その十四 股間は蹴るな
「ん?ううん……」
「あっ。起きましたか。ちょうど良かったです。ご飯食べますか?」
「え?え?ここ……どこ?」
その女の子、サクラは目を覚ますと不思議そうに辺りを見渡す。
リドルはなるべく相手から信頼を得るために笑みを絶やさずに優しい口調で話す。
「ああ、そう言えばサクラさんはここに来た事が無いんでしたっけ。ここはかつさんのパーティーの屋敷ですよ」
「かつ………ふぇっ!?あいつの屋敷ですって!?」
「はい、そうですよ」
サクラはかつが屋敷を持っているという事に余程驚いたのか目が真ん丸になってしまっている。
だが目が丸くなるほど驚くのは無理は無い。
サクラ自身、借金を返す為に出て行ったはずのかつが、屋敷を持ってるなんて微塵も思うはずが無いのだから。
「あいつ、何で屋敷なんか持ってるのよ」
「サクラさん、今なんか言いました?」
「な、何でもない。それよりあんた誰よ!」
「え?僕ですか。ほんの数時間前に自己紹介した筈ですけど」
「そうだっけ?覚えてないんだけど」
サクラは興味の無いものにはとことん興味がない。
なのでほんの数時間前に会った人すら興味が無ければすぐ記憶から消えるのだ。
「分かりました。もう1度自己紹介させて頂きます。僕の名前はリドルです。かつさんのパーティーメンバーの1人でもあります」
「かつのパーティーメンバー?てことはあいつパーティーなんか結成してるの?」
「そうですよ。まあここで長話するよりも下で皆さんが待ってますので、そこでお話しましょう。サクラさんの朝食も準備してますので」
「分かったわ」
ほんの少し警戒しながらもサクラはおとなしくリドルに付いていった。
―――――――――
「ん?おお!サクラ!気が付いたのか。おはよう」
俺は不機嫌そうな顔で階段を降りてくるサクラを見つけ挨拶をする。
と、その時サクラの姿が消える。
あれ、あいつどこ行った?
そう思った瞬間、頬に強烈な痛みが走った。
「おりゃーーー!」
「ぐべぼっ!?」
気づいた時には俺は既に壁に激突していた。
「………え?」
「な、何が起こったのじゃ!?何故かつが吹っ飛ばされ、こやつがかつが居た場所にいるのじゃ!?」
「ぼ、僕も驚いています。思わずえ?っと言ってしまいましたし」
「サクラは脚力が凄いのよ。魔法が苦手で脚力を鍛えたらこれ位のスピードが出せるようになったの」
「て、ていうか……何で俺、蹴られたの?」
俺は蹴られた頬が痛すぎて顔を動かせず右を向いた状態でボソボソと喋った。
「むかついたから」
「いや、むかついたからって……言う威力じゃないだろ……これ」
「とりあえずかつ、回復のポーション飲みなさい」
「お、おう……」
よろめきながらもなんとか回復のポーションを受け取り、それを飲み何とか傷が癒えた。
色々文句を言ってやろうと思ったがあの時のサクラの様子を思い出して、とりあえず落ち着いて話し合う事にした。
「それで、サクラ。お前は先ず俺に言う事があるだろ」
そう言ってサクラを指差す。
「分かってる。私と一緒にあの筋肉ダルマを倒しましょ!」
そう言ってサクラは意気揚々とガッツポーズをして見せた。
「いや、ちげえよ!まあその話も違くは無いけど、その前にごめんなさい、ありがとうだろ!」
「何であんたに感謝しなきゃいけないのよ」
「いやいや、俺昨日眠ったお前をここまで運んだんだぞ!感謝されるべきだろ」
「自分から感謝を求めて来るなんて、器が小さいのねあんた。感謝されないとそういう事やらないの?」
「お前は別ってだけだ!」
またもやケンカに発展しそうになった時、ミノルが俺とサクラの間に割って入る。
「はいはい、そこまで。喧嘩してたって仕方ないでしょう。今はそんなことしてる場合じゃない。そうでしょ」
ミノルノ言うことは正しいので俺は大人しく従うことにした。
まあ、ムカつくのは確かだが。
「まあ確かにそうだな」
「分かってるわよ。ま、仕掛けてきたのはあいつの方だけどね」
「サクラ〜!」
「うっ分かったわ」
ミノルの言葉によって俺達は一旦仲裁した。
するとデビが腹をさすりながら俺の服の裾を引っ張る。
「それで、話は終わったのか?妾は早く飯が食べたいのじゃが」
「先に飯食べてていいぞ。リドルとデビには関係ない話だしな」
「な、何か仲間はずれにされたような気がするのじゃが。まあ飯が食えるんじゃったら良いか」
