その十七 ルージュの正体
「み、ミノル!よかった。助けに来てくれたんだな!」
俺はあまりの嬉しさに大声でミノルの名前を叫ぶ。
「かつ!さっきの言葉嘘じゃないでしょうね!」
「え?何のことだ」
俺はミノルが何を言ってるか分からず大声で聞き返す。
「黒の魔法使いに入るか入らないかの話よ!入らないって本当でしょうね!」
ああその話のことを聞いていたのか。
「もちろん断ったぞ!!バカって言ってやった!」
するとミノルが再び大声で叫ぶ。
「じゃあ覚悟は出来たってことよね!」
「か、覚悟?お、おう!もちろんだ!」
何か知らんがとにかくここは言っておいたほうがいいだろう。
「分かったわ。それじゃあもう終わらせるわね」
そう言ってミノルは魔力を溜め始める。
どうやら戦いを始めるようだ。
「おいラルダ、相手をしてやれ」
「はいはい、分かりました」
嫌そうに言うが口元は笑っていた。
やっぱりあいつは頭がおかしいな。
「さて、ミノルの相手はあいつに任せて、貴様の始末をさっさと終わらせるか」
そう言ってクラガは再び魔法陣を展開しようとする。
「え?ちょ、ちょっと待てクラガ!話し合おう、話し合えば分かるって!」
「仲間の登場で急に命が欲しくなったか。見苦しい、さっさと死ね」
くそ!せっかくミノルが助けに来てくれたのに簡単に死ねるかよ!
すると後ろから声が聞こえた。
「デビルオンインパクト!!」
その時、俺の目の前に黒い稲光が落ちる。
「おわぁ!?おま、危ないだろ!デビ!」
そこには先程倒れていた、リドル達が居た。
「何を言っておる。助けてやったんだ。感謝するがよい」
相変わらずの偉そうな態度にいつもならムカつくが元気だと分かって少しほっとする。
「かつさん大丈夫ですか?助けに来ました」
「リドルお前も元気そうでよかった」
少し呼吸が荒いのは先程うなされていたからか。
「貴様の仲間か。ちっ!面倒くさいことになってきた。おいラルダ!仲間は気絶させたんじゃなかったのか」
するとミノルの方から何かがぶつかった音がする。
「クラガちょっと待ってて今いい所だからさ」
するとクラガがミノルの首を締め付けていた。
「ミノル!このままじゃまずい」
「行かせるわけ無いだろ」
俺はミノルのもとに向かおうとしたがクラガに止められてしまう。
「アグレッシブフルート!!」
風の槍がクラガの方に物凄い速さで向かってきた。
その攻撃をクラガはギリギリで避けたが顔にかすり傷を負った。
あのスピードを避けるなんてやっぱりただもんじゃないんだろうな。
「はっはっ、調子に乗ってるからじゃ!」
デビは仲間が居るからなのか少し調子に乗ってるな。
「貴様ら、死ぬ覚悟は出来てるんだろうな」
そう言って、頬の血を拭うとリドル達、主にデビを睨みつける。
「と、リドルが言っておったぞ」
「え?デビさんそれは無いと思いますよ」
あいつ土壇場でひよったな。
「おい、クラガ!ガルア様を何処にやった」
そうかそういえばミレイはガルア様を探しに来たんだったな。
「ガルアの犬か。貴様はその為にここに来たのか?」
「犬だと貴様………!」
ミレイは悔しいのか下唇を噛む。
そりゃそうだそんな事言われたら誰だってムカつく。
「私は犬では無くどちらかというと猫だ!」
それどうでも良くね!?
「なら妾は地獄の番犬ケルベロスじゃな!」
「なら僕は島で1番小さいと言われているミニケンですかね」
なんか1人1人犬の事について話しているがそんなことしてる場合じゃないだろ。
「貴様らよほど死にたいらしいな」
ほら怒っちゃった!
