その十九 デビの覚悟
「………はっ!」
俺はすぐに辺りを見渡す。
青色の岩と冷たい空気、先程いた洞窟と変わらないな。
「よし、戻ってこれたってことかな?」
その時誰かの大きな叫び声が聞こえた。
「今の声はデビか!?」
あの不気味なモンスターが言ってた通り仲間がピンチになってる状況ってことか。
「くそ、待ってろよ!デビ!」
俺はすぐに声が聞こえた場所に向かった。
―――――――――――――――――
「くそ!何でこやつがこんな所にいるのじゃ!」
「デビ!」
「な!?お主、何でこんな所におるのじゃ!」
目の前にいるのは口から火が溢れている3つの首のモンスター、ケルベロスか。
「そんな事よりお前何1人で戦おうとしてんだよ!勝てるわけ無いだろ!」
「何言っておるのじゃ!少なくともお主よりは強い!」
「グオオォォォォォ!!!」
3つの頭が、同時に吠えると耳がキーンとなるくらいうるさい。
「くそ!やるしかないか」
とりあえずインパクトが効くかどうか試してみるか。
「喰らえ!インパクト!」
俺の放ったインパクトはケルベロスの頭を直撃した。
だが
「グオラァァァァ!!」
「なっ!?無傷!?嘘だろ!」
今までのモンスターにはちゃんと効いたのに。
まさか今までのモンスターの誰よりも強いってことか!?
その瞬間ケルベロスの口から炎の玉が勢いよく飛び出してきた。
「しまっ!?」
俺はギリギリの所で後ろにジャンプして避けたが衝撃でそのまま吹き飛ばされる。
「ぐはっ!」
背中が痛い。
腕にも少しかすっただけで火傷した。
まずいこのままじゃ……死ぬ!
そう思った瞬間デビが俺の前に立つ。
「何やってんだお前」
「お主にはもう勝ち目はない。早く逃げるのじゃ」
「何言ってんだよ。逃げるわけにはいかないだろ」
「前にこの様にお主が妾の前に立って守ってくれた事があったじゃろ?」
それはもしかしてカルシナシティのカジノ店の事を言っているのか?
「それがどうしたんだよ。早く退けよ!じゃないと攻撃を喰らうぞ!」
「あの時前に出てきて妾を守ってくれた事嬉しかった。だから今度は妾がお主を守らせてくれぬか?」
こいつ何を言ってるんだ?
まさかデビ、お前は………
「デビ!それは―――」
「お主らと会う前に妾は1人ぼっちだった。誰かと一緒に討伐に行っても妾の性格のせいもあってうざがられて皆妾の事を嫌った。そして気づけば誰も居なくなったのじゃ」
悲しそうな顔でデビはゆっくりと語る。
「寂しかった。1人は怖かった。だから妾は友達を作ろうとまずこの口調を変えようと思ったのじゃ。だけど何度も直そうとしても喋るに連れてボロが出てしまい、結局振り出しに戻ってしまった。そんな時、お主に出会った。果物屋で財布を見つけた時、これが最後のチャンスだと思ったのじゃ」
あいつあの時の変な口調はそれが理由だったのか。
「そしてお主と会話をするに連れて、何度も失敗しないと思っておったのに呆気なくボロが出てしまったのじゃ。人と喋るのは久しぶりで嬉しくって楽しくって、つい本音で喋ってしまったのじゃ。すると案の定お主は怒ってしまった。やってしまったと思った。何度も心に固く誓ったのにそれが出来ない自分の不甲斐なさと悔しさで涙が止まらなかった」
あの時の涙もそれが理由で。
「だけどその後冗談とお主が言った時まだチャンスはあると思った。このチャンスを逃さない為にと思って約束をした。だけど実際に会ってみるとお主は何かしらの悩みを抱えている状態でとても友達になってくれとは言えなかった。自分勝手な事を言えばまた妾の前から居なくなってしまう。そう思い、ここはぐっとこらえてお主の相談に乗ってやったのじゃ」
う〜ん何か偉そうだがここは我慢しよう。
「そしてその後お主とは会えずもう妾はずっと1人何だなと思った時、裁判でお主と再び出会えた。嬉しかったまた会えたから、でもお主はまたそんなこと言えない状況に陥っていたせいで言えずじまいで、また別れてしまった」
