その十三 唐揚げ戦争
「ん?あ!かつー!」
ミノルが俺を見つけると屋敷の扉の前で手を降っていた。
「お!ミノルー!!」
俺も慎重に片手で手を振り返す。
ミノルの元に付くと満足げな表情で俺を見ていた。
「まさか俺が帰ってくるまで待っててくれたのか?」
「そうよ。かつがちゃんと謝ったかどうか、確認しなきゃいけないしね」
そういう理由かよ。
まあ、確かに冷静に考えればそれしかないんだけどな。
「でも、その様子だと、大丈夫そうね」
そう言って、俺の背中で気持ち良さそうに寝ているサクラを見る。
「疲れて寝ちまったんだよ。ベットの空きあったっけ?」
「う〜ん、ベットは人数分しか無かったから誰かのを借りるしかないわよね」
「それじゃあデビさんで良いんじゃないですか」
「おわっ!?お前いきなり現れるなよな、リドル」
リドルは気配を消して現れたりするから心臓に悪いんだよな。
「デビちゃんのベットね……」
「ま、いいんじゃないか。デビだし」
「デビさんですし大丈夫ですよ」
「まあデビちゃんだからいいわよね」
「なぜ妾の許可がなく、妾のベットが使われようとしておるのじゃ」
するとこの話を聞いていたデビが無愛想な顔で扉の前に立っていた。
「おーデビいつの間に居たのか」
「居たのかーじゃないわ!妾のベットは妾専用じゃ!誰にも使わせんぞ!」
「んだよケチだなー。別にベット位良いだろ」
「だったらお主のベットに寝かせればよいではないか!」
「いやいや、女の子を男のベットには寝かせられないだろ」
「ていうかこの話中でしない?寒くなってきたし」
「そうだな。腹も減ったし、中に入ろうぜ」
俺達は寒さから逃げ出す為に早速家の中に入った。
家の中はほどよく暖まっており冷えた体がじんわりと暖まる。
「ふぅー寒い寒い。それで、サクラをどこで寝かせんだよ」
正直腕が疲れてきたから早く下ろしたいし。
「私の部屋で寝かせるわ。ていうかもうそれしかないでしょ?」
「ありがとなミノル。どっかの誰かさんとは違って」
そう言って俺はデビを見る。
「な、何じゃ!?わ、妾だって……ふぅ…しょうがないのう。妾の部屋で寝かせてやろう」
「ミノルの部屋どっちだっけ?」
「かつそっちじゃないわよ。こっち」
「妾の話を聞けい!」
―――――――――――
「いやーやっぱりリドルの飯は絶品だな」
「ありがとうございます。そう言って頂けると作り甲斐がありますよ」
「よし!お主を妾の専属シェフにしてやろう」
「有り難くないお言葉ありがとうございます」
「何でじゃー!」
相変わらずこいつらは元気一杯だな。
「それでかつ、サクラにはちゃんと謝ったの?」
「ああ、バッチリだ」
「それなら良かったわ。かつが謝らずに帰ってきてたら氷漬けにしてたところだったし」
「そ、そうなのか」
冗談だと思いたいがあの目は本気だろう。
ちゃんと謝っておいて良かったー。
「それで、これからどうするんですか?」
「もちろん、道場を取り返しに行くに決まってんだろ」
「でも、かつ1人で勝てるの?ここはあえてはっきり言うけど多分正攻法じゃ勝てないわよ」
はっきり言うと言う割には、何か含みのある言い方に聞こえるような。
「分かってるよ。だからミノル手伝ってくれないか?お前も一応ダリ師匠の弟子なんだし」
「そうだけど私は………」
ん?何だ、あまり乗る気じゃないような。
「もしかしてミノルお前」
「デビさん、唐揚げは1人3個までですよ」
「何言っておるのじゃ!妾は2個しか食っておらんぞ」
そう言ってリドルは唐揚げを取ろうとしているデビの手を止める。
うるさいな〜、こっちは今大事な話をしてるっていうのに。
「嘘付かないでください。唐揚げの個数が合わないんですよ。僕だって2個しか食べていないのに残りの唐揚げが1個って、どういう事ですか」
「ん?おいちょっと待て。俺まだ1個も食ってないんだけど。何で既に1個になってんだ」
俺はミノルの方を見る。
「私はもう3個食べたわよ」
「まじか。てことはデビお前か?」
「妾は食べておらん!リドルじゃ!リドルが食べておった」
「何言ってるんですか。デビさんでしょ」
「さっき『どうせかつさんは話に夢中ですからバレませんよ』って言ってたじゃろ!」
「デビさんだってかつさんの唐揚げこっそりと頂いてましたよね」
「ていうかお前ら2人だろうが!何個食いやがった!4個か?4個も食いやがったのか!」
俺は俺の唐揚げを食べた2人を問い詰める。
「何を言っておる!食事中に喋っておるお主がいけないんじゃろうが!」
その瞬間、俺の最後の唐揚げを箸で掴む。
「あー!お前、それ俺の唐揚げだぞ!」
「何を言っておるのじゃ!食は戦場!取るのが遅れた奴が負けるのじゃ!」
「何言ってんだよ!俺の唐揚げを食った挙げ句、最後の唐揚げも食おうとすんじゃねえよ!返せ!」
俺は唐揚げを箸で掴みながら逃げるデビを後ろから追いかける。
くそ!何で俺が唐揚げを巡って家の中を走らなきゃいけないんだ。
すると追いかけっこをしてる途中でミノルが机を思いっきり叩く。
「食べ物で遊ばない!」
あ、やっちまった。
するとミノルが怒った顔でこちらに近付いてくる。
そしてデビが箸で掴んでいる唐揚げをミノルがつまんで食べる。
「「あっ!」」
「これで喧嘩両成敗よ。だからもう食べ物で遊ばないこと!分かった?」
「俺の唐揚げ……」
「妾の唐揚げ……」
この結果俺以外唐揚げを4個食べているという事実を、俺は考えない様にした。