「お前ら気をつけろ!来るぞ!」
するとキレてしまったクラガがリドル達に襲いかかる。
「来ましたよ!ミレイさん!」
「頼んだぞ!ミレイ!」
そう言って2人共ミレイの肩を叩きその場を離れる。
「確かにクラガは私に任せろとは言ったが……まあいい。来いクラガ!ガルア様の居場所を吐いてもらうぞ!」
「やってみろ。雑魚に用はない」
ここはミレイに任せて俺はルージュを助けに行こう。
俺は先程見えたルージュがいる場所に向かった。
「ルージュ!どこだ!?」
確か口に布を巻かれていたはず、声が出せないのかも知れない。
「うゔーーん!うー!」
「ルージュか?」
すると奥からうめき声が聞こえた。
もしかしてルージュかも知れない。
そう思い、俺は声のする方に向う。
「ルージュ?ルージュか!?」
先程見た姿通り縛られて倒れているルージュの姿があった。
「ゔーん!うゔーーん!」
ルージュは苦しいのか、首を物凄く振っている。
「ちょっと待ってろ!今助けてやるから」
俺はルージュの口を塞ぐ布とロープを取った。
これでちゃんと喋られるようになるだろう。
「大丈夫か!?何かされてないか」
「逃げてください!ナイトさん!」
「え?なにい――――――」
その瞬間誰かに顔を思いっきり殴られた。
「ぐあ!?いっつ……誰だ!」
その勢いのまま床を転げ回るもなんとか体勢を立て直す。
そしてすぐさま殴られた方向を見る。
「テメェ!俺の妹に何してんだよ!!」
そこにはルージュと同じくらいの大きさの男の子が居た。
「こ、子供?何でこんなところに子供が」
「子供じゃねえ!俺はお前より年上だ!」
な、何を言ってるんだこの子は。
異世界の子供は何かよくわからないな。
「えっと………とりあえずさっき妹って言ってたよな」
「ああそうだ。お前はこいつの何なんだ!言ってみろ!」
うう……なんかものすごく敵対心丸出しって感じだな。
ていうかルージュに兄なんて居たんだな。
「俺はこいつの護衛をやってるんだよ!文句を言われる筋合いはないぞ!」
「何だと!?ん?お前もしかして絶対かつか?」
思い出したように俺の名前を言う。
「ん?なんで俺の名前を知ってんだ?」
「は?知ってるに決まってるだろ。なんせ俺はがる――――」
「お兄ちゃん!そんな事より早くここから出よう!」
ルージュはルージュの兄さんが何か言おうとした瞬間口を塞ぐ。
「ふご!ふくぐ!」
「おい、ルージュ。お前の兄さん逝きそうだぞ」
「あ、ごめんなさい!」
ルージュは慌てて手を離す。
「ごほっごほっ!口塞ぐの強すぎだろ……」
余程苦しかったのか顔色が悪くなり離した瞬間むせてしまっている。
「何やってんだよお前ら。大丈夫か?」
「ごほっ!だ、大丈夫だ!ごふっ」
すごい涙目になってるんだけど。
まあ大丈夫って言ってるし平気だろ。
「それよりお前、今こいつのことなんて言った?」
「え?ルージュだけど………」
するといきなり真面目な顔になる。
何だ何だ?なんか俺やばいこと言ったのか?
「お前、こいつの事そんなあだ名で呼んでるのか!」
「あ、あだ名!?どういうことだ」
確かルージュが名前って聞いたはずだけど。
俺達は一緒にルージュの方を見る。
「えっと………それは………知らない人にそう簡単に名前を教えちゃ駄目って言われていたから……です」
「え?あ、そ、そうだったのか。ふーんなるほどねえ………」
俺は2人に背を向け俯いた。
俺、全然信用されてなかったじゃん。
ていうかむしろ警戒されてんじゃん!
俺はそうバレないように心の中で叫んだ。
「何だ、そういう事だったのか。さすが我が妹だな。確かにこんな変なやつに名前を教えるわけ無いもんな」
そう言って高笑いする。
なんかものすごくムカつく!
