その六 失われた魔法
「デビちゃん!」
私はすぐに窓の下を見た。
そこにはただ先程から忙しそうにしてる兵士と地面しか見えなかった。
何度も探してもデビちゃんの姿は無い。
私は安心した気持ちと逆にデビちゃんはどこに行ったのかと言う不安な気持ちがこみ上げ複雑な気分になってしまった。
「ねえ、リドル!デビちゃんは何処に行ったのかしら!もしかしたら窓から飛び降りてそこから脱出したのかしら。リドルはどっちだと思う――――」
私がリドルの方を振り向くと、そこにはリドルでは無くデビちゃんがこちらを嘲笑っていた。
「ふ、ふはははははは!!何心配しておるのじゃミノルよ!」
「え?で、デビちゃん?な、何でここにいるの?」
動揺で口が上手く回らない。
そしてなおもデビちゃんは笑いながら私を小馬鹿にする。
「普通に考えれば分かることじゃろ!妾が何で窓から飛び降りなければならないのじゃ。そういうところからしてお主はだめなんじゃよ」
その言葉に先程消えかけてた怒りがふたたび沸々と蘇ってきた。
「謝ろうと思ったけどやっぱりやめたわ。デビちゃんがそんな態度をするなら私だって………」
何かを察知したのかデビちゃんはいつの間にか扉の前に立っていた。
「それじゃあ妾は妾で勝手に探索させてもらうぞ。じゃ!」
そう言って、こちらにニヤリと笑いかけデビちゃんは部屋を出て行った。
「行っちゃいましたね」
さっきまで話に入って来れなかったリドルは他人事のように呟く。
「そうね………じゃないわよ!何たそがれてんのよ!早くデビちゃんを追いましょう!」
私はすぐに我に返りリドルを無理やり部屋から連れ出す。
「デビちゃんはどこ!?」
部屋を飛び出した直後、曲がり角の所で一瞬デビちゃんの影が見えたような気がした。
「あっちね!行くわよリドル!」
「分かりました」
私達は急いでデビちゃんを追って行った。
――――――――――
「―――――――!」
誰かの声が聞こえる。
「おら―――――――!」
だが声はハッキリとは聞こえない。
「おら起き――――――!」
少しずつ聞こえてくるが、俺の意識はもうろうとしたままで何を喋っているのかが分からない。
「おら!起きろや!」
その瞬間顔の周りの体温が一気に冷えた。
「おわ!冷た!」
さっきまでぼやけてた意識が急に覚醒した。
目の前には見知らぬ男がバケツのような物を俺の方に向けている。
中は入っておらず俺の顔が濡れているということは水をかけさせられたのだろう。
だがそんな奇怪な風景に俺は放心状態になってしまった。
「え、えっと………ここはどこだ?」
無意識にそんな言葉が出た。
多分こんな場面を何度も経験してしまってるからかもしれない。
「ここは地下牢獄だ。お前は俺達に捕まったんだよ」
地下牢獄?捕まった?
急な情報で一瞬また混乱しそうになるが何とか整理しようと目覚めたばかりの頭を働かせる。
試しに手を動かそうとすると途中で引っかかってしまう。
見てみると拘束器具で手が固定されてしまってい
た。
捕まったというのは本当みたいだな。
だとしたら俺は何かをやらかしたという事だ。
だが罪を犯したつもりもない。
ていうかそもそも法律がこの世界には無いんじゃなかったのか?
駄目だ。考えれば考えるほど余計混乱して来た。
「お前はここで一生を過ごししてもらう」
「一生……過ごす……一生!?」
俺はその言葉の意味を理解して思わず大きな声を出してしまった。
「そうだ!残念だが異論は認めないぞ。これはお前の自業自得の面もあるからな」
「それってどういう事だ」
「お前があの女を連れ出そうとしたからだよ」
そう言ってその男は隣の牢屋を指差す。
隣の牢とは言っても鉄格子の仕切りがあるだけで広く言えば同じ牢屋だ。
俺はその仕切りの向こう側に誰か居るのを確認し、それがどんな人なのか目を凝らしてみてみる。
小柄な体型、白いローブのような物を身に纏っている。
女の人か?いやこの背の大きさは女の子かな?
フードを被っていて顔が見えにくい。
俺はその女の子をもっと間近で見たいという欲求が出てきて、限界まで首を伸ばす。
その時フードの下から白い花の髪飾りが見えた。
「…………!?もしかして、ルージュ?」
俺はその瞬間先程までぽっかりと空いていた穴が埋まったような感覚に襲われた。
それにより自分が捕まった理由も概ね理解できた。
「ルージュ!おい、ルージュ!!」
呼んでも返事どころかピクリとも動かない。
眠っているのか、気絶されているのか、あるいは………
「やっぱり知ってたのかあの小娘を」
「おい、お前!ルージュに何をした!」
俺は睨みつけるようにして男に質問をした。
「少し眠ってもらっただけだ。死んじゃいないよ」
「本当だな!」
「この状況で嘘なんてつくわけ無いだろ」
今のところこの男しかルージュの安否が分からない。
ここは信用するしかないだろ。
「それじゃ俺はもう行くぞ。仕事の時間には呼びに来る」
「仕事?何だそれ」
「仕事の時間に説明してやるから静かにしてろよ」
そう言って最後の自分の方が立場が上だとはっきりさせるかのように俺を睨みつけて去っていった。
「静かになんかしてられるわけ無いだろ」
俺はすぐに拘束器具の様な物を取り外す作業に移った。
「まずは魔法で壊すか。ファイヤを使えば溶けて外せるかもしれないな」
俺は早速ファイヤを撃つため魔力を溜めた。
周りにばれない様に注意して魔法を唱えた。
「ファイヤ………」
だが、炎は現れず全く反応が無い。
「な、何でだ!?もう一度!ファイヤ!」
今度は大きめの声で唱えたが先程と同様に魔法は全く出なかった。
「嘘だろ……もしかして魔法が使えなくなったのか!?」
異世界に来てせっかく魔法を覚えたのに失うなんて………
俺はそんな受け入れがたい事実を何とか間違いにする為に色々な方法で魔法を唱えた。
だがどんな事をしても魔法を使える事はできなかった。
「そんな……魔法が使えなかったら俺はただの……」
その時ふと自分の耳がどうなっているのか気になった。
俺は恐る恐る頭の上を触った。
すると頭を触ってもあるはずの引っ掛かりはなかった。
「俺、人間になってる………て、カツラ付けてるんだった」
俺は変装用に付けていたカツラを取る。
そこには俺が人間では無いという証の耳が付いていた。
「やっぱりそうだよな」
少し残念な気持ちが出てしまっていた。
自分は元々人間だった。
だとしたらもう魔法が使えない俺はただ足手まといだ。
だったらもういっそ人間に戻った方が楽なような気がして来た。
「元の役立たずに戻るのはやだな……」
魔法が使えなくなったショックが大き過ぎて俺は脱出したいという意欲すら失ってしまった。
自分はこの島で変わるつもりだったなのに俺はその変わるチャンスすら失ってしまった。
また俺は昔の何も出来ない無能の絶対かつに戻ってしまったのだ。
「人って言うのは目標や希望を失うとこうも気持ちが下がるんだな」
俺は大きな喪失感を抱えたまま再びまぶたを閉じた。




