゃんの所に連れていってあげて」
「で、でも……………」
「連れていってあげたら、ムラキちゃんの好きな耳掻きしてあげる!」
「よし、チビ!俺に付いてこい!」
何て、単純なやつなんじゃ!
するとピューが妾の方に顔を近づける。
「デビちゃん、ミノルちゃんを元気にしてあげて。私が何言っても本当の笑顔は見れないから」
「絶対にミノルとミノルの笑顔を取り戻すのじゃ!」
「おーい!早く来い!置いてくぞ!」
「分かっておるのじゃ!」
妾はすぐに走り出したが、伝え忘れていたことを思いだし立ち止まる。
「また、来てもよいか?」
「……………いつでも、待ってるわ」
その言葉を聞いて妾はムラキの元へと向かった。
「ママとなんの話をしてたんだ?」
「何でもよいじゃろう」
「お前を今から、ミノルの元に連れていく。どうせ会ったところでなにも変わらないけどな」
「そんなことはない、妾が絶対ミノルを取り返すのじゃ!」
そう再び誓い、ミノルの元へと向かうのだった。




