その二十三 辛い日々
早朝4時、俺はダリ熟練所から2、3キロ離れたタケノコ山に来ていた。
「まさか本当にやる事になるなんて。でも、やらなかったら絶対怒られるしな………」
いや、こんな気持ちじゃ駄目だ。
俺は強くなるって決めたはずだ。
ここまで来て悩むってことは、まだ覚悟が決め切れてないってことだ。
俺もう1度覚悟を決める為、1度深呼吸をする。
「よし!やるか」
俺は覚悟を決め山を登り始める。
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午前10時
「……………」
「あんた、何で玄関で寝てんの?」
そう言って、俺の事を足で蹴る。
「……お前、よくこんなボロボロの俺………蹴れるな」
「あんた、ご飯作らずに何処ほっつき歩いてたのよ」
「だ、だから今……ご飯を作ろうと……」
するとダリ師匠が奥から出てきた。
「飯ならサクラが作ったぞ」
「そうよ。あんたが居なかったから私が代わりに作ったのよ」
「そ…、そうだったのか……」
さすがにもう限界だ、俺はそのままゆっくりと目を閉じた。
と思った瞬間腹を蹴られる。
俺は再び目を開けると蹴った本人を睨み付ける。
「……何だよ」
「何寝ようとしてんのよ。これから図書館行くわよ」
「え?いや、もうちょっと休憩を……」
だがその願いは叶わずにダリ師匠が俺の体を引きずる。
「かつ、昨日言った事忘れた訳じゃないじゃろう。勉強じゃ」
まじかよ。地獄なんですけど。
俺はそのままダリ師匠に引きずられ図書館に向かった。
図書館につくと早速席につかされる。
「うぅーん………」
俺が眠たそうにしている時に机の上にドンと本が置かれる。
「寝るなばかもの。さっさと勉強せんかい」
「はぁい………」
俺は眠たそうになりながらも本を開く。
そして1秒も経たないうちに俺は夢の中に入って行った。
「はあ……やはり無理か」
「何やってんのよ。あのバカ」
―――――――――――
俺は厨房に立ちながら体をほぐしていた。
「うぅ……何かものすごく体中痛いんだけど」
「そりゃ1日図書館であんな姿勢で寝たら体も痛くなるわよ。あんた何しに行ってんのよ」
「何かそれじゃないと思うが、ていうかまじで記憶がもうろうとしてるんだけど」
「無駄話は良いからはよ飯を作らんかい!」
待ち切れないのかダリ師匠は怒鳴って俺を急かす。
「分かりました!待っててください」
俺はダリ師匠に急かされるまま飯を作る。
そしてご飯を食べ終え風呂に入って疲れを癒していた。
「ふぅ……やっぱ風呂って良いな。1日の疲れが取れるよ」
俺は風呂で癒やされながら今日の出来事を振り返る。
ダリ師匠から言われた事を今日初めてやって見たけど散々だったな。
朝ご飯も作れないし、図書館では勉強できないし、このままじゃまともに修業出来ないぞ。
先ずは体力を早めにつけて山登りに慣れないとな。
「明日も頑張るか」
俺は風呂から出てすぐに布団に潜った。
―――――――――――――――
2日目、また俺は山を登ろうとしていた。
だが昨日とは違う。
昨日やって見つけた反省点などを気を付けて、更に早く降りてやる。
「よし!行くぞ!!」
そして俺はまた玄関で横たわっていた。
「あんた、またご飯作らなかったわね」
「作りたいけど作れないんだよ………」
やはり、二日目にしても慣れることはなかった。
結局今日も朝飯に間に合わなかった。
そして、昨日と同じように体がボロボロの状態で図書館に行く、そのまま夢の中に落ちて行った。
そんな生活が1週間続いた。
そんなある日の夜俺はダリ師匠にある事を伝えに行った。
「ダリ師匠、ちょっと良いですか?」
「何だ?明日は早いだろ。早く寝なさい」
「その前にちょっと」
ダリ師匠は湯呑を机に置き、話を聞く姿勢に入る。
「俺、このままで大丈夫なんですかね?」
「それはどういう意味じゃ?」
「この1週間、同じ修業を続けたけど全く成果は出せてない。それだけじゃなく、魔法陣を覚えるのもまともに出来てないこの状況で、俺は強くなれてるのかなって思ってしまって」
「なるほど、成長を実感出来てないってことか。ちょっと行きたい場所がある。サクラ、お主も来い」
するとドアが急に開きサクラが出て来た。
盗み聞きしていたのだろう、少し恥ずかしそうにしている。
「サクラ……」
「べつにたまたま聞こえただけだから」
「行くぞ」
そして、ダリ師匠の後を俺とサクラが付いて行く。
ダリ師匠が足を止め、俺は周りを見ると暗くて分かりにくいがその場所は俺がいつも登り降りしている山だった。
「あの、ダリ師匠。この山って……」
「ああ、お主がいつも登っておる山じゃ」
「あんたこの山登ってたんだ」
そう言ってサクラは頂上を見ようと顔を上に上げる。
「まさかダリ師匠、今からこの山を登れっていうんじゃ」
「ああ、そうじゃ」
マジかよ!
