第一話 極道と幼い許嫁
処女作になります。どうか温かく見守って下さい。
春の朝日が部屋に差し込む中、その男、御手洗 拳馬は布団の中で惰眠を貪っていた。
寝るときでもオールバックに決めている黒髪は寝癖のせいでボサボサになっており、いまだに童顔と言われる原因のパッチリとした黒目は固く閉ざされたままだ。
数日前やっと組掛りの仕事が終わり、少し遅い祝杯を朝から夜遅くまで組員のみんなとあげていた為、まだまだ睡魔は拳馬を布団から出してはくれなかった。
今、この家には自分しかおらず、今日の会合の時間まではまだ余裕あるので、もうしばらく惰眠を貪るつもりだったのだが。
カンカン
金属を叩くような音が聞こえる。
だが深酒のせいか、耳に届いた音は遠くまだ眠りの中にいた拳馬には届くことはなかった。
カンカン・・・カンカン・・・
また、その音が鳴り響く。二日酔いの頭はその音に激痛を覚え、頭まですっぽりと布団の中に篭ってしまう。
こっちは疲れてるんだ。まだ7時前だろ?もう少し寝ていても罰は当たらないじゃないか・・・・・
そして再び、その音が鳴り響くが、拳馬は両耳を手で塞ぎ、無視を決め込んだがその音はさらに激しくなりだんだんと怒りを覚えはじめた。
「うるせぇなぁ、何なんだよっ!」
一体どこのどいつだ?こんな朝っぱらから、昭和のおばちゃんみたいなことをしているアホは。こちとら、昨日の仕事と宴会の疲れが残ってるんだ。あの子が家にいない時ぐらいゆっくり寝かせてくれってんだ。
拳馬は未だに鳴り止まないその音を疎ましく思い、布団から出て文句でも言ってやりたかったが、侠としてそんな小さなことでむきになってどうすると自分に言い聞かせ、枕で顔ごと耳を塞いだ。
そうしていると少しずつその音は聞こえなくなっていった。
(これでやっと眠れる)
拳馬はハァ~と安堵のため息をし再び眠りにつこうとしたその時、下の階から妙な音が聞こえてきた。
トタトタ
それは誰かが床を歩いてくる音だ。
この家は古く大半が木造の為、たとえ二階からでも一階の音は響いてくる。
(誰か居るのか?)
思えば、先ほどの叩くような音も随分と近かった気がする。
だが、誰だ?
組員達は全員、昨日帰るのはしっかり確認したので組員ではない・・・ならば兄さん達か?いや、兄さん達ならば俺が寝ていようが起きるまでインターホンをならし続けるだろうからこれとない。
となると泥棒の可能性も考えたが、この町でそんな命知らずがいるとは思えない。
拳馬が布団から顔を出し、ズキズキと痛む頭を抱えながら考えているとその音がだんだんとこちらに近づいてくるのに気づいた。
まぁ、どっちにしろ確かめないとな。
拳馬が二日酔いの頭を抱えながらその音の正体をたしかめようと布団から出た時、ふとカレンダーが視界に入った。そこにはある日付のところに何重にも丸印を着けている所があった。そしてその印を見つけた拳馬は、何かを忘れているような気がした。
とても大事な、そうそれこそ、絶対に忘れてはならないものを。
「何だっけ、これ?」
いまだに、頭が上手く働かない拳馬はこの丸印が何だったか思い出せないでいた。
拳馬がそれを思いだそうと記憶を頭の中から引っ張り出そうとしたその時
ギシ・・ギシ!!ギシィ・・ギシィ!!
どんどんと音が近づいて来ている!
