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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第八章 奪われた道場
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その八 弱い自分

「う、ううん……」


腹が痛む、頭もズキズキとする。

だが俺は痛む頭と腹を我慢しながらゆっくりと目を開ける。

その時俺は見てはいけない物を見てしまった。

ああ、俺は……やっぱり……

俺は嘘だと思いながらゆっくりと立ち上がる。

まだ正確に確認もしていない、もしかしたら違うかもしれない。

そしてフラフラと俺はそれを手に取る。


「ああ……あああ………」


地面が真っ赤な血に染まった場所に沢山の肉片、臓物がそこには至る所に落ちていた。


「ああああああ!!!」


俺はその手に取ったノリトの片腕を抱きしめる。

それはもうひんやりと冷たくなっていた。


「ああああああああぁぁぁぁ!!!」


あのモンスターがノリトを殺した事への怒り、そして自分がノリトを助けなかった悔しさ、憎しみ、様々な感情がグチャグチャになり、俺は叫ぶ事しか出来なかった。

何分何時間叫んだか分からないが、俺は気付いたら叫ぶのをやめてフラフラと足を動かし森から出ていた。

ノリトの残された体を腕に抱えて、自分がノリトの血によって体中血だらけになっている事さえ俺は気付かなかった。

周りの人は俺の事を見たがあまり驚いた様子もなく、モンスターの血と間違われたのかもしれない。

そして俺は足を止めた。

目の前には、ノリトの家があった。


「っ!?どう……して……?」


だがそこには扉に売却中と書かれていた。

ここはノリトの家じゃないのか!?

