その二十五 暗記の修業
「魔法は想像力が大事じゃ。もうこの事は何回も言っていると思うが何度も頭に叩きつけておけ」
「はい!」
俺たちは今、皆で机を囲み朝食を食べていた。
筋肉をつけると言う課題をクリアし、一先ず早起きせずに済んでいるが、こっから魔法陣を覚えると言うメインの修業に入ろうとしていた。
「あんたに魔法陣なんて覚えられるの?」
そう言って俺の作ったお味噌汁を啜る。
朝夜のご飯を任せられてから俺も意外と料理スキルが上がっている。
今では普通に朝ご飯を作れるようにもなっている。
「覚えるだけでいいんだろ?それだったら大丈夫だ。受験の追い込みみたいなもんだろ」
懐かしいな、受験前日に勉強してる所が全く違うと言う事実に気付き夜通しやってたな。
「朝食を食べ終わったらすぐに行くぞ。かつは魔法陣を1つ覚えるまで、他の魔法陣を覚えるなよ。1つの魔法陣を完璧に覚えたら次の魔法陣に、移っても良い」
「分かりました。ぱぱっと覚えて、すぐに魔法を使えるように頑張ります」
「ふっ、そう簡単にいくかのう?」
そう言ってダリ師匠は不敵な笑みを浮かべた。
この後魔法陣を覚えるという事がどれだけ苦痛なことか知る事になった。
―――――――――――――
俺達はいつもの図書館にやって来ていた。
ダリ師匠が複数の本を机の上に置く。
「これが魔法陣の本じゃ。これだけあればお主が持ってる魔法もあるだろ。魔法許可証に載ってる魔法は全部覚えてもらうぞ。それじゃあな」
「あの!覚えるコツとか無いんですか?」
一応こういう事は聞いておいたほうがいいだろう。
「覚える方法は人それぞれじゃ。自分なりのやり方を見つけろ」
そう言ってダリ師匠は行ってしまった。
自分なりの方法か…………
「先ずは1つ覚えるか」
俺はとりあえず自分がよく使っているファイヤの魔法陣を見る。
「う〜ん、やっぱりレベル1の基礎魔法だからか、他の魔法陣と比べて結構単純だな。これなら覚えられそうだな」
俺はまず最初に魔法陣を頭に叩き込む。
この魔法陣を空中に出現させる想像をしなきゃいけないという事は、完璧に全く同じ形で覚えなければいけない。
なんとなくでは駄目なんだ。
「何か覚えられたような気がするな。1回紙に描いてみるか」
俺は紙にファイヤの魔法陣を描く。
「よし、多分これで合ってるだろ。早速本物と見比べるか」
俺は早速今描いた紙と見本を見比べる。
意外と完璧な気がする。
「俺これ1発で覚えられたんじゃないか!?」
まさか意外と俺、記憶力良いのか!?
「これじゃ駄目よ」
するとサクラが俺が描いた紙を勝手に取る。
「駄目ってどういうことだよ」
「形、大きさ、長さ、どれも全然合ってないじゃない。こんなんじゃ魔法を空中に展開できないわよ」
「はっ!?いやいや、そこまでしなくてもいいだろ」
「そこまでしなきゃ出来ないのよ。完璧に覚えろって言われたでしょ。はいっやり直し」
そう言って紙を投げ捨てる。
「まじかよ………」
俺は再び魔法陣を頭に叩き込む。
全てが同じにしなければいけないとか、これ無理じゃね?