そう言って早速箸を持っていく為に台所に向かった。
「あいつ作れないくせになんで台所行くんだよ。リドルすまないけど、作ってやってくれないか」
「分かりました。僕達はあちらでご飯を作っています」
そう言ってリドルとデビはご飯を作る為に台所に向かっていく。
リドルとデビが料理を作り始めたところでミノルとサクラと俺で早速話し合いを始める。
「それじゃあ本題を話すけど、まずはあの道場をどう攻略するかだよな」
「あの魔法使いはかなり強力よ。真正面から戦っても勝てるかどうか。先ずは私の魔法で凍らせて皆で一斉攻撃って手もあるけど、私の魔法であいつが固まるか分からないわ」
「魔法抵抗力が9もあるんじゃ、魔法も効きづらいよな」
するとサクラが複雑な表情をしている。
「ね、ねぇ何かすっごく対策立ててくれるけど、2人は道場を助けてれるの?」
「決まってるじゃない。私達もう友達でしょ?」
「ふえ?友達?」
サクラは突然言われたことで驚いたのか、急に体が跳ねて変な声が出ている。
「そうだぜ。俺達は友達だ。だから皆で戦おうぜ」
「と、友達……えへへ」
何故かサクラは顔を赤らめニヤける。
「何ニヤけてんだ?」
「に、ニヤけてないわよ!こっち見んなバカ!」
そう言って俺の事を殴ろうと拳を付き出してくる。
「おわっ!?危な!何すんだよ」
何とかサクラの拳をギリギリの所でかわす。
こいつ、まじですぐ手を出すな。
「うるさいしね!」
だがサクラは諦めておらずそのまま追撃をする。
その攻撃を避けるために俺は家のなかを走る羽目になる。
「いや、死ねはないだろ!」
「ふふ。仲いいのね。2人共」
何故かミノルは微笑ましいものを見るように俺達を見る。
「いやいや、どう考えても仲良くないだろ!?」
「私はこいつが大っ嫌いよ!」
またもや話が脱線しているため一度しきりなして再び話し合いに戻る。
「と、とりあえず、作戦会議をしようぜ」
「作戦会議って言ってもあんな肉だるまどうやって倒すのよ。私の蹴りも効かないし、しまいにはたまに避けられるのよ。そんな事されて自信なくすわよ」
そう言ってサクラはため息を吐く。
「でも、それは来るって分かってたらの話だろ。流石にいきなり来たら避けられないだろ」
「かつはあのスピード間近に体験してるしね」
「そうだな。あのスピードを避けるのはかなり難しいぞ」
「特別な訓練をしてるから当然でしょ。まっ当たっても手応え無いんだけどね」
「まああんな筋肉ムキムキだったら、そらそうだろ」
ていうかどうやったらあんなムキムキになるんだよ。
「物理的攻撃も魔法的攻撃もほぼ不可能。ねえこれどうやって倒すの?」
「ていうか私蹴り効かないって時点で、この作戦会議に必要なの?」
「何言ってんだ。必要ないやつなんていないだろ。お前も絶対活躍できる筈だ………多分」
「何その確証のない返答。むかつくんだけど」
そう言って拳を握る。
「そ、そういえばサクラちゃんはあの筋肉の人と何回も戦ったんでしょ?何か弱点とか分からない?」
ミノルが話を変えてくれたお陰で殴られずにすんだ。
あ、あぶねえ、またぶん殴られる所だった。
「さ、サクラちゃん……」
「あ、ごめんなさい。いやだった?」
「べ、別に!全然気にしない!」
「何だ?照れてんのか?」
「照れてない!」
「痛っ!なにすんだよ!」
結局殴られるのかよ。
「はいはい、続き話しましょう。それでどうなの?」
「弱点は分からない。1番の弱点だと思って蹴った股間も効かなかったし」
「え?何お前、股間蹴ったの?」
「そりゃそうでしょ。1発ブチかましたかったのよ。あの筋肉だるまに。それで思いっきり蹴ったのに全く効いてないのよね」
「まじかよ。お前えげつない事するな」
俺は蹴られた時の事を想像してしまい、思わず股間を抑える。
というか股間蹴って無事ってあいつ本当に男かよ。
「まあそれはともかく、その事を聞いて少し思いついた作戦があるの」
「何だそれは」
「それわね。ゴニョゴニョ……」
―――――――――――――
「ふんっ!ふんっ!ふんっ!」
「はんっ!はんっ!はんっ!」
「よーし!いいぞ2人共!これが終われば朝練は終了だ!」
「頼もー!」
俺は扉の前でそう宣言すると勢いよく扉を開いた。
「道場破りだ!お前の看板貰いに来たぞ!」
「ふっ来たな」