「子供の癖に生意気なこと言うなぁ〜」
「だから子供じゃないって言ってるだろ!」
未だに諦めずに子供じゃないと食い下がってきている。
そんなに子供って言われるのが嫌なのか?
「とりあえずもうここを出ましょう。ね、お兄ちゃん」
そう言って、ルージュは兄さんを外に出そうとする。
「ラミア残念だけどそれは出来ない。お前も分かってるだろ」
「ちょ、ちょっと、お兄ちゃん!ラミアって言わないで」
ラミアと言うのは本名なのだろうか。
確かに全然違ったな。
「この際バレてももういいだろう。ラミア、分かってるだろ。お前にはもう時間が無いんだよ」
するとラミアの兄さんが真剣な表情でラミアを見る。
「おい、絶対かつ。お前はこいつにナイトって呼ばれてるだろ」
「ああ……そうだけど」
そして何故かガルアら悔しそうな表情をする。
すると何か覚悟を決めたような顔をしてこちらを見る。
「俺はこいつをここから出す訳にはいかない」
それは冗談ではなく、本気の目をしていた。
「何言ってるんだよ。ここは極悪集団の黒い魔法使いって言う奴らがいる場所で一刻も早く脱出しなきゃ巻き込まれる可能性だってあるんだぞ!」
「そんなの俺が1番知っている!」
何で大切な妹をこんな所に留まらせるのか分からなかった。
でもこの気迫で先程の子供じゃないという言葉が嘘ではないんじゃないかと思ってしまった。
「なら何で……」
「お前はこいつのこと何も知らないくせに何でそこまで心配する」
外では爆発音や衝突音が響き渡る中俺がいる場所はまるで別空間のように静まっていた。
そのせいかより一層こいつの言葉が直接来るような気がする。
「確かに俺はラミアのことを何も知らない。今日あったばかりだしな。でも、言われたんだよ。守って欲しいって、小さい子にそんな事言われたら守るしか無いだろ。だからラミアのことを考えて俺はここを出たほうがいいと思う」
俺は自分の思ってる事を正直に告白した。
これでこいつの気持ちが変わるかは分からない。
「やっぱり何にも分かってないな。お前は」
先程と表情は変わらずこちらを見る。
「こいつは呪いによって余命があと1年しかないんだよ!」
「――――っ!?」
言葉を失うとはまさにこの事だった。
突然の事実に俺はただただ驚きを隠せなかった。
「そんな嘘だろ……呪いってどういう事だよ」
「マリクダと言う、森の奥に生息しているモンスターが居るんだ。そいつは相手に死の呪いをかけるモンスターでラミアはたまたまマリクダに遭遇しちまってその時呪いをかけられたんだ」
思い出すのも苦しいのだろう。
悔しそうにしながら話を進める。
「しかも運が悪いことに普通は出現しない場所で会っちまって。俺は何であの場にいなかったんだって後悔することしか出来なかった」
ラミアの兄さんは拳を握り俯いている。
そしてラミア自身も辛そうに顔を俯かせる。
通常では出現しない場所に出たって言うのは少し気になる。
「呪いをかけたマリクダを倒せば解除できないのか」
「そう思って倒しに行ったが、面倒な事に呪いはあいつ自身を倒しても残り続けるものだった」
一通り話を聞いたが俺はまだ疑問を残していた。
「その話を聞いてなんだけど、何でここに残らなきゃいけないんだ?理由が分からないんだけど」
今までの話を聞いてもラミアが呪いを受けてしまい一刻も早く治さなきゃいけないという話で黒の魔法使いとは関係が無い。
「そんな時に黒の魔法使いの1人クラガが、現れた。そいつは自分達が治してやるから許可証を作れと俺に提案して来た。あいつらは指名手配されている身だったから、許可証が作れ無かったからな」
「受けたのか?」
俺は恐る恐る聞いてみた。
「するわけ無いだろ。くさってもこの島の王だぞ。そんな他の魔法使いを危険に晒すような真似はしない」
「そりゃそうだよな。この島の王がそんな事を―――って今なんて言った」
とても重要な事をさらっと言ったような気がするんだけど。
「ん?だからこの島の王としてそんな事できないって言ってんだよ」
この島の王?
