その二十二 お手頃料理
「はあ……疲れた」
俺は図書館が閉まるまで本を読みまくった事もあって、道場に入った途端地面に倒れる。
頭使いすぎて何かボーッとするな。
ていうか本の読みすぎで目もしょぼしょぼするし。
俺は目元を擦っていると近くにサクラがたたずむ。
「ちょっと、そこに居られると邪魔なんだけど退いてくれる?」
そう言って俺の体を足で蹴ってくる。
そのせいで寝返りを打つことになる。
「おい、人を足で退かそうとすんな。こっちは1日中、本とにらめっこして目と頭が疲れてんだよ。もうちょっと優しく扱ってくれよ」
「あんたに対して優しさなんて1ミリもあるわけ無いでしょ。だいたいあんた修業で来てんだから道場の掃除してきなさいよっ!」
すると俺の尻を思いっきり蹴飛ばしてきた。
「いった!なにすんだ!」
突然のことで俺は飛び上がると、尻をさすりながらサクラを睨みつける。
こいつ、仕返しに尻を蹴飛ばしてやろうか。
そう画策をしていると、奥の部屋からダリ師匠が顔を出す。
「おい、かつ。お遊びはここまでじゃ。こっちに来い」
何だ?
ダリ師匠は神妙な面持ちで、付いて来いと手招きする。
俺はサクラの仕返しを後回しにしてダリ師匠の元に行く。
「どうしたんですかダリ師匠?て、台所?」
「今日からお主は朝ごはんと夜ご飯を作ってもらう」
「朝ごはんと夜ご飯………え!?」
今なんて言ったこの人!
俺は思わずダリ師匠に詰め寄る。
「暑苦しい近付くでない。修業に来ているんじゃからこれくらい当然じゃろ」
「ま、まじかよ……」
頭も痛くて、眠気もあるって言うのに今から料理するなんて……修業って辛いな。
「任せたぞ」
そう言うとダリ師匠は立ち去ろうとするが、俺は慌てて肩を掴む。
「ちょ、ちょっと待ってください!俺料理なんて作ったことないんですけど!!」
「料理なんて慣れじゃなれ。フィーリングで何とかなる」
「んな馬鹿な」
ダリ師匠はそんな適当なことを言ってから任せたぞと言い残し、そのまま行ってしまった。
「今日の夜ご飯って俺の腕にかかってんのか」
そう考えるとプレッシャーに押し潰されそうになるがやるしかないだろう。
これも修業の一環だと思えばいいしな。
俺は早速冷蔵庫を開ける。
「肉や魚、野菜とか卵……結構材料はあるな。これならもしかしたら作れるかも知れないな」
幸い料理はリドルが作ってるのを見た事がある。
あいつの料理は絶品だ。
見様見真似でやれば多分行けるだろ。
俺はとりあえず冷蔵庫から材料を取り出す。
料理は正直良くわからないから、素人がやっても美味しくなる料理なら誰も文句は言わないだろ。
俺は頭の中で今晩の料理の献立を想像する。
「よし、これなら大丈夫だ」
―――――――――――――
「かつ、これ何?」
「何って俺が作った料理だぞ」
「なるほど。お主らしいといえばお主らしいな」
俺は料理を机に並べその周りを囲むように3人とも床に座る。
「これはステーキと卵かけご飯だ。卵の上には醤油を掛けても美味しいぞ」
「何それ、こんなの料理って言えんの?」
「いいから食べてみろって」
俺はステーキの焼けた美味しそうな匂いに誘われながら、卵とご飯をかき混ぜる。
サクラは疑いつつも俺の真似をして卵をゴハンにかけ混ぜる。
そしてサクラがステーキを口に運びそれと同時に卵かけご飯を流し込む。
「……………」
無言のままもう一度卵かけご飯とステーキを一緒に食べる。
「どうだ?美味いだろ」
「………別に」
ごはん粒を頬につけながら不満そうに言う。
「何言ってんだよ。本当は美味しいんだろ」
「別に、そこまで美味しくはないし。まぁまぁってところね」
そういいながら頬にごはん粒をつけるくらいかきこんでる癖に。
「わしは結構好きだぞ。ステーキと卵かけご飯が良く合うな」
「そうでしょう!そうでしょ!ほらサクラもいつまでもつんつんしてないで、正直に言えよ」
俺はサクラの腕をつんつんする。
するとサクラはうざそうに俺の手を払い除ける。
「鬱陶しいからやめて!ごっそうさま!お風呂入ってくる」
ステーキと卵かけご飯を一気に掻き込みそのまま風呂に向かってしまった。
何だかんだ言って完食してるし。
「相変わらずだなあいつ」
「ま、昔よりは素直になった方じゃ」
昔のサクラか………ちょっと気になるな。
「昔のサクラってどんな感じだったんですか」
「昔のサクラか………そうじゃのう。昔はあの事もありあまり真正面から話す事は少なかったな」
俺は箸を置きダリ師匠の話に集中する。
「サクラはああやって冷たい言葉を投げ掛けてくるが、1人だけ仲の良い人が居たんじゃよ」
「えっ!?あのサクラがか!?友達いなかったんじゃなかったのか!」
正直あの性格だと友達作るの難しいだろ。
「わしもその時はびっくりしたのう。更にそれが男だと知った時は更にびっくりしたわい」
「男!?」
あの友達いないサクラが男と親しく話してただって??
