その十九 会えない期間
「して、なぜお主らはニヤニヤしながらわしの宿屋に来ておるのじゃ?」
俺達は今、ダリ師匠に道場を取り返したことを伝える為、宿屋に来ていた。
「ダリ師匠に伝えたい事があるんだよ。なっ!サクラ」
「何かそのノリ気持ち悪いけどまあいいわ。おじいちゃん、実は私達道場を取り返したの!」
するとダリ師匠が自分のひげを触りながら、サクラを見て微笑む。
「そうかそうか、道場を取り返したのか。それは良かった」
それだけ?
思ってたのとなんか違うだけど。
「ダリ師匠今の聞いてました?俺達道場を取り返したんですよ?何かもうちょっと喜ぶとか、褒めるとかあってもいいんじゃ………」
ダリ師匠のあっけらかんとした反応に思わずもう1度確認する。
「知っとるわい。まさかお主はわしがボケたと思っとるのか?」
「いや、別にそういう訳じゃ………」
「道場を取り返す事位知っとったわい。それはお主が言っとったろう。サクラに会いに行くと」
ダリ師匠は当然じゃろ、見たいな感じで言ってくる。
確かに言ったけども。
「いや、別に俺はそう言うつもりじゃ………」
「まあ別にどっちでもいいんじゃが。どちらにせよ、ご苦労じゃったな絶対かつ、そしてミノル」
そう言ってダリ師匠は俺達に礼を言った。
弟子として師匠に礼を言われるのは、普通の言葉よりも心に残った。
「それじゃあそろそろここから出てわしの道場に帰るか」
そう言って腰を叩きながらゆっくりと立ち上がる。
「おじいちゃん、道場は取り返したけど、まだ道場続けるの?おじいちゃんの道場は私も思い出があるし、残しておきたいけどこれ以上は、おじいちゃんも年だし続けない方が………」
「そうじゃのう……そろそろやめ時か」
あれ?何かこれ道場終わる流れになってないか?
それめちゃくちゃ困るんだけど。
そもそも俺が道場行った理由は修業をしたいからなのに、これでは目的が達成出来なくなる。
俺が焦っているのを見て何やらサクラがニヤニヤしている。
「な、何だよ」
「なんか気持ち悪い動きしてるなと思ってね。トイレならあっちだから早くして来なさい」
「いや、別にトイレじゃないから。なあミノル何とか言ってくれよ」
「自分でちゃんと言いなさいよ。かつがやりたいって言ったんだからね」
「うっ!確かにそうだけど……」
この空気、とても言い出しにくい。
「それじゃあ行くとするか」
ああ、これは無理そうだな。
諦めかけたその時ダリ師匠が口を開いた。
「お主の修業を終わらせたら、道場を閉めることにするかのう」
「え?修業って俺の事ですか?」
突然の言葉に動揺して思わず確認してしまう。
「お主は修業はしないのか?」
「し、します!やらせてください!」
まさか最初から修業する事を分かってて言ってたのか?
そしたら何ていう焦らしプレイだ。
何か弄ばれた感がすごいな。
「それじゃあ早速行くとするかのう」
「ちょ、ちょっと待ってくれ!準備をしてから行きたいんだ」
「何言ってんのよ。あんたに準備する物なんて無いでしょ」
「俺を何だと思ってんだよ。それじゃあ師匠!あとから行きます」
「出来るだけ早くな」
「逃げんじゃないわよ」
そう言ってサクラとダリ師匠は宿屋を出て行った。
「それじゃあ一旦家に帰るか」
「ええ、そうね」
―――――――――――
「おーい、いま帰ったぞ〜!」
「かーつ〜!!」
扉を開けたと同時にデビが俺の懐に飛び込んで来る。
「おっと!何だ?そんなに寂しかったのか?」
「デビちゃん、そんなに私達の事を……」
「リドルが妾をいじめるのじゃ!!」
何だ、リドルから逃げてただけか。
「お前ら何やってんだよ。家の物壊したりしてないだろうな」
「あ、ミノルさん、かつさんおかえりなさい。家の物は壊してませんよ」
そう言ってニッコリと笑う。
「何かお前って怪しい雰囲気あるから信用できないんだよな。裏の顔とかやばそうなタイプに見える」
「こやつ多分前世は悪魔じゃぞ。絶対」
「ていうかここで話すんじゃなくて家の中で話しましょう」
そう言ってミノルがいち早く中に入る。
「そうだな。おい、デビ。涙を俺のローブで拭くなよ」
