その十 日本人
「浜崎陸矢………俺と同じってことは日本人ってことでいいんだよな」
俺は冷静に浜崎に質問をする。
「意外と冷静だな。もっと驚くと思ってたんだけど」
「何となくこの街にはもうひとり日本人が居るんじゃないかと思ってたからな。たばことか紙芝居とかしてる人いたし」
浜崎は再び笑い出す。
「ふはは……なるほど。ま、それなら俺の事は薄々勘づくか。それじゃあ早速本題に入るぞ」
「ちょっと待て!」
俺は浜崎が本題に入る前に止めさせる。
「そんな事話して大丈夫なのか?他の奴らに聞かれたらまずいんじゃないのか?」
第一日本人と言ってる時点でかなりやばい気がするけどな。
「その事なら心配しなくても良い。すでにこの部屋には俺達しかいない」
「そうか、ならいいんだけど」
まあ、多分自分にも影響があると思うし嘘はついていないだろう。
「それじゃ改めて本題に入るぞ。お前はここに何しに来た」
「ルージュを助ける為だよ。ほらお前らが捕まえた女の子だよ。ていうかルージュは今どこにいるんだよ!」
「質問したら最終的に質問で返してきたか。まあいいだろ、そいつなら今ここには居ない」
「ここにいない!?それってどういうことだ!」
予想外の答えに俺は浜崎に詰め寄る。
ここにいないという事は何処かに行ってしまったということなのか!?
「さあな俺は知らない。俺はただ引き渡しただけだ」
「だから何処に引き渡したんだよ!」
「だから知らないって言ってるだろ」
同じ質問をしても知らないの一点張りだ。
これは一刻も早くここから出ないといけないな。
「分かった。だったら俺をここから出してくれ」
「いいぞ。あそこが出口だ。すでにあいつらには話はつけてある」
「へ?いいのか」
余りのあっけなさに逆に怪しんでしまう。
だが実際改めて自分の体を見てみても、拘束されてたわけでもないし、しかも先程まで無かったリュックも背中に背負われている。
「なあこのリュック」
「ああ……それは俺が作ったやつだ。中々便利だろ」
「これお前が作ったのか!?すごいな………」
確かに浜崎いつの間にか何か変な機械いじってるし、まるでリツみたいだな。
「ん?でも待てよ。そのリュックってケインが作ったんじゃないのか?」
「ケイン?ああ……よくここに来ているあいつか。もしかしたら同じ物を作ったのかも知れないな。あいつ結構見ただけど色んな事できる器用なやつだからな」
そう言いながら未だに機械をいじる。
「そうなのか………」
だから裁縫とか、料理とか美味いのか?
「なあ1つ聞いていいか?」
「何だ?手短に頼むぞ」
俺は1番気になっていることを質問した。
「お前はこの世界の秘密について知ってるか?」
すると浜崎の機械を動かす手が止まった。
「秘密?」
「ああそうだ!この世界はなんかおかしいって言われたんだよ。そしたら俺もだんだんこの島は普通じゃないんじゃないかなと思って。それで浜崎も何か知ってるんじゃないかなって」
「興味無い」
「へ?興味無い?」
俺が気になっていることをたった1言で返されてしまった。
「ああそうだ。興味無い、だからもう帰れ」
「ちょ、ちょっと待てよ!何か違和感とかあるだろこの世界に!」
俺は何とか情報を貰おうと必死に粘る。
「違和感なんてものは無い。第一それは日本と比較してるからだろう。誰に言われてそう思ったのか知らないが異世界に日本の常識を持ってくるな」
「ぐっ!?そ、それは………」
やばい、ぐうの音も出ねぇ!
「そもそも俺達がこの世界に何で来られたか。まずその時点でこの世界はおかしいだろ。何でもおかしいおかしいと言ってたら、キリがない」
「ぐはっ!?う、うぐ………」
完璧な論破に俺の精神はノックアウト寸前だった。
「わ、分かった。その事についてはもう何も聞かない!その代わり最後に1個だけ」
「何だ」
相変わらず機械を動かす手を止めないのは置いといて俺は質問をした。
「お前はこの世界に連れてきた人に会ったのか?それと何でお前は人間なんだ」
「最後に1個って言った瞬間2つするか普通」
「ご、ごめん。でもどうなんだ」
浜崎は機械を机に置きこちらの方に椅子と同時に体を向ける。
日本でもあった下が動くタイプの椅子だ。
「まず最初の質問だが会ったことはある」
「ホントか!?」
「まあ落ち着け。そして2つ目の質問だが俺は人間じゃない」
すると浜崎は自分の頭部の毛を抜いた。
その瞬間下から耳が生え、抜いた髪の毛がカチューシャの形をしていると思ったら一瞬でその髪の毛が消え緑色に変わった。
「どういうことだ!?」
「ガメレンと言うモンスターの革で作ったカチューシャだ。これで俺の髪の毛に擬態させて耳を隠している。お前もいるか?便利だぞ」
そう言ってカチューシャを渡してくる。
「いや、要らない」
モンスターの革で作られたものなんて頭に付けたくない。
