その二十四 努力結果
「ふぅ……朝か」
俺は布団から出て朝の支度をする。
起きた時間は午前3時。
朝風呂や歯磨きなど準備をしていたらすでに午前4時になっていた。
「よし、行くか」
俺が向かった先は山では無く扉の前だった。
俺はその扉を2回叩く。
返事は無い、つまり寝ているという事だ。
俺は躊躇なくドアを開ける。
その部屋がサクラの部屋だとしても。
中はそこまで物はなく本や服、そして机がある位で女の子の部屋とは思えなかった。
その部屋の真ん中でサクラはスヤスヤと布団で寝ていた。
「黙ってると可愛いんだけどな……」
俺はそんな事を呟きサクラの所に近づいていく。
「おい、サクラ。起きろー朝だぞー」
俺はサクラを起こす為体を揺らす。
「う、うぅ……なぁに………」
するとサクラは眠たそうに目を開ける。
そして俺とバッチリと目があった。
だがまだ寝ぼけてるのか焦点が合ってない。
「おはよう、サクラ」
俺が朝の挨拶をすると目の焦点が合い、見開く。
「きゃあぁぁぁ!!!」
「ぐべばっ!?」
そして俺は顎に華麗な足蹴りを喰らった。
―――――――――――
俺は痛む顎をさすりながらサクラの部屋で起きたサクラと対峙していた。
「痛ってえ……普通、起こしに来た奴を蹴り飛ばすか」
「あんたが勝手に私の部屋に入るからでしょ!何しに来たのよ正直に言いなさい!」
そう言って、サクラは興奮気味に俺の胸ぐらを掴む。
「ちょ、ちょっと待て!落ち着けって!別にやましい気持があって入ったわけじゃないから!」
「じゃあ他にどんな理由があって私の部屋に入って来たのよ」
まずいこのままではまだ殴り飛ばされかねない!
「付き合ってほしいからだよ!」
「へっ!?」
その瞬間、サクラは胸ぐらを掴む手を離し、俺はその勢いで地面に尻もちをつく。
「痛った!急に離すなよ……」
俺は痛めた尻を擦る。
「あ、あんた何言ってんのよ!ほ、本気なの!?」
「本気に決まってんだろ。何で嘘つかなきゃいけないんだよ」
こいつは一体何を言ってるんだ。
わざわざ冗談言ってあんな目に合うわけがないだろう。
すると何故かサクラは慌てた様子で言葉を発する。
「で、でも、あんたは私の事嫌いじゃなかったの?」
「は?好きとか嫌いとか関係ないだろ」
「なっ!?ほほほほほ本当に言ってんの!?私何かで本当に良いの?」
な、何だ。
何かものすごく動揺してないか。
「お前だからいいんだろ。お前じゃなきゃ駄目なんだ!」
「――――――っ!?……わ、分かったわ。あんたがそう思ってくれてるなら付き合ってあげてもいいわよ」
「本当か!?やったー!良かったよ、お前の事だから断られるかと思ったよ」
サクラの思わぬ回答に俺はほっと胸をなでおろす。
何か様子が変だったがひとまず安心だな。
「あんな事言われたら断れるわけ無いじゃない」
そんなに俺いいこと言ったのか?
でも、俺の強くなりたいって気持ちがしっかり伝わったってことか。
「よし、それじゃあ早速行こうぜ。時間が勿体無い」
「へっ!?いきなり!ちょ、ちょっと待って!まだ準備が」
「そんな事しなくて大丈夫だから、早く行くぞ」
俺は早く行きたいあまりにもたもたしているサクラの手を掴む。
「へっ!?ちょ、かつ!あんたって意外と大胆なのね」
「は?とりあえず早く行くぞ」
俺はサクラと一緒に道場を後にした。
――――――――――――――
俺とサクラは目の前にそびえたつタケノコ山を見上げていた。
「この山を早く1周1分で切れるようにしないとな。指導頼むぜサクラ!」
「付き合ってほしいって、まさか山登りの修業の事」
「ああ、そうだけど。それ以外何かあるか」
「ははは……はははは……数時間前の私を蹴り飛ばしに行きたいわ」
何だ?サクラが何故か死んだ様な目をしている様な。
「おいおい、まさか今更無しとか言うなよ。俺だって本気で強くなりたいんだから」
「分かったわ。こうなったらとことんやってやるわよ」
するとサクラの雰囲気が突如変化した。
なんだ?物凄い怒りを感じるような……
「今から地獄の特訓をしてもらうわよ!泣き喚いても、やめたいって言っても死にそうになっても修業は続ける!だけどその覚悟が無いならやめてもらうわ!さあやる!?やらない!どっち!」
何か物凄い怒気を感じるんですけど。
でも、やる気出してくれたって事だよな。
「ああ、どんな修業でも耐えてみせる!」
するとサクラが不気味な笑みを見せる。
「それじゃあ早速、始めるわよ!!」
―――――――――――――――――
「あぁ……死ぬ……」