単純に考えて、そんな精密な記憶できないだろ。
「まあでも、やるしか無いか」
多少一筋縄ではいかないことくらい想定済みだ。
これくらいで心が折れるわけにはいかない。
「サクラ、見本と合ってるかどうか審査してくれないか?」
「元々、そのつもりよ」
そう言って俺の隣の席に座る。
「それじゃあ早速また覚えたから審査してくれ」
俺はまた紙に描いてサクラに見せる。
「全然駄目。まずこんな模様じゃないし。やり直し」
またあっさりサクラに紙を突き返される。
そして、また俺は本を穴が開くほど見る。
「よし、これでどうだ!?」
「全体的にバランス悪すぎ」
「じゃあこれは!?」
「線が円からはみ出てる」
「これは!?」
「線が乱れてどうなってるのか分かんない」
「どうだ!?」
「全然丸くないし潰れてる」
「これでどうだーーー!!!」
「線も短いし、丸くもないし、ていうか模様足りないし、まず論外よ!」
「図書館では静かにしなさい!!」
「…………………」
こうして、図書館司書とサクラに怒られ続け今日の修業は終わった。
―――――――――――――――
「ああ……疲れた………」
俺は今日1日の疲れを風呂で癒やす。
「サクラ、あいつ厳しすぎんだろ。線が1ミリでもずれてたら怒るし、そんなの無理に決まってんだろ」
まあ、こんな事言ったらまたサクラに怒られるから本人には言えないんだけどな。
「明日も頑張るか………」
そんな事を呟き、俺はお風呂を出た。
だがその後も、俺はサクラに怒られ続けるだけで全く合格を貰えることは出来なかった。
1ヶ月後
「線が長いわね。それに丸の大きさも小さいし、やり直し」
俺はこの1ヶ月間怒られ続け、全く合格を貰えないストレスが今限界に達した。
「やり直しやり直しやり直しやり直しやり直し、うるさーーい!!!!」
俺は限界になったストレスを一気に爆発させた。
「こんなのほぼ変わんないだろ!?見本と見比べても全く一緒だ!遜色ないぞ!これの何処が駄目なんだよ!!」
俺は今まで溜まってた不満を全部ぶつけてやった。
するとサクラは俺を見ると椅子からスッと立ち上がる。
「あっそ、じゃあそれでいいんじゃない?」
そう言ってサクラは図書館を出てってしまった。
「あ、あの〜」
すると胸に図書館管理員と書かれた名札を付けてる女の人が、困った様子でこちらに話しかけて来た。
あっやべ。
「あっすいません。静かにします」
何だよ、あいつ。
俺は気持ちが収まらないまま本を読み始める。
すると横に誰かが座った。
「修業は順調か?」
「ダリ師匠……見てましたよね。ご覧のとおり最悪ですよ。俺から見てくれって頼んだくせにあんな事言ってしまったし、でも、サクラだって悪いだろ。これが違うなんて、そんな訳無いのに……」
「試してみるか?」
「え?」
「お主が正しいか、サクラが正しいか。試してみるか?」
―――――――――――
「ここらへんでいいぞ!」
俺はダリ師匠に連れられて森の中に来ていた。
「どこでも良い!魔法陣を展開させて1本木を倒してみろ」
「分かりました!」
初めての魔法展開。
上手く行くのか?
いや、ずっとあの魔法陣を頭に叩き込んできたんだ。
出来るはずだ!
「行きます!」
集中して、頭の中で想像する。
………見えた!