まあ確かにあの状況では言えないよな。
「そんな事を思っていた時ふとお主らを魔法協会で見つけた。しかもミノルが何かの紙を掲示板に貼っつけている場面をちょうど見たのじゃ。妾はすぐにその紙を確認した。それでお主らが仲間を募集しているのを知ったのじゃ。これが本当の最後のチャンスと思った。そして覚悟を決めて、お主らの面接に向かったのじゃ。そして結果は合格。魔法許可証を見せてと言われた時は終わったと思ったけど、ミノルが事情を察してくれて何とか合格できたのじゃ」
その時からミノルはデビが魔法許可証が無いのを知っていたのか。
「それからの日々は本当に幸せだった。1人じゃ無いってこんなにも幸せなんだなと毎日思った。ありがとうかつ。妾をここまで連れてきてくれて。ありがとうかつ、自分勝手で自己中な妾を見捨てずに仲間に入れてくれて。ありがとうかつ、お主と、皆と出会わせてくれて」
「デビお前………」
するとデビがまっすぐケルベロスの方を見る。
「こいつの名はケルベロス。本来はここにはいない化物級のモンスターじゃ。こいつのことなら妾が1番知っておる。だからこそ妾1人でこやつを引き止める。だからお主は早く逃げるのじゃ!」
「出来ねえよそんなこと!お前を見捨てて行くなんて!」
するとデビが泣きそうな顔でこちらを見る。
「妾に恩返しをさせてくれぬか?」
その時デビの涙が俺の頬に触れる。
本当は1番辛いのに、自分勝手なあいつが自分の命を使って守ろうとしてくれるなんて、こいつなりの恩返しか………
「お前の気持ちはよく分かった。お前の覚悟もだ。だけどそれは駄目だ!」
俺はデビの横に立つ。
「な、何を言っておるのじゃ!妾の話を聞いておったのか!2人で戦ったとしても勝ち目はないのじゃ!人の話を聞けい!」
「分かってるよ!だからこそ言ってるんだよ!これは夢だ!あいつが見せた幻だ!」
「ま、幻じゃと!?」
確かあいつは指を1回鳴らしたら目の前に危機にひんした仲間がいるって言っていた。
もしそれで現実に戻ったとしたらミノルとリドルも居るはずだ。
もしあいつらも眠らされていたとしてもここには他のモンスターの姿は無い。
やっぱりこれは夢に違いない。
「なあデビあのケルベロスはここにいるはずないんだよな」
「そ、そうじゃ!妾は嘘などついておらん」
「分かってる。だったら俺達はまだ夢の中だ」
かなり完成度の高い夢だ。
夢の中なのに痛みを感じる程に。
「だったらどうするのじゃ?」
「夢から目覚める方法は2つある。1つは現実の俺が目覚めること。だけど誰かが起こしてくれる可能性はかなり低いと思う。実際、俺達がまだ起きてないのが何よりの証拠だ」
「じゃあ2つ目は何じゃ?」
「2つ目は夢を強制的に終わらせる。つまり夢の中の自分が死ぬことだ」
「な、何を言っておるのじゃ!死ねと言っておるのか!」
デビは驚いた表情で俺の体を揺する。
「それしか夢を脱出する方法は無い。それにケルベロスはこちらを攻撃するつもりは無いと思う。さっきから話している俺達に、攻撃を放たないのが何よりの証拠だ。多分俺達が死ぬ様な攻撃はしないんだと思う」
「妾を妾自身で殺さなきゃいけないということか?嫌じゃ!嫌じゃ!痛いし嫌じゃ!」
そうやって駄々をこねるように寝っ転がり暴れまわる。
そんな暴れているデビの手を掴んだ。
「っ!?な、何じゃ?」
「俺はお前の話を信じる。だから、お前は俺の話を信じてくれ」
「なっ!?も、もちろんじゃ!なんだって妾たちは仲間じゃからな!」
「ああ!俺達は仲間だ。だからこそ一緒に行くぞ!」
俺達は自分の体に手を当てる。
「それじゃあまた後で会おう」
「ああ、待っておるぞかつ」
そう言って俺達は手をつなぐ。
そして深く深呼吸をする。
俺達は負けない。
「インパクト!!」
「デビルオンインパクト!!」
体が弾け飛ぶ。
その瞬間俺の意識も同時に弾け飛んだ。