「それじゃあ俺達を連れて来たやつに会ったって話だがそれは突然だった。前ぶれもなく俺の前に現れ見知らぬ部屋で色々な話を俺にした。一通り話し終わった後目の前が真っ暗になり気が付いたら俺はベットで横になっていた。これが例の人とあった話だ」
俺は話を聞き終わったあと風間との共通点を見つけた。
どっちも前触れ無く現れ、そして気が付いたらベットで眠らされている。
これの理由さえ分かれば俺も会えるかもしれない。
「なあ、その後そいつとは会ったのか!」
「お前最後って言ってなかったか。何回するつもりなんだよ」
「お願い!俺、知りたいんだよ!」
俺は精一杯の土下座で訴えた。
「お前見苦しいぞ。そこまでして知りたいのか」
「ああそうだ!どうしても知りたいんだよ!俺をなんでこの島に連れてきたその理由を。だから見苦しくても構わない。今はこれしか情報を取れる方法をが思いつかないんだよ!」
浜崎は土下座している俺の目の前に立っている。
俺を見下ろしているのか、それとも見下しているのか。
惨めだが今はこうやって情報を集めるしかない。
「……ふぅ、これじゃあまるで俺がいじめてるみたいだな。分かった、教えるよ」
俺はその言葉を聞いた瞬間顔を上げる。
「本当か!?」
「言わなかったらずっとこうしてるんだろ。それは邪魔だし目障りだ。だから早く土下座をやめろ」
「分かった!」
俺は土下座をやめ、聞く姿勢に入る。
「あの後の話だが実は3回会っている」
「3回もか!?」
「そうだ。だが3回とも何か決まった特定の条件を満たせば来るという訳でもなく、どれも気まぐれに姿を現す」
突然姿を現すか……
てことは最初だけ何か会う条件見たいのがあるのか?
それとも全部あいつの気まぐれ?
「そうなると俺はどうやって会えばいいのかわかんないな」
「ちなみに俺が最初に会った日はこのカチューシャが出来た日だ。これが俺がこの島に来て初めて作った作品だ」
「初めての作品………」
もしかして何か特別な事を成し遂げたら会えるのか。
でもそうすると何を成し遂げればいいのか分かんないぞ。
「何か掴めそうで、掴めない、変にもやもやするなー!」
「ま、これで俺は全部話した。それじゃあ早く帰れ」
また俺に背を向け機械いじりを始めた。
「分かってるよ。色々教えてくれてありがとな。それじゃあ最後に」
「おい、いい加減にしろよ。こっちだって忙しいんだ。お前のつまらない質問に付き合ってる暇ないんだよ」
俺の長ったらしい質問にうんざりしたのか、とうとう怒ってしまった。
「分かった、分かったって、最後にこの島に来たのはいつだったのか聞きたかっただけだよ。それじゃあな」
「13年前だ」
俺が扉を開けて帰ろうとすると、浜崎がそう呟いた。
「え?それって」
浜崎は機械いじりに没頭していた。
これ以上はもう何も聞けないだろう。
そう思い俺は部屋を出た。
「よし、それじゃあ早速この建物から出てルージュを助けに行こう」
予想以上に情報を調達できた。
だけど改めて思うと日本人の事を気にしてしまってこの建物が何なのか聞くのをすっかり忘れていた。
「ま、この建物にもまた入る機会がありそうだしな」
改めて周りを見ているとやはり異世界と言うよりは日本の建物の雰囲気を感じる。
「やっぱり、作ってる人の影響って出るんだろうな」
こういうのを見てると日本に帰りたいと少し思ってしまう。
やっぱり故郷って言うのはどんなに辛い思い出があったとしても帰りたくなる場所なのだろう。
「それにしても元気かなみんな」
父さんと母さん、ペットの猫のネネ、そして――――
「ん?何だ今、何かノイズが走ったような」
何かがおかしい。
何故かそんな事を無意識に思ってしまう。
「そして……何だ?俺は何を言おうとしたんだ」
俺の家族構成は父、母、そしてペットのネネそして最後に俺のはずだ。
だけど何かが足りない気がする。
「う〜ん……疲れてるのか俺。確かにここ最近色々な忙しい日々を送ってたしな」
俺は目を擦り気分を変える。
「よし!切り替えて行こう!まずはルージュを、助けるのが先だ!」
俺は先程まで来たルート通りに進み外に出た。
「この扉を開ければ」
扉の隙間から光が差し込む。
それがどんどん広がっていき扉が完全に開けると空から太陽がこちらを見下ろしていた。
「何か久しぶりに感じるな」
気絶したのもあって何日かぶりの太陽を浴びた気がする。
「水かけられて寒かったし、太陽の光が暖かいな」
俺はそのまま路地裏を出た。
相変わらず人で賑わっている。
だがそれは半獣だけだった。
「あいつは何で人間のふりをしてんだろ」
冷静に考えると質問したいことが次から次へと溢れ出てくる。
「よし!あいつらに会いに行くか」
―――――――――――――
「浜崎さん大変です!」
「何だ!こっちは今忙しい!後にしろ!!」
「それが大変なんです!半獣が………脱獄しました!」
「………!?何だと、まさか」
「浜崎さん早く来てください!」
「やってくれたな、あいつ。これはめんどくさいことになるぞ」
 




