その八 一時の休息
「さあさあ、どうぞ!こちらが我が村自慢のドラゴンの肉です!採れたてですよ!」
そう言って巨大なドラゴンの肉をテーブルに並べる。
確かに美味そうだ。
普通の肉よりも脂が乗っていて、柔らかそうで、普通に食べたい。
だけど……
「これ、デカ過ぎないか?」
そのデカさは平均的な大きさの丸型テーブルを埋め尽くすほどだ。
正直言って、これを1日で食べきれる自身は無い。
ていうかこれを食べ切れるやつなんて居ないんじゃ……
「よし、早速食べるのじゃ!いただきます!」
あっここに居た。
「おい、デビ。俺達の分も少し残しとけよ」
「分かっておる。それじゃあここの部分を上げるのじゃ」
そう言って骨が見えた所を譲る。
「いや、ここ身無いだろ。普通の所もらうぞ」
俺は肉を少し切ってそれを口に運ぶ。
「うん!これは………微妙だな」
「そうですね。確かドラゴンの肉は色々な下処理をしてようやく美味しくなると聞いたことがあります。とれたてと言ってたので味もそこまで毒も抜けきってないから、味が落ちているのでしょう」
「え?これ毒抜けてないのか」
俺はその瞬間持っていた肉を退かし食った事を後悔する。
「大丈夫ですよ。本当に少量なんで害は無いですから」
「本当か?何か胡散臭いんだけど」
でも今の所変化は無さそうだし、大丈夫か。
「そういえば村長、あの怪盗はほっといても別にいいのか?」
「はい、大したこと無さそうですし、それに何も盗まれてないですからね。それに私達はドラゴンのエキスパートでもあるんですよ。怪盗何てどうってこと無いですよ。ガハハハ!」
「いや、あの怪盗にヌマクを盗まれていましたよ」
リドルの何気ない一言で高笑いしていた村長の声がピタリと止まる。
「え?ヌマクを?」
「ああ、そういえば盗まれちゃってたな」
すると村長の顔が次第に曇っていく。
「ちょ、え?本当なんですか?え?それってすごくヤバイのですが!ちょっと!何で逃がしちゃったんですか!?」
「いや、俺に言われても。て言うか村長も無視して良いって言ってたじゃん」
「それは知らなかったからですよ!盗まれてるのを知ってたらそんなこと言ってませんでした!そうだすぐに取り返しに―――」
「うっ!?」
その瞬間、デビが泡を吹いて椅子から崩れ落ちる。
「デビーー!!おい、大丈夫か!?毒は入ってないて言ってたよな!」
「え?あれ、おかしいですね。ちゃんと抜いたはずなんですが。おい、すぐに調べなさい!」
村長の呼び出しと共に白衣を着た人が慌てて出てくる。
医者らしき人が来て、デビの体を診察する。
「それで、結果は何ですか?」
一通り調べ終えたのか医者は顔を上げて安心させるために笑みを見せる。
「体の中に毒が溜まってしまってますね。まだ完全に処理しきれてなかったせいで、体の中に少しずつ毒が溜まってしまったせいですね。回復のポーションを飲めば治りますねよ」
そう言って医療バックらしきものから回復のポーションを取り出す。
ていうか回復のポーションしか入ってないんだけど。
「ん?あれ……妾は何をしていたのじゃ?」
「デビ!………お前食べ過ぎなんだよ。少しだけ毒にやられてたんだぞ」
デビはまだ状況を理解できてないのか少し虚ろになっていた目で周りを見る。
「あっ!妾、ドラゴンの肉を食べて……」
「そうですね。デビさんはドラゴンの肉の毒にやられて気絶していましたよ」
その瞬間、デビの顔がみるみる内に青ざめていく。
「わ、妾は毒にやられていたのか?もしかして妾は騙されたのか?」
「いや、騙されたっていうか。お前が間抜けだったというか……」
正直自業自得なところあると思うけどを。
するとデビはその場から慌てて遠ざかる。
「その肉を妾に近付けるな!」
