その十二 デビの探索
「よし、頑張ってミノルを見つけて、それで皆でまたご飯を食べるのじゃ!その為にも早くミノルを見つけるのじゃ」
妾は早速ミノルを助ける為に周りを見渡す。
「廊下と扉ばっかでよく分からんのう。絵とか飾っておるがなんか高そうな気がするのじゃ。持って帰ったらもしかしたら高値で売れて大金持ちに………1つ位大丈夫じゃよな」
バレはしないと考え数ある絵の中から良さそうな物を選びそっと絵を掴む。
「ふぅ……緊張するな。今日からこの城のコックをやるんだ。俺の腕を買ってくれたアズマさんのためにも頑張るぞ!!」
「後もう少し………何じゃ?引っかかっておるのか。うう、位置が高くて中々取れないのじゃ」
「ん?何か声が聞こえる。誰か居るのか?」
「そうじゃ!ジャンプして取ればいいのじゃ。そりゃ!」
「え?ええええ!?ちょ、君何やっ………」
妾は思いっきりジャンプした時誰かの声が一瞬聞こえたと同時に絵を外すことに成功する。
そしてそのまま落ちる時何かにぶつかった衝撃と共にお尻から着地した。
「うぐっ!?」
「しまった、高く飛びすぎたのじゃ。でも……痛くないのじゃ。あれ?何か下に誰かいるのじゃ」
妾の下には何故か知らない男が気絶していた。
「何かよく分からんが、これで絵画を……あ!破れてしまっているのじゃ……はあ、まあ良いか。それよりもミノルを助けるのが先じゃ!待ってろミノル!!」
破れた絵画をその辺に置いていき、妾は早速ミノルを見つける為に廊下を走り回った。
かつに言われた通り、人に見つからないように慎重に廊下を探し回った。
だけど……
「全然見つからないのじゃ………」
この数分は廊下をただ走り回るだけだった。
「これはまずいのじゃ。このままじゃ、マラキとかいう奴に取られてしまうのじゃ。もしかしたらもうこの城には居ないのか!?いや、そんなはずは無いのじゃ。ミノルは妾の事を待ってくれているはずじゃ。でも……どこに居るのじゃ?」
妾がミノルを見つけられずうなだれていると何処からか美味しそうな匂いがして来た。
「何じゃ、この匂いは食べ物の匂い……!まあ、少しばかり貰っても大丈夫じゃろう。この廊下を走り回ったせいで腹も減ったし。それにかつが言ってたのじゃ。腹が減っては戦は出来ぬ。つまり食べろって事じゃろうな」
妾は匂いに導かれるままにある扉の中に入った。
だか、料理の他に見知った顔の奴が居た。
「あれ?デビさん?」
「リドル!?なんでこんな所で、美味そうな料理を作っておるのじゃ!」
「ん?何だこの娘は?お前の知り合いか」
リドルの他にも何かよく分からない長い白い帽子を着て、エプロンを着けている何か知らない人もいた。
何でリドルがこんな奴と一緒にいるのじゃ?
「ええ、そうなんですよ。実は僕の―――」
「まさかお主、裏切るのか!?」
「え?ちょっデビ?」
「そういう事じゃったのか。お主はミノルを助けられないと知り、それで捕まるくらいならとこの城の料理人になる道を選んだのじゃな!」
まさか、リドルがそんな奴だとは思はなかったのじゃ。
「まて、お前ら知り合いじゃないのか」
「お主が裏切ると言うのなら妾も裏切ってやる。おいそこのあごひげ!」
「あごひげって俺の事か?」
「リドルはなぜったい――――――」
その瞬間、妾の口はリドルの手によって覆い隠される。
「うううん!うう!」
「デビ、ちょっと落ち着きましょうね」
「おい、そいつお前の仲間なのか?」
「はい、そうです。この人は僕の弟子なんですよね」
何を言っておるのじゃ!?
まさか妾もこっち側に行かそうとしておるのか!?
「デビさん。黙って聞いててください」
そう言って妾の耳元で囁く。
なんじゃ?