もう寝れると思ったのにまた登られなきゃいけないのか!?
相談した事凄い後悔するんだけど!!
「そ、それは流石に……」
「やるのはお主ではない。サクラ、頼めるか」
「いいわよおじいちゃん。この山久しぶりに登るわね」
そう言ってサクラは準備運動をして走る気満々だ。
「お前本気でやるのか?俺、1周するのに30分位かかるんだけど」
「私はもっと早く行けるわ」
そう言ってクラウチングスタートの構えをする。
本当に走るのかよ。
「お主はこれを持ってろ」
ダリ師匠は謎の機械をこちらに渡してくる。
「何ですかこれ?」
「それは、時間測りじゃ。上のボタンを押せばその針が動いてもう一度押せばそれは止まる。それでタイムを測っとくれ」
なるほど、ストップウォッチ見たいなもんか。
「それでは行くぞ。よーい、スタート!!」
その声と同時にサクラは山を登り始める。
俺も同時にボタンを押す。
身軽なジャンプとスピードでドンドン山を登っていく。
もうすっかり見えなくなってしまった。
「あいつ凄いな。もうあんな所まで……」
「サクラの事を凄いと言っとる場合じゃ無いぞ」
「え?」
「お主はこれを超えてもらうんじゃからな」
「超えるってどう言うこと――――――」
その瞬間誰かが上から落ちて来た。
「タイムは!?」
「え?……あ、はい!」
俺はまさかサクラとは思わず、慌てて時間測りのボタンを押す。
そしてそこに表示されているタイムを見て思わず息を飲む。
「1分17秒!?俺、まさか間違って読んでたりするか!?これ、読み方あってるか?」
「合ってるわよ。ちょっとだけ遅かったかしら。前は1分切ってたんだけど」
「1分切ってたのか!?」
あいつの脚力は前から知ってたけどまさかここまで凄いなんて。
「そう言えば、ダリ師匠。さっきこれを超えるって言ってましたけど」
「ああ、お主にはこの山を1周1分で登り降りできるようになってもらう」
「え、ええぇ〜!?」
突然の無理難題に俺は開いた口が塞がらなかった。
「ちょ、む、無理ですって!そんなの出来ないですから!」
「サクラに出来たんだ。お主にも出来る」
「いや、それはサクラが脚力が凄かったからで合って、俺は………」
「じゃあやめるの?」
サクラの言葉に俺ははっとなった。
「辛い、無理、やだ、やることやんない癖に文句ばっか言う。私、そういう人大っ嫌いだから。凄いイライラする。修業するんだったら文句ばっか言ってないでやる事やりなさいよ。あんたは弟子なんだから師匠の言う事を聞いてればいいのよ。それが弟子の、あんたのやるべきことなんじゃないの?」
サクラはこちらを軽蔑した目で見てくる。
何も言えない。
サクラの言う通りだ。
文句ばっかり言って自分自身何も成果を出していないのに、そんな事言う資格は無いのに俺は。
サクラは過酷な修業を自分からやってきた。
だから俺みたいな奴は本当に嫌いなんだ。
「分かりました。必ず達成して見せます」
まだ、心が弱い。
俺はいつも折れてしまう。
目的を見失うな、俺が強くなる理由を思い出せ。
そうすればどんな事でも乗り越えられる。
「じゃ、もう帰るとするかのう。そろそろお主は朝飯までに間に合うようにするんじゃぞ」
「分かってますよ。頑張ります」
そうだ、今は頑張るしかないんだ。
がむしゃらに努力し続けるしか無いんだ。




