その二 路地裏の出会い
「う、う〜ん」
俺は重い体をゆっくりと起こし辺りを見渡した。
「痛っつ!頭いてー気持ちわりー、これが大人がいつもなっている二日酔いか………」
俺はくらくらする頭を抑えながらベットから降りた。
その時手になにか持っているのに気がついた。
「何だこりゃ?紙?」
俺はその紙に書かれている文字を読む。
「えーっと、今回のキングフロッグ討伐そしてドリー盗賊団の捕縛の功績を讃えてかつ御一行をガルア様の城に招待をしようと思います。つきましてはそちらに執事が参りますのでそれまでお待ち下さい。へー、ガルア様の城に招待か………」
俺は読み終わった紙をごみ箱に投げ捨てた。
「ないっしゅー!痛っつ!まだあんまり動けないな……ちょっと水でも飲むか………」
俺はフラフラと歩きながら台所らしきところに向かった。
コップを手に取り蛇口を捻って水をコップに注ぐ。
「う〜んイテー……ゴクゴク……ぷはー!いやー生き返るな」
水を飲んだおかげで頭が先程よりスッキリした気がする。
俺は改めて周りを見渡す。
「ここもしかして宿屋か?いつの間にこんなところに」
「かつー!いるー?」
すると扉からミノルの声が聞こえる。
俺は扉を開けるとそこにはミノルの姿があった。
「ミノルか。お前も別の部屋で寝てたんだな」
「そうなのよー、朝起きたらこんなところに居て。て、そんなことはどうでもいいのよ!かつこれ見てよ!」
「お前耳元で騒ぐなよ。まだ頭痛いんだから」
「そんなことよりこれ早く読んで!」
するとミノルは強引に紙を渡してきた。
「分かったよ。たく、朝っぱらから何なんだよ」
そう愚痴を零しながら俺は紙を読んだ。
だがこれは俺がさっき読んだ紙と内容が全く一緒だった。
「これ俺さっき読んだぞ。よく分からなかったから捨てといた」
「え!?かつも持ってたの!ていうか捨てたの!?」
「ああ捨てたよ」
「何で捨てちゃったの!?そして何でそんな冷静なの!?」
何でこいつはこんなに焦ってるんだ?
さっきの手紙はそんな重要なものなのか?
確か手紙を送ってきた人はガルアと書かれてたな。
ん?ガルア?
「すまんミノルもう一度見せてくれないか」
「いいわよ。あんたは何回も見なさい」
俺は再び手紙をゆっくりと読み上げた。
最後にガルアと書かれている。
「ガルアってたしかこの島の王だよな……」
「やっと気が付いたの。かつちょっとボケ過ぎよ」
「やべぇー!早くごみ箱から回収しないと!!」
俺は大慌てでごみ箱の中身を確認した。
だがすでにごみ箱に紙の姿は無かった。
「何でだ!?ごみ箱の中身どこいったんだ!」
「何じゃお主ら騒がしいのう。静かにせい」
するとデビがごみ袋を片手に持っていた。
「お前それって……」
「ああこれかゴミが溜まっておったから捨ててきたのじゃ。ま、こういう気配りができるのも妾の強―――――」
「中身どこやった!」
俺はデビの肩を掴み必死に訴える。
「ふえ!?な、何じゃいきなり!高貴な妾の体に触るな!」
「そんなこといいから中身どこやったんだよ!」
「そんなこと!?妾の体をそんなことといったか!」
くそ!こいつじゃ話にならねえ!
