その一 始まりの草原
ここはどこだ………?
視界がぼやける。
それに妙に頭の下が柔らかい。
どうやら寝転がっているらしい。
起き上がろうとしても力が入らない。
俺は何かに掴まろうとして、手を伸ばした。
するとなにか柔らかいものに触れた。
何だこの柔らかい感触は……
「キャッ!!」
すると女の人の声が聞こえた。
その瞬間視界のぼやけが一気に晴れた。
「え………」
そこで俺が最初に見た景色は唇をかみ、こちらを睨みつける女の人と、その女の人の胸をもんでいる俺の手だった。
その瞬間、頬に痛みが走った。
「痛ってぇぇぇ!!何するんだ!」
その女の人は、頬を赤らめ目に涙が滲んでる。
「何言ってるのよ!正当防衛よ!勝手に人の胸もんで……もしかしてあんたそのためにわざと気絶してたのね!?サイッテーよ!クズよ!クズ!」
「はぁっ!?何言ってるんだよ。意味のわかんないこと言いやがって、第一お前は誰だよ」
俺は現在の状況を掴めずただ言われた事に反論する事しかできなかった。
「痴漢に言う事なんて何もないわ。ここで粛清してあげる。安心して痛みは一瞬だから」
そう言って満面の笑みで拳を高々と突き上げた。
やばいこれまじのやつだ。
「ちょっ、ちょっと待てって、わざとじゃないんだ。おい拳を近づけるな!話を聞けって」
何とか女の人を落ち着かせ話をすることにした。
「えっと…まずは自己紹介からだな。俺の名前は絶対かつ。あんたは?」
「私はミノル」
ミノルか……珍しい名前だな。
名字を言わないあたりなにか事情があるのだろうか。
そういうのは俺も分かるから無理に聞かないようにしよう。
「それでかつは何者なの?今のところ痴漢をする人ってことしかわからないんだけど」
第一印象からして最悪だな。
「だからわざとじゃないって言ってるだろ。何者って言われても学生としか答えられないな」
「学生……」
ミノルは学生という言葉に少し違和感を感じてるのだろうか。
納得してない様子だった。
「そっ、で、ミノルは?」
「私は魔法使いって言っても、当たり前の事だし何者って質問の答えになってないわよね」
俺はミノルの言葉を理解できず再び聞いた。
「えっ?魔法使い」
「ええ…そうよ」
なんだこの人ふざけてるのか。
俺は改めてミノルの服装を見た。
さっき殴られてそれどころじゃなかったけど、よく見るとフードみたいなものを被っているな。
そのせいで顔が隠れて見えにくい。
たしかに黒とか紫色の服装が魔法使いのようだ。
膝の下に杖らしきものもあるし……もしかしてコスプレか?
だとしたら話を合わせるのが大人の対応だろう。
「ミノルが何者かはわかったけど、ここは何処なんだ?」
そう、ずっと疑問に思っていた。
この緑で囲まれた草原。
心地の良い風と今の現代では考えられない程の澄んだ空気と美しい花の数々。
まるで漫画やアニメに出てきそうなその場所は、一度来たら忘れるわけがない。
だけど俺はここに来た覚えがない。
つまり俺はここに来たことがないということだ。
「何?かつは覚えてないの?ここはにゃんこ島で、この場所はフェアリー草原よ」
にゃんこ島?フェアリー草原?何分けわからないことを言ってるんだ?
ミノルの空想……ってわけがないか。
第一俺は、この場所を知らないし、嘘かどうかもわからない。
だとしてもどれも聞いたことがないのは不思議だな。
「なぁミノル、この場所の地図はないのか?」
「それはあるけど…かつは持ってないの?」
「えっ…持ってないけど」
地図なんて普段持ち歩かないだろ。
そう思いながら俺はミノルから地図を受け取った。
そしてすぐに地図を開いた。
「なぁミノル、これって本当にここの地図なのか?」
「そうよ。私が偽物渡すわけ無いでしょう」
それにしてはまったく知らない場所だ。
しかもまるで島みたいな形してるしもしかして……
「なぁミノル。世界地図みたいなものも持ってないか」
「持ってるけど…かつ、地図は普通持ち歩くのよ」
「えっ?そうなのか」
「そうよ、この島の常識でしょ」
「この島って……」
俺は急いで地図を見た。
俺の予想が正しければこれは一大事だ。
そして予想通り地図には俺が知っているような世界地図では無く、島みたいなものが十二個書かれている。
「こっ…これって…」
「何?地図ばっか見て。何かあったの?」
そう言って地図を見ている俺を覗くように見てきた。
こいつの目……やっぱり嘘をついてるようには見えない。
「なぁミノルお前魔法使いって言ったよな」
「ええ、そうだけど」
即答か。
てことはほんとにそうなのか。
「今から魔法って使えるか?」
「ええ、大丈夫よ」
少し冗談半分で言ったがこちらも即答で答えた。
そう言うとミノルは立ち上がり何もない空に杖を突き出した。
そして何か力を貯めるようにゆっくりと目を閉じた。
その瞬間大気中のエネルギーがミノルの杖に向かって集まっているような感覚があった。
その集まったエネルギーを一気に放つように
「メテオボール!!!」
その掛け声と共に空に魔法を打ち上げた。
炎を纏ったゴツゴツとした隕石のような魔法は、そのまま空中で爆発した。
「やっぱりこれって……」
その時凄まじい風が吹きミノルのフードが飛ばされた。
フードで隠れて見えなかったがミノルの顔はまるで天使のように美しかった。
その時俺は異世界に来たのだと確信した。