その七 ハイ&ロー
走って数分で村が見えてきた。
さすがコウバと言うべきか、あっという間に着いたな。
「よし、村にようやく到着だな。これでひとまず安心ってところか」
「コウバ叩き過ぎて疲れたのじゃ。ヒリヒリなのじゃ」
「別にそこまで叩く必要はなかったんですけどね」
確かにあいつ叫びながら何10回も叩き続けてたからな。
コウバの尻も真っ赤だな。
だがそれでもコウバの顔は満足げだけど。
「気持ち悪くて仕方なく………」
まあ、気持ちは分からなくもない。
「とりあえずコウバはここで止めておいて、俺達は村の人をここで待つか」
「そうですね。村の皆さんは全員ドラゴン退治に行ってしまったみたいですし」
リドルの言う通り村に人っ子1人いない。
小さな村だからって流石に不用心過ぎないか。
「とりあえず今はやることないしお前らに聞きたいことがあるんだ」
「何ですか?」
「ミノルっていつから居なくなったんだ。そこん所詳しく聞いてなかったからさ」
俺とした事がまさかそんな重要な事を聞き忘れるなんて、まあ久しぶりに帰ってちょっと気持ちも高まってたし、しょうがないよな。
「そうですね。今から………大体10ヶ月前ですかね」
「そうか。………ん?ちょっと待て、10ヶ月前って言ったか」
「はい、言いましたよ」
何でこいつこんな冷静なんだ。
「10ヶ月って、どんだけ経ってんだよ!それやばいんじゃないか!もう結婚してんじゃないのか!?」
「だから行ったのじゃ!もう結婚をしているのでは無いかと!あぁ〜!ミノルが人妻になってしまうのじゃ!」
「おいデビ。その言葉どこで覚えてきたんだ。ていうか何でリドルはそんな冷静なんだ」
リドルだけ異様に冷静だ。
もしかして何か知っているのか?
「別に僕はただミノルさんに会いに行くだけですから。まあ結婚はしてる可能性はありますね。僕も何回か潜入しようと考えましたが、セキュリティーが厳しくて、1人じゃ無理だったんです。だからかつさんと一緒に行けばと思ったんですが……諦めるなら僕はそれでもいいですよ」
こいつ……何かものすごく大人な雰囲気を感じる。
「諦めるわけ無いだろ。ミノルが今どういう状態にあるか分からないが、俺はひとまず会わなきゃ気がすまない!」
「妾もそうじゃ!ミノルが人妻になってたとしても、妾の仲間じゃ」
「子供はあんまりそういう事を言うんじゃないぞ」
「なにおう!妾は子供じゃ―――――」
その時、どこからか何が割れた様な音が聞こえた。
「っ!?何だ今の音。誰か居るのか?」
「何が落ちたんじゃないのか?風とかで」
「いや、今はあまり風も吹いていません。割れた物も近くにはありませんし、多分家の中だと思います」
リドルの言うとおりだ。
もしかしたら、誰かが侵入してるかもしれない。
「おい、確かめに行くか」
「お、お主が確かめれば良かろう」
「いや、俺はそういうのはいいや。リドルはどうだ」
「そうですね。もし誰かが侵入してきてる可能性もありますし、確かめたほうが良いと思いますが。今起きて来たここの村人かも知れませんしね」
俺達が確かめに行くかどうか迷っていると近くの家のドアが開いた。
あそこの家って確か村長の家だよな。
「ヒッヒッヒ!いやぁ〜大量だな」
「大量でござるな。これならしばらくは大丈夫でござるね」
何かものすごく古風な泥棒が居るんですけど。
しゃべり方どころか黒い服装に渦巻きの風呂敷って格好もヤバイな。
ていうか今時異世界であんな服装の奴がいんのか。
「えっと……あんたら何やってんの」
泥棒のお手本みたいな奴がいきなり現れたせいで怒る気が失せてしまった。
「かつさん……あれって」
「ああ、泥棒だろ。まさかこんな小さい村に来るとわな」
「何じゃあれ!かっこいいのう!!」
はっ?何言ってんだこいつ。
「やべっ!見つかっちまったか」
「見つかったでござるな。すぐずらかるでござる!」
そう言ってポケットから何かを取り出そうとする。
まずい逃げる気か!
「させるか!ファイヤー!!」
「おっと!あぶないな!燃えたらどうすんだ!」
「燃やす気でやってんだよ!」
すると、泥棒二人組はそこから屋根の上にひとっ飛びする。
にしてもあいつら地味に素早いな。
魔法で倒すのは少し難しいな。
「かつさん気をつけてください!こいつらお尋ね者の怪盗ハイ&ローです!」
「怪盗!?いやいや、どう考えても泥棒って言葉が100%合う奴らだろ」
「いや、あれは変装です。奴らはそうやって人を欺き物を盗んでいくんです」
マジかよ異世界にもそんな奴がいるのか。
「よく見破ったでござるね!そうでござる!我ら」
その瞬間首に巻いてた風呂敷で2人の体を隠したと思ったら、一瞬にして姿が変わった!