俺の寝ている部屋は二階ですぐ近くには階段がある一歩一歩を踏みしめるように歩いてくるようなその音はどんどんと大きさを増していき、ついに二階の拳馬の部屋の前でピタリと止まった。
流石の拳馬も思考を中断し襖の先の気配を窺う。
自分は組の中でも、喧嘩に関してはかなりの自信があった、もし、軍人が相手でも対処できると自負するほどには
だが、襖の先にある気配はどこか不思議だった。
どこか儚く、それでもしっかりとそこに居ると感じさせる存在感があった。
(なんだ?この感じ・・・どこかで・・・)
なんとなく覚えのある気配に拳馬は一瞬、首を傾げたが、すぽんと記憶の底から記憶を引き出した。
バッと顔を上げ、カレンダーを見る。そこにはある日付に付いた丸印と5日位前で止まっている月の始めから付いているチェックマークがあった。
「あ」
間の抜けた声を出し、その印の意味を思い出したその時の彼の顔は天気のいいこんな春の朝には似つかわしくないほど顔面を蒼白にし冷や汗をさらにだらだらと垂れ流していた。
(な、何やってんだ、俺はぁぁぁぁぁっ!?)
心のなかでそんな叫びをあげながら、拳馬は自分の失敗を恥じていた。
とんでもないスピードでカレンダーの目前にまで顔を近づける。
拳馬はカレンダーと慌てて手に取った携帯電話の日付を何度も何度も繰り返し見返すが、 間違いない見間違えるはずがない。そのカレンダーに付いた丸印は間違いなく今日だ!
そしてその日は、あの子の帰ってくる日だ!!!
完璧に覚醒した拳馬の頭はどんどんと昨日の記憶を思い出していった。
(何で昨日、兄さんらがあんなに気を使っていたのかやっとわかったよクソッタレ!!!)
仕事が終盤を迎えてそれから暫く働き詰めだったことで完全に日付の間隔が無くなり、すっかり記憶から抜けていた!絶対に忘れないように何重にも丸を書いて、部屋の一番眼の届く場所に貼っていたのにこれじゃ意味がない!!
だから昨日、帰る間際に『明日は頑張れよww』なんてニヤニヤと笑いながら、帰っていったのか!覚えてたんなら教えてくれればいいだろあのドS兄弟が!!今日がどんなに大事な日か知ってるくせにそれが義理の弟にすることか!?
朝早くに起き、家に帰って来て朝食の支度をしてくれていたのだろう。ふわりと一階から朝食のいいにおいが漂ってくる。
そしてあの子が帰って来ているのなら間違いなくアレを見られていることだろう。
みんなとバカ騒ぎした時のまんまの酒瓶や肴の食べ残しやらでぐちゃぐちゃになったままの大広間を・・・
だと言うのに俺は、呑気に今日のことを忘れ、さっきまでのうのうと爆睡してたのか?今すぐ過去に戻って自分をぼこぼこにしてやりてぇ!!
拳馬の体から汗が流れ出ており、床に染みが広がってゆく。
「ど・・どうする!?」
拳馬は二日酔いの頭を全力フル回転させる。
(ま、まずい!どうする!?あの子が怒ることはないだろうが、昨日の顛末は間違いなく親父に伝わる!そうなったら・・・)
その想像しただけで全身が凍りつくかのような寒気を感じた。もう!どうしてみんな止めてくれなかったんだよ!
拳馬が、頭を振ってあーでもないこーでもないと何とか妙案を搾りだそうともがいていると、声が聞こえてきた。
「拳馬?・・・寝てるの?」
間違いなくあの子の声だ。
「あ!だいじょ・・ッ!」
そして我にかえった俺は慌てて彼女に声を掛けようとするが、二日酔いの頭で頭を使ったせいか、強烈な頭痛に襲われ、バカみたいに躓いてしまった。
「っ! 拳馬?、大丈夫!」
躓いた音を聞き、あの子が襖を開けようとするが、拳馬が躓いた拍子に襖に布団が引っ掛かり開かなくなってしまった。
「開かない! ちょっと待ってて!」
「あ、おい! まっ!いてて・・・」
声を掛けようとするが、頭痛がひどく、拳馬は動けないでいた そしてあわてて階段を駆けおりる音が通りすぎていく
(いってぇ・・・ちょっと朝っぱらから無理しすぎたな)
拳馬は己の行動を反省したが、それ以上にあの子の声を聞けて嬉しさが込み上げて来ていた。
(久しぶりに聴いたなぁ、あの子の声・・・)
久し振りに聴く、優しい声に自然と笑顔になる。そして、さっきまでの自分の考えていたことが恥ずかしくなってきた。
(こうなったのも俺の落ち度だしな・・・後であの子にあったら、素直に謝ろう。そうじゃないと親父にこれからする頼みごとも聞き入れちゃ貰えないからな)
そう自分に活を入れ、挟まっていた布団を剥がしているとなにやら下から慌ただしく音がなり続けている。
(工具でも探しているのか?)