俺は近くに居る人に訪ねた。


「あ、あの……」

「うわっ!?びっくりした……あんた血だらけだけど大丈夫なのか?」

「この……家…」

「え?ああ、この家かい?これは数年前から売りに出されてるよ」

「っ!?ああ……そうか……」


これは罠だったんだ。

これは俺を絶望に落とす為の黒の魔法使いの罠だったんだ。

俺は再び歩き出した。

家に入ろうとしても鍵はかけられていた。

俺は周りを見渡し、地面を手で掘り始める。

手から血が出てきても、寒さで体が震えそうになっても、俺は地面を掘り続けた。

何時間経っただろうか、俺は頭が入るくらいの大きさまで掘ったあと、ノリトをその中に入れた。

そして俺は土を上から被せて最後に手で土を固める。


「……ごめんな……本当にごめんな……俺は……最低なやつだよ……」


俺は何度も何度も、謝り続けた。

気付けば俺はその場で気絶した。


―――――――――――――――

目を覚ますと天井が見えた。

普通は見えるのはずの無い天井が見えるという事に少し困惑したが、ここはどこかの建物の中だとすぐに分かった。


「かつ!大丈夫!」


そこには驚いた顔でこちらを見るミノルの姿があった。


「ここは……」

「私達の家よ。かつ、外で血だらけで倒れてたんだから」

「外で……血だらけ……」


その瞬間俺はノリトの肉片や臓物が散らばっていた光景がフラッシュバックする。


「っ!?ああ……ごめん……ノリトごめん……」

「ちょ、かつ大丈夫!?いきなり頭抱えて……ごめんってどういう事?ねえかつ!一体何があったのよ」


俺は皆になだめられたおかげで精神が安定してきたので今日あった事を話した。


「そんな事があったの……」

「それはかつさんのせいでは無いですよ。だから罪の意識を感じる必要はありません」

「違うよリドル。俺が弱かったからノリトが死んだんだ。あの時倒していればノリトが死ぬ事は無かった」

「かつ………」


するとリドルが思い出した様に喋りだす。


「そういえば、もうそろそろクエストに行かなければいけない時間ですよ」

「あ、そう言えばそうね。実はクエストを予約していたのよ。かつも気晴らしにモンスター討伐しましょ。多分スカッとすると思うわよ」

「俺は、いいや」


そう言って俺は皆に背を向けて布団に包まる。


「ごめんデビちゃん、リドル。私はかつが心配だから」


そう言ってミノルはその場に残ろうとする。


「ごめん、1人にさせてくれないか」


だが俺はどうしても1人になりたかった為、ミノルをその場から離れるように言った。


「……分かったわ。それじゃあ2人共行きましょうか」

「はい」

「分かったぞ」


デビとリドルが部屋を出た後ミノルが扉の所でこちらを振り返る。


「辛くなったらいつでも相談してよね。私達仲間なんだから」


そう言って扉をゆっくり閉めた。


「俺はもう戦えない」


あの時やっぱり黒の魔法使いが居たんだ。

もしかしてノリトは最初から死ぬ事が決まってたのかも知れない。

自分の力でノリトを救えなかったと言う無力差を分からせるためだけに命を失ったんだ。

お母さんも殺されてるかも知れないな。

黒いモンスターと急に消えた家。

確実に黒の魔法使いが関わってるんだろうな。

今考えればあの家には生活感が無かった。

色鉛筆も新品だったし、洗面台も濡れていなかった。

ホコリもほとんど無かったし、気付くところは沢山あった。

その時は綺麗好きなお母さん何だろうなと思って、あまり気にしなかったけどもし気付いたらノリトが死ぬ事は無かった。

やっぱり、どう考えても俺のせいなんだ。


「ごめんな……ノリト……」


俺はそう思うと涙が抑えられなかった。

溢れ出る涙と一緒に俺はただただ謝った。

まるでノリトに許してもらえる様に何度も何度も。

そして再び俺は眠りについた。


――――――――――――――――

「う、ううん……」


どれくらい時間が経ったのだろうか。

俺はゆっくりと起き上がる。


「あ、おはようかつ。ご飯できたけど、食べる?」


するとそこには俺のベットの横で椅子に座ってるミノルの姿があった。


「……今何時だ?」

「午後9時よ」

「そうか……」


俺は再び、布団に潜る。


「ちょっとかつ、布団に潜ってないで出て来なさいよ」

「ほっといてくれ、今あんまり話したくないんだ」

「ほっといてって、私はかつのことが心配で!」

「だからほっといてって言ってんだろ!」


俺はつい大きな声でミノルを突き放してしまった。


「……分かったわ。何かあったら言ってね」


そう言ってミノルは出て行ってしまった。


「これでいいんだ……これで……」


それから何時間経ったのだろうか。

俺は寝ている所を誰かが扉を開ける音で目が覚める。


「誰だ」


俺は扉に背を向けながら話す。


「……朝になったから起こしに来たのじゃ」


その声はデビだった。

いつの間に朝になったのか。


「分かった。俺はまだ外に出たくない。だから俺に構わず朝飯食べろよ」

「朝飯はもう食べ終わったのじゃ。ていうかお主の分も食べてしまったのじゃ」

「……そうか。だったらもう用はないだろ。閉めてくれ」

「明かりも消して、カーテンも閉めて、まるでバンパイヤみたいじゃぞ。いい加減出てきたらどうじゃ?お主の身に何があったかは分からないが妾はお主に―――――」

「もう用はないって言っただろ!」

「っ!?」

「早く出てってくれ」

「………何じゃ妾がせっかく心配してやっていると言うのに!もう知らん!」


そう言って、思いっきり扉を閉める。


「………もう1度寝るか」


そして俺は再び眠りについた。


―――――――――――

コンコン


「……?」


俺は誰かが扉を叩く音で目が覚めた。


「かつさん、入ってもよろしいでしょうか」


リドルか……どうせあいつは何言っても入ってくるだろう。

無視するか。


「黙ってるって事は入っていいってことですね。失礼します」


予想通り勝手に入って来た。


「かつさんご飯の用意が出来ましたよ」

「いらない」

「そうですか。まあそう言うと思ってましたけど」


思ってるなら聞くなよ。


「それにしてもここんところ色々ありましたね。まさかあんな経験をするとは思っていませんでしたよ」

「用がないなら出ていってくれないか」

「そう言えば、かつさんから預かったあの本、デビさん大切に持ってますよ。本を入れる専用のベルトまで買ったんですからね」

「分かったよ。もういいだろ。早く出てってくれ」


俺はリドルに背を向けたまま、リドルは俺の背を見ながら話す。


「そう言えばルルさんがかつさんは結婚―――――」

「リドル!…………もう出てってくれ」

「……いつまで、こうやって引きこもってるつもりですか?」

「……………」

「分かりました。失礼しました。また後で」


そう言って静かに扉を閉める。


「分かってるよ。俺だって」


そして俺はまたまぶたを閉じた。


――――――――――――

助けてくれるって言ったじゃん。

守ってくれるって言ったじゃん!

お前のせいで僕は死んだ!

ごめんなさい。

お前が弱いから僕は死んだんだ!

ごめんなさい!

お前なんか居なきゃよかった!


