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半分獣の俺が異世界で最強を目指す物語  作者: 福田 ひで
第八章 奪われた道場
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その五 混浴

「じゃーん!ミノル特性ビーフシチューよ!」


そう言って出されたのはドロドロの紫色に変色した何かだった。


「えっと……何?これ?」

「だからビーフシチューよ」


それは、はっきり言ってビーフシチューなどでは無く、汚染されたビーフシチューと言うのが正しい気がする。

ていうかこれをビーフシチューと言ったら生ゴミもビーフシチューになるという事になるな。


「何見てるのよ。観賞用じゃないのよ。冷めないうちに早く食べなさいよ」

「え?これ食べるのか?」

「何言ってるのよ。お腹が空いたから作って上げたんでしょう。ほらスプーン持って」


そう言って無理やりスプーンを握らせられる。


「いや、何か俺、お腹いっぱいになっちゃた」 

「嘘言わないの。しょうがないわね」


そう言ってミノルがスプーンを手に取り、謎の物体(ビーフシチューっぽい物)を掬う。


「は、はい。あ〜ん」


そう言ってドロドロの液体をこちらに近づける。

うわ〜何でだろ。

普通だったらめちゃくちゃ嬉しいはずなのにこの状況だとただの迷惑だ。

シチュエーションって言うのは本当に大事なんだな。


「ほら、早く口開けなさいよ。恥ずかしいんだから」


いや、俺も早く食べたいよ。

でも物が物なんだよなぁ。


「いや、やっぱりお腹空いてないは。だから――――」


その瞬間、頭を掴まれる。

するとミノルは満面の笑みでスプーンを近付けてくる。


「は〜い、あ〜ん」


あ、やばいこれ死ぬやつだ。


「ちょ、ちょっと待て!明日!明日食べるから!」

「何言ってんの!暖かいうちに食べたほうが美味しいでしょうが!」


そう言って無理やり食わせようとしてくるミノルの手を俺は掴んで何とか抵抗する。


「何やってるんですか?お2人共」

「あ、リドル!お前寝たんじゃなかったのか?」

「お2人の揉めあってる声が聞こえたので。えっとこれは一体どう言う状況ですか?」


リドルが俺達の今の状況を不思議そうに見つめる。


「ちょっと聞いてよリドル!かつがお腹が空いたって言ったからせっかく作ったのに、食べてくれないのよ!」

「本当ですか、かつさん?駄目ですよ、女性の手料理を食べないなんて」

「いや違うんだって!これ、これ!」


俺はリドルに目で料理を見ろと訴えかける。


「ん?あ〜あ、とっても美味しそうですね」

「はぁ!?」


予想外のリドルの言葉に思わず声が出た。


「ちょっとかつ?今のはぁ!?はどう言う意味?」

「いやー特に意味は無いけど………」


やばい!このままじゃ、確実にボコられる!

心身共に疲れている身でその1撃はきつい。

何とかしてこの状況を突破できないか。


「ほら、早く口開けなさいよ!」


ミノルはより一層無理やり口の中に入れようとしてくる。


「ぐぐぅ!ちょ、まっ!」


ほぼ口の中に入ると思ったその時デビがひょこっと顔を出して来た。


「何を食べておるのじゃ?」

「で、デビ!お前寝たんじゃないのか」

「お主らの声がうるさすぎて眠れるもんも眠れないのじゃ!ん?これは……」


そう言って、デビは謎の物体を見つめる。


「変わった食べ物じゃのう。食べないのか?」

「え?あ、いや」


するとデビがまだ答えてもないのにその物体を口の中に流し込む。


「ああ!ちょ、お前!」

「ふっふっふ、お主が早く答えないからいけないのじゃ。それにしてもこれ何――ぐあっ!?」


その瞬間、デビが硬直したまま床に倒れる。


「デビ!?ちょ、お前どうした!?」

「え?デビちゃんどうしたの!」


―――――――――

「気絶してるだけみたいだな。何ともなくて良かったな」

「そうね……」


デビが倒れた後、すぐにデビの部屋のベットまで運んで寝かせた。

何かうなされてる様な気もするが、きっと気のせいだろう。


「私の料理、不味かったかな」

「いや……そんなことは無いんじゃないか?」

「嘘言わないでよ。私の料理食べなかったくせに」


俺は言葉に詰まってしまった。

図星だったからだ。


「ごめん」

「謝らないでよ。ま、薄々気づいてたけどね。リツも私の手料理食べた事なかったしね」

「そうなのか……」


何とも答えにくい。


「ねぇ、突然何だけど……」

「何だ?」

「一緒にお風呂入らない?」


―――――――――――――――――

水滴が落ちていく音が響き渡る。

会話も何も無いまま、湯船に浸かりながらお互い端っこで背を向けたまま、時間が過ぎていく。

だが、その沈黙を破る様にミノルが口を開いた。


「ごめんね。元気づける為に作ったつもりなんだけど、失敗しちゃって」

「え?……ああ!別に気にしてないよ。頑張って作ってくれたんだなって言う事は伝わったし」


一瞬なんの事かと思ったがすぐに料理のことだと分かり、すかさず返事をする。

ていうか今はそんな事どうでもいい。

この状況がヤバすぎて、心臓が飛び出るくらい、バックバクだ。

そして再び沈黙が始まる。

今度は俺から言ってみるか。

これ以上の沈黙は流石にきついしな。

喋ってないと緊張で死んじゃいそうだし。


「えっと……何で急に一緒に入りたいなんて言ったんだ?」


何言ってんだ俺!

