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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第八章 奪われた道場
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その十二 お気に入りの場所

「…………」

「おい、何やってんだよ」

「きゃっ!?な、いいいきなり話しかけないでよ!びっくりするでしょバカ!」


そう言って俺に罵声を浴びせるサクラの目は少しだけ赤かった。


「ごめんごめん。驚かせて悪かったな。探したんだぞ。まさかこんな所いるとわな」


実際ダリ師匠と別れてから3時間近く辺りを探し回った。

まさかここまで時間が掛かるとは思わなかったから諦めかけたけど見つかってよかった。


「何?居ちゃ悪いの?」

「いや、別にそういう意味じゃないけど」


やはりまだご立腹みたいだな。

ここはいきなり本題には入らず世間話でもして、気持ちを少しでも和ませるか。


「にしてもここキレイだな」


目の前には透き通った湖が広がっていて、その周りにサファイアの様にキラキラと鮮やかな青色が辺りを漂う。


「ふっあんたみたいな奴がこの湖の良さを分かるのかしら?」

「はっ、何言ってんだ。俺にだって美的感覚位あるぞ」

「じゃあ、この湖の周りにいる青く発光してるこれは何か分かる?」

「え?あ、えっと……青ホタルとか?」

「ぶっぶー!不正解ー!やっぱりあんたに美的感覚なんて物があるわけ無いわよね」


そう言ってやれやれとした様子で俺を煽る。

やっぱりこいつムカつく。


「これはナイトブルーと呼ばれる虫よ。夜行性で夜しか活動せずに木などの樹液を餌にしてるわ。夜になると湖に集まって求愛行動。つまり体を発光させて雌にアピールするのよ」

「へ〜そうなのか」


俺はナイトブルーを見ながら返事をする。


「ここは私のお気に入りの場所なの。辛い事とか何か悩んだりした時行き詰まった時とかの気分転換でここに来るのよ。ここに居ると全部の事がどうでも良くなって、いままでのストレスとかがスゥーっと消えてリラックス出来るのよ」


俺は改めて辺りを見渡す。


「たしかにいい場所だな」


目を閉じて静かにしていると自然の音が聞こえてくる。

やっぱり自然はいいな。


「だからって私が居る時に来るんじゃないのよ!1人になりたいのにあんたが居たんじゃ心が休まらないから!分かった!」


そう言って俺に注意しながらこちらに迫ってくる。


「分かったよ」

「それに、ここの事は誰にも言わないでよね。せっかくのお気に入りの場所を知られたくないから。いーい!」

「分かったって!誰にも言わないよ」


何でこいつこんなに知られたくないんだ?

もしかしてダリ師匠にもここの居場所は伝えてないのか。

それを教えてくれたって事は少しは俺の事を信頼してくれているということか?

いや、俺が来ちゃったから仕方なく言うしか無かったのか。

でも、さっきよりは和んだよな。

今言うしかないか。


「そう言えばダリ師匠と会ったよ」

「ふ〜ん」


サクラは俺の方を見ることもなく、湖を見つめる。


「お前の昔話を聞かせてもらった」

「っ!?」


今度はサクラは驚いた様子でこちらに顔を向かせる。


「俺がダリ師匠に教えてくれって言ったんだ」


俺はサクラが何かを言う前に経緯を説明する。


「な、何であんたが私の昔話を聞くのよ」

「それは、お前があの時ものすごく怒ってたから。何であんなに怒ってるのか気になって」

「あ、そう。それで、私の昔話を聞いて笑いに来たってわけね」

「ち、違う!そうじゃなくて!」

「うるさい!どうせあんたも他の人みたいに馬鹿にするんでしょ!顔を見たくない、さよなら」


そう言って、俺の言葉に聞き耳を持たずそのまま走って帰ろうとする。

まずい、このままじゃ謝れずに帰ってしまう。

躊躇なんかしてられない!


「ごめん!!俺が悪かった!」


俺は走り去ろうとするサクラに向かって頭を下げ謝罪する。


「お前の過去とか知らずに勝手な事言ってごめん!サクラは、ずっと苦しい思いをしてきたのに、俺はそんなサクラの気持ちも知らずにあんな事を言って、本当にごめん!」

「………あんたに謝られたからって私は―――」

「サクラは、弱くないよ」

「っ!?」


その瞬間サクラの足が止まる。


「誰が何と言おうとサクラは弱くない。あんなに頑張って、苦しい思いをしてるのにそれでも強くなろうとしてる奴が弱いわけ無いだろ」

「あ、あんたに何が……」

「サクラは強いよ。十分強い」


サクラは、進む足を止め、背を向けたまま話し始める。


「私はいつも弱いって言われてきた。戦いに負けて悔しくて泣いた時も弱虫って言われた。おじいちゃんは私の事を強いって言ってくれるけど、気を使ってるだけだと思った。でも、あの時あんたと戦った時、初めて強いって言われたの。初めておじいちゃん以外に言われたの。嬉しかった!ちゃんと強くなってるってことが分かって。それでも、道場を守れなかった!悔しかった!強くなっても、やっぱり魔法使いには勝てないの!?努力しても私は………」


サクラの体は震えていて、強く拳を握りしめていた。


「サクラ……」


俺はサクラの元に近づく。


「大丈夫だ。お前は努力してる。努力は裏切らないって言うだろ?だから……」


するとサクラがこちらを振り返る。


「悔しいよ……かつ……」


サクラの目からは涙が零れ落ちていた。


「あ、え、えっと……」


突然の出来事でどうしていいか分からず戸惑っていたら、サクラがこちらに近付いて来た。

するとサクラが頭を俺の胸に当て涙を流す。


「……………」


サクラの涙声が辺りに響き渡る。

俺は黙ったままサクラが泣き止むまでサクラの頭をなで続けた。



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