その五 作戦
「先手必勝!ウオーター!」
俺はサクラに向かって思いっきり水をぶちかました。
「キャッ!……水?」
よし的中だ!
「まだまだ!アイス!」
「―――え?」
よし!あれだけ水を被った後のアイスなら足位は凍らせられただろ。
俺はサクラの元に急いで近づいた。
「驚いたわ。あんたが……想像以上に……弱いって事に!」
サクラは俺の魔法にカスリもせずに悠然と立ち尽くしている。
「なっ!?無傷……」
嘘だろ間違いなく当たったはずなのに。
「何驚いてんのよ。当たり前でしょ、あんたレベル1の魔法使いなんだから」
「知ってたのか!?」
だからあんな勝負内容にしたのか!
やっぱりそう言うことかよ!
「知ってるって言うか今の魔法を見て思っただけよ。だってアンタの魔法弱すぎるんだもん。えっと何だっけ……ウオーターとアイスだったかしら。それ魔法じゃなくてもうただの水と冷たい風じゃない。ふふ……今思い出しただけでも面白いわ」
そう言うと再び笑い出した。
こいつムカつくな〜!
だけど落ち着かなきゃ流石に怒りに任せて突っ込むなんて馬鹿なマネはしない。
落ち着け〜落ち着け〜……よし。
もう大丈夫だ。
「たしかにお前の言う通り俺の魔法は弱い……が!流石にノーダメってのはないんじゃないのか。お前なんか隠してるだろ」
そう最初のウオーターは絶対当たったなのに少しも濡れてないのはおかしい。
「何あんた魔法が弱いだけじゃなくて常識も無いわけ。なんか可愛そうになってきたわよ」
そう俺を小馬鹿にするようにクスクスと笑い出す。
「く――――っ!!………ふ〜、すまないな常識がなくて」
ここで冷静さを失ったら負ける。
ここは我慢するんだ俺!
「まあいいわ、教えてあげる。私があんたの魔法を喰らわなかったのは魔法抵抗力があるからよ」
「魔法抵抗力?」
また新しい単語が出たな。
「魔法抵抗力って言うのは魔力レベルに応じて魔法に対する抵抗力が強くなるの。そうすると魔法からの攻撃の威力を弱めるもしくは無効化する事が出来るの」
「それは自分より魔力レベルが低い奴からは全く魔法が喰らわ無くなるってことか」
「そういう事。ていうかこれは魔法使いにとって常識なんだけど。あんた魔法も知識もダメダメなのね」
その瞬間俺の堪忍袋の緒が切れた。
「ぐっ―――!お前〜!」
そう言って俺は怒り任せに攻撃しようとした瞬間、後ろからミノルの声が聞こえた。
「かつ!だめよ怒っちゃ!」
「ミノル……流石にここまで言われて我慢しろって言うのかよ!」
「そうよ我慢して」
「だけど――――」
「我慢して!勝ちたいんでしょ!」
ミノルは真剣な顔で俺を見つめる。
するとさっきより怒りが静まり冷静を取り戻せた。
「………分かった。我慢するよ」
まあこんなところで怒ってても仕方ないか。
あいつはかなりムカつくが勝てば気分も晴れるだろ。
「何あんた。女の人に指示されなきゃ動けないの?男としてそれはどうかしら」
相変わらず俺を馬鹿にしてくるが、今の俺は冷静なのもあって先程より怒りは湧いてこない。
「なんとでも言えよ。俺が勝てば恥ずかしい思いをするのはあんただからな」
「確かにそうだけどあんたが私に触れられるの?」
あいつの言う事に納得するのは気分が悪いが確かにそうだ。
魔法が効かないんじゃ純粋な身体能力で行くしかない。
が、それはどう考えても無理だろ。
あいつは俺が気付かないほどのスピードで後ろに回り込めるほどだ。
多分魔法抵抗力もそうだが反射で避けたのが俺の魔法が当たってない一番の理由だろう。
やっぱり魔法しかないのか。
「どうしたの固まっちゃって負けを認める?」
「認めるわけ無いだろ」
てっ言っても勝つ方法が思いつかないんじゃ何も出来ないぞ。
どうするか……
「お主から見てこの勝負、かつが勝てると思うか」
「このまま何もしなければかつは負けると思う」
「ほう……それはどうして」
「この勝負の内容が、かつには不利過ぎて、サクラには有利過ぎるからかしら」
「気づいておったのか」
「そりゃずっと見てたら流石に分かるわ。サクラは魔法はそこまで強くは無いけど身体能力はかなり高いからね。だから魔法の勝負じゃなくて触れば勝ちっていう鬼ごっこみたいな勝負を選んだんでしょう」
「何故魔法は強くないと思ったのじゃ?」
「もし魔力が高かったらあんな避け方はしなかった。魔法抵抗力で自分の力を思い知らせるのが普通ね。あの勝負内容にする所からして、かなりの自信家だからそうすると思ったけどそうしなかった。つまり受けようにも受けられない状況に合ったってこと。その証拠にサクラの腕に少し水が付いてるしね」
「その通りじゃ。サクラは魔法が余り上手くは無いばかりに皆にいじめられたりされたものじゃ」
「だからダリさんが魔法じゃなく体を鍛えさせたの?」
「そうじゃ。あの子は元々脚力が強かったからそれをメインに鍛えさせた。そしたらみるみる強くなってのう。あの子の成長を見て行くと魔法よりも体を鍛えた方が、ずっと成長を実感できると思うようになったのじゃ。その内わしも魔法の熟練度を上げたいという生徒を断ったりしたら気づいた時には生徒が誰一人居なくなった」
「だから最近生徒を募集して無かったのね」
「すまないが今回は諦めると良い。かつには勝ち目など無い」
「確かにそのまま見ればかつには勝ち目なんてないと思う。でもね、私は何となくかつが勝てると思うの」
「それは何でじゃ」
「かつはピンチの時にこそ逆転の発送で切り抜けるのよ。あの時みたいに」
「あの時?」
何だあの2人なんの話をしてるんだ。
「余所見してずいぶん余裕ね!どうするの!降参するなら今の内よ!」
「降参なんかするわけ無いだろ!」
あいつに勝つにはやっぱり魔法しかない。
だが直接当てても意味がない。
だったら……
「思いついたぞ!お前を倒す方法を!」
「ハッタリなら無駄よ」
「ハッタリじゃねぇよ。ここからが本番だ!」
さあ反撃だ!