今言うことかそれは!

ていうかもうちょっとオブラートに言えなかったのか俺は!


「何か悩み事無いかなと思ってね。ほら、裸の付き合いとか言うじゃない。こういう一緒にお風呂に入れば何か、すらっと本音で話し合えるかなと思ってね。いや、だった?」


嫌なわけ無いだろ!

むしろ最高だ!

いや、待て、ここはあくまで冷静に返すんだ。


「最高だよ」


うぉい!何言ってんだよ俺は!

でも、これが本音だからしょうがない!


「かつ、あんたって人は……もういいわ。それより」

「ん?何だよ」


なんかミノル待ってるみたいだが、もしかしてこっち来てほしいって事なのか?


「悩みよ悩み!何の為に一緒にお風呂入ったと思ってるの」


あ、そっちか。


「悩みか……何か申し訳ないが今は特に無いんだよな」

「リーダーの事は?」


その言葉を聞いて、俺は今日の出来事を思い出す。


「まあ、確かにそうだけど、あの男に言われた事なんて真に受けるわけ無いだろ」

「そうなの?だったらいいんだけど。私はちゃんとリーダーやれてると思うよ。だから他人と比べなくていいからね。かつはかつのやりたいようにやってね。なんせ私達はそんなかつと一緒に居たいと思ったからパーティーを結成したんだよ。自信持ってね」

「お、おお、分かった」


ミノルが俺を励ましてくれる度に何故か胸の高鳴りが大きくなる。


「ミノル俺、本当は少し不安になってた。あの酔っぱらい野郎に言われた事を全部真に受けたって事じゃないけど、所々そうなのかなとか思ってたんだ。だからそう言ってくれて、嬉しいよ。ありがとな」


何故かミノルの時だけは素直になれる気がする。

だからなのか一緒に居て、安心もする。


「そ、そうなの」


すると再び沈黙が始まった。

まずいな、これ以上は長続きしなさそうだ。

そろそろ出るか。


「なあミノルそろそろ―――――」


その瞬間、背中に何かが接触する。


「っ!?み、ミノル?もしかしてお前……」

「ねぇかつ?私の悩みも聞いてくれる」


これ完全に背中と背中がくっついてるよな!

何やってんだこいつは!


「な、何だ悩みって?」


正直悩み聞けるような状態じゃないんだけど!

やばい!これ、俺の心臓の音聞こえてないよな!?


「私ね、何故か最近胸の辺りが苦しいの。何故か分からないけど、心臓が張り裂けそうなくらい苦しくて、でも何故か心地良いの。これどういうことか分かる?」


やばい!これ、俺の理性がぶっ飛ぶ!


「さ、さあどうかな?」


まずい!これ以上は本当にまずい!


「かつ、この痛み、取ってくれない?」


あ、駄目だ、これは理性が保てるわけが無い。

俺は勢いに任せて振り向こうとした瞬間声が聞こえた。


「あれ?もしかして誰か入ってますか?」

「ふぇ!?え!あ!入ってます!」


やばい、つい返事しちゃった!

この声はリドルか!?


「その声はかつさんですか?」

「あ、ああ!そうだぞ。何かようか?」

「僕も丁度お風呂入ろうとしたんですよ。一緒に入ってもいいですか?」

「え?いや!それはだめだ!」


俺は必死にリドルが入らない様にする。


「え?別にいいじゃないですか。男同士なんですし。恥ずかしい事も無いでしょう」

「いや、俺、あれだから!1人でゆっくり入るタイプだからさ!」

「1人でゆっくりですか……」


な、何だその含みのある言い方は。


「そ、そうなんだよ。だからごめんな」

「分かりました。それじゃあ諦めて明日の朝入る事にします。1人で、ゆっくり、入ってて下さいね」


そう言って立ち去って行く足音が聞こえた。

そして完全に足音が消えたと同時に俺は安堵する。


「危なかった……」

「そ、そうね……危なかったわね」


本当に危なかった。

あのままリドルが来なければ俺は理性を失ってミノルを襲ってしまってたかもしれない。

最低鬼畜クソ野郎になる前に止めてくれたリドルに感謝だな。


「そう言えばお前の悩みをまだ解決してなかったな。何だっけ?」

「そ、その事はもういいの!」

「そうなのか?それじゃあ俺はもう出るぞ」


俺はミノルの体を見ないようにしながら風呂を出た。


「かつ、おやすみ」

「ああ、おやすみ」


そして俺は当然一睡も出来なかった。



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