そう言ってドラゴンの肉を異常に恐れる。
あ〜毒にやられたからか。
「デビさんの好きな肉ですよ?好きなだけ食べてもいいんですよ」
「ぎゃああー!その肉を妾に近づけるな!」
何か楽しそうだなリドル。
「おい、リドル。いじめるのはそこらへんにしてそろそろ行こう。ここで立ち往生してる場合じゃない」
「そうですね。デビさん、もう何もしませんから早く行きましょう」
「ほ、本当じゃな。何もしないか?」
何か少しだけ涙目になってる気がする。
そんなに怖いのかあいつの事。
恐る恐るデビが俺達の方に行く。
「よし、それじゃあ早く行こうぜ」
「デビさん、大丈夫ですか?すみません、少し悪ふざけが過ぎました」
「なっ!ま、まあそこまで言うなら許してやっても良いぞ」
あいつ何か持ってるような……嫌な予感しかしない。
「お礼の印に僕からプレゼントがあります。デビさんの大好物ですよ」
「何じゃ!?ステーキか!ステーキなのか!」
期待の眼差しでリドルを見ると、リドルは不敵に笑いある物を見せる。
「ドラゴン肉のサンドイッチです」
「ぎゃああああああ!!!!」
その瞬間、デビは泣きながらリドルの腹を殴った。
――――――――――――――――――――
「道中気をつけてくださいね」
「ありがとな村長。食料としかも荷台まで直してもらって、これでしばらくは大丈夫そうだ」
そう言って俺は荷台に積んだ食料を確認する。
「もうちょっと滞在してくれればよかったのに」
「そうですよ。英雄さん、色々おもてなしとかしたかったんですけど」
村の人達から惜しまれつつも俺達はコウバに乗り込む。
「俺達は他の目的もあるから、もう行くよ。また今度はミノルを連れて来ると思うから、その時はよろしくな」
「はい、お待ちしています。それとヌマクの件は本当に大丈夫なんですよね?」
「相手は怪盗だろ?誰かに依頼されたって訳じゃないんだし、大丈夫だろ。それじゃあな」
村長との挨拶も済ませ俺達は村を出ようとした時、小さい子が近寄ってきた。
「かつお兄ちゃん!」
「ん?あっ君は確か俺に唯一サインをねだってくれた子か。どうしたんだ?」
「これあげる!」
そう言って俺に茶色の指抜きグローブをくれる。
何故このチョイスなのだろうか。
「あ、ありがとう」
思いのよらぬプレゼントに素直に喜べなかった。
「付けてみて!」
「ええっと……分かったよ」
俺は純粋な子供の言葉に抗えず中二病みたいグローブを手に付ける。
「どうだ?似合ってるか?」
「うん!普通に似合ってるよ!」
普通に似合ってるよ?
何故この子は素直に喜べないような事を言うのだろうか。
「頑張ってねかつお兄ちゃん!」
「ああ、頑張るよ」
俺達は村の温かいお見送りで村を出た。
「いい村だな。法は犯してるけど」
「そうですね。それにさっきからデビさんの視線が痛いんですが。後、お腹も」
「自業自得だろ」
するとデビがリドルを睨む付けるのをやめて、俺の方に来る。
ちなみにリドルはコウバを動かして俺とデビは荷台で揺られている。
「さっきの子から貰ったグローブかっこいいのう。妾にも貸してくれ」
そう言って欲しそうにこちらを見る。
「いいけど、これは貰い物だからあげないぞ」
「分かっておる。分かっておる」
何がものすごく信用ならないんだけど。
まあ流石に壊したりはしないか。
俺は指抜きグローブを外しデビに渡す。
「ほらよ。絶対に無くしたりするなよ」
「分かっておるって。おお、物凄くかっこいいのじゃ」
そう言って目を輝かせる。
そういえばこいつちょっと中二病みたいな事を言うよな。
この年齢になるとやっぱりなっちまうもんなんだろうな。
「ん?何じゃ?引っかかって上手く……あっ」
その声と共に指ぬきグローブの穴がさらに増えた
その瞬間、俺はデビを引っ叩いた。
