その四 生命線
「みんな準備は良い?!」
「バッチリじゃ!」
「僕も準備万端です。いつでも出発できますよ」
今私達は雪原に行く為の準備を終えてある扉の前に立っていた。
今回の目的地は極寒の地の為コウバでの移動は不可能。
その為一瞬でその場所に行けるテレポートのドアで雪原に向かう必要があった。
「本日のご利用ありがとうございます。こちらが戻るのに必要な機器です」
四角いねずみ色のボタンだけがある機械を渡された。
ここは旅飛びという店で、魔法協会にもあるテレポートの扉を改良した扉が置いてあるお店だ。
ここから少し遠い場所や普通じゃいけない場所に行くのに便利な店でもある。
場所によっては値は張るが、こういう時には便利なお店ね。
「それは1度しか使えません。2回目以降は1回に付き1万ガルアですから気をつけてください」
「分かりました。それじゃあ行きましょ」
私は説明をしっかり聞いてから、その機器をポケットに入れる。
「よし!ついに雪原に行くのじゃな!何かワクワクしてきたのう」
「そんな気持ちは最初だけですから、すぐに帰りたいって言い始めますよ」
「そんな事はないぞ。妾は子供じゃないのじゃ」
すると店の人が扉に何かカードをかざした。
扉についてる名札に雪原と文字が浮かびだした。
「準備完了しました。それでは行ってらっしゃいませ」
そう言って扉を開ける。
ここを通ればすぐに雪原に行けるのね。
「よし、それじゃあ行くわよ」
そして私達は扉の中に入って行った。
―――――――――――
目の前に光が包まれ、そして気が付くと既に私達は吹雪の中に居た。
「寒いわね……さすが雪原。普通の格好で行ったら一瞬で凍死してたわ」
雪原用の服の下にも色々着込んでいるのに寒いなんて、やっぱりちゃんと準備しといて良かったわ。
「すごいのじゃ!雪なのじゃ!真っ白なのじゃ!」
デビちゃんは、私とは対照的に初めての雪なのか興奮して、その周りを走り回る。
「ちょっとデビちゃん!近くに居て、視界が悪いからはぐれたら終わりよ!」
「とりあえずテントを張りましょう!それからモンスターを探しに行きましょう!」
「そうね!」
あまりの吹雪に互いに大声を出さないと聞こえないわね。
私は早速持っていたバックを降ろし、中からテントを取り出す。
雪原の吹雪にも負けない程頑丈なこのテントなら、壊れる心配はないはず。
そして、テントをしっかりと張って寝床を確保する。
「ふぅ……これで完成ね。意外と大きいわね。これなら3人入ったとしても余裕がありそうよ」
「じゃあ妾が先に入るのじゃー!」
そう言ってテントの中にダイブして入って行った。
「こら!ゆっくり入りなさい。リドル先良いわよ」
「それじゃあお言葉に甘えて失礼します」
リドルが入ったのを確認して私は辺りを見渡してから中に入った。
中は温かく外としっかり遮断している為雪が入ることもない。
特殊な穴が空いていて中の空気と外の空気を入れ替えることが出来るので、空気の循環もバッチリ。
「うぅ…、やっぱり寒いわね。ちゃんと準備しといて良かったわ」
「妾はまだ全然大丈夫じゃ。いつでも探しに行けるぞ」
「まぁまぁここは一旦作戦会議をしましょうか」
リドルの言う通り作戦会議をするために私は今回捕まえるモンスターの特徴が描かれた紙を床に敷く。
「今回捕まえるモンスターはホワイトケビンよ。このモンスターは群れを成して行動するから、1体居れば10体は居るって言われてるわ」
「とりあえず1体見つける事が大事ですね」
「そのモンスターはどうやって探すのじゃ?」
「ふっエサでおびき寄せるのよ」
するとデビがキョトンとした顔で首を横に傾げる。
「エサ?エサなんて持ってきてたか?」
「ホワイトケビンの好物は氷よ。それもただの氷じゃなくて、ツララネズミの氷が大好物なの。そいつは冷えた場所にしか生息してないから、現地で取るわよ」
「まさか、そやつを今から倒しに行くのか?」
「そういうことよ。よし、とりあえず今日はエサを取るわよ」
私はバックを肩にかける。
バックにはモンスターを倒す為の道具が一通り入っている。
そのお金も馬鹿にならず、大分スッカラカンになっちゃったけどね。
でも、ガルア様なら報酬は期待出来るはず。
だから結果的にプラスよね。
「ミノルさんそれじゃあ早速行きましょうか」
「え?あ、そうね」
「初めての雪での戦闘、ワクワクするのう!」
そして私達は再び吹雪の世界に入って行った。
―――――――――――
「あれから何時間たった〜?」
「2時間位ですかね」
「ミノル〜リドル〜疲れたのじゃー」
私達は吹雪の中、ツララネズミを探していたのだが中々見つからず彷徨っていた。
「これ以上は危険かもね。吹雪も強くなって来るし、前も見えにくいからモンスターも分からないしね」
「早く帰ろうよ〜。お腹が空いたのじゃ〜」
デビちゃんはグズってきたし、吹雪は強くなってきたし、そろそろ潮時かもね。
それにこの吹雪の中じゃ今は、モンスターも寝床に隠れちゃってるかもしれないわね。
「帰りましょうか、テントに」
「やったー!って、でもどうやって帰るのじゃ?テントの場所は分かるのか?」
「大丈夫よ。こんな時こそ、これよ!」
そう言って私はバックから緑色のライトを取り出した。
「何じゃそれは?」
「これは道標ライトですよ。これを使えばテントの場所が分かるんです」
「そういう事。このボタンを押せば」
私がボタンを押すと緑色に光って1本の線が前方に伸びって言った。
「何じゃなんじゃ!?この光は何なのじゃ?」
「実はテントの所にもう1個ライトが置いてあるの。そのライトに向かってこっちのライトが光ってるのよ」
「つまりこの繋がってる線に沿って帰ればテントに戻ってこれるという事じゃな!凄いのじゃ!妾に貸してくれ!」
そう言ってデビちゃんが私の持ってるライトを欲しそうに見つめる。
「分かったわ。でも、絶対に壊しちゃだめよ。それは言わば私達の生命線何だからね」
「分かってるぞ。妾に任せておけ」
デビちゃん少し危なっかしい所あるから、心配だけど多分大丈夫よね。
私はそのライトをデビちゃんに渡して早速その光を辿っていく。
「ずっと持ってると手が疲れるのう。そうだ!頭の上に乗せればバランスも取って暇にもならないかもしれん」
大丈夫よね?
「デビさん、そんな事をしたら1週間はご飯抜きですからね」
「よし!しっかり手で持って行くぞ!」
まあかつと喧嘩したりしてやらかしちゃうって事が多いから、かつが居ない分デビちゃんも大人しいでしょう。
まあそれは寂しいって言うことだとも思うけどね。
かつ、今頃どうしてるかな?
バリーン!
「え?」
「あ…」
「やっちまいましたね」
こうして生命線が絶たれた。