「僕は今、あの人にここに新しく来た料理人と思われています。誰かを呼ばれるのも面倒くさいので、あの人の話に乗っています」
だから、リドルは料理をしていたのじゃな。
裏切った訳じゃなかったのか。
「デビさんは僕の弟子という設定でお願いします。行けますね」
もちろんじゃ!っと思いつつ妾は頷いた。
「おい、お前ら何こそこそ話してんだ。まさか、お前ら………」
「ああ、すいません。今このデビに仕事を教えてたんです。そうですよね」
「そ、そうじゃ。よろしくなのじゃあごひげ」
「いや、俺はあごひげじゃなくてアズマだ。それにしてもお前に弟子が居るなんて聞いてないぞ。しかも、デビだったな、お前は何で遅れてきたんだ?」
「あ、えっと……」
やばいのじゃ。
なにかうまい言い訳を………
「方向音痴なんですよ。だから途中で逸れてしまって、でも、鼻がよく効くので料理の匂いでここまで来れたんですよ」
「そ、そうじゃ!」
あれ?妾、リドルにここまで来た経緯話したっけ?
「そうか。方向音痴は師匠譲りってか?がっはっは!」
何でこいつ、こんな爆笑しているのじゃ?
「まあいい。で、料理の腕は確かなんだろうな」
「りょ、料理か?えっと………」
やばいのじゃ……妾は作るじゃなくて食べる方しか出来ないのじゃ。
このままじゃバレてしまうのじゃ。
「デビは作るのでは無く、味見担当何ですよ。繊細な舌を持ってるので細かく感想を言ってくれますよ。僕が保証します」
「そうなのじゃ!味見は任せるのじゃ!」
「そうか!なら、俺の料理を味見してくれ。半熟卵のハンバーグだ」
そう言って、あごひげが作った料理を妾の前に出す。
「おお!美味そうなのじゃ!それじゃあ早速いただきますなのじゃ!」
妾は早速ハンバーグをかぶりつく。
「うん、美味いのじゃ!半熟の目玉焼きも上手く絡まって更に美味しいのじゃ!ジュージュー焼けた鉄板がいい味出してる。でも……」
「でも?」
「ちょっとボリュームが足りないのじゃ。せっかくハンバーグがメインなんだからもっと強調したほうがいいのじゃ。この目玉焼きも半熟じゃが、何か半熟なのに半熟じゃない微妙なところじゃな。多分早く終わらせちゃったのが原因じゃな。それをやればもっと美味しくなるのじゃ。後トッピングも入れた方が良いと思うのじゃ。例えばコーンとか。後ソースも変えた方が良いと思うのじゃ。それと――――」
「ああ、分かった分かった!お前の舌が優秀なのは分かったから、もういい!」
そう言って強引に妾から料理を奪い取った。
まだ食べている途中じゃったのに。
「何か、怒ってないか?」
「言い過ぎですよ。まあ、能力は認められたんで良かったですけどね」
「それで、これからどうするのじゃ?」
「隙を見て逃げます。それまではまだ弟子のふりをしてください」
「了解したのじゃ」
妾はガッツポーズをすると奥から先程の男の声が聞こえてくる。
「おい、リドル!早く来い!お前にはムラキ様の飯を作って貰うんだからよ」
「はい、分かりました!それじゃあ、よろしくお願いしますよ」
そう言ってリドルはあごひげの所に行ってしまった。
なるほど、妾はここで料理を食べて意見を言うだけで良いということじゃな。
何という簡単な仕事じゃ。
これなら妾いつまでも出来る気がするぞ。
「よし、どんどん持ってくるのじゃ!」
「はい、デビ」
すると妾の目の前に料理が置かれる。
「うお〜!!美味そうなのじゃ!それじゃあ、早速。いただきまー………」
「きゃああああ!!」
その時何処からともなく誰かの叫び声が聞こえた。
「何じゃ!?今の声は!?もぐもぐ」
「お前らはここで待ってろ!俺が見に行ってくるから」
そう言って、あごひげは慌てて部屋を出て行った。
「行ってしまったのじゃ」
「それじゃあさっさと行きましょうか。デビさんも逃げる準備をして下さい」
