その十九 ラミアの謝罪
「あ、え、えっと………」
ラミアが心配そうな顔でこちらを見つめる。
まさかさっきの話聞かれてないよな。
「ら、ラミア!?妹よいつの間に起きてたのか。いつ起きてたんだよ」
ガルアは、それとなくラミアが話をどこまで聞いてたのか確認する。
「まだ頭がぼーっとしてて部分的しか聞き取れなかったけど、ナイトさんが居ないとか死んじゃったとか、お兄ちゃんどういう事なの?」
部分的とか言ってしっかり重要な箇所は聞き取ってやがる。
「あ………それは……」
こちらを助けて欲しそうに見るガルアに、向かって俺は力強く頷く。
これはまずガルア自身が真実を伝えたほうが良いだろうという意味を込めて。
それを察知したのかガルアも頷きラミアの方に振り向く。
「ラミアいや妹よ、聞いてくれ。これからお前に大事な話をする。よく聞けよ」
「う、うん、分かった」
ラミアはガルアの言葉に頷く。
「まず最初にラミア、ナイトはもうこの世にいないんだよ。だからもうナイトを探すのをやめてくれないか」
「え?何言ってるのお兄ちゃん。ナイトさんなら目の前に居るよ」
そう言って、俺の方を指差し純粋な瞳をこちらに向ける。
本当にナイトが死んだと思ってないのか。
「だからあいつはナイトじゃないんだよ!こいつの名前は絶対かつ!確かに少し似ている部分があるが、ナイトの方がもうちょっとかっこよかっただろ」
「おいガルア、それは一言余計だぞ」
だがラミアはまだ納得していない感じだ。
う〜んやっぱりラミアはナイトが死んだとは思ってないのかも知れないな。
「お兄ちゃんそろそろナイトさんに失礼だよ。本人がいる前でそういう話は良くないと思う」
そう言って、逆にガルアを叱り始める。
何か少し変な気がするんだよな。
ラミアは本当にナイトが生きていると信じているのか?
「こんな事言いたくなかった。でもこのままナイトを探し続ける妹を見てられない。だから言うぞ。ラミア、去年の3月2日覚えてるよな」
「3月2日………その日は確かナイトさんと一緒に森にサプライズをしに行った日だよね。ナイトさん嬉しいって喜んでくれて、私も嬉しかったけどその後突然居なくなっちゃって………でも良かった!ナイトさんが帰って来てくれて!」
わざと忘れたふりをしてるのか、それとも本当に覚えていないのか、ていうかそもそも先程ガルアに聞いた話と少し違うような気がするし、それにこのまま純粋にナイトの帰りを喜んでくれているラミアに正体を明かすのが辛くなってきたな。
「ラミア………お前」
「私嬉しかった。怖い人達に襲われてる所を颯爽と現れて助けてくれて。私怖かったのナイトさんと再会して、もし私の知ってるナイトさんじゃなくなってたらって思ったら、夜も眠れなかった。でも良かった、いつもと同じ私が困ってる時に助けに来てくれる、ナイトさんで。本当に嬉しかった。ありがとね、ナイトさん!!」
その目は、まるで家族を見るかのような優しい視線だった。
するとガルアが俺にコソコソ話をするかのようにラミアに背中を向けた状態で耳元で話しかけてくる。
「やっぱり無理だな。ラミアは完全にショックを受けたせいで記憶がごっちゃになっちまってやがる。このままだとかつ、お前を正式にナイトにするしか無いようだぞ」
「それは無理だ。俺にだって戻るべき場所がある。それよりラミアはナイトの事、ナイトが居なくなる前からナイトさんって呼んでるのか?」
「いや、そういえばナイトが死んだ時だったな」
やっぱり、そういう事なのか。
ラミアはナイトが死んでいる事をちゃんと理解しているうえでこの行為に及んでいるんだろうな。
「ガルアここは任せてくれないか」
「策があるのか?」
「まあちょっとな」
俺は覚悟を決めラミアと対峙する。
俺の言葉がどれくらい響くか分からないが物は試しだよな。
「なあラミアちょっといいか」
「あ、ナイトさん!どうしたんですか?そんなに真剣な顔して」
やっぱりずっと居たのに敬語を使うのはおかしいよな。
「俺はナイトじゃない」
「へ?どうしたんですか?」
俺は思いっきり息を吸い込んだ!
