その四 絡み
「すみませ〜ん、ルルさん、例の鍵を受け取りに来たんですけど」
俺達は魔法協会に着いて早速受付に向かった。
ちなみにデビはまた腹が減ったのか、既に席に付いている。
「あ、かつさん。お待ちしておりました。その前に無事帰ってこれたんですね。心配していたんですよ」
「まあ色々ありましたけどね。無事に帰ってこれましたよ」
まじで色々あったけどな。
「それではこちらが例の鍵です。すみません。お渡しするのを忘れてしまって」
「いや、別にいいんですよ。見つかったのなら」
正直鍵の事はすっかり忘れていた。
とりあえず見つかったからすぐにでも確認したいが、デビはここで食べる気まんまんだしな。
「それじゃあ俺達これから食事するんで、また何かあったらよろしくお願いします」
「はい、いつでも待っています」
そう言って営業スマイルをこちらに向ける。
相変わらず笑顔が素敵な人だな。
俺は鍵を受け取ってデビ達が居る方に向かう。
「おーい、皆!鍵を受け取ってきたぞ。て、もう準備万端だな」
「おい、かつ何をしてるんじゃ!早くこんと全部食べちゃうぞ!」
「分かってるって今向か――――っ!あ、すみません」
俺はミノル達が居るテーブルに向かおうとした瞬間、酔った男と肩がぶつかった。
「あっ!?お前、なぁ〜にぶつかってんだよ!ぶっ飛ばすぞ!」
やっちまった、酒癖の悪い奴に捕まっちまったよ。
「すみません。気をつけます」
俺はすぐにそこから逃げ出す為、早めに謝りその場をあとにしようとした瞬間、その男に掴まれた。
「げっ!?」
「にげられるとおもうなぁよ〜!お前喧嘩売ってんだろ!ほら、やってやるぞ!」
そう言ってベロンベロンに酔っ払ってる男はフラフラになりながら拳を構える。
やべぇ、酔っぱらいってこんなに面倒くさいのか。
「ちょっとかつ、何やってんのよ。皆待ってるのよ」
「あ、すまん。ちょっとトラブっちゃって。でも、話はついたからもうそっちに―――」
「おい、何だよ!姉ちゃん!俺と一緒に飲まねぇか?」
そう言って、酔った男はミノルに肩を組む。
こいつ、ミノルに馴れ馴れしく触れやがって。
「あの、飲みませんしそれに酒臭いんで離れてください。酒臭いんで」
酒臭いって2回言った!
だがその男はなおもミノルのことを誘う。
「いいじゃねぇかよ!どうせ暇なんだろ?」
「暇じゃないわ。仲間とパーティーメンバーと一緒に来てるの。だからその薄汚い酒臭い手と酒臭い口を早く退けなさい」
ミノルはまるでゴミを見るかのような目でその男を見る。
「あ!?パーティーメンバー?誰だよそいつは!?そのパーティーのリーダーはどいつだ!」
「こいつよ」
そう言ってミノルは俺を指差す。
「こいつってのは無いだろ。苛立ってるとはいえ」
「あ!?お前がリーダーなのか!?おいおい、こんな奴がリーダーなわけ無いだろ!」
「くっ!?……初対面のくせに何でそんなこと言えんだよ」
「いやいや、だってお前見てぇな、魔力も何も感じられない様な雑魚がリーダーなわけ無いだろ?何だ?あれか?もしかしてお前遊ばれてんのか?だからお前がリーダーとか言う大層な名前貰ってんのか!がっはっはっ!」
こいつ、好き勝手言いやがって!
こっちにだってプライドがあるんだ!
「言わせてもらうが、お前みたいな酒に溺れて人を罵るようなことしか言えないやつに言われたかないぞ!」
「何言ってんだ!酒は溺れてなんぼだろ!それにしてもこんな美人な姉ちゃんが、こんな役立たずがリーダーしてる所にいるなんて可愛そうだな。どうだ?俺の所に入らねぇか?こんな奴が居るところに居たってクエストなんてクリアできないぞ?」
「おい、お前!いい加減にしろよ!勝手にきめんなよ!」
「あ!?雑魚が黙ってろよ!お前みたいな弱い奴がリーダーだとパーティーの品位に関わるんだよ!お前、リーダーやめちまえや。ははは!」
こいつ!もう許さねぇ!
そう思った瞬間、ミノルが男の胸ぐらを掴む。
「え?」
「いい加減にしなさいよ!さっきから偉そうにベラベラベラベラと……言っておくけどね、あんたよりかつの方が頼りがいがあるから!」
「ふ、ふぇ?」
「かつがリーダーでパーティーが可愛そう?品位に関わる?勝手に言ってなさいよ!あんたみたいにレベルでしか人を判断できない様な奴がリーダーやってる方がよっぽど可愛そうよ!分かったらもう2度と関わらないで!」
「は、はい……」
男はミノルの圧倒的な迫力に負け、酒が抜けたのか青ざめたまま逃げるようにその場を後にした。
「えっと……ミノル?」
「私……かなり変だったわよね」
「まあ、ちょっとな。でも、俺の為に言ってくれたんだろ?ありがとな」
喧嘩というのは日常茶飯事なのか皆こちらに見向きもしていない。
まあそれが不幸中の幸いだが。
「……今言ったこと全部本当だから」
「え?今なんて?」
「ううん!何でもない!早く行きましょう!」
「ああ、分かった」
何か少し引っかかったが、まあさっきの発言はミノルがあの男を追い払う為に言ったのだろう。
だから自分に向けられたとか自惚れるなよ俺!
「なんじゃお主ら、遅かったのう。全部食べ終わっちまったぞ」
「は?嘘だろ!?全部食べたのか!」
「すみませんかつさん。やめるよう言ったんですが、デビさんの吸引力が凄くて」
「じゃあ追加注文頼めるか?」
「残念じゃが。もう金が無いのじゃ」
そう言って空っぽの財布を逆さまにする。
「マジかよ……俺腹減ったんだけど」
俺は腹減って鳴るお腹を擦る。
「私が家で作って上げるわよ」
「助かるよ。ミノル」
まあミノルの手料理が食べられるってんなら、逆にいいか。
「よし!鍵ももらったし早く家に帰ろうぜ」
「妾はいち早くふかふかベットで寝たいのじゃ!」
「私は早く温かい風呂に入りたいわ」
「何言ってんだよ。俺が先だぞ。じゃんけんのこと忘れんなよ」
「こっちのセリフよ。3本先取って事忘れないでよね」
俺達は笑いながら家に帰って行く。