「はっ!?はあ……はあ……はあ」


鼓動が早い。

息が荒い。

またこの夢か。


「分かってる。逃げるつもりは無い……でも、後もう少しだけ」


俺は息を整えてまた布団に潜った。


――――――――――――

1週間後


「かつ、まだ出て来ないんじゃろうか」

「精神的にかなり病んでしまったのかも知れません。なんせ、人が死んでしまったんですからね」

「責任感じちゃってるしね。もしかしたらかつ、罪の重さに耐えられなくなって自殺したりとか……」

「何!?それはだめじゃ!妾、すぐに止めてく………かつ?」


俺は走ってくるデビと目があった。

久しぶりのリビングは懐かしい光景だった。


「かつ!もう大丈夫なの?」

「かつさん良かったです。かつさんがもしかしてこのままニートになってしまうんじゃないかと心配していました」

「それはもう大丈夫だ。俺なりの決着を付けに来ただけだから」


俺は頭を下げる。


「かつ、急にどうしたの?頭なんか下げ――――」

「俺は今日限りでこのパーティーを抜ける」


その言葉を聞いてしばらく沈黙が続いた。


「………え?ごめんかつ、今なんて言ったの」


あまりの突然の出来事でミノルは自然とその言葉が出ていた。


「俺はもうこのパーティーに居る資格はない。これ以上、迷惑はかけられない」

「迷惑だなんて思ってませんよ。正直かつさんが居ないとパーティーが機能しないんですよ。ですから」


リドルの言葉を遮って俺は自分の気持ちを打ち明ける。


「足引っ張るのはもう嫌なんだよ。分かったんだ。俺がここまでこれたのは皆のおかげだ。俺1人だけじゃ何にもできやしない。皆に守られてばっかりだった。レベル1の俺がお前ら見たいな高レベルの魔法使いの所に居ちゃいけないんだ。だから……」


するとミノルが俺の言葉を遮るように机を叩く。


「そんなの……誰が決めたのよ!別にいいじゃない守られたって!私達は仲間なんだよ?お互いを助け合うなんて当然じゃない!かつは今まで立ち向かってこなかったの?かつは今まで背を向けて逃げてきたの?違うでしょ!少なくてもかつはいつも諦めなかった!私達をいつも助けてくれたのはかつじゃない!それなのに……居ちゃいけないなんて言わないでよ……」


ミノルが泣きながら俺に怒りの言葉をぶつける。

だがその言葉はどれも俺を気遣ってくれていた。

優しいなミノルは……


「本当に優しいな。でも、だからこそ辛いんだよ。皆が俺を慰めたり、励ましてくれる度に、みんなが俺に優しい言葉をくれるたびに怖いんだよ!お前らを失うのが……」

「どういうこと?」

「俺がノリトの死体を見た時、どうしようもない不安と悲しみが俺を襲ったんだ。泣き叫んで、悔やんで、それでもやっぱり苦しくて。その時思い出したんだよ。前に占いで言われた言葉を。俺はこの先、3人の親しい人の死体を見るって。たった数時間会っただけのノリトが死んでしまった時、こんなにも苦しいのに、もし数年、数10年を共にして来た人が死んでしまったら俺はどうなってしまうんだろうって。怖いんだよ。もしそれがお前らだったらと思うと余計怖いんだ!もう、俺のせいで誰かが死ぬのは嫌なんだよ……」


俺は泣きながら膝から崩れ落ちた。


「かつ……私……」


これでいいんだ。

皆もこれで分かってくれたはずだ。


「そういう事なんだ。だから今日で俺はやめ――うぐっ!?」


その瞬間口に何かを詰め込まれた。


「ふぐっ!?ふご、ふぐぅ!ごくん!何すんだデビ!」

「妾特性イチゴジャムパンじゃ!」

「いや、そう言う事じゃなくて、ていうかお前、よくこの状況で………」


目の前のデビの目からは涙が溢れていた。


「やめるなんて言うじゃない!お主は妾と一緒にこれからも冒険するのじゃ!だからやめるな!」

「デビ……でも俺は……」

「お主が何を考えてるかもわからん!でも、お主の顔はあの日からいつも辛そうじゃ!辛いならそんな事考えるな!」

「そういう事じゃなくて………」

「そう言うことじゃ!妾はお主が笑った顔が好きなのじゃ。悲しそうなお主は見たくないのじゃ。だから、笑って欲しいのじゃ。お主と居ると妾も笑顔になるのじゃ。辛いお主を見てるだけでも辛いのに、それなのにやめるなんて言うな!」

「デビ、お前……」


デビの純粋な言葉。

真っ直ぐでその言葉がどれも俺を想ってくれている。


「そうですよかつさん。本当に僕達の事を想うなら辞めないでくださいよ」

「そうよ。それに私達そんな簡単にやられる程弱くないからね。ナメないでよ」

「リドル……ミノル……」

「お主ごとき、いつでも守ってやるぞ!だから………」


皆、俺の事をこんなにも想ってくれている。

こんなにも求めてくれている。

これ以上は逆に俺がワガママみたいになるよな。


「大丈夫だ。俺分かったよ。本当は最初から分かってた。でも、俺はそれが分かってて楽な方を行こうとしてたんだ。ありがとな、こんな俺を仲間なんて呼んでくれて。俺、やめないよ。だってこんな楽しいパーティー抜けるなんて勿体無いしな」

「かつ!本当に!?」

「ああ、でも、俺のわがままを聞いてくれないか」

「なんじゃなんじゃ?妾に言ってみろ!」

「皆が守ってくれるって言ってもこのままじゃ駄目だと思うんだ。皆に頼りっぱなしじゃなくて、自分の力で戦えるようになりたい。だから俺を強くしてくれないか!」



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