するとリドルが別の扉から出て来た。
「おはようございますかつさん。顔色が悪いですね。酔覚めの水でも飲みます?」
そう言ってリドルが台所に行く。
「ありがとう。でも今はそれどころじゃないんだ。このごみ箱の中身どこにいったか知らないか!?」
「ああ、燃やしときましたよ」
「へ?燃やした!?」
「はい玄関のところで―――」
俺はリドルの話を最後まで聞かず玄関まで飛んで行った。
「どこだ!?どこにあるんだ!」
だがいくら探しても玄関には紙どころか他のごみすら見つけることができなかった。
「かつさん最後まで話を聞いてください」
「絶対どこかに燃えカスとかがあるはずだ!それを魔法とかで上手くやれば」
「残念じゃが燃えカスどころか灰すら残っておらんぞ」
何度も何度も確認したが本当に何も残ってなかった。
「そんな………」
「何をそんな残念そうにしておるのじゃ?もしかしてお主ごみを集めるのが趣味なのか?それは本当に趣味が悪いぞ」
「もとはと言えばお前が〜!」
その時リーンと言う音が玄関先から聞こえた。
「誰か来たみたいですね」
するとリドルが玄関の扉を開ける。
そこにはきちっとした紳士的な服装を着て、白い長いヒゲのお父様みたいな人が来た。
「お迎えに伺いました。かつ様そして皆様」
「えっと……誰?」
「これは失礼致しました。わたくしガルア様の執事をさせていただいております。シニアと申します」
そう言って丁寧にお辞儀する。
「ガルア様の執事ってあのガルア様のこと!?」
「はいそのガルア様でございます。手紙を送らせていただいたのですが届いていませんでしたか?」
「もしかしてこの手紙のことか?」
そう言って、デビは手紙を取り出してシニアに見せる。
「はいそれでございます。それではこれから皆様をガルア様の城まで招待させてもらいます」
外にはコウバが止まっていた。
なるほどあれで行くのか。
普通のコウバとは違い少し装飾されている。
「そうかそうか妾達を城まで招待してくれるのか。くるしゅうないのう!」
するとシニアがデビの前に立つ。
「な、なんじゃ?」
「すみません。ガルア様の申し付けで先程お持ちしていました手紙を見せた方だけを招待すると言われておりますので」
「それならさっき見せたじゃろ」
「再度確認させてください」
デビはめんどくさそうに先程しまった手紙を取り出して、シニアに再び見せる。
「ありがとうございます」
そう言ってシニアは手紙を受け取りじっくり見る。
「はい、本物だと言うことが確認できたのでどうぞお乗りください」
「やったー1番乗りじゃ!うっほーふかふかじゃ!!」
コ車の中で楽しそうに飛び跳ねるデビ。
「はい、これでいいですか?」
「リドル様ですね。どうぞ」
「はい、これって金を早く渡せとかいう為に呼ばれてる訳じゃないわよね?」
「ミノル様ですね。ご安心ください。今回お呼びさせて頂いたのは皆様方の活躍を讃えるためですので」
「それなら良かったわ」
そう言ってリドルとミノルもデビに続いて乗り込む。
まずいなこれ。
「後はかつ様だけですね。お噂はかねがね。ガルア様も会うのを楽しみにしていますよ」
「そ、そうなんですね……」
楽しみにしてるとこ申し訳ないけど会えないかもしれないんだけど。
「それではお手紙を」
やばい!なにか良い言い訳を!
「え、えっと……手紙の事なんですけど………あれ無かったんですよね」
「無かったといいますと?」
「俺だけ手紙が来なかったんですよ。だから今残念ながら持ってないんですよね」
「それは困りましたね」
よし!これで何とかごまかせるかもしれない!
「それならば今回は特別にお乗りいただいてよろしいです」
「本当ですか!?ありがとうございます!」
ふっ、我ながら上手い言い訳を思い付けたもんだな。
すると執事はボソリと呟いた。
「魔法協会の職員の方には後でそれ相応の処罰をしなければ」
俺はコ車に乗る手を止めた。
「え?あのシニアさん今なんて言いました?」
「ああ、すみません。口に出ていましたか。かつ様には関係ございませんのでお気になさらず」
「い、いや一応俺魔法協会にはお世話になってるから何で処罰させられるのかなと」
「今回ガルア様からの大切な手紙をかつ様にお渡し出来なかったからです。ガルア様からの届け物は命に変えても届けるのが絶対ですから」
ま、まずい!このままだと俺の嘘で魔法協会の人に迷惑がかかってしまう!