「魔法展開!!」
だが、どこにも魔法陣が現れなかった。
「な、何で?」
「お主はちゃんと頭の中でイメージ出来ておる」
「で、出来てるんですか?じゃあ何で」
「そのイメージしている魔法陣自体が違うからじゃ。魔法陣は魔法の力を高める物。とても重要な分取得も難しい。だから、生半可な覚悟でやろうとすれば費やした時間全てを無駄にするだろう」
「っ!?…………すいません。甘く見てました。たかが魔法陣、覚えるだけなら楽勝だってそう思ってました」
俺はダリ師匠に深く頭を下げる。
「強くなろうと思わなければここまでは出来ん。お主は強い。だがまだ誘惑に負けやすい。強くなれ、大切な物を守る為に」
「はいっ!!」
「早く行ってやれ」
「えっ?何がですか」
「頭を下げるべき者はわしじゃないだろ」
その言葉で俺はハッとなる。
「本当に……ありがとうございました」
俺はその場を離れ、ある場所に向かった。
――――――――――――
「よっ!やっぱりここに居たのか」
俺はサクラのお気に入りの場所に来ていた。
そして案の定体操座りでサクラは湖を見つめていた。
「なんで来たのよあんた」
サクラはこちらをゴミを見るような目で見つめる。
「そんな目で見るなよ。一応謝りに来たんだから」
「あっそう。別に怒ってないわよ」
明らかに怒ってるけどな。
俺はサクラの隣に座る。
するとサクラは1人分横にずれる。
何か少し傷つくな。
「ありがとな、こんな俺に付き合ってくれて。それなのに俺、全然成果出せなくて情けないよ。ごめんな、無駄な時間過ごさせちゃって」
するとサクラが不意にこちらを見る。
「あんたみたいな奴が、そんな事を言うなんてね。でも、別に無駄な時間じゃ無かったわ」
「へっ?」
「無駄な時間なんて無い。私にとって一瞬一瞬が大切な時間だし。無駄って思う方が1番の無駄だしね」
「……そうか、何かお前って凄いやつだな」
「あんたが何も考えなさ過ぎなのよ」
こいつ、急に毒舌吐くよな。
するとサクラがこちらの方を向く。
「あんた、まだ修業続けるの?」
「ああ、だからまた手伝ってくれないか?今度はもう文句は絶対言わないから」
するとサクラはしばらく黙ったまま立ち上がる。
「帰りましょう。あんたも来ちゃったし、何か気分落ち込んだしね」
「おい、それは一体どういう意味だ」
「何でも無いから〜」
「いやいや、絶対何かあるだろ!」
――――――――――――
「お腹空いたから私ガッツリ食べたいんだけど」
「分かったよ。……っ!?」
俺は、家の角にサクラを引っ張って身を隠す。
「ちょっ!いきなり何すんのよ」
「しっ!静かに」
俺は顔だけ少し出す。
するとサクラも同じ様に顔を出す。
その視線の先には見慣れた人影があった。
「あれってあんたのパーティーメンバー?まさかその為に隠れたの?」
「あいつらとは強くなってから会おうって約束してるからな」
あいつらは……よしっ行ったな。
危ねぇまさかこんな所で出くわしそうになるとわ。
早朝と深夜にしか外出てないから会うことはないと思ってたけど、この町にいる以上出くわす可能性もあるのか。
今度からもうちょっと注意して出歩くか。
「よし、あいつらも行ったことだし。帰ろうぜ」
するとサクラは動かずその場で立ち止まる。
「どうしたサクラ?腹減ったんだろ?」
「あんた、どうしてそんな強くなろうとしてるの?」
突然のサクラの疑問に少し戸惑う。
「どうしてってそりゃ……この世界で生き残る為には強くならなきゃいけないから」
「正直言って魔法陣なんて覚えなくても、あんたにはインパクトって言う強力な魔法もあるんだし、ある程度のモンスターは倒せるだろうし、生活には困らないと思うけど」
確かにサクラの言ってる事はその通りだと思う。
でも………
「そりゃあ生活には困らないと思うよ。でも、そういう問題じゃないんだよ。俺には戦わなきゃいけない相手がいるんだよ。それも、自分で選んだ道だからなおさら引き返せない」
「そこまで修業しなきゃ勝てないの?」
「正直言ってここまでも修業しても勝てないかもしれない。でも、修業しなきゃなおさら勝てない。もう足手まといになるのは嫌なんだよ。勝てないかもしれないけど、せめて守れるくらいの事は出来るようになりたいからさ」
俺は、少し恥ずかしくなり頬を掻く。
するとサクラがクスッと笑みを浮かべる。
「そう言うの嫌いじゃないわ」
あれ?何気にサクラが俺と一緒の時に笑うの初めてなんじゃ。
「それじゃあ早速、帰ってご飯作ってよね!」
「ああ……」
後何日で修業が終わるか分からない、だからこそ、1日1日を大切にして行こう。




