その十三 焦り
「破滅の洞窟ですか!?それは流石にやめたほうがいいと思いますが」
「破滅の洞窟ってのは知らないが何か名前だけでやばそうな雰囲気満々だし、俺もやめたほうがいいと思うぞ」
「妾はその響き大好きじゃぞ!妾は行くに1票!」
そう言って人差し指を高く上げる。
「じゃあ俺は無しに1票だ」
「僕も同じです」
俺とリドルは一緒に手を上げる。
「ちょっと何言ってんのよ。絶対行くに決まってるでしょう。このクエストは確かに難しいけど報酬金は100億よ!借金を返してもお釣りが返ってくるほどの大金がもらえるのよ!」
そう目を輝かせながら語りだす。
「ちょっと待て。確かに魅力的だが洞窟攻略しただけで100億ってことはかなり強いモンスターがうじゃうじゃ居るって事だろ。そんなの無理だろ」
「そもそも洞窟攻略が目的じゃないのよ。何か最深部に特別な物があるらしいの。それを取ってくれば報酬金がもらえるのよ」
「おいおいちょっと待てよ。洞窟には誰も最後まで辿り着いてないんだろ?何で最深部に物があるなんて分かるんだよ」
「そ、それは………」
ミノルは即答できずに考えてしまう。
「ほらやっぱり言えないじゃねえか。そんな怪しいクエストやるのは嫌だからな」
「何言ってんのよ!もう借金をこれ以上貯めるのは嫌なの!返したいの!」
そう言って駄々をこねる子供のように逆ギレして来た。
「お、落ち着けよ!そんな難しい洞窟よりも高い報酬金のクエストをやったほうがいいだろ。それに俺達は1億のモンスターをぶっ倒したんだし他の1億ガルアのモンスターを倒せばだいじょ――――」
その瞬間ミノルが机を思いっきり叩く。
「お金がないのよ……」
「え?」
「お金がないって言ってんのよ!」
そう言って俺のローブを掴む。
「私達は今お金がないの!それなのにそのモンスターに向かう為の移動代とか道具代とか諸々含めてどんくらいかかると思ってんのよ!」
「わ、分かったって!俺が悪かったって!だから揺らすなよ!」
俺はミノルの手をコートから引き離した。
うぇめっちゃ気持ち悪い。
「それで結局どうするのじゃ」
「洞窟のクエストを受けるに決まってるわ」
「マジで行ってんのかよ。死にに行くようなもんじゃないのか」
「かつさんの言う通りです。死にに行くようなものです。別に僕達は借金を持っていても気にしないので、そんな無理せず気長に返していきましょうよ」
リドルがミノルを何とかフォローする。
だがミノルはまだ納得できてない様子だ。
「気長に待ってたら私が困るのよ」
「おい、ちょっと待て。私って俺も含めよ」
「え?あ、ああそうだったわね」
もしかしてマジで俺の存在忘れてたのか?
「とりあえずその下劣の洞窟?とやらは妾に任せとけ!」
「下劣じゃなくて破滅な」
「そうそれ!」
こんなんで本当に大丈夫なのだろうか。
それにしてもミノルは何でこんなに借金を払うのを焦っているのだろうか。
いや、借金を早めに払うのは大事な事だし早めに払うにこしたことは無いがそれにしても焦り過ぎな気がする。
「それじゃあ早速行きましょうか」
―――――――――――――
「えっと……破滅の洞窟ですか?」
「はい!」
ミノルは元気いっぱいに返事をするが逆にそれがルルさんを困惑させてしまっている。
「あの……」
助けて欲しそうにルルがこちらを見る。
「ああもう別にいいですよ。止めても聞かないんでこいつ」
俺は半分諦めた声でルルさんに伝える。
「分かりました。かつさんがそう言うならそのクエストを受注しますね。それじゃあ早速この同意書をよく読んで理解したら名前を書いてください」
それは長ったらしい説明文が書かれていた。
「えっと何なに、洞窟内で死んだ場合死体の回収は行いません。私物の回収も行いません」
「1週間以上帰って来なかった場合、洞窟内で死亡したとみなします。とりあえず洞窟内で死んだら私達は一切関係ないので自己判断でお願いしますってことね。いいわよ」
ミノルはすぐに名前の欄に名前を書いた。
「ちょっと待てお前早いな。もうちょっとよく考えろよ。死んだらお墓も作ってくれないんだぜ。しかも誰も助けに来ないから自力脱出しなきゃいけないし、これ本当に大丈夫なのか?」
何かこの文章を読んでいるだけで行きたくなくなったんだけど。
「何言ってんのよ。ここまで来たんだから腹くくりなさいよ」
「かつさんもう抵抗したところで無駄ですよ。大人しく書きましょう」
「妾はもう書いたぞ。それでいつ行くのじゃ?」
皆もう既に名前を書いてるのか。
はあ〜腹くくるしかないのか。
俺は抵抗するのを諦めて名前を書いた。
「よし!これでオーケーね。はいルル」
そう言って皆の同意書をルルに渡す。
「はい、承りました。………皆さん今回は本当に気をつけてくださいね」
今までの気をつけてくださいよりもより重みを感じる。
やっぱりやばいモンスターだらけなんだろうな。
「心配してくれてありがとう。でも大丈夫だよ。俺、あんまり無理しないタイプだし」
「本当に無理しないで下さいね」
もう1度念を押すように言った。
そして俺達は大きく頷いた。
「それじゃああの扉から行ってください。ご武運を願ってます」
俺達は深々と頭を下げるルルを見ながら扉の中に入って行った。