「な、なあお前の名前を改めて聞いてもいいか?」
「そう言えばまだ名乗ってなかったな。俺の名前はガルア!この島の王だ!」
ん?もしかしてガルアって俺の知ってるあのガルアなのか!?
「ら、ラミア……もしかしてお前は」
「ごめんなさいナイトさん。私はこの島の王女です」
その瞬間俺の頭は処理能力が限界に達していた。
駄目だ、これ以上は考えないほうが良いと思う。
そう思い俺は考えるのをやめた。
「何だその反応は?もしかして知らなかったのか。なるほど、だからそんな舐めた態度とってたのか」
まずいまずいまずいまずい!
これ処刑される流れか?
それはまずい!
一刻も早く弁解しなければ。
「いや、まさかそんなわけ無いでしょ!この島の!王を!知らないわけ無いじゃないですか」
「お前、人としてそれでいいのか?まあ別に気にしてねえよ。それに敬語より砕けた喋り方のほうがやりやすい」
それなら遠慮なく先程の喋り方でいこう。
「ならいいや。それより借金の件もうちょっと安くならないか?」
「お前、接し方が極端だな」
だって許可を得たなら遠慮する必要なんてないしな。
「とりあえず話を戻すが、俺はこの島とラミアをどちらを取るか悩んでいたらあっという間に半月が経ってしまった。情けないよな、こいつを苦しめるばかりで何もできないんだから」
だから黒の魔法使いの所にガルアが居たのか。
「治す方法はガルア自身じゃ出来ないのか」
「あいつは呪いを消すポーションで治すと言った。モンスターを材料として作る物だから作ろうと思えば可能だ」
口ではそう言っても行動に出来ていない。
ということは何か問題があるのだろうか。
「そのモンスターは特別なモンスターなのか?」
ガルアはゆっくりと頷く。
「その呪いを消すポーションを作るには希少種のモンスターの材料が必要なんだ。だけどそれは討伐禁止モンスターに指定されている。この島の王が禁止されている事をできるわけ無いだろ」
「だから、黒の魔法使いに頼むか考えてるのか?」
その先は喋りたくないのか黙ってしまった。
「ごめん、答えたくない質問だよな」
すると再びこちらを睨みつける。
「事情は分かっただろ。それで絶対かつ。お前はどうするんだ」
「俺は………」
ガルア自身、ここに来てるってことは黒の魔法使いに頼んだほうが良いって本当は思ってるはずだ。
でも、まだ完全に決めきれないでいる。
だったら……
「事情を聞いて、覚悟が決まった。俺はやっぱりあいつらに頼むのは間違いだと思う」
「そうか……お前はそう思うんだな」
するとガルアはラミアの方を向く。
「お兄ちゃん、話し終わったの」
「いや……」
するとガルアが慣れた手付きでラミアの首を叩き気絶させる。
「ここからが本番だよ」
「うっ――――――」
そしてそのままガルアの手にもたれかかる。
「な、何やってんだよ!」
だがガルアはおかしくなったわけもなく、冷静にラミアを床にゆっくりと下ろす。
「俺自身迷ってる所がある。本当にコイツラを信用してもいいのかと。だからこんな優柔不断で大事な妹の命がかかってるのに決められない駄目な兄に変わって」
するとゆっくり立ち上がりこちらを見つめる。
「絶対かつ、いやナイト。お前がそれでいいなら助けてみろ」
「え?は!?」
当然の申し出にどうしていいか分からなかった。
「ナイトなら助けてみろ。俺から妹を、ラミアを!」
これもしかして俺、ラミアのこれからの人生を決める大きな場面にいるのか!?




