その六 旅の思い
温かい。
とても温かい。
何かのぬくもりを感じる。
あれ?私何して………
「っ!?はあ…はあ…はあ……」
反射的に起き上がると思わず呼吸が荒くなる。
私、死んだはずじゃでも今生きて、ああ駄目だ一旦冷静にならないと。
そのままゆっくりと呼吸を落ち着かせて、自分の現状を確認する。
私、ベットの上で寝てたの?
見たことない部屋、何で私こんな所にいるの?
頭がこんがらがりそう、一旦整理しましょう。
確か、私は皆と一緒に雪原に行って………それで色々あって帰れなくなって、それで……そのまま倒れて………駄目だそれ以上思い出せない。
「う、ううん………」
すると私の隣で唸り声が聞こえた。
隣を見るとそこには、丸くなって寝ていたデビちゃんが居た。
「デビちゃん!?良かった、無事だったのね」
そうなると後もう1人の仲間、リドルはどうなったのかしら。
他の部屋で寝ているのかな?
リドルの行方を探している時誰かが扉を開けて入ってきた。
「目覚めたようですね。良かったです」
そこには見覚えのある人が飲み物を持って入ってきた。
「あなたは旅飛びの店主さん!てことはここって………」
「はい、ここは旅飛びの休憩室ですよ。はい、どうぞ」
そう言って私に温かいココアを渡してくれた。
「ありがとうございます。もしかしてリドルも?」
「はい、ちゃんといますよ。いち早く起きてお礼にって、料理作ってくれてるんですよ。私はいいって言ったのに」
「そうですか」
良かった、リドルも無事なようね。
「ささっ冷えた体を温めましょう」
そう言ってココアを飲むよう勧めてくる。
「あ、はい」
私は押される形でまだ暖かいココアを身長に口に運ぶ。
「んっ……うん、美味しいです。それに温かい」
「先程まで極寒の地に居たんですし、しっかり温まってくださいね」
はあ、温かい。
さっきまで体中冷凍されてるみたいに冷たかったのに、今は体の中から熱が広がってきてポカポカとして心地良い。
私が温まっていると店主の人が椅子に座る。
「それで私に質問したい事があるんじゃないですか?」
「へ?あ、たしかにそうですね」
何?いかにも聞いてほしそうなアピールが凄いけど……もしかして自慢したいのかな?
「ほら、何でも聞いていいんですよ」
「それじゃあ、何で私達は雪原に居たのにこの店にいるの?そしてどうやって連れてきたの?」
その人は待ってましたと思わんばかりに目をキラキラさせている。
「はい、お答えします!実はですねミノルさんに持たせたあの機械に秘密があるんですよ」
あの機械って、もしかして……
「ボタンを押せば帰れるスイッチの事?」
「はい!実はあれ、壊れたりするとこっちに設置してあるアラームが鳴って知らせてくれるんですよ。それで何か問題があったと思ってすぐにスイッチの落ちてる場所に行って、皆さんが見当たらなかったから辺りをくまなく探してたら3人共半分以上雪が積もった状態で倒れてたので、すぐに引っ張り上げてベットに休ませたって訳です」
店主さんは一気に捲し立てたのにも関わらず噛むことなく言い切った。
何かこの人すごいわね。
「そ、そうだったのね。本当にありがとうございます」
「いえいえ、私が好きでやってる事なので」
そう言いながら満足したのか、姿勢をただして座り直す。
「でも、改めて考えると珍しいわよね。そんな旅行行った人を助けるなんて。こう言うのって扉の中に入ったらその時点で旅行先で何があっても自己責任なのに」
すると店主さんが少し困った様子を見せる。
もしかして踏み込んじゃいけない所だったのかしら?
