その十 不法入国ですよお客さん
「はあ〜!満腹、満腹、満足じゃ!」
「良かったな。幸せそうで」
「何でお主はそんなボロボロなのじゃ?」
「俺が聞きたいよ。何で俺こんな目に合わなきゃいけないんだ」
俺達は用事を終えてコウバの所に向かっていた。
にしてもあいつはいつまで経ってもあいつだった。
やっぱり大嫌いだ。
「よし、とりあえずここでの目的は終わったし、早くキンメキラタウンに行こう。リドルは居るか?」
「まだ来てないみたいじゃな」
すると、前から見慣れた人影が見える。
「あっかつさん!ちょうど良かったです。もう用事は終えたんですか」
「ああ、てことはお前も用事を終わらせたみたいだな」
「はい。かつさんは………激し目の用事があったみたいで」
「あ〜聞かないでくれ。思い出すだけで頭が痛くなる」
するとリドルは何やら察してくれた様でこれ以上追求してこなかった。
「それでは早速行きましょうか。キンメキラタウンまでの道のりは頭の中にあるので大丈夫です」
そう言ってリドルは得意げに頭を指差す。
「そういえばお前はミノルを追ってキンメキラタウンに行ったんだっけ」
「はい、ここからならこのコウバで3時間位ですかね」
「よし、それじゃあさっさと向かって、ミノルを助け出そう」
「「おー!」」
俺達はすぐさま乗り込みキンメキラタウンに向かうのだった。
――――――――――――――――――
「ええっと……君達もしかしてキンメキラタウンに入りたいのかな?」
コウバでずっと進むと目の前には巨大な壁が立ちふさがっていた。
そしてその壁はキンメキラタウンをすっぽりと囲んでいた。
流石、金持ちが住んでいる街だな。
そして、その壁の唯一通り抜けられる門の前に何やら警備員が立ち塞がっていた。
「見たら分かるじゃろ!妾は友達を取り返しに来たのじゃ!」
「友達を取り返す?まあ理由は知らないが、ここを通りたければ許可証を提示してもらいます」
そう言って警備員はこちらに手を伸ばす。
「えっと、許可証ってのは何ですか?」
俺が警備員に聞くと警備員は驚いた様子でこちらを見る。
「もしかしてお持ちでない?」
「お持ちじゃないですね。完璧に」
すると警備員が1つため息をつきこちらに紙を見せてくる。
「キンメキラタウン法律第12条、外部からキンメキラタウンに入る時許可証を提示するべし。出来無ければ入国する事を禁ずると。ここに書かれています。法に従い君達をここに入れるわけには行かない」
そう言ってその法律が書かれている所を指でなぞる。
「これ本物なのか?偽物とかじゃないのか?」
「疑っても構わないがどっちにしろ君達はここに入れない。郷に入れば郷に従え、大人の世界は屁理屈は通用しないぞ。ほら、さっさと帰れ」
すると警備員はこちらを追い返すようにしてしっしっと手をやる。
「ちょっと待ってください。おい、お前ら一旦集合だ」
俺はリドルを荷台の方に呼び寄せ、皆で一旦作戦会議をする事にした。
「何なのじゃ。あの男、ものすごくむかつくのじゃ」
「それは俺も同感だ。だけどリドル、お前1度ここに入ったんじゃないのか?」
「はい、ですが正規ルートではなく、いわゆる裏ルートで入ったので」
「なるほどな、そういうことか……それじゃあその裏ルートで行くか?」
「そうなると、コウバを置いていくことになりますが」
「なるほど、コウバを取るかミノルを取るかってことか」
いや、どう考えてもミノル何だか、一応おじさんには返してくれと言われているし。
すると痺れを切らしたのか警備員が荷台の中を覗く。
「君達話し合いは済んだか。なら早く帰りなさい。ていうかさっきコウバに乗っていた君、ずいぶん若そうだが資格は持ってるのか?資格が無いのにコウバを操っているなら罰金だぞ。ん?待てよ、そもそも君達みたいな若者がこんな所に来ること自体変だな。もしかして、運び屋か?最近は若者がやってるケースが多いからなちょっと中を改めてもいいかな」
何か色々くっちゃべった結果、中を調べられる流れになってるんだが。
「ちょっと待てよ、何の勘違いをしてるか知らないが俺達は一般市民で運び屋じゃない」
「そう思うなら、中を見せなさい。無実だと証明したければな」
そう言って中を見ようとしてくる警備員をデビが威嚇する。
「何を言っておる!お主に見せるわけ無いじゃろ!」
「何故見せない。やっぱり貴様ら運び屋か」
「そんなもん知らないのじゃ!」
「じゃあなぜ見せない」
「お主が何かむかつくからじゃ!だから見せたくないのじゃ」
そう言って謎理論を警備員にぶつける。
デビ、それは流石に無理だろ。
「これだから子供は……いいから早く見せ―――」
「ヒヒーン!」
その瞬間、コウバがうざそうに暴れる。
「うおっ!な、何だこのコウバ。急に暴れだして、こら!静かにしてろ!」
警備員は苛立ちを口にしながら、コウバをぶっ叩く。
「おい、あんた何すんだ!」
「何って教育に決まってんだろ!」
「教育じゃと!?妾のサンダーホースに何をするのじゃ!」
「え、ちょっと待て。サンダーホースってもしかして、このコウバの名前か?どんな名前つけてんだよお前」
「バフっ!!」
するとまたコウバが暴れだす。
叩かれて喜ぶはずのドMだか、やはり男に叩かれることは嫌なのだろう。
「こいつまた……静かにしろ!」
そう言ってもう1度叩く瞬間、警備員の腕をリドルが掴む。
「なっ!?」
「それくらいにしてください。このコウバを傷つけるのは僕が許しません」
リドルは腕を掴みながら警備員を睨みつける。
「リドルお主、目が開けたのか」
「デビさんは僕の事を何だと思ってるんですか?」
「まあお前糸目だしな。しょうがないだろ」
その瞬間、警備員はリドルから手を振り払うと一歩後ろに下がる。
「たくっ!とりあえずお前らの入国は認められない!早く帰りなさい!」
ガブっ!
