その七 新情報
「ふわぁ……おはようなのじゃ」
「おはようデビちゃん。朝ご飯作ってあるから」
デビちゃんよりも早く起きていた私はリドルの朝食を手伝っていた。
手伝っていたと言って野菜を切ったり、皿洗いなどをしたりと雑用をしていただけだけどね。
そのまま既に出来ている朝食を机に並べていく。
「やったー!ご飯なのじゃー!」
そう言って先ほどの眠たかった表情はどこえやら、目をキラキラさせながらいつもの椅子に座る。
相変わらず食べ物の事になると行動力が凄いわね。
続けて手に持った料理を机に置こうとする。
すると机を見ると料理の数は足りていた。
「あれ?リドル!これ余っちゃったけど」
「あっすみません。いつもと同じ量を作ってしまいました」
そう言って私から料理を受け取る。
そう、今はかつが居ないから一人分余ってしまうのだ。
リドルもまだかつがいない日常になれていないのね。
「あっ!捨てるのか?それなら勿体無いから妾にくれ!」
「まあ別に良いですけど」
デビちゃんはすぐに捨てようとしているリドルから料理を奪い取る。
「やったぁー!ご飯が増えたのじゃー!」
そう言って嬉しそうに料理を自分の所に置く。
「やってしまいました。気をつけてはいたんですけど」
「しょうがないわよ。私もかつが降りてこないから呼びに行こうとしちゃったし。慣れないのは当たり前よ」
「何しておるのじゃ?早く席について食べようぞ」
デビちゃんは待ちきれないのか箸で机を何度も叩く。
「デビちゃん!お行儀悪いわよ。それじゃあ早く食べましょう」
待ち切れなさそうなデビちゃんの為に急いで椅子に座る。
「それじゃあ早速………」
「「「いただきます!!!」」」
ごはんを食べている時、おもむろにリドルが口を開く。
「この後はもちろんナギさんの所に行くんですよね」
「そうね、次のモンスターの情報をゲットしたみたいだし」
「妾はいつでも準備万端だぞ!」
デビちゃんはかなり張り切っているのか、ごはんを食べながら声を出す。
雪原で遭難してからまだ1日しか経ってないから、戦いに行くのに抵抗が出来てしまってるんじゃないかと思ってたけど、余計なお世話だったみたいね。
「それじゃあ食べ終わったらすぐに行きましょうか」
――――――――――――――――
「いらっしゃーい!待ってたわよ!ほら、早く入って入って」
私たちを待っていたと言うナギは急かす様に私達を店の中に入れた。
「どうしたのよそんなに急いで」
「だいぶ有益な情報を得たからすぐに話したくって。その前にどうだった?例のホワイトケビンは討伐出来たのかしら?」
ナギの疑問に言うのを躊躇ってしまう。
ホワイトケビン、雪原に生息するそいつを討伐しようとして死にかけたなんて言うわけにはいかないわよね。
ナギに心配かけるわけにはいかないし。
「逃げられちゃったみたい。だからまた今度リベンジするわ」
「そうなの?やっぱりあの子と一緒に行ったからじゃないの?」
ナギは耳打ちでそう言うとデビちゃんをじっと見る。
「何じゃ、妾の顔になにかついてるのか?」
「いやいや、何でも。まあ、その話は置いとくとして仕事の話をしようか」
するとナギは様々な本や資料を取り出すと、指を指す。
「これって私が渡した資料の2匹目のモンスター、ガメレオンよね」
「そうよ。体を変色させて周りと擬態する特殊な皮を持ってる珍しいモンスター。だから服とかにすると周りに合わせて変色する、男には夢の服とか作れちゃうわよ。ねっ?リドル君」
「いえ、僕はそういうの興味ないので」
ニヤニヤとしながら言うナギに対してリドルはきっぱりと断る。
まあリドルはそう言うのにはイメージ通り興味なさそうだしね。