「俺はブラック怪盗ハイ!」
「私はホワイト怪盗ローでござる!」
「「2人合わせて怪盗ハイ&ロー!でござる!」」
そう言って黒と白の布を首に巻き付け高らかに宣言する。
姿が変わったのはいいが若干一名気になるやつがいるな。
「語尾と姿が合ってないな」
「かっこいいでござる!!」
「おい、デビ口癖が移ってんぞ」
するとハイが何かの液体が入った瓶を取り出す。
「この村のドラゴンを殺す毒、ヌマクは確かに頂いた」
「なっ!あいつらヌマクを盗むためにこんな事を……おいリドル、デビあいつらを止めるぞ………リドル、デビ?」
呼び掛けても何故か二人は特に反応を示さない。
何で反応しないんだこいつら。
すると特に焦る様子を見せずにリドルは告げる。
「別にいいんじゃないですか。持ってってもらって」
「え?いや、ちょ、何言ってんだよ。どうしたんだ急に」
「そもそもあれは違法的な物ですし、盗まれても仕方ないものでは?逆に盗んでくれた方がこの村のためですよ。ドラゴンは殺せなくても自給自足で生きられますしね」
何だこいつ、物凄い正論言ってんですけど。
「妾はサインさえ貰えれば十分なのじゃ!ハイ&ロー!妾にサインをくれなのじゃ!」
こいつはこいつで何かあいつのファンになってるし。
「何だあいつら、何を話し合ってるんだ。こっちは華麗に立ち去りたいのだが、見てくれないと帰るに帰られないな」
「大きな声でこっちに気を向けさせればいいでござるよ」
「なるほど、いいアイディアだロー!よし、早速……おい貴様ら!こっち向け!」
なんだ?いきなり大声出してきたな。
「俺達はこのヌマクを頂いた!さらばだ」
「ああ、じゃあな」
するとハイ&ローが飛び出そうとした瞬間もう1度こちらを見てくる。
「今なんて言った?」
「いや、だから早く持ってけよって」
「え?いやいや、嘘だろ。盗むんだぞ!困らないのか!?」
「いや、だって俺達のものじゃないし。盗まれても困らないからな」
何か物凄く驚いているな。
まあ確かに盗むと言っているのにどうぞと差し出されれば動揺もするか。
「ちょっと待て!少し話し合いをさせろ」
「お好きにどうぞ」
そう言うと裏で何やら話し合いを始めた。
「妾、後でサインを貰おうと思っておるのじゃが、どうじゃろうか?」
「いや、知らねえよ。貰いたきゃ勝手に貰えよ」
「そう言えば、また思い出した事があるんですけど」
「何だ?」
「実はあの2人の懸賞金が2億何ですよね」
その時ちょうど後ろから声をかけられる。
「よし!貴様ら!話し合いの結果……ちょっと追いかけてもらえないか!」
何かすごい高らかに謎の頼み事をしてるんですけど。
「いや、それどう言う意味だ」
「その言葉通りでござる。あなた達にはここで私達を追いかけるフリをしてもらいたいでござるんば」
「なるほどね。あくまでも自分達は追い掛けながらそれを華麗に振り払い去って行く……そういう事をしたいってことだな」
「そう言うことだ!理解力があって助かる!」
なぜそんなめんどくさいことをしなければならないのか。
まあ、ちょうどいいか。
「よし、分かった!その案に乗ってやるよ」
すると嬉しそうにハイ&ローが屋根から降りる。
「それじゃあ俺達がお前らの方に行くから、お前らは適当に攻撃してくれればいい」
「よし、分かった。お前らも分かったよな」
「はい、完璧です」
「了解じゃ!」
皆が了承すると、ハイ&ローと俺達は対峙する。
「それじゃあ行かせてもらうでごらっちょ」
何か口癖が変化してね?
その瞬間、2人がこちらにまっすぐ突っ込んでいく。
「くそ、行かせないぞ!ファイヤー!」
俺はハイにファイヤーをぶつけたが華麗にかわされる。
「今度こそ止めますよ。アグレッシブフルート!」
そしてローも同じ様に華麗にかわす。
「さらばだ旅人よ!怪盗ハイ&ローは誰にも止められない!」
「それじゃあ頂いて行くでごびんら」
また何か変化してね?