「分かっておる。鼻水だから大丈夫じゃ」
「そういう問題じゃねえよ!」
――――――――――
「それで、道場は取り戻せたんですか?」
「ええ、ちゃんと取り戻して来たわ。それでその事も合ってかつから大事な話があるの」
「そんな事よりお土産は無いのか?」
ミノルが俺に話しのバトンを渡してくれたので俺は話す覚悟をする。
「皆に言わなきゃいけない事があるんだ」
「なあなあお土産はないのか?」
「皆にはもう既に言ってると思うんだけど、道場を取り返したこともあって覚悟を決めたんだよ」
「お土産は?お土産はどこじゃ?ここか?ここなのか?」
「今回の修業で俺は――――」
「ここにお土産があるのかあーー!!!」
「ねえよ!ばか!!さっきから何やってんだお前は!?」
デビは俺のローブをめくりお土産を必死で探してる。
「何でじゃ!?なんでお土産がないのじゃ!」
「何で道場取り返しに行ったのにお土産持って帰らなきゃいけないんだよ!ていうかこれから大事な話をするからちゃんと聞け」
「う〜!」
デビは頬を膨らませ、不機嫌そうに椅子に座る。
子供かあいつは。
あ、子供だったな。
「え〜っと、何だっけ?あ、そうだ。こほんっ俺は本気で強くなりたいと思ってるんだよ。だから、今回道場を取り戻す為に魔法使いと戦って来たけど、それで改めて自分の力を思い知った。だからこの修業は俺がちゃんと強くなるまでやろうと思ってる」
「つまり修業は何年も経ってしまうという事ですか?」
「まあ、それ位の覚悟を持って修業に行くつもりだ」
みんな難しそうな顔をしている。
そりゃそうだ1ヶ月位だろうと思ってたはずだそれが年数単位だと聞かされれば動揺もする。
「だから………これは俺のわがままみたいになっちゃうかもしれないけど、俺が修業が終わるまで待っててくれないか?無理なのは分かってる。何年も帰って来ないかも知れないパーティーのリーダーを待つのは。だけどこのメンバーで俺はもっともっと冒険したり、遊びに行ったり、モンスターを倒したりとやりたい事が沢山あるんだよ。だから、待っててくれるか?」
みんな驚きもせず暗い顔もせずキョトンとした表情をしている。
あれ?もしかして俺の言いたい事ちゃんと伝わってないのか?
「ねえかつ。ここではっきり言っておくけど、かつってまだ駆け出しの魔法使い止まりだからね。プロにもなってないから」
「逆にもっと強くなってもらわないと困ります。僕だって強いモンスターとも戦いたいですしね」
「いつまでたってもそのレベルじゃあ、妾達のパーティーのリーダー失格じゃからな」
「え、あ、えっと……つまり?」
「何年かかるも承知だって言ってるの。だから私達の事は心配しないで安心して修業して来なさい」
「ミノル……」
そう言ってミノルは優しく微笑む。
そうか、こいつらはもう俺の事を信じて待ってくれるのか。
俺はまだこいつらの事をただのパーティーメンバーだと思い込んでた。
でも、今はもう違うよな、こいつらは仲間思いな俺の大切なパーティーメンバーだ。
「だから次帰ってくる時はちゃんと強くなってなさいよ。もし、強くなって無いのに帰ってきたらパーティー解散だからね」
「ははっ面白い冗談だな」
「本気だからね?」
「……………」
今度の微笑み方は優しいようで威圧感を感じる。
この顔は……まじだな。
「どっちみちそれ位の覚悟を持って修業をすれば大丈夫ですよ」
「辛いとか言って泣いて帰ってきたら妾がきついの1発ぶちかますからな」
「安心しろ。デビとは違うから」
「それはどういう意味じゃ!」
俺は改めてみんなの顔を見渡す。
「お前らとしばらく会えないってなると少し寂しい気もするけど、また会えるから大丈夫だよな」
みんなが同時に頷く。
「それじゃあ俺はもう行くよ」
「行ってらっしゃい。頑張ってね」
「帰ってきたら土産話期待してますよ」
「妾は本物の土産をよろしくな」
相変わらずのみんなの言葉に俺は少しホッとする。
「じゃあなお前ら!とびっきり強くなって帰ってくるから、楽しみにしてろよ!!」
そう言って俺は屋敷を飛び出した。
俺は改めて強くなると心に誓い、ダリ熟練所まで走るのだった。