その瞬間、コウバが警備員の頭を噛んだ。
「ううん!うう、うううん!!」
警備員は、突然の事で困惑し暴れている。
うわー何か嫌だな。
「いいぞ、よくやったサンダーホース!どうじゃ!思い知ったか!」
デビが笑い声を上げるなか、自力でコウバの口から脱出した警備員が怒りを露にしてコウバを睨み付ける。
「くはっ!はあ、はあ、はあ……このコウバめ……良くもやりやが―――」
「ヒン!」
「はえ?―――」
その瞬間、コウバが後ろ足で警備員を蹴り飛ばす。
そして、警備員はそのまま動かなくなってしまった。
「あ、えっと………どうしよ」
やばい、やりやがったこのコウバ。
これ、どうすんだ?これ、俺達のせいなのか。
「良くやったのじゃ!サンダーホース!お礼に力いっぱい叩いてやるのじゃ」
「ヒヒィーン!!」
「何だお前らそんな楽観的なんだよ!これ確実にやばいだろ!完全に犯罪じゃないか!」
「よし、とりあえず邪魔な奴は倒したし、入るとするかのう」
そう言ってデビは入る気満々になっている。
「ちょっと待て。ここで入ったら完全に犯罪者だ。不法入国だぞ!」
するとリドルが俺の肩を叩く。
「かつさん、犯罪はバレなきゃ犯罪じゃないんですよ」
「リドル、俺はお前の事を常識のある奴だと思ってたぞ」
「こんなことしてる時点で、常識も何も無いですよ」
そう言ってリドルはコウバに乗り込んで早速コウバを動かす。
これは止めてもムダな奴だ。
「ああ、何か凄い面倒くさいことになってる気がする」
「よし!ミノルを助けに行くのじゃ!」
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「ムラキ様。例の奴らがこの街に来ました」
「ふふ、そうか……意外と早かったな。俺様の城に早く来てみろよ。絶対かつ」
城の中で不適な笑みを浮かべている物が居た。
その一方絶対かつ達はキンメキラタウンを堪能していた。
「うおぉぉ!!すげえ!どれもこれも高級なものばかりじゃねえか!」
「このローブどれもこれも、最高級品ですね。これなら身体能力の強化に飽き足らず魔力補助と魔力増幅も出来ますね」
「キラキラなのじゃ!宝石だらけなのじゃ!」
だが、お礼達は見るだけで結して買おうとはしなかった。
なぜならどれも何10万もする程の高級品しかないからだ。
「いやぁ……驚いたわ。やっぱ金持ちの街は違うな。でも……」
「高級料理店も沢山あるのじゃ。でも……」
「これだけの服が揃えば戦力はだいぶ上がりますね。でも………」
「「「金が無い(のじゃ)(ですね)」」」
金持ちの世界を体験し、自分達がどれだけ庶民なのか改めて知らしめられた。
「とりあえずここでは宿すら泊まれないぞ。何せどこも最低1万ガルアでとてもじゃ無いが今の資金じゃ泊まれそうにない」
「とりあえずコウバを何処かに停めて、城に急ぎましょうか」
「停めるたってどこに停めるんだ?」
そう、ここは多分俺が見た中で1番都市化が進んでる街だ。
緑も少なく、ほとんど道が整備されている。
コウバも何か白い白馬みたいでカッコイイ。
ていうか何か居づらい。
「今更気づいたけど、俺達だいぶ目立ってないか?」
「皆さんと服装が違いますからね。しかもコウバを連れていますし余計目立ってしまうのでしょう」
やはり、コウバは何処かしらに置いていったほうがよかったか?
