その十五 命がけのダッシュ
「にしても、えらい数のモンスターがいるな」
1階ではモンスターをあまり見かけなかったのに2階から比べ物にならない程のモンスターを見た。
「まあさっきの騒ぎもあって眠ってたモンスターが目覚めたのかもね。みんな、あっちにもいるわ。姿勢を低くして進みましょう」
そこら中に動く影を気にしつつ俺達は慎重に進む。
「かつさんあれ」
「ん?あれは……」
そこには下へ続く階段があった。
「よし!早く降りるぞ」
俺達は急いで階段の方に向かったその時モンスターの叫び声が聞こえた。
「ウオォォォォ!!」
「うわっ!?何だ!」
「かつ!あれを見るのじゃ!」
すると先程まで居なかったモンスターが階段の前に座り込んでしまった。
「何だあいつ、邪魔だな」
「あのモンスターはシルバーウルフね。強力なスピードと鋭い爪の攻撃が厄介なモンスターね。しかも獲物を見つけたら吠えて仲間を呼ぶ習性もある厄介な相手よ」
「どうすんだよ。あいつを退かさなきゃ次の階に行けないぞ」
シルバーウルフは気持ち良さそうに寝ている。
今なら隙をついて攻撃出来るのだろうか。
「かつさん、シルバーウルフは気配に敏感です。隙をついて攻撃しようとすれば気配に気づき逆に反撃されてしまいます」
「そうなのか。じゃあどうすんだよ」
「私に任せて」
そう言ってミノルが俺達の前に出る。
「へ?何する気だよ」
「まあ見てなさい」
そう言ってミノルは静かに目を瞑る。
するとミノルの周りに冷たい冷気が集まる。
そしてその冷気が流れる様にシルバーウルフに纏わりつく。
「キレイだな」
思わずそんな声が漏れてしまった。
するとシルバーウルフがおもむろに立ち上がった。
そしてそのまま静かにその場を後にした。
「どうしたんだ?急にどっか行ったけど」
「子供たちが心配になったのよ。成熟した大人のシルバーウルフは寒さには強いけど、まだ生まれたばかりのシルバーウルフは寒さに弱いのよ。だからある程度気温が低くなると心配して巣に戻るのよ」
「何で巣があるって思ったんだ?」
「まあ勘ね」
「勘なのかよ。でも……倒さないやり方もあるんだな」
今まで色んなモンスターを殺したりしたけど、やっぱり今みたいなやり方で対処したいよな。
「かつ、また甘い考え方してるでしょ」
「え、いや……」
「私だって戦わなくていいなら戦わないで行きたいわよ。でも、それができないところまで来ちゃってるのよ。だから戦うしかないの。かつもそのうち分かるわよ」
ミノルの言ってる言葉はいつも俺に言ってるようで、自分に言ってるように聞こえてしまう。
それができない所って一体どういう事なのだろうか。
「よし、とりあえず2階突破完了ね」
「ここまでは順調だな」
「まあね。でも、この順調がいつまでも続くわけ無いわ。気を引き締めましょう」
するとデビがつまんなそうな顔でこちらを見る。
「何だよデビ。何か文句あんのか?」
「妾の出番はまだか?」
そう言って俺の服を引っ張る。
「ちょっと待ってろ。お前の出番は本当に危機になってからだ」
「何でじゃ!妾、早く戦いたいぞ!」
そう言って俺の体を揺らす。
「あーもう、まだだって言ってんだろ!お前の魔法は強力だが魔力消費が激しいってミノルが、言ってたんだよ。だから無駄遣いできないの。分かったか!」
「う〜〜〜!!」
デビは悔しそうに頬を膨らませる。
「デビちゃん。もう少し我慢してね。ほら3階に着いたわよ」
「ここが3階か。うわっ!何だここ、寒すぎるだろ」
3階は1階と2階よりも寒い場所になっていた。
「この階から更にモンスターが強くなるわ。ここは氷のモンスターがたくさん居るから凍らせられないように気をつけてね」
「マジかよ。階によってはそんなモンスターも出てくるのか」
すると早速モンスターが現れ始めた。
「何だあいつ。デカ過ぎだろ」
「あれはアイスギガントスよ。握り潰されないように気をつけてね」
巨大なアイスゴーレムのようなモンスターだ。
単純な攻撃力があいつの武器だろう。
