その二 モンスター専門の人
「ただいま〜ってデビちゃん!もう帰ってきてたの」
屋敷の扉を開けると既に家の中に机にうつ伏しているデビちゃんの姿があった。
デビちゃんは顔だけあげるとこちらを見てくる。
「お主らも帰ってきたのか」
「実家に帰ったんじゃ無いんですか?」
その言葉に対してデビちゃんは首を降る。
その表情は実家に帰った人の顔では無く、何か良くないことが起こった様な疲れた表情をしていた。
「ちょっと色々あって、帰れなかったのじゃ」
「そうだったの。それじゃあ今日は1日暇になったってことね」
「まあそういうことじゃのう」
少し歯切れの悪いような気がするけど今はガルア様の方を優先しないと。
私は早速3枚の紙を机に置く。
それは先程ガルア様から貰った、モンスターの討伐書だ。
デビちゃんは何気なくその一枚を手に取る。
「何じゃこれ?」
「さっきガルア様からこのモンスターを倒してほしいって依頼を受けたのよ」
「分かりやすく言えば個人依頼ですね」
「つまりこのモンスターを倒しに今から行くのか?」
デビちゃんは虚ろな目でその紙を見る。
「そうよ、でもそのモンスターはとてつもなくレアなモンスターで中々姿を現さないのよ。だから今日は色々準備をするわ」
「あんまり強そうには見えないのう」
「まあそこまで強くは無いわね」
「やっぱり強くないんじゃな………」
強いモンスターじゃないからなのか、デビちゃんはやる気が無さそうね。
よし、ここはデビちゃんのやる気を出させるしかないか。
「そう言えばガルア様が、材料として使わない部位は好きに使って良いって言ってたわよ。このモンスターって肉とかもかなり美味しくて、食べたらほっぺたが落っこちるって、言われてる程なのよ」
「よし!早速準備に取り掛かるぞ!」
デビちゃんは全身にやる気を漲らせて立ち上がる。
分かりやすいくらい元気になったわね。
するとリドルが私の肩をポンポンと叩く。
「ミノルさん、ガルア様そんな事言ってましたっけ?」
「言ってないわよ。でも、これくらい言わなきゃデビちゃんやる気出さないからね」
「ご飯の事となると、デビさん目の色が別人みたいに変わりますからね」
確かに先程のデビちゃんの顔色は暗く、元気も無かったが、今は明るく、元気一杯だ。
本当に食べるのが好きなのね。
「とりあえず先ずはこのモンスターの居場所を探りましょう」
「探るってそのモンスターの出現場所はもう分かってますよね?」
「確かに出現する場所は分かってるけどピンポイントでそこに来るわけじゃないでしょう。出現するって言ってもその範囲は広い。だから、絶対にここに来るって場所を調べるわよ」
「どうやって調べるのじゃ?」
「専門の人に聞きに行くのよ」
―――――――――――――――――
ある店のなかに入ると、その店の店主が私を見るなり笑みを浮かべた。
「ひっさしぶりー!ミノル!!」
元気一杯の声で私を抱き締めてくるのは、昔ながらの友人だ。
「久しぶりねナギ!元気にしてた」
私も同じ様にナギを抱きしめる。
軽い挨拶を終えるとそのまま体を離す。
「いや、それが最近大変でね。昨日なんか私、ご飯食べに言って帰ろうと思ったら、財布忘れちゃってね。お金を払えないなら働け!って言われちゃって1日中無給で働かされたんだから。もう指が皿洗いのし過ぎでふにゃふにゃよ」
そう言ってナギはふにゃふにゃなったであろう指を見せてくる。
「相変わらずあんたは運が無いわね」
「あの……」
するとリドルは気まずそうに声をあげる。
「あー、自己紹介するわね。この人は私の友達のナギよ。ナギ、この人達は私のパーティーメンバーのリドルとデビよ」
「よろしくお願いしますナギさん」
「よろしくなのじゃ」
するとナギは二人の方に視線を移すとジロジロと興味深そうに見る。
それからナギは満面の笑みを見せる。
「よろしくねー!そっか2人がミノルのパーティーメンバーか。うんうん、いい人そうで良かったわ。ミノルの事だから、変な人達とパーティー組んでると思ってた」
「変なパーティーってどういうことよ。ていうか今日はこんな話をしに来たんじゃないのよ。調べて欲しいモンスターがいるの」
「もしかしてナギさんって……」
「そう言えばまだ私が何者か話して無かったわね」
するとナギはニヤリと笑い自分の胸に手を当てる。
「私はモンスター専門の仕事をしているの!そして、モンスター専門店の店長でもあるのよ!」
そう言って自信満々に胸を張る。
「そんな大層な肩書じゃないでしょ」
「ちょっと!空気読みなさいよ!すごいって思わせたいでしょう」
初対面相手に好印象を持たせたいからって、嘘はよくないでしょ。
「まあでも、モンスターはまだまだ未知の生物ですし。それを詳しく知るってのも凄いことですよね」
「でしょでしょ!ほら、リドル君はちゃんと私の凄さを分かってくれてるわよ」
そう言って興奮気味にリドルの肩を叩く。
リドルは何かすごい嫌な顔をしているわね。
「はいはい分かったわよ。それよりこのモンスターを調べて欲しいんだけど」
