その十 空回り
「ん?ううん……」
「あ、皆さん。サクラさんが起きましたよ」
リドルが宿屋のベットで休ませているサクラが起きた事を知らせる。
俺達はすぐに目が覚めたサクラを見に行く。
「お、まじか。お〜いサクラ、俺のこと分かるか?」
「か…つ……?」
「お!思い出したか。思い出したばかりで悪いんだけどさ―――――ぐえっ!?」
その瞬間サクラが俺の胸ぐらを掴んで思いっきり自分の方に引く。
「え?ちょ、苦しいんだけど!たしかに俺とお前の関係はそこまで良好じゃないけど、いきなりこれは無いんじゃないのか!?」
「あんた……よくも私の前にのこのこと現れたわね!」
「ちょ、サクラいきなりどうしたの?とりあえず落ち着いて」
「あんたもよミノル!あなた達が居なかったせいで私は……いや、私とおじいちゃんは道場を失ったの!」
突然のサクラの発言に俺達は動揺した。
「サクラさん、とりあえず一旦落ち着きましょうか。かつさんが苦しそうなので離してあげてください」
「……あんた誰?」
「僕はかつさんのパーティーに入っているリドルと言います。そしてこの子供はデビさんと言います」
「な!?妾は子供じゃないぞ!その紹介はやめろ!」
「あっそう。あんた達に用なんてないから。私はこの2人に用があるの」
そう言って俺とミノルを睨みつける。
「わ、分かった。とりあえず離してくれないか?これじゃあ話を聞こうにも、聞けないからさ」
「分かったわよ」
そう言ってゆっくりと手を離す。
「ふぅ〜やっと苦しくなくなった。起きていきなり胸ぐら掴むってどんだけ野蛮なんだよお前は」
「本当だったらあんたを思いっきりぶん殴ってやりたいくらいよ」
こいつ、野蛮過ぎだろ。
「それでサクラ、一体何があったの?」
「あんた達が道場に来れなくなってから1週間後の事よ。いきなり道場破りとか言って私達の道場に筋肉野郎が押し入って来たのよ。その筋肉野郎は私に勝負を申し込んで来て、その時おじいちゃんが行ってきなさいと言ってくれたのよ。嬉しかった、おじいちゃんが私に期待してくれている。私だって魔法使いを倒せるんだって。今までの修行は無駄じゃなかったって証明したかった。でも……」
「負けちまったってことか」
「先に言わないでよ。あんたが言うと余計むかつくわ」
そう言ってまた俺を睨みつける。
「と、とりあえずそのせいで今あいつらがあそこに看板掲げてんのか」
「そうよ。あいつら、おじいちゃんの大切な道場にあんな看板掲げて、悔しい!私がもっと強い魔法使いだったら……」
「でも、その後何度も挑戦したんだろ?」
「何度もね。でも、何度戦っても勝てなかった。私じゃあいつらに勝てないから、だからあんた達に戦ってもらおうとした。他人に任せるのは嫌だけど、私1人じゃ勝てないから。でも、あんた達は居なかった!色んな所を探してもあなた達は居なかった!あんた達おじいちゃんの弟子なんでしょ!?なのに何で道場が大変な時に居ないのよ!」
サクラは悔しそうに拳を握る。
こいつは人一倍頑固だから負けを認めるのが悔しいんだろうな。
「ごめんサクラ。まだその時は、借金返してる途中だったから」
「まだ返しきれてなかったの!?」
「いや、今はもう返し終わってて……」
「あんた達が居なくなってから何日経ったと思ってるの!?一体どれだけの時間を無駄にしてきたの?本当に借金返す気あったの?」
「な!?そんな言い方ないだろ!俺だって一生懸命頑張ったんだぞ!」
「じゃあさ、借金返す時少しでも道場の事考えた?」
「っ!?それは……」
「やっぱり、考えた事無かったでしょ。道場の事なんかどうせ頭からすっぽり抜けてたんでしょ!急に道場に来たみたいだけど、どうせ何かの理由でぱっと思い出したから来たんでしょう!」
言い返せない。
あの時すぐに思い出したのはミノルだったからだ。
強くなりたいと思った時も道場の事を思い出して無かったからだ。
「やっぱりね。そうだと思ったわ。あんたを見ているとイライラするのよ。自分の力では無く、他の人に頼って何もしないあんたを見ていると!」
「お前に俺の何が分かんだよ!」
さすがの俺もその言葉は聞き捨てならず思わず言い返す。
「分かるわけないじゃないそんなの。分かりたくもないわ!」
