9話 闇市場とシャトー
強い風と振動で目が覚めた。
「あれ……カトレア?何してるんだ……?」
気がついたらバイクの上、しかも縄でカトレアの腰に自分の腰が縛り付けられている。
ジャックは当然頭が混乱する。
「今は待って、2番街に着いたら解くから。カボチャのせいでヘルメット付けらんなかったからジッとしといて」
ライダースーツを着ているため、体のラインが強調されている。
「ジロジロ見ないこと」
「分かってる」
そうは言っても勝手に目が行ってしまう。
「次見たら半殺しね」
半殺しは困るのでジャックはバイクに乗っている間、ずっと上を向き2番街到着まで過ごした。
【2番街】
迷路のように複雑な道を通り、バイクを停めた。
「着いたわ」
「ここが闇市場?」
1人の優しそうな老人と1つ小屋があるだけの広場に案内され、少々期待外れな気もする。
「ちょっと待ってて。あの老人に話してくるから」
カトレアは腰に結んでいる縄とヘルメットを外し、髪を整え小屋にいる老人に話しかけに行った。
聞き取りづらいが何か話しているようだ。
「何の……で?」
「買いた……物が…………ハイ、コレ」
「い……だろう。……れ」
カトレアがバイクに戻ってきた。
「交渉してきた。行くわよ」
「またバイクか?もう縄は嫌だ」
「まーまーついて来なさい」
ジャックは言われるがままカトレアについて行った。
老人のいた小屋に入ろうとしたので質問した。
「なぁ?こんなところに市場なんてあるのか?小屋だぞ?」
「この中に市場があるのよ。老人、バイクをお願いします」
「入り口は開けておいたから早くお入り。ここんところカラスが増えてきたからね」
「それは良くないですね。気をつけます」
カトレアは小屋に入って行った。
自分も入ろうと小屋へ入ろうとすると、老人に呼び止められた。
「アンタ……人を殺したって本当かい?」
「…………どこでそれを……?」
「まぁ殺すのはイイけどね、アンタの炎は目立ち過ぎだ。人間と同じ大きさの炎なんて暗い街には目立ち過ぎる。もっと炎を小さく高温にしな」
老人の突然すぎるアドバイスに驚くジャック。
その顔を見た老人は悪魔の様に卑しく笑っている。
「この街で殺す時は静かに目立たず殺せ。それがルールだ」
「まぁ…………気を付けるよ」
老人の顔が優しそうな笑顔に変わる。
「それでいいんだ。呼び止めちまって悪かった。小屋に入ればそこはもう闇市だ」
「それがあんたの能力なのか?」
「まぁそんなところだ。いいから早く入りなって」
言われるがままに小屋に入った。
ただの狭い部屋で、闇市の面影なんてこれっぽっちもない。
「なぁ?入れば闇市なんじゃ」
「ごゆっくり」
老人によってドアが閉められた。
「ちょ、これどうすんだよ!」
「まー待っとけ」
「待っとけって…………あれ?」
狭い部屋にいたはずなのに、気付けば歩く人々の中で佇んでいた。
周りは珍しい物と人で溢れかえっている。
「あ、こっちこっち」
カトレアがタバコを吸いながら壁に寄りかかって手招きしている。
とりあえずカトレアの元へ駆け寄った。
「医者がタバコ吸っていいのか?」
「薬よ薬。それにしても随分遅かったわね。何してたの?」
「あの老人に話しかけられてた。能力のアドバイス的な事を」
「アドバイスね。さて、今から今後の拠点になる所に行くから。買い物はまた後でするから絶対人にに話しかけちゃダメよ」
「何で話しかけちゃダメなんだ?」
「歩いていれば分かるわよ」
歩いて数分、声をかけられたジャックは1言話すたびに店の人々に「壺を買え」だとか「君は悪魔に取り憑かれているからこの石鹸で払い落とせ」だとか無茶苦茶言われた。
路上にいる子供には小銭をねだられ断るごとに罪