「やっぱりお前なんかに貸した俺が間違ってた!ああ、せっかくあの子から貰ったのに……」
「まあ過ぎた事はしょうがないのじゃ。大切なのは切り替えじゃ」
「お前が言うな!!う〜ん、少し破けちまったな。これ縫えないかな」
正直言って、裁縫道具は無いんだよな。
こういう時、ケインがいればささっとやってくれそうだけどな。
そういえばあいつ今頃何してんだろ。
「かつさん、もしよかったら後で僕が縫ってあげますよ」
「え?リドル、お前裁縫できるのか」
「多少は。昔バイトでやる機会があったので」
こいつ一体いくつバイトやってんだ。
ていうか料理も作れて裁縫もできるとか、お母さんみたいだな。
そういえば俺の親とかも今頃は何やってだろ。
風間が言うには時間の流れはこことは違うとか言ってたけど、あいつ嘘ついてやがるからな。
まあ会った時この島には法律が無いとかデタラメ言ってたし、もし、また会ったなら、あんまり会いたくないが、問いただしてやる。
「ど、どうしたのじゃ?そんな険しい顔をして。そんなに大切な物だったのか?す、すまないのじゃ」
「ん?いや、別にその事じゃないんだ。まあそれも少しは怒ってるけどな」
「しょうがないのじゃ。だって何か引っかかったんだもん」
「引っかかったんだもん、じゃねえよ。まあリドルが直してくれるからもういいよ。それより俺は次の街のカルシナシティの事で悩んでるんだよ。あそこにはあいつが居るからな」
俺は破れたグローブをポケットに入れる。
「あいつって誰じゃ?」
「風間様の事ですか?」
リドルがコウバを動かしながら言う。
「まあそうだけど。様って付けるなよ。あいつが偉いみたいだろ」
「実際偉いですからね」
「まあ確かにそうだけどさ」
まさかあいつがあの街の王になっていたとわ。
何か……負けた気がする。
何でいつもあいつは…………
「なあリドル。かつさっきから様子がおかしいと思うのじゃ。お主何か知っておるんだろ」
「デビさんも会ってると思いますよ。風間翔太様、カルシナシティの王です」
「う〜ん、何かそんな奴がいた気がするのう。もしかしてそやつと何かあったのか?」
「僕は知りませんが、多分昔に何かあったのかもしれませんね」
何かこそこそと話してるなあいつら。
とりあえずミノルに会う前に片付けなきゃいけない問題だな。
長居はできないし、聞きたい事考えておくか。
するとデビが俺の隣に座る。
「なあかつ、腹減ってないか?これ食うか?」
そう言って食料が入った袋からミカンを取り出す。
「いや、別にいらない」
「そ、そうか。もぐもぐもぐ」
いらない事が分かってすぐに食べてしまった。
食べるの早いなあ、と思ってみてるとデビが食べるのを止める。
「やっぱり欲しいのか?」
「いるわけ無いだろ」
するとデビは悲しそうに残りのミカンを食べる。
「リドル、後どれくらいだ?」
「この調子なら後、3時間位です」
「分かった、ありがとう。それじゃあそれまで寝てようかな」
俺は荷台の後ろの方に寄っかかって瞼を瞑る。
「………おい、デビ。暑苦しいんだけど」
「何言っておるのじゃ。これの方がもし何か会った時すぐに動けるだろ」
「逆だろ。お前が邪魔で動けない。離れろって!」
俺は振りほどこうとするもデビは俺の腕を掴む。
「はあ、はあ、はあ……ああ、もう分かったよ!くっついててもいいから邪魔するなよ」
「分かったのじゃ!えへへ」
何でこいつ、こんなにくっつきたいんだよ。
まあ別にいいか、もう眠たいし………
「かつさん、デビさん。どうします?もうちょっと、早く出来ますけど……」
「ぐぅ〜かぁ〜………」
「スピー………スピー……」
「……ちょっとだけ、スピード落としますか」
こうして俺達はカルシナシティに向かった。
 