ありえないだろ。
あの暴言女だぞ。
「師匠、その話もうちょっと詳しく」
「何が詳しくだってぇ〜?」
俺は、後ろから来る殺気に怯えながら後ろを向く。
「あ〜サクラさん、本日はお日柄も良く―――」
「誤魔化そうとしてんじゃないわよー!!」
するとサクラは俺の頭に向かってかかと落としをしてくる。
俺はそれをかろうじて避ける。
「おわっ!?お前危な!いきなり何すんだよ」
「あんたがこそこそとおじいちゃんと話してるからでしょ!なんの話ししてたのよ。正直に言いなさい!」
これ以上は分が悪い!
「あー………師匠!俺お風呂入ってくる!それじゃ」
「逃げんじゃないわよかつ!」
するとサクラが俺を追ってお風呂まで走る。
そしてダリはお茶を一口啜る。
「騒がしいのう」
―――――――――――
「ふわぁ〜あ。ねむ」
俺は大きくあくびをして眠たい目を擦る。
明日も本を読み続けて覚えなきゃいけないから早めに寝て脳を活性化させるか。
寝室へと向かおうとした時、ダリ師匠とばったり会った。
「あっダリ師匠。まだ起きてたんですね。俺はもう寝ますね。おやすみなさい」
「ちょっと待て」
俺はそのまま通り過ぎようとするとダリ師匠に止められる。
「明日、4時に起床しなさい」
「え?4時ですか!?何でそんな早く………」
確か図書館は10時から開くはず。
まだ全然時間に余裕があるのだが。
「明日はこの山を登り降り10週してもらう」
そう言ってダリ師匠は地図を出し山のところを指差す。
それはこの道場から2、3キロ離れたこの街で1番高い山だった。
「はい?」
突然の言葉に思わず俺は聞き返す。
「走り込みが終わった後腹筋100回、腕立て100回、屈伸100回をしてもらう。それが終わったら朝飯を作り、図書館が開く時間と同時に図書館で勉強だ。図書館の閉館11時になったら夜飯を作り、風呂に入り寝なさい」
あまりの情報量と内容に俺は呆然としてしまった。
「それ明日全部やるんですか?」
「明日だけでは無い。毎日じゃ」
「毎日!?死んじゃいますよ俺!」
「お主は修業しに来たんじゃろ。ならこれくらいの事は当たり前。それにお主の体はこれ以上魔力レベルが増やせん状況じゃ。それだといくら魔法を強くしても魔法を受ければ即死じゃ。だから魔法を避けられるように足を鍛え、魔法が当たっても少しでも威力を軽減できるように体を鍛える。それが今のお主に出来る悪あがきじゃ」
正論過ぎて何も言えない。
確かに魔法抵抗がこれ以上強くならないなら少しでもダメージを少なくする為に体を鍛えるのは合ってると思う。
実際あの筋肉野郎もそれで魔法を防げてたし。
「で、でも流石にそれは」
「強くなりたいんじゃろ」
「っ!?………はい」
そうだ、俺は強くならなきゃいけないんだ。
弱音なんか吐いてる場合じゃないよな。
「分かりました!明日から頑張っていきます!!それではおやすみなさい!!」
俺は気合を入れるのも兼ねて大声でダリ師匠に宣言する。
だがその後サクラに怒られたのは内緒の話だ。