「ごめんなさい、もしかして聞いちゃいけなかった」
「そんなこと無いですよ。でも、こんな事あまりお客さんには話さないので」
そう言って苦笑いを浮かべる。
「お客さんが良ければお話しましょうか?」
「お願いします。少し気になるし」
すると店主さんはニッコリと笑うと口を開いた。
「昔は私もドアを潜ってからは何が起こったとしても、自己責任としていました。ですがある日の事、まだ結婚したばかりの夫婦がやって来たんです。記念旅行をしたいと言って旅行行くならここ!っと言われている季節の移り変わりが楽しめる、セルミナスに行ったんですよ。ですがその日セルミナスにあるテロ事件が起きていたんです。しかもちょうどテロが激化していた時だったので、その夫婦は帰らぬ人となってしまいました。その事実を知ったのは夫婦を旅立たせて3日後の事でした。それ以来私達旅行店には特別に新聞が来る事になったんですが、やっぱり他人事だと思えなくて。新聞で旅行先の状況を知る以外にも何かできないかなと思って、これを実装したんです」
「そんな事があったんですね」
店主さんは暗い雰囲気を察知してか明るく笑みを浮かべる。
「まあ旅行先で何か問題が起きた事はそれ以来無いんですけどね。皆さんが初めてです」
そう言って恥ずかしそうに頭をかく。
「でも、そのおかげで私達は今生きてるんですし、間違ってないと思いますよ。店主さんがやってる事は」
「そう言って頂けるとやりがいがあります」
すると誰かが扉を叩く音がした。
「失礼します。ご飯が出来たのでお呼びしようとしたんですが、ミノルさん目覚めたみたいですね」
「リドルも元気そうで良かったわ。それじゃあそろそろ行きましょうか。ほら、デビちゃん起きて行くわよ」
私はデビちゃんが起きるように体を何度も揺さぶる。
「ん?ふえ、あれ!妾生き埋めになってないか!ん?ここはどこじゃ?」
「デビちゃん落ち着いて、生きてるわよ。この店主さんが助けてくれたのよ」
「そ、そうなのか?ありがとうなのじゃ!」
そう言ってデビちゃんがその店主さんの懐に飛び込んだ。
「ふえっ!?ちょ!」
突然の事で受け止めきれず店主さんはそのまま椅子から落っこちてしまった。
「ちょっとデビちゃん何やってんの!?大丈夫ですか店主さん?」
「だ、大丈夫ですよ。ははは……」
そう言って店主さんはデビちゃんの下敷きにされながら苦笑いを浮かべる。
そのまま何とか店主さんからデビちゃんを引き剥すと、店主さんはそのまま立ち上がり倒れた椅子をもとに戻す。
「ほら、デビちゃん早く行くわよ」
「分かったのじゃ。本当にありがとうなのじゃ!」
「本当にありがとうございました。料理作ったので食べてください」
「は、はい……」
店主さんは呆気に取られながらもこちらに対して手を振って見送ってくれた。
旅飛び店を離れてからデビちゃんが口を開く。
「これからどうするのじゃ?」
「もちろん雪原にまた行くって言いたいけど流石に準備不足ってのが分かったし、当分は無理かな」
「となると他のモンスターを討伐しに行くってことですよね」
「そうなるわね。もしかしたらナギがもう情報を仕入れてるかも知れないし、明日専門店に行きましょうか」
やっぱり新しい土地には其なり準備が必要なのね。
ちょっとした知識だけで行くのは、かえって身を危険に晒すってのがよく分かったわ。
先程の事を反省しつつ、私達は家へと帰っていった。
「あっ!家が見えてきたぞ!」
家を視界に捉えたと思ったらデビちゃんは家に向かって走り出す。
「転ばないでよー!」
「妾は子供ではな〜い!」
そう言ってデビちゃんは行ってしまった。
「かつさんは今頃どうしてるんですかね」
「さあね。頑張って修業してるんじゃない」
かつ、ちゃんとご飯食べてるかしら。
かなりきつい修業しててご飯とか食べてなかったらどうしよう。
いやいや、人の心配してる場合じゃないわね。
私は私のやるべきことをやらなきゃ。
「ミノルさん?家に付きましたよ」
「え?あっいつの間に」
考え事してるとあっという間ね。
するとリドルがポストから2つの手紙を手に取る。
「案の定来てましたよ。ナギさんから」
「やっぱり仕事早いわねナギは。そっちは?」
「こっちはミノルさんからですね」
私宛の手紙か、一体どんな。
「っ!?」
私はその手紙を見た瞬間リドルの手から奪い取る。
「ミノルさん?」
「ご、ごめんなさい。友達からだから、見られるの恥ずかしくって。早く中入りましょう」
私はリドルに言及される前に急いで家の中に入って行った。