まっ行かせないんだけどな。
その瞬間、ハイ&ローの目の前に魔法陣が出現する。
「え?」
「ござら?」
「デビルオンインパクト!」
「「ぎゃぁぁぁぁあああ!!!」」
黒い雷を全身に浴びて叫び声と共に2人の人影がこちらち飛び出して来た。
「し、死ぬとこだった!死ぬとこだったぞ!」
「私生きてる!?ちゃんと生きてる!?」
そう言って自分の体を触り、生死を確認する。
「ついに語尾も無くなったな」
「あっ!ち、違うでるんそん」
「いや、どっちみち最初と違うじゃん」
するとハイが食い気味に立ち上がる。
「おい、話と違うだろ!なんで俺達を狙って攻撃した!」
「だってお前ら2億の懸賞金がついてんだろ?色んなもん盗んで値がどんどん上がっていったんだろうけどな」
「そ、そんなこと無いぞ!」
「そんなこと無いではんそん!」
こいつら分かりやすいくらい焦ってんな。
目が泳ぎまくってるし。
「いや、無理してキャラ付けしなくていいから」
「………っ!」
その瞬間、よほどショックを受けたのかローはそのまま崩れ落ちる。
「おい!大丈夫かロー!貴様!言ってはいけない事を言ったな!ローはな、キャラが弱いからって無理して語尾を付けてるけど慣れないから、良く間違えるんだよ!」
「ハイさんの言葉でトドメさしてますけど」
「もう、無理……がくっ」
「ロー!」
何か勝手に自滅してんだけど。
「ロー!まだ死んじゃ駄目なのじゃ!せめてサインを書いてくれ」
するとローがゆっくりと目を開ける。
「私のサインが欲しいのんのん?」
「欲しいのじゃ!」
「しょうがないわねんねんころり。どこに書けばいんかん?」
「あっこのベルトにデビへローよりでお願いします」
「これでいいかしらんらんそむりえ」
これは突っ込んだほうがいいのだろうか。
何か、こんな喋り方をする奴を知っているような。
「はい、ありがとうなのじゃ!」
「それじゃあ。………がくっ」
「ロー!貴様ら良くやりやがったな」
「いや、わざわざもう1回やらなくてもいいだろ」
「あの、ハイもサインをお願いしますなのじゃ」
そう言ってハイにもサインをねだる。
「え?俺も?ああ、別にいいよ」
ハイは少し照れくさそうに同じ様にサインを書く。
「ありがとうなのじゃ!」
素直にお礼を言ってデビは嬉しそうにこっちに戻ってくる。
「いやいや、どういたしまして。じゃ………ロー!やってくれたな貴様ら!」
「何回それやるんだよ!」
「かつさん、とりあえず捕まえましょう」
「だな。さっさと捕まえて2億ガルアゲットだな」
「ふっ!俺たちは怪盗だぞ!そう簡単には捕まえられると思うなよ!」
「そうですじゃーみー!やってみろんげ!」
5分後――――――――――
俺達はロープで縛り付けたハイ&ローを見る。
「意外と簡単に捕まえられましたね」
「ああ、すばしっこいだけで大したことなかった」
「何か拍子抜けじゃのう。もうちょっと何かあると思っておったのに」
ハイ&ローはそこまで強くなくあっさりと捕まえられた。
捕まった本人は何故か不適な笑みを浮かべている。
「お前ら!中々やるな」
「私達は華麗さが売りなんでかきむち!正直言って強いとか弱いとかの次元じゃないのんのんばね」
「いや、もう語尾の癖が強すぎて言葉が入って来ないから。それもういい加減やめろって、キャラが逆に分からなくなる」
すると、ロープで縛られているローが暴れだす。
「だってキャラが無かったら何の特徴もないんだもん!皆に覚えられたいんだもん!」
こいつ、急に駄々こねやがった。
「おい、ロー落ち着け!だから語尾になにか付けるのはやめろって言ったんだよ。せめて服装から始めれば良かったんだよ」
「おい、そんな意味分かんない反省会すんな。村人達が来たぞ」
すると巨大なドラゴンを乗せた台車を大勢で引きながら帰ってきた。
相変わらずよくあんなデカイモンスターを倒せるな。
「おぉー!皆さん良かった。無事に戻られたんですね。あれ?そのお2人は?」
「こいつらがこのヌマクを盗もうとしてたから、捕まえたんだよ」
「本当ですか!?そう言えば最近不審者がこの辺りをうろついてるという情報もありましたし、本当にありがとうございます」
そう言って村長は、深々と頭を下げる。
「大丈夫ですよ。それよりこのハイ&ローの懸賞金は僕達が貰ってもよろしいですか」
「それはもちろんですよ!守ってもらったんですからね、さあさあドラゴンの肉を食べてください。今作らせますので」
「やったぁ〜!ドラゴンの肉なのじゃ!」
「じゃっ俺達はこれで失礼する!」
今の声って………俺はすぐに声のする方を見る。
そこには不敵に笑うハイ&ローの姿が合った。
「なっ!?いつの間に」
「ロープが解かれておるのじゃ!」
「抜けるのは得意なんだよ!それじゃあさらばだ!」
「ヌマクは、貰っていくわよ!じゃあね〜!フラッシュ!」
その瞬間周りが光り輝いたと思ったら、そこにはハイ&ローの姿は無かった。
「逃げられたか」
「2億ガルアが逃げましたね。まあそう簡単には捕まりませんか」
「逃げられたのなら仕方ありません。今から追いかけても無駄でしょう。皆さんは先に店で待っていて下さい」
ヌマクを盗まれたと言うのに意外とあっさりしてるな。
まあ村長がいいなら、別にいいのか。
俺達は逃げたハイ&ローの事はすぐに忘れてドラゴンの肉を食べる為に店に向かった。