「すぅーー!俺は!絶対かつ!レベル1のこの島で最弱の魔法使いだ!!」
「ふえ!?ちょ、ナイトさん!何言ってるんですか!?」
俺はそのまま大声で叫び続けた。
「ラミア!お前がどんな人物像を抱いてるかは知らないがこれが俺だ!!お前を颯爽と助けて、どんな時も側にいたナイトではない!魔法もあまり強くなく!よくこんなひどい目にあって!バカみたいに生活してる!これが俺、絶対かつだ!!」
一通り叫び終わり、俺は息を整える。
突然の叫び声に驚いたのかラミアは目を丸くさせて呆然と立ち尽くしている。
「はあ……はあ……はあ……分かったかラミア。つまり俺はナイトじゃないって事だ」
「は、はい!」
ラミアは突然名前を呼ばれたからか声が上ずってしまっていた。
「それでその事実を知ったラミアはどうするんだ」
「な、ナイトさんがナイトさんじゃなければ本物のナイトさんをまた探します!」
くそ、やっぱり諦めないのか。
だとしたらもう直球で行くしかない。
「なあラミア、本当は気付いてるんじゃないのか?ナイトが死んだ事を」
「な、何言ってるんですか!ナイトさんは生きてます!そんな事、ナイトさんが決めないでください!あれ?ナイトさんじゃないんでしたっけ?」
何かこんがらがらせてしまったみたいだな。
「えっと………俺の本当の名前っていうか……まあ俺の名前は絶対かつ。ナイトじゃないぞ」
「絶対かつさんですね。ごめんなさい。もう1度いきますね。こほん、絶対かつさんが決めないでください!」
仕切り直す必要があるのだろうか。
まあ本人が満足してるなら別にいいか。
「じゃあ何で俺をナイトと思った時にさんなんて他人行儀みたいな言い方したんだ?家族なんだろ?だったらタメ口でいいじゃないか」
「そ、それは……お久しぶりにお会いしたので緊張してしまって………」
ラミアは恥ずかしそうにもじもじしながら言う。
なら次はこれだ。
「それじゃあ、後どれくらい探すつもりなんだ?」
「本物のナイトさんを見つけるまでです!」
「じゃあ無理だろ」
俺はラミアの言葉を全面的に否定した。
さすがのラミアも突然自分の言葉を否定されて動揺する。
「な、何でそんなこと言えるんですか!」
「こんな事いつまで続けるつもりだよ。いもしない人を探して、ただの時間の無駄だろう」
「そ、そんな!?ひどいです!絶対かつさん!」
「ひどいのはお前だろ!今お前がすべきことは他にあるんじゃないのか」
俺はガルアの方を振り向く。
「こいつはお前の為に真剣に悩んでたんだぞ。なのにお前はそんなガルアの気持ちを考えず勝手な事やって迷惑かけてばっかで何がしたいんだよ!」
「………私は………」
泣きそうになるラミアを気にせず俺はそのまま叱りつける。
「正直言ってお前のそういう自分の行動こそが正しいと思いこんでるやつが1番嫌いなんだよ!周りのことも考えろよ!」
「………!?そ、そこまで言わなくても……」
「いーや言うね!第一何で名前誤魔化したんだよ!?恥ずかしいって言ってるけど本当は誰ですか?って言われるのが怖かったからじゃないのか!え!?どーなんだよ!」
「おい!テメェそれ以上ラミアをいじめるんだったら許さねえぞ!」
おっと流石にやりすぎたか、ガルアの怒りを買ってしまった。
でも本心を言ったまでだがここからは少し熱を下げるか。
「すまん、つい頭に血が上ってた。もう大丈夫だ」
俺はガルアを落ち着かせて涙目になっているラミアの方を向く。
「なあラミア、大切な人を失った気持ち分からなくもないよ。辛いってこともわかるし信じたくない気持ちも分かる!でも、そんな事ばっかりやってたら今存在してる大切な人も失うことになるかも知れないぞ。お前にはまだ大切な人が居るだろ?この島の王で妹思いな、不器用な兄が。な?」
「お兄ちゃん……」
「ラミア…………」
するとガルアはラミアを優しく抱きしめる。
「ごめんな、辛い思いばっかりさせて。これからは俺がナイトの代わりになるから。俺がお前を絶対守ってやるから」
そう強くラミアに誓った。
だけどラミアは首を降る。
「もういいよ……お兄ちゃん……もういいから。ナイトさんの代わりにならなくてもいいの。お兄ちゃんはお兄ちゃんのままでいいから………」
そう言ってラミアはガルアを強く抱きしめる。
「ラミア……分かった。だったら俺は兄としてお前を守る!何があっても」
ガルアもラミアを強く抱きしめ返す。
「ごめんなさい………お兄ちゃん………ごめんなさい…………!」
ラミアの涙混じりの謝罪は森中に響き渡った。