「そうなの?つまんないの。それじゃあまずこのモンスターなんだけど、最近このジメンジに居るのよ」
「そこって多種多様なモンスターと草木がある場所よね。新種の花とかモンスターもたまに出るし」
意外と面倒くさいところに生息してるのね。
しかもまた遠出だし。
「あれ?ミノルもしかして面倒くさいとか思っちゃった?」
「え!?別に!そんな事思ってるわけないじゃない!」
「本当にミノルって顔に出やすいわよね。まっそれより対策は立ててあんの?」
「今から立てるわよ」
私は机においてある資料に目を通す。
普段は姿を表しているが気配に敏感で、少しでも妙な気配がすれば姿を消して何処か遠くに行ってしまう。
見つけるのが一苦労な訳だわ。
「モンスター専門の人としてアドバイスするけど、ガメレオンは光に弱いわよ。基本的に夜行性だから、光をもろに目で浴びるとしばらく隠れなくなるくらいに動揺して、動けなくなるのよ」
「てことは光の魔法のフラッシュを使えばいいって事?」
「それは昔の話。今はガメレオンも進化してんのよ〜。ガメレオンの特徴的である角があるでしょ?あれが実は光を浴びる瞬間展開されて遮る仕組みになってるのよ。いや〜こう言うのがあるからモンスターって面白いのよね」
ナギは意気揚々とモンスターの話をする。
「相変わらずモンスターの事になると熱弁よね」
「そりゃあモンスターが好きだから専門になったくらいだしね」
「でも、そうなると他の対処法はあるんですか?」
「まあほとんど無いわよね」
「え!?ないの?」
ナギがなんかいい案出してくれると思ってたんだけどまさか対抗策が無いなんて。
「まあ罠は仕掛けられるけど」
「罠なんてあるの!?」
「これよ」
ナギは店の壁にかけられていた巨大な木の枝を取り出した。
「えっとこれは?」
「ガメレオンは木の枝で休む事が多いのよ。だからこの木の枝を木に挿してかかるのを待つ。そして、ガメレオンがその木の枝に乗っかるとその木の枝が光って、ガメレオンを怯ませてそれで捕まえるって罠よ」
「なるほどね」
私はその木の枝を手に取る。
実際触ってみると機械的な感じがするわね。
何か鉄っぽいし、見た目はそのまんまなんだけどね。
「これならガメレオンを捕まえられるわね」
「いや、捕まえられないわよ」
「え?」
ナギを思わぬ言葉に思わず声を漏らす。
「いやいや、だってこれガメレオンを捕まえるための罠なんでしょ?」
「そう言う発想の元、作られたものだってこと。実際問題ガメレオンは一度決めた木の枝に居座るの。だから仕掛けたところで何にもないないわ」
そう言うとナギは私から木の枝を手に取ると残念そうに机に置く。
「え〜結局そうなの。てことは対策できないって事」
「数は多いのにレアって言われてるからね。捕まりにくいって事でしょ」
「なるほどね………」
これで結局振り出しに戻ってしまった。
必要なモンスターの居場所が分かったって言うのに、此れじゃあ意味ないじゃない。
するとデビちゃんが私のローブを引っ張る。
「どうしたのデビちゃん?」
「早く行きたいのじゃ」
デビちゃんは既に飽きてしまったのか、訴えかけるようにこちらを見てくる。
「まあ悩んでてもしょうがないしね。とりあえず行ってくるわ。これ、持ってってもいい?」
「良いわよ。存分に使って。私使わないし」
無いよりはマシでしょ。
もしかしたら何かに支えるかもしれないし。
「それじゃあそれ僕が持ちますよ」
リドルは担ぐようにして巨大な木の枝を手に取る。
「それじゃあナギありがとね、何とかして捕まえてくるわ。行ってくるわね」
「行ってらっしゃい。後もう1匹はちゃんと調べておくから」
「任せたわよ!それじゃあまた今度ね」
ガメレオンを捕まえるにいくために私達は店を後にした。