「遅かったな。また玄関で寝てる様だが図書館も行かずに何しておったのじゃ?」
「ちょ、ちょっと修業を……」
するとサクラが倒れてる俺の横を平然と通る。
「サクラが指導したのか?」
「そうだよおじいちゃん。これが私の教え方。駄目ならやめるけど」
「いや、それでいい。そいつを布団まで運んでやってやれ」
そう言ってダリ師匠は行ってしまった。
「はあ……何で私がこんな事しなきゃいけないのよ」
サクラは文句を言いながら渋々俺を布団まで運ぶのだった。
―――――――――――――――
「もうちょっと足動かしなさいよ!筋肉無いのかあんたわ!」
「はいっ!」
「無駄な動きが多いって言ってんでしょ!馬鹿ですか!?」
「はいっ!」
「何回言えば分かんのよ!切り替えが遅いのよ!腰をしっかり回転させて動きなさいよ!!ボンドで固まってんのかあんたの体は!」
「はいっ!」
俺はサクラに地獄の特訓をされていた。
これが本当にきつくて1つ1つの動きに駄目出しをされ、1つでも教えた事をやらなければ1周目からやり直されてしまう。
血反吐何か吐くのは当たり前、意識を失いそうになったことが何度あったことか。
だがサクラはそんな俺にも厳しい口調をする正に鬼教官だ。
「だから何でそこから登ろうとするのよ!無駄な体力削って楽しいですか?ドMなんですか!」
「はいっ!」
すると俺が足を掛けようとしてた足場がその場で崩れる。
「うわっ!?」
俺は突然の事でなす術は無くそのまま転げ落ちる。
「いててて……うわっ!?」
その時サクラが仁王立ちでこちらを見下ろしていた。
「何で別の足場に飛ばなかったの?」
「い、いきなりの事だったからそんな余裕無くて――――」
するとサクラは胸倉を掴み倒れていた俺を無理矢理引っ張る。
「崩れたら別の足場に飛べばいいでしょ!!ノロマじゃないんだからそれ位やりなさいよ!」
そう言って、そのまま投げ飛ばされる。
やばい、マジで辛いんですけど。
「あんた、全然教えた事を守らないわね」
「そ、それは……」
「足場の悪い所には行くし、無駄な動きで体力削るし、1歩から次の足を出すのも遅いし、何より脚力と柔軟性が皆無。戦いに使うならなおさら必要なことよ!やる気あるの?」
「あります!!」
「じゃ、もう1回私が言った通りに山登りしてきて」
そう言ってサクラは山の方を指差す。
「はいっ!」
俺は言う通りにサクラから教えてもらった事を意識して山登りを始める。
それから俺は数10分でスタート地点に戻って来た。
「ど、どうでしたか?」
タイムとにらめっこしていたサクラが首を横に降る。
「全然駄目。私が教えた通りにやれば1周30秒で着けるはずよ。あんたまた教えた事守ってないわね」
「す、すいません!!」
「謝るのも時間の無駄。その場で足踏み1000回!」
「はいっ!」
「半獣は人間よりも身体能力が高いの!鍛えればすぐに速くなれる!だけどあんたは速くなるだけじゃ駄目なの!強くなる為にやってんだったらもっと気合入れなさい!!」
「はいっ!」
―――――――――――
その夜俺はいつも通り地獄の修業を終え、別の修業をする為に外に出ていた。
足の事はサクラの修業で出来るとして体の筋肉は自分でやるしか無い。
でも、素人が鍛えてもそれまでで、本格的に強くなるには本格的な奴に頼むしか無い。
だからあいつが修行している森に来たんだ。
「久しぶりだな絶対かつ。俺に頼みたい事があるとはどういう事かな?」
「俺を鍛えてくれないか?」
筋肉を付けるなら筋肉野郎だ!
俺はハムスに土下座してお願いした。
「ふっふ〜ん、どうやら並々ならぬ事情があるようだな。いいだろう!俺がお前を最高のマッスルモンスターに変えてやろう!!」
「お願いします!!」
俺はそのままハムスの後をついて行く。
すると早速大岩が出て来た。
「強くなると言っても具体的な目標が無ければならない。お前の最終課題はこの大岩を素手で壊せる様になる事だ!」
素手で大岩を割る。
普通に考えれば無理な話だが今更そんな事言ってる場合じゃない!
やれるもんは全部やってやる。
強くならなきゃいけないんだ!
「分かりました!!必ず割って見せます!」
「よし!その粋だ!ふっふ〜ん、なら今から打ち込みの練習だ!」
俺は拳を握りそのまま勢いよく突く。
強くなるんだ
「足を動かすな!腰を軸にして全体重を拳に乗せろ!!」
強くなるんだ!
「姿勢は崩さない!崩しそうになっても耐えなさい!!」
強くなるんだ!!
「おいおい、そんなもんか!もっと行けるだろ!!お前の筋肉はまだまだ成長するだろ!!」
強くなるんだ!!!