「わ、分かったのじゃ。あれ?お主、さっきまで妾の事をデビと言っておったよな」
そう、妾の事を呼び捨てにしておったのに何故か今はいつもの呼び方に戻っておる。
「ただ単に弟子に対してさん付けは、違和感があると思っただけです。それくらいですよ」
「普通にデビと呼んでもいいのじゃぞ?」
「僕はこっちの呼び方の方が性に合ってるので。無駄話はこの辺で、長居してると帰ってきちゃうので。それじゃあ、お互い頑張りましょう」
そう言ってリドルが部屋から出ようとする。
「ちょ、ちょっと待つのじゃ!何でお主だけ、そんな服を着ているのじゃ」
リドルが着ているのは明らかに妾たちが元々着ていた服とは違い、この城の奴らが来ていたような服じゃ。
「アズマさんに貰ったんです。デビさんの分は多分無いですね」
「ずるいのじゃ!妾も欲しいのじゃ!」
「欲しいんでしたら、見回りの人を捕まえて服を剥ぎ取ればいいんですよ。それじゃあもう行きますよ」
「ちょ、待て―――――」
妾の静止も聞かず、リドルは行ってしまった。
「………剥ぎ取り開始じゃ」
妾はすぐに扉を出て一目散にあそこに向かったのじゃ。
そう、あそことは妾はがあの時なんか知らんうちに踏み潰してしまった、あの男の所じゃ。
そして、曲がり角を曲がった所にその男は居た。
「なっ!?剥ぎ取られておる。しかも何であごひげも倒れているのじゃ?」
あごひげは剥ぎ取られた男の近くで倒れておるし、あの男は何故か剥ぎ取られておるし、意味が分からないのじゃ。
「とりあえず、これで妾が服を取ることが出来ないのじゃ。他に人は……」
「誰だ!」
その時後ろから声をかけられる。
しまった、油断したのじゃ!
「そこに居るのはまさか……まさかお前がやったのか!?こんな子供が……おい、抵抗するなよ。そこでじっとしていろ」
そう言ってジリジリと妾の方に近付いてくる。
相手は1人か、なら妾でも倒せるな。
あいつを倒して服を奪えば、ミノルの所に行けるかもしれないのじゃ。
「ふっ!掛かったな!妾がじっとしているわけ無いじゃろ!」
妾は隙を見て見回りの男に飛びかかろうとする。
だがその瞬間、後ろから大量の人影が見えた。
「おい、どうした!?何があった!」
「さっきの侵入者が居たのか!?」
「おい、見ろ!子供だ!さっきの奴とは違うが仲間かもしれない」
これは……まずいのじゃ。
「「「「捕まえろー!!!!」」」」
「ギャアアア!!」
妾はその瞬間全力で逃げた。
やばいのじゃ!まさかこんな所であんな大人数に見つかるとは思わなかったのじゃ。
このままじゃ、ミノルに会えずに捕まって、拷問されて、美味しい料理を食べられずに、皆とも会えずに、惨めに死んでいくのじゃ………
そんなのやじゃ!
絶対に逃げ切ってみせるのじゃ!
妾がそう固く心に誓った瞬間、絶望がそこで待っていた。
「なっ!?行き止まり?行き止まりなのじゃ!?」
あいつらはもうそこまで来ているのじゃ。
このままじゃ、捕まってしまうのじゃ。
「ど、どっかに秘密の抜け道とか無いのか!?」
妾は必死に壁などを叩いたが、妾の思いも虚しくそこには本当にただの壁しか無かった。
「おい、あっちから声がしたぞ」
「確かあっちは行き止まりだよな」
「袋のネズミというところだな」
まずいのじゃ。
もうすぐそこまで来ておるのじゃ。
妾が恐怖のあまり、壁に背をつけながらゆっくりと腰を落としていく。
その時、妾の指が何かを凹ませた。
「ん?何じゃ?凹んだ?」
よく見ると、ここだけ何か切れ目が見えるのう。
押して見るか。
そう思い、妾は恐る恐る壁の凹んでる部分を押す。
その瞬間、妾の真下がきれいに無くなった。
「へ?ぎゃああああ!!!」
妾の悲痛な叫びと共に、妾は暗闇の中へと消えて行った。