私は早速、ポケットから3体のモンスター討伐書を見せる。
「仕事しろって事ね。分かったわよ。このモンスターね」
ナギは早速紙を受け取りじっくりそれを見る。
「あんた達結構難しいモンスター探そうとしてるわね。しかも3体共発見難易度高すぎるし、一体誰がこんな事、依頼したのよ」
「他人の事情には口を挟まないんでしょ」
「そうでした。ちょっと待っててね」
そう言ってナギは奥の部屋に行ってしまった。
するとリドルはほっと一息突く。
「明るい方ですね」
「そうね。あの明るさは見習いたいわね」
「妾も明るさなら誰にも負けないぞ!おりゃー!」
突如デビちゃんは大声をあげると、店の中を駆け回る。
私はすぐにデビちゃんを捕まえて、それをやめさせる。
「そういう事じゃないんだけどね」
「デビさん、それは明るい人では無くやばい人です」
「妾はやばくない!」
「お待たせー!」
戻ってきたナギの手には本と茶菓子を持っていた。
「はい、これくらいのおもてなししか出来ないけど。まあくつろいどいて」
「わあ、お菓子なのじゃ!」
デビちゃんは私の手から抜け出すと子供の様に嬉しそうにお菓子を食べる。
ああいうところは本当に無邪気な子供ね。
するとナギはこそこそとこちらに話しかけてくる
「あの子、見た目から思ってたけど子供よね。一緒に戦って大丈夫なの?」
ナギは心配そうにデビちゃんのことを見る。
確かにデビちゃんの見た目はただの子供ね。
「大丈夫よ。ああ見えて、デビちゃん強いから」
「そうなの。ま、ミノルのパーティーだし、私は何も口出ししないわ。それよりこのモンスターの事なんだけど」
「詳しい居場所、分かったんですか?」
「まあ大体の的は絞れたわね。例えばこのホワイトケビンね。白い毛に覆われて冬場になると姿を見かけるのは多いんだけど今の時期は夏で姿を全く現さないわ」
「じゃあどうやったら出会えるの」
するとナギは地図を広げる。
「実はこのホワイトケビンある場所に大量に居るって言われてるの。それがこの雪原よ」
雪原にいるモンスターか。
「ここって確か1年中雪が降るって言われてる場所よね」
「そうなのそうなの、この場所だったら気温もバッチリ、ホワイトケビンが好む雪がずっと振り続ける。こんな最高な場所に居ないわけ無いでしょ。今の時期ならここ以外考えられないわ」
「確かにそうですけど、ここって猛吹雪でまともに身動きが取れないと聞きますが」
そう、これは別名死の雪と呼ばれ、この雪原に入ればすぐに体が寒さで言う事が効かなくなり死ぬって言われてる。
「ま、行くにはそれなりの覚悟は必要なのは事実ね。ていうかまじで死ぬ可能性あるからオススメはしないわ」
「大丈夫よナギ。私達だって一応プロの魔法使いなんだから。ちゃんと入念に準備するわよ」
さすがに雪原ともなると用意周到にいかなきゃダメよね。
「それはどうかな〜。ミノルって意外とおっちょこちょいだから。昔、ケチャップと間違えてオムライスにタバスコかけて大惨事になったじゃない」
「なっ!?そ、それなら昔、寝ぼけてナギ下着のまま買い出しに―――――――」
「きゃあぁぁ!!わぁーわぁー!あんた何言ってんのよ!嘘だから!全部嘘でぇーす!」
顔を真っ赤にさせたナギは必死に私の口を押さえにかかる。
私はその手を振り払い恥ずかしそうにしているナギに注意をする。
「私の事をそうやってすぐに話そうとするからよ」
「ミノルって意外と意地悪だよね」
「このホワイトケビンは美味しいのか?」
するとお菓子を食べ終わったデビがこちらの話に入って来た。
ナギは気を取り直してその疑問に応える。
「ホワイトケビンは確か美味しいわよ。革も服とか色々な用途に使えるしね。にしてもデビちゃんだっけ?可愛いわねぇ〜」
ナギは甘い声を出してデビちゃんの頭を撫でる。
「そうでしょ!私も好きなのよこのモチモチ肌とか」
その言葉に同調してデビちゃんの頬を指で突く。
「ええい!鬱陶しい!妾は子供では無い!」
そう言って逃げるようにデビちゃんは私達の元から離れる。
「あれ?もしかして怒らせちゃった?」
「大丈夫よ。恥ずかしがってるだけだから」
「そうなんだ。尚更かわいいわねぇ〜」
「他のモンスターはどうなんですか?」
リドルが本題に入らせる為に話題を変える。
「あっ!他のモンスターね。それはまだ分からないのよね。ちょっと時間をくれれば分かると思うんだけど……時間無いよね?」
「だったらその間に雪原に行きましょうか。そうすれば戻った時にちょうどいいんじゃない?」
「ごめんねミノル。出来るだけ早く知らせるから」
「ナギは自分のペースでいいから。それじゃあまた来るわね」
私はそう言ってお茶を一気に飲み干す。
「ふぅ……それじゃあデビちゃん行くわよ」
「分かったのじゃ」
「ありがとうございました」
「それじゃあね。デビちゃんもまた来てね」
「うっ!早く帰るぞミノル!」
デビは急いで私の背中を押す。
「じゃあまた今度ね!」
「じゃあねぇー!」
そう言って私は扉を締めた。