「死ぬ気で走れーー!!」
強くなるんだ!!!!
――――――――――――
それから3ヶ月後
「それじゃあ行くわよ」
俺は足踏みをして、高くそびえ立つ山の頂上を見る。
「よーい、スタート!!!」
無駄な動きはせず滑らかに、呼吸は乱さず常に冷静に瞬時に適当な足場を見つけしっかり踏み込み蹴る。
そして、姿勢は崩さず常に前のめり。
足場が崩れそうになっても、すぐに次の足場に足を置き体勢を整える!!
そして10周を終えサクラの元に行く。
「タイムは!?」
するとサクラは微笑んだ。
「4分11秒よ」
「よっしゃあああ!!!」
俺はその場でガッツポーズをする。
遂にやったんだ、5分切った!
「まさか、本当にやるとわね。恐れ入ったわ」
「ありがとなサクラ。最後まで付き合ってくれて」
俺はサクラに頭を下げてお礼をする。
「別に私はただおじいちゃんに言われてやっただけだし。お礼ならおじいちゃんに言えば」
「へ?それどう言うことだ?」
「あんたが私の部屋に来る前におじいちゃんに言われたのよ『明日、サクラの所にかつが来るかもしれん。その時は助けになってやってくれないか?』ってね。まさか本当に来るとわね〜」
俺はサクラの言葉に固まる。
サクラは俺が来る事は事前に分かっていた。
と言うことは……
「ちょっと待てよ。待て待て待て、お前俺が来るって分かってて俺の事、蹴ったのか!?」
「だっていきなり入って来るから」
「だからって来るって知ってたらふつう蹴らないだろ!」
「あの時は寝ぼけてたししょうがないじゃない。まさか今更そんな事で怒ってんの?器小さいわねえ〜」
そう言って馬鹿にするように俺を見る。
「なっ!?あれ、結構痛かったんだぞ!!」
「鍛えて上げたんだから良いでしょ!文句あるの?」
「うっ!……分かったよ。これ以上は何も言わない」
実際修業に、付き合ってくれたし今更文句も言えないよな。
「それにしても何でダリ師匠はそんな事を言ったんだ」
修行のことに関してはてっきりお任せなのかと思ってた。
「おじいちゃんは自分から教えたりはあまりしないのよ。弟子に課題を与えそれが達成するまでの過程を修業としてるのよ」
「それまでの過程か……それじゃあ俺は大分良い過程を踏んでるって事なのか?」
「それをどう感じるかも、修業の一環よ」
何か物凄い難しい事をさせられてる気がするんだが。
するとサクラが歩き始める。
「魔法使いは想像力が大事よ。空中に魔法陣を展開するには頭の中でその状況を思い浮かべなければいけないからね。駆け出しの魔法使いはそれが出来なくて挫折する人も居るわ。高度な魔法ほど魔法陣も複雑になるし、余計難しくなるのよ。だからダリ師匠は魔法使いに必要なすぐに魔法陣を展開出来る想像力。新しい道を切り開くことが出来る発想力。魔法を上手く利用出来る思考力。そして誰も考えもしない事を思い付く閃き力を鍛えてるのよ。まあそれらを鍛えるのも自分次第なんだけどね」
「なら、大丈夫だ。俺はこれまでの修業を間違ったものだなんて思わない。だから、大丈夫だ」
そう、これまでの修業で俺は確実に成長した。
後は最後の試験。
あれをクリアすれば俺はまた1つ強くなれる。
「あっそ、ならいいんじゃないの。もう暗くなったし帰るわよ」
「あっ!おい、ちょっと待てよ!」
俺は慌ててサクラの後ろを付いていった。
―――――――――――――
そして次の修行を果たすためにハムスの元へと行く。
「ふっふ〜ん!来たようだな絶対かつ」
「最後の試験を受けに来た」
「その心意気は良し!さあ己の筋肉の限界を超えろ!」
俺は大岩の前に立つ。
ここまで長かった。
でも、今までの修業も今日で報われる。
俺は拳を強く握り締める。
相手を真っ直ぐ見て、拳をしっかり握り、足を動かさず腰を軸にして、拳に全体重を乗せるように、打つ!
俺の渾身の1撃は大岩の真ん中に激突した。
そして、小さいヒビが出来たと思ったら、そこからそのヒビは広がっていき綺麗に真ん中で岩は割れた。
「……よ、よっしゃぁぁぁぁ!!!!」
「よくやったぞ!絶対かつ!!いい筋肉だ!!」
するとハムスは興奮のあまり俺を担いだ。
「筋肉サイコーー!!」
「き、筋肉サイコー!」
こうして俺は2つの試練を突破する事ができた。
俺はハムスにお礼を言って家に戻っていた。
扉を開けるとそこにはダリ師匠が、いた。
「ダリ師匠………」
「明日から、魔法陣を覚える修業に入るぞ。しっかり休んでおけ」
「………っ!?はい!」
こうして俺は最初の課題をクリアする事が出来た。




