その八 ガルアの右腕
「デビちゃーん!デビちゃんどこー!」
現在どこかに隠れてしまったデビちゃんを探すためこの広い城を歩き回っていた。
「この迷路のような建物で特定の人物を探すのは困難だと思いますよ」
リドルはすでに諦めモードなのか周りを見ずただ歩いている。
「それでも探すのよ。まだちゃんと謝ってないんだから」
「そんなに謝りたいんですか。今回はデビさんの方に非がありますしミノルさんが謝る理由はないんじゃないですか」
リドルはそんな事を言いながら、城に飾られている花を眺める。
「たしかにそうだけど私さっき仲間外れみたいな事しちゃったから。私自身そういう苦しさとか経験してるからすごい後悔してるのよ。だからちゃんと会ってせめてその事は謝りたいのよ」
私が自分の気持ちを正直に話し終えると先程まで花を見ていたリドルが歩きだす。
「リドル?」
「そういうことでしたら僕も少しだけデビさんにそのような態度をとってしまいました。だから探すの手伝います。そして謝りましょう」
「リドル………」
リドルもデビちゃんの事大切に思ってたってことかしら。
「まあデビさんには酷いことを先程言われたので僕自身は謝りませんが」
思ってたのよ…ね……?
「と、とりあえず早くデビちゃんをさがしましょう」
するとリドルが立ち止まり真っ直ぐ何かを見つめている。
「リドル何かあったの?」
リドルが見てる方向に何やらこちらに向かって誰かが走って来ている。
しかもかなりの人数が居るのが見える。
「何かあったのかしら。ここの警備員がこっちに……来てるわよね!?」
これはまずいと思い私はとりあえず巻き込まれないように逃げようとするがリドルはまだこちらに向かってくる警備員を見ている。
私は急いでリドルの元に駆け寄り一緒に逃げようとするがリドルは逃げる様子をみせない。
「ちょっとリドル何やってるの!?早く逃げないと巻き込まれるわよ」
「ミノルさん、あの集団の先頭見てください」
そう言ってリドルはこちらに向かってくる警備員の先頭を指差す。
「ん?何かひとりだけ背の低い人が居るわね。うーん……まさかあれって………」
「どうやら探す手間が省けたようですね」
「たーすーけーてー!!!」
叫び声を上げながらこちらに向かってきた。
「で、デビちゃん!?何やってるのよ!」
デビちゃんがこちらに走ってくることにより私達を仕方なく警備員から逃げるようにして一緒に走ることになってしまった。
「デビちゃんこんなに魔法警備員引き連れて何やらかしたの!?」
走りながらデビちゃんに質問する。
「何言ってるのじゃ!妾は何もしておらんぞ!」
「どう考えても何かやらかしたとしか思いませんが!」
リドルもデビちゃんと肩を並べるようにして走る。
「それよりお主らなんのようじゃ!」
「謝りに来たのよ!さっきはひとりぼっちにさせてごめんね!さすがに少し言い過ぎたわ!」
まさか走りながら謝罪をすることになるとは思わなかったわ。
するとデビちゃんは私が謝罪を終えると少し恥ずかしそうな顔をしたと思ったらすぐに切り替えて怒り出した。
「わ、妾はひとりぼっちではない!!ほらよく見ろ!妾の友達がたくさん後ろにいるじゃろ!」
そう言って後ろに追いかけて来る魔法警備員の方を指差し、友達だと言い張る。
「絶対捕まえてやる!!」
「牢獄にぶち込んでやるからな!」
「…………………」
「あなたのお友達は随分物騒な方々が多いようですね」
とりあえずこの人達は完璧にデビちゃんを追っかけてるってのが分かったわね。
「デビちゃん本当にごめんなさい!私、デビちゃんの事友達として大切に思ってるから嫌われたままは嫌だったのよ!最初に太ってるとか言われて怒ったのも謝るから!許してくれる?」
するとデビちゃんは少しそっぽを向いた状態になった。
「わ、妾こそごめんなのじゃ。酷いことを言ってしまって」
デビちゃんは謝り慣れて無いのか少し顔が赤い。
かわいい!