もうすでに襖に挟まっていた布団は取ったので、もう大丈夫なのだが・・・。
頭痛も治まってきたので、下に下りよう思ったその時である。
ズン!ズン!ズン!ズン!
「な、何だぁ!?」
突然、ものすごい音が響き、どんどんとこちらに近づいて来ているのだ、その音と一緒にバキバキと床や階段が割れる音が辺りに木霊する。
一度、その音がなる度に家が揺れる。一体、何を持ってくればこんな音になるのかと思うが拳馬には一つだけ心当たりがあった。
拳馬の喉がごくりと鳴り、先ほど止まった汗がまた吹き出してきた。そしてその音は拳馬のいる部屋の前で止まりあの子の荒々しい息遣いが聞こえてくる。
「はぁはぁ、拳馬・・・待ってて!」
その荒い声を聞き、俺は悟った彼女が何を持ってきたのかそうだ、忘れていた、あの子はまだ子供なのだ、それもとても特殊な環境で育った・・・。
ならば問題の解決方法がとても極端だとしても不思議ではないのだ。
「ハァハァっ! 今、助けるッッッ!」
襖の先から足を踏みしめる音が聞こえた。
「ちょ・・ちょっと待てぇぇぇぇっ!!」
咄嗟に静止の声を上げたが、ソレは容赦なく部屋に飛び込んできた。
部屋に轟音が鳴り響く。
拳馬の部屋に投げ込まれたソ《・》レはまたたく間に部屋を蹂躙していく。
部屋からほこりと煙があがり、タンスは砕け、壁にいたっては大穴が空いていた。
そしてめちゃくちゃになったこの部屋でぼろ雑巾と化した拳馬はソ《・》レと目を合わせた。
「・・・よ、よぉ」
拳馬は死んだ魚のような目でソレに向かって挨拶を交わす。そう・・・ソレと呼ばれていた仏像と。
大きさは約4~5メートルはあるのか、その頭だけでも拳馬の顔が二つか三つは入りそうだ。
だが、問題はそこではない。この仏像は、この家に来た時、大広間に置かれた俺とあの子と同棲祝いに贈られたものだ。
そしてこの仏像はうちの屈強なうちの組員が10人がかりでやっと持ちあがり、大広間に置く際にはさらに5人の人員がかかって運び込んだ代物である。
だから、この仏像を拳馬のいる二階にまで運び、ましてや放り投げるなど到底無理な話なのだが。
拳馬は顔を引きつりそうになるのを抑え、襖のほうに視線を向ける。そこにいたのは・・・・・
「おはよう、紫音」
そこにいたのはとても愛らしい小さな少女だった。
背中まで伸びた薄紫の髪、身長は155Cm程だろうか。そして幼くも一度見てしまえば、視線を釘付けされるであろうかわいらしい人形のような顔立ち、最近、その存在を強調し始めてきた二つの双丘、止めにその薄紫の髪にも負けない輝きを放つ真っ赤な瞳。
あまりに日本人離れし、その物静かや雰囲気と容貌はまるでファンタジーの世界から抜け出てきたお姫様か何かだ。
目の前でかわいらしい犬の刺繍の入ったエプロンと頭に白い頭巾を着け、何を考えているのかわからない無表情な顔でこちらをじーっとこちらを見ている。
「うん・・・おはよう、拳馬」
申し訳なさそうな声でそう言う彼女は、鏡原 紫音任侠一家 仁牙会会長の娘であり、その組員である御手洗 拳馬の許嫁である13歳の小さな少女の姿がそこにあった。
どうでしょう?何度も修正してるので変なところがあるかも。(・・;)
誤字、脱字があれば教えて下さい。
感想もあればお願いしますm(_ _)m