その十六 選択
「う、う〜ん、ここはどこだ?」
まだぼやけている意識の中自分が何処に居るのか確認しようと立ち上がろうとする。
「痛った!!くぅ…………」
俺は左手に激痛を感じその場でうずくまる。
「痛え……折れてる。そうか、あいつ等に………やられて」
俺が先程の出来事を思い出して居ると、目の前に誰かが立ち塞がった。
「やっと起きたか。中々起きないから死んだかと思ったがまあいいだろう。これを飲め」
そう言って緑色の液体が入った瓶をこちらに投げ渡して来た。
「何だ?これ」
俺は怪しげな瓶を触らずに眺める。
「回復のポーションだ。その状態ではまともに話す事もできないだろう。ギャーギャー騒がれても迷惑だから早く飲め」
「回復の……ポーション!?」
俺はすぐにそのポーションを手に取り一気に飲み干す。
この痛みから逃れられるならと思い俺は回復のポーションを縋る様に飲む。
「はあ……はあ……はあ……指が、治ってる!治った指が!指が――――――」
その瞬間俺の頭の上に魔法陣が出現する。
「え?な、何だこれ」
「さ、指も治ったところで始めるか。死ぬか生きるか選べ」
突然の出来事過ぎて思考回路が追いつかない。
死ぬ?生きる?俺は何を迫られているんだ。
「クラガーちょっとかつ放心状態になっちゃってるよ。もうちょっと説明した方がいいんじゃない」
「ラルダ貴様は黙ってろ。早く答えろ。死ぬか生きるか、どちらか1つだ」
その質問は答えが既に決まっているようなものだった。
だが何故か俺はすぐに答えようとは思えなかった。
それは多分コイツラが普通の質問をしないと分かっているからだ。
「それは一体どういう意味だ?」
俺は質問に質問で返す。
何をされるか分からない。
指の折れる感覚が今も残っている。
だがここで下手に質問する方がよっぽど怖い。
「指が治って少しは冷静さを取り戻したのか。まあいいだろう。もちろん貴様が思ってる通りこれはただの死ぬか生きるかの質問じゃない」
クラガは隙を見せず警戒を怠らない。
いやむしろ鋭い視線が俺を捉えて離さない。
常に俺に見えるように魔法陣があり、下手な真似をさせないようにしてるのだろう。
奇襲は無理だな。
「やっぱりか。それじゃあどういう意味だ」
「貴様の脳でもわかりやすく言うと、俺達の仲間になるか、それともここで無様に死ぬか。選べ」
より重みを増したその質問にはただただ先程自分がした質問に後悔していた。
「お、俺は………」
どちらか1つ、もし仲間にならないと言えば躊躇なく殺すだろう。
それは絶対にやだ。
体が震える、あの時の衝撃が脳裏を過る。
あれ以上の痛み何か耐えられるわけがない。
「お、俺は………黒の魔法使いの仲間に……………」
これしか無いんだ、裏切った訳じゃない、こんな所で死ぬわけには行かないんだこんなところで!
「俺は!仲間にな――――――」
下げていた顔をあげた瞬間誰かと目があった気がした。
「………誰だ?」
俺は薄暗い奥の部屋を目を凝らして見つめる。
「――――――っっ!?まさか……ルージュ?」
そこには体中縄で縛られて横たわり、口に布のような物を巻き付けられながらこちらを涙目で見つめるルージュの姿があった。
「おい、貴様何をぼーっとしている。早く答えを言え」
「………言えない………言えるわけがない!」
その瞬間、クラガの魔法陣が俺の顔に付くんじゃないかと言うくらい近付いて来た。
「最後の忠告だぞ。答えろ。黙秘は許さん」
言える訳がない、あいつの目の前で自分が傷つけられた奴等に、自分を守ってくれると言ってくれた人が仲間になる瞬間なんて、そんなことできるわけが無い。
「………言えない。言えないよ。言える訳がないだろ!あいつが、あいつが見てんだよ!俺が助けなきゃいけないんだ!第一俺何か仲間にした所で意味無いだろ!レベル1の最弱の魔法使いを!」
クラガは、俺の言葉を黙って聞く。
俺が話すのをやめると冷徹に言葉を発した。
「言いたい事はそれだけか」
その瞬間俺は直感的に死という文字が頭に浮かんだ。
何か!何か言わなければ!
だが突然の事に頭がパニック状態になってしまい言葉を発することが出来なかった。
「悲しいな、貴様なら少しは賢い選択をすると思ったが、所詮レベル1はこの程度か。無様でそして惨めな最後だったな」
「はっ、や、やめ!」
魔法陣の光が強くなる。
ああ……これは助からないやつだ。
こんな酷い死に方してルージュもさぞかし幻滅してるだろう。
何も力も持たないせいで、何も出来ずに死んでいく俺を許してくれ。
「じゃあな。最弱の魔法使い」
そして光がより一層強くなる。
これで終わるなら………
「なあさっきの質問の答えなんだけど、やっぱりはっきり言っとこうと思って」
「ん?考えが変わったか」
自然と言葉が思い浮かぶ。
死を受け入れることで逆に吹っ切れたのかもしれない。
俺は思いっきり息を吸った。
そして自分の中の最大声量で。
「お前らの仲間になるわけ無いだろ!!!ばぁーか!!!」
「っ!?ふ、じゃあな」
俺は魔法を撃たれると思い目を瞑った。
だが中々魔法を受けた痛みが来ない。
「ん?な、何だ」
目を開けるとクラガが俺では無く遠くの方を見つめていた。
「来たか」
ポツリとその言葉を呟き目線は未だに遠くを見つめたままだった。
俺もクラガと同じ方向を見つめる。
「会いたかったわ。クラガ、そしてもう2度と会うことはないでしょうね」
そこにはこちらを睨みつけているミノルの姿があった。