「デビちゃん………これで仲直りだね!」
「いい話の所申し訳ありませんが行き止まりですよ!」
目の前を見るといつの間にか行き止まりになっていた。
行き止まりならやることはひとつね。
「それじゃあそろそろ終わらせましょう!」
2人はその言葉に頷く。
そしてぶつかるギリギリのところで立ち止まり魔法警備員の方を向く!
「な!?いきなり止まる――――」
「アイスロック!!」
「な………」
魔法を放った瞬間こちらを追ってきた人達全員が凍りついた。
「よし!これでもう追っては来ないわね」
「ま、ざっとこんなもんじゃな!」
まるで自分がしたかのように自慢げにデビちゃんは言う。
「デビさんは何もしてないでしょ」
「とりあえずここはもう居られないわ。デビちゃんも狙われちゃってるし1度かつを向かえに行きましょ」
私達は一旦その場を離れることにして別の場所に行こうとした時何処からか声が聞こえた。
「残念だがそれは阻止させてもらうぞ」
すると氷で固められてる魔法警備員の奥から赤い髪の毛をした半獣が現れた。
「誰あんた!」
私は思わず臨戦態勢に入る。
この男多分かなり強い。
「俺の事を知らないのか?だったら最初に言っとくべきだな。俺は――――」
「彼はガルア様の右腕と言われている男ですよ。名前はハイト、確か炎の魔法の使い手だったはずです」
「へ、へえ……そうなのね」
そんな事よりも完璧に今の人自分から自己紹介しようとしてたわよね。
「なあリドルよ。あやつ今自分で自己紹介しようとしていたぞ。お主がしちゃっていいのか?」
「デビちゃんそれ指摘しちゃだめ!」
私は小声でデビちゃんに注意をする。
「な、何でじゃ?」
「自分でも分かってることをわざわざ他人に言われるの恥ずかしいでしょ?」
「なるほどだからあやつの髪の毛は赤いのか。恥ずかしくて髪赤くなるなんてすごい髪じゃのう!」
「ああ、そういうことだったのね!」
「これは地毛だ!さっきから小声で喋ってるようだが全部聞こえてるぞ!」
ハイトと言う男は私達の言葉に怒ったのかこちらを睨みつける。
「あ、ご……ごめんなさい」
私は素直に謝罪をしたがデビちゃんは赤い髪の毛が面白いのかツボってるようだ。
未だに笑い続けているデビちゃんをハイトは睨み付ける。
「お前ら少し俺をなめてるみたいだな」
「別になめてはいませんよ。これが僕達なので」
「そうかならもう気にしない事にする。それよりもお前らはここの魔法警備員を倒した。ここがどこか分かってやっているんだろうな?」
冷静なように見えるが言葉には怒りが込められている。
「分かってます。そのうえでやりましたから」
「そうか、だったらこれが最後の忠告だ。大人しく独房に入ってくれないか?」
そう言って私達を追い詰めるように忠告をした。
「決まってるでしょ!答えはいいえよ!」
私はその瞬間魔法を放った。
正攻法では勝てない奇襲なんて汚い手だけど今はこれが精一杯。
「なるほど。それじゃ荒っぽく行かせてもらうぞ」
その瞬間私達は壁に叩きつけられていた。
「がはっ―――!」
「ミノルさん!」
何が起こったか分からなかった。
ただ唯一分かったことはこのハイトが何かをやったという事だけだった。
「かなりの魔力量だったから少しは期待したがま、こんなもんか」
「くっ!アグレッシブフルート!」
リドルも対抗する為に魔法を放つ。
このアグレッシブフルートは風の魔法で1番の攻撃魔法、風を一点に集中させて触れた敵を衝撃波と共に風の威力も合わさって吹き飛ばす魔法。
しかもカマイタチのような鋭さも持っているため、魔力レベルの低い者なら体が貫かれてしまうほど。
この魔法なら………
「お前は俺の事を知っていた様だが………」
その魔法を詠唱もせずに雷の魔法で弾き飛ばす。
「なっ!?」
「少し俺の事を馬鹿にしすぎだ。シャープサンダー!」
流れるような追撃がリドルを襲う。
「ぐわああぁぁぁ!!」
「リド……ル……!」
「お主ら大丈夫か!?」
するとハイトがこちらに近寄ってくる。
「く、来るでない!」
デビちゃんが私達の前に立ち必死に抵抗する。
「そこをどいてくれないか。子供をいたぶる趣味は無いんだ」
「子供ではない!妾はどかんぞ!!」
するとハイトが魔力を溜め始める。
「だったら覚悟は出来てるんだろうな」
この攻撃まずい!