「す、すいません!嘘ついてました!」
「……それはどういうことでしょうか」
「実はあの手紙燃えてしまって……」
「ガルア様からの手紙燃やした?」
「いや、燃やしたではなく燃えたが正しくて」
するとシニアさんは少しうなだれた様子だった。
「通常ならば死罪です。ですが今回はガルア様も気にしておられたお方ですので免除します。ですが今回は本人確認ができる物はなしと判断し、お連れすることはできません」
「つまり?」
「お留守番でございます」
そう言ってコ車は出発した。
俺はそのコ車をただ呆然と見続けることしかできなかった。
「まじでおいて行きやがった。あんまりだ!確かに燃やしたのは悪いけど!てか燃やしたの俺じゃないし!でも捨てた俺も悪いのか!?」
俺は後悔と悔しさが混ざり合う複雑な感情でのたうち回っていることしかできなかった。
「くそ!後悔したってしょうがない!………やっぱり許せねえ!ていうか普通行くかあいつら!リーダーの俺を差し置いて!!」
俺は再び不満が爆発し駄々っ子のように暴れる。
「ミノルのやつごめんねかつ私城見に行きたいの!じゃねえよ!俺だって行きたかったよー!」
俺は一通り暴れると一旦冷静になる。
「よし!不満は十分言った!もう諦める!ここからは自由だ。好きなところに行こう!」
そう思い俺は外に出た。
「さあ〜ってどこに行こうかな」
そんなことを考えながら俺はフラフラと歩く。
しばらく何処に行こうか考えて歩いているとふとある場所を思い出す。
「そうだ!図書館に行こうかな」
ずっと行こうとして行ってなかった場所だ。
俺は目的を決め行こうとすると今俺が居る場所が薄暗い日本で言う路地裏みたいな所に来てしまっていた。
「しまった、ぼーっとし過ぎたな」
俺は来た道を戻ろうと回れ右した時どこからか声が聞こえたような気がした。
「気のせいかな?」
風の音が声に聞こえてしまっただけだろうと思い俺はそのまま行こうとした。
「助けて!」
今度ははっきりと助けてと聞こえた。
「うわあ……はっきり聞こえちゃったな。見過ごせないよなぁ……」
俺はとりあえず声が聞こえた方向に行く。
「きゃ!やめてください!」
「何言ってんだよ!こんな暗い所にいるってことは期待してんだろ」
「そうだぜそうだぜお嬢ちゃん。大丈夫安心しろ。悪いようにはしないからよ」
1人のか弱そうな女の子がデブの男とやせ形の男に教われている。
漫画とかで見たことあるスタンダードな絡みされてるな。
「見ちゃったもんはしょうがない。助けるか。おい!」
俺は2人組に聞こえるように大声で呼ぶ。
「あ!?なんだお前!」
「おい落ち着けよ。お前こいつの知り合いか何か?だとしたらやめたほうがいいぜ」
「別に知り合いじゃないぞ」
「じゃあ誰なんだよ」
「誰って言われても……ただ俺はその女の子が困ってそうだったから」
それ以外言うことがない!
「正義の味方気分かよ!そういう奴がやられるんだよ」
「お前もどうだ?一緒に楽しまないか?」
「お前らロリコンか?俺は子ども別にそんな好きじゃないんでね」
「ロリコン?何言ってんだお前?とりあえず邪魔するなら容赦しねえぞ!」
そう言ってやる気満々の様子だ。
話し合いの解決は無理そうだな。
「じゃあプラン2だ!」
俺は氷の粒を投げつける。
「なんだこれ?こんなもんで倒せると思ったか?」
「あいつ多分弱いぞやっちまえ!」
「そんなこと分かってるよ!ファイヤウインド!」
「ぐわ!?何だ!」
「おいこれ全然熱くないぞ!」
「だってそれ目くらましだもん」
俺は隙をついて女の子のところまで来ることができた。
「な!?いつの間に!」
「てめえ!隙つけられたからって調子のんなよ!」
「やられたくせに文句ゆうなよ」
よし、とりあえずここまで来れた後は。
「おい、俺の手を離すなよ」
俺は、女の子の手をしっかり握った。
女の子も頷き握り返す。
「おら!ぶっ殺してやるよ!」
「ちょっと待て!」
すると2人は俺の声にびびり動きを止める。
「な、なんだよ!」
「てめえいきなり大声出すんじゃねえよ!」
「まだ気付かないのか?」
「何?」
俺は、ゆっくりと上を指さした。
「まさか!」
2人が一斉に上を向いた瞬間俺はその場から脱出した。
「て、何にもねえじゃねえか!」
「おい、あいつらいないぞ!」
――――――――――
「ふー、ひとまずここまで来れば大丈夫だろう」
俺達は何とか人気のある大通りに出た。
「あ、あの助けてくれてありがとうございます!」
「いや、別にいいよ。あんまり1人で人気のないところ行っちゃ駄目だからな」
これにこりたらもうそんな行為はしないだろう。
「それじゃあ俺もう行くから」
すると俺のローブを女の子が引っ張る。
「ん?何だ?まだ何かあるのか」
「あ、あの……」
何か言いたげな様子を見せた次の瞬間。
「私のナイトになってくれませんか!」
その時言葉を理解するまで時間が掛かったのは言うまでもない。