いやでも、あんなことがあった手前置いていけるか。
「お主、何でそんなに妾を見るのじゃ?道案内して欲しいのか?」
「え?な、何ですの。この子供は」
するとデビがいつの間にか知らない金持ちそうな人にちょっかい出していた。
「デビ!ばか、お前何やってんだよ!」
俺はすぐにデビを担いでその場を離れる。
「勝手に行動すんな!今でも目立ってるのにこれ以上目立つ行動は控えろ。分かったか」
「目立っておるのか?だからあやつら妾の事を見ていたのか。何か照れるのう」
そう言って恥ずかしそうに頭を掻く。
「いや、もうちょっと、危機感を持てよ。何せ俺らは」
「居たぞ!不法入国者だ!」
「そうそう、それそれ。俺達は不法……ちょっと待て、今誰が行った」
すると奥から数人の警察がこちらに向かってきた。
「なっ!?まさか警察か!?」
「もしかして、妾達の事を捕まえに来たのか?」
「来たのか、では無く来たんですよ。かつさん、デビさん早く乗ってください!」
俺達はコウバにすぐに乗り込みその場を後にした。
「待てーー!くそ、逃がすか」
その瞬間、上空に炎が吹き上がる。
「何だ今の!?魔法か!」
「何で空に打ち上げたのじゃ。もしかして素人か?」
「そうなら、ありがたいんですけどね」
何だ、何か騒がしいような。
ん?目の前に何か来てる?
「かつ、前!前からなにか大きな奴が来てるのじゃ!」
「グオオォン!!」
「な、何だあれ!?」
「あれは巨大なツノと体が特徴のジャイアントホーンです!」
目の前から巨大な体で突進してくるモンスターはサイの様な鋭いツノを前に突き出し、こちらを串刺しにしようとして来る。
「おい、逃げろリドル!」
「分かってます!」
リドルはコウバを巧みに操るとすぐに急カーブして別の道を走る。
「よし、あの体だ。すぐには追ってこれないだろ」
「もしかして、さっきの魔法は合図じゃったのか」
「そのようですね。まずい状況ですよ。追っては来ると思ってましたが、まさかこんなにも早く来るなんて」
「とりあえず、追っ手を振り払いながらそのムラキってやつの城を目指そう」
すると空から何かが降ってくる。
「うおっ!?」
その瞬間、リドルはすぐにコウバを止めさせる。
その衝撃で俺達は荷台にスッ転んでしまった。
「いてて、どうしたリドル?急ブレーキかけて……何だあいつ」
すると目の前にはカンガルーみたいなモンスターの上に人が乗っていて俺達の前に立ち塞がっていた。
まあ日本のカンガルーと違って体が青く耳が結んでいる。
「残念だがここから先は行かせないぞ」
「何なのじゃ、あいつ!?」
「あれはジャンピングラビットです。筋肉の発達が凄く体の色んな部位が武器なのが特徴です。ですがその中で最大の特徴は………20メートルも飛ぶ脚力です!」
その瞬間、ジャンピングラビットが空高く飛ぶ。
「高っ!?」
その脚力は凄まじく反動で地面に強烈なヒビが入る程だ。
そしてジャンピングラビットはそのまま急降下して、俺達の方に突っ込んでくる。
「ぎゃぁぁぁ!!こっちにきたのじゃぁぁ!!」
「くっ!ハイソウルウィンド!」
その瞬間、空中に魔法陣が展開され巨大な風がジャンピングラビットを襲う。
リドルの魔法によってジャンピングラビットは吹っ飛ばされる。
「くっ!おい、もう1度だ!」
するとまた、ジャンピングラビットが驚異の跳躍力で空中から仕掛けてくる。
「リドル!」
「わかってます!」
ジャンピングラビットが落ちて来る前に俺達はコウバを走らせ急いでそこを離れた。
「おらっ!」
「うわっ!?」
その瞬間、ジャンピングラビットの強烈な落下攻撃によって、地面が崩壊する。
「うわぁぁぁ!?死ぬって!これまじで死ぬって!」
ジャンピングラビットの攻撃から何とか逃れて、俺達はコウバを叩いて急いで城に向かう。
「リドル!これちゃんと城に向かってるのか?」
「大丈夫です!ちゃんと向かってますよ。ただ、これ以上の走行は危険です。コウバだと目立ってしまうのですぐに見つかってしまいます」
「確かにそうだな。しょうがない。皆、ここからは歩いて行こう」
「そんな、妾やっとサンダーホースと分かり合えたのにか?」
「しょうがない。大丈夫だ、後でちゃんと迎えに行く。それまで待っててくれ」
「ヒヒン」
言葉を理解したのかコウバが返事をするように鳴く。
「この足跡は……こっちだ!」
「やばい、近いな。よし、早く行こう」
「サンダーホース、強く生きるのじゃぞ」
「デビさん、大丈夫です。またすぐに会えますよ」
こうして俺達はコウバを降りて徒歩で城まで向かう事にした。