「あ〜そっかお前は嫌味しか言えないもんな。強くなりたいのに強くなれない人の気持ちがお前みたいな奴には、分かんないだろうな」
「ちょ、かつ!」
何だ?俺何かまずいこと言ったか。
ミノルが妙に焦っているような。
「……やっぱり、あんたみたいな奴に、助けを求めるんじゃなかったわ。私1人の力で道場を取り返す。じゃあね、弱虫」
「なっ!?俺は弱虫じゃない!て、おい!くそ、何なんだよ」
「かつ!」
「おわっ!?な、何だ?」
ミノルが険しい顔でこちらに詰め寄る。
「謝って!」
「はっ?お前今の見てただろ?俺散々悪口言われたんだぞ。あっちが悪いだろ」
「いいから、謝ってきなさい!」
そう言ってミノルは更に強い口調で詰め寄る。
「うっ!いや、いくら可愛そうでも、俺だってプライドが」
「サクラわね。魔法が上手く使えないのよ!だから強くなりたくても強くなれないの!」
「そうなのか!?いや、でも……」
「早く行ってきなさいよ!」
そう言って俺の尻を思いっきり叩く。
「いった!分かった!行ってくるよ!」
俺は渋々サクラを追った。
「う〜ん、最近妾達、こう言うの多くないか?」
「まあかつさん達も色々ありますしね」
―――――――――――――
「たくっ何で俺がこんな事しなきゃいけないんだよ。魔法が上手く使えないってただ単に努力不足なだけだろ」
俺はそんな愚痴を言いながら、しょうがなくサクラを探す。
出て行ってそんな時間は経ってないはず。
もしかしたらまたあの道場に行っているのか?
「流石に1日に2回は行かないか。お腹も減ってきたし、もしかしたらご飯を食べに行ってるのかも知れないな」
その頃サクラは………
「もう一度勝負よ筋肉だるま!」
「ふっふ〜ん!いいだろうお譲ちゃん!俺の筋肉に酔いしれろ!」
見事にかつの予想は外れていた。
「なあルルさん。ここらへんに薄い紫色の髪した女の子見かけなかったか?」
「あ、え、薄い紫色の子ですか。いえ、それは分からないですね。はい」
「そ、そうですか」
何だ?何か少しぎこちない様子だけど。
「もしかしてルルさん何か俺に隠し事してます?」
「へっ?いや、何にもしてませんよ!はい!」
めちゃくちゃ動揺している。
これは絶対に何かあったな。
「おっ!かつじゃねぇか。今日はどうしたんだこんな所で?」
「久しぶりだなウルフ。何かルルさんが俺に隠し事してる気がするんだよ」
「え?いや、何も隠してませんよ!本当に!ねっ?ウルフ!」
なんかすごく怪しいんだけど。
「どうなんだよウルフ」
「まあそうだな。ルルは最近悩み事があってそれのせいで少し疲れてるんだよ」
「そ、そうです。ちょっと疲れてしまって」
「そうだったんですか。あまり無理しないで下さいね。それじゃあ」
ただの気のせいだったのか。
ここには居ないみたいだし、何処行ったんだサクラは?
あ、そうだ、ついでにウルフにも聞いてみるか。
「はあ……危なかったです。危うくバレてしまうところでした」
「ルルがかつが結婚していると思って、焦って合コンした事、そんなにバレたくないのか?」
「だから言わないで下さいってば!」
「あの〜ルルさん?」
「へっ!あ、かつさん!?」
ルルさんが今まで見たことないくらい驚いている。
「はい、かつですけど」
「お前いつの間にいたのか」
「ちょっと聞きたいことがあってな」
「も、もしかしてさっきの話聞いてました?」
「聞いたというか聞こえましたね」
「はひゅう……」
「おい、ルル!大丈夫かー!」
何か色々大変そうだな。
「あの〜他の人にはこの事言わないでください」
「別にいいですけど、そんなに恥ずかしがること無いと思いますよ」
「恥ずかしい事なんです!」
う〜ん、女心は分からないな。
「それとあと、ウルフ。薄い紫色の髪の女の子見なかったか?」
「薄い紫色の髪の女の子か?う〜ん見てねぇな」
「そうか。ありがとうな」
やっぱり駄目か。
たくっ何処行ったんだよ。
なんか腹減って来たしご飯でもついでに食べるか。
すると席に座ってる人がこちらに手招きをする。
「おい、そこの兄ちゃん。飯を注文したいんじゃが」
「あ、すいません。俺従業員じゃないんです――――あれ?ダリ師匠?」
「ん?お主は絶対かつか?」
まさかのサクラでは無くダリを見つけてしまう、絶対かつだった。