このままだとデビちゃんが
「何を言っておる!せっかく出来た、と、友達を!見捨てるわけ無かろう!!」
「デビちゃん……」
「デビさん………」
「リドルは別じゃ!」
「何でですか?」
デビちゃんは何とか守ろうとしてくれてるみたいだけど力の差は歴然、このままじゃ本当に。
「ミノルさん……これかなりまずい状況ですよ。このままですと………」
「分かってるわよ。でもまだダメージが残ってて、すぐには動けないわ」
その間もハイトはデビちゃんを倒す為の魔力を溜めている。
デビちゃんも未知数の相手に少し恐怖心を覚えているのかいつもの調子では無い。
「私達の魔法じゃ倒せないかもしれないけど……もしかしたらデビちゃんなら」
「なるほど分かりました……」
私達は何とか時間を稼ぐ為、ハイトの注意をこちらに向けさせる。
「ハイト!私達をあんまりなめないほうがいいわよ」
「まだ意識があったのか。素直に捕まっていればそんなことにはなっていなかったのにな」
余裕が言葉に表れている。
完全に私達の事を格下に思ってる証拠ね。
そういう人ほど隙をつかれると簡単に倒せるはず。
「残念だが俺は悪人には容赦はしないぞ。瀕死の状態でもな」
その目はこちらを見下すようなそんな視線でこちらを見てくる。
なめてるわね。
「何勝手に言ってんのよ。私はまだまだ行けるわよ」
「そうか、なら先に尻尾巻いて逃げようとしてるこの男から先に倒すか」
リドルの気配を察知したのかそちらの方に振り向いた瞬間私は瞬時に立ち上がり魔法を放つ。
「喰らいなさい!プリズンフリーズ!」
「ちっ―――――!」
私の放った魔法をハイトは瞬時に回避する。
「この程度の魔法で俺が倒せると―――」
「思ってませんよ!リストタイフーン!!」
避けた先にリドルが半獣がすっぽり入るくらいの台風を起こした。
「ちっ!何だこの適当な魔法は!こんなんじゃ俺は倒せないぞ!」
「それはどうかのう?」
「何?――――!?この魔力は!?」
「もう遅い!」
その瞬間膨大な魔力が魔法陣に込められる。
「死ぬがよい!デビルオンインパクト!!」
デビちゃんの魔法が台風の中心を貫く。
「ぐは――――っ!?」
爆音と共にハイトの苦しそうな声が聞こえた。
そして辺りは静まり魔法によって崩された床だけが残った。
「と、思ってたけどまだ意識があるのね。ハイト」
「とう……ぜんだ!これくらいで……負けるわけには………!」
よろよろの体で必死に前に進む。
強がってはいるけどもう瀕死ね。
「無理よ。さすがのハイトもこの魔法が直撃したらただでは済まないもの」
「く、くそ……こんな、とこ……ろっで………」
そしてハイトは力尽くその場で倒れた。
「はー……死ぬかと思ったわ」
「でも生き残れましたね」
「妾のおかげじゃがな」
いつも通りデビちゃんは嬉しそうに笑う。
「よし!それじゃあ早速かつを迎えに行きましょうか」
「はい。今頃何してるんでしょうね」
「寂しくて泣いておるじゃないのか?」
「ふふ、確かにそうかもしれないわね」
何やってるのかな、かつは。
そんなことを思いつつ私達は出口を目指した。