「にしても周りの色んな物が凍りついてんな」
「地面も凍ってるからコケないように気をつけてね」
「気を付けて気を付けてとうるさいのう。妾はそんな失態しない――――ぎゃっ!」
フラグ回収するかの様にキレイに転けた。
「痛いのじゃ………」
「ばっ―――おまえ!」
「かつさん!早くこっちに!」
俺達はすぐに氷の後ろに隠れた。
さっき転けた音が辺りに響き渡ったせいでモンスターがこちらに近付いてくる。
「……………!」
俺はモンスターの足音が近付いてくる度に心臓の鼓動が激しくなるのを感じる。
体が震える、息が苦しくなる、心臓の鼓動が早くなる。
バレる。
戦うしかないのか。
そして、そのモンスターの足音が氷の壁の真後ろに来たその時
「くっ!」
こことは反対の方から音が響き渡る。
足音に反応して近付いてきたモンスターがその音の方に行く。
そして足音が遠くに行くのを確認して俺達はほっと胸をなでおろす。
「はあ……はあ……はあ、行ったか……」
ただ隠れていただけなのにものすごい疲れた。
「いやぁー今のは危なかったですね」
「本当に危なかったわね。あともう少しでバレるとこだったわ」
「本当じゃぞ。ちゃんと足元を見ないからこうなるんじゃ」
「誰のせいだと思ってんだお前は!!」
「グオォォォォォ!!」
その瞬間、氷の壁を突き破って巨大なモンスターが、出てきた。
「「「「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!!!」」」」
「グオォォォ!!」
その瞬間アイスギガントスが思いっきり地面を殴る。
そのせいで地面の氷の破片がキラキラと光、空中に飛ぶ。
その瞬間ミノルが大きな声で
「逃げて!!」
その声を聞いて俺はデビの服を引っ張って走り出した。
「グオォォォォォ!!」
「やばい!やばい!やばいって!!」
大きな音がしたせいで大量のモンスターに気づかれてしまった。
「かつ!あそこの階段まで走って!!」
ミノルは走りながら階段の方を指差す。
その瞬間何処からか氷の壁が出現する。
「うわぁ!?壁が!」
「アグレッシブフルート!」
リドルの魔法で氷の壁が壊れる。
「うおっ!?危な!」
「かつさん!僕とミノルさんがサポートするんで、かつさんは止まらずに階段まで走り続けてください!」
「……分かった!」
「ちょかつ!妾1人で走れ―――きゃっ!」
俺はデビをおんぶして速度を上げる。
「ここでしねぇ!!」
すると大きな氷の玉が転がって来た。
「アイスロック!!」
ミノルの魔法により勢いよく来ていた氷の玉がその場で凍る。
「うおっ!すっご!」
俺は勢いを止めずそのまま走り続ける。
「グラァァァァァ!!」
今度は巨大な氷の爪を持ったクマが真っ直ぐ突っ込んできた。
「くっ!サンダークラッシュ!!」
「グギャ!?」
物凄い勢いでリドルが放った雷がクマを襲った。
そしてそのまま痙攣を起こしながら倒れた。
「俺に食わせろーーー!!」
次は巨大な亀が上から押し潰しにかかる。
「ラノストーム!!」
「な!?何だ!?」
だが、巨大な亀は落ちる事なくそのまま続けてリドルの巨大な竜巻により吹き飛ばされる。
「よし!あともう少しで着く!」
「これ以上先は!」
「いかせんぞ!」
「ここでくたばれ!」
すると右と左から巨大な氷のハンマーを持ったモンスター2体と、真ん前には大きな口を開けた巨大な氷の鎧をかぶったワニがいた。
止まるわけには行かない!
俺は足を止めずにそのまま突っ込む。
「「「しねぇーー!!!」」」
仲間を信じて俺は!
「ちょ!かつ!死ぬぞ!前!前!」
信じる!
そして俺は大きくジャンプした。
「アブソリュートフリーズ!!」
「アグレッシブフルート!!」
「インパクト!!」
「「「グワアァァァァァ!!!」」」
そして俺はそのまま地面に着地する。
「はあ……はあ……やった……やったぞ!!」
「死ぬかと思った……妾、死ぬかと思った」
俺達は無事、3階を突破した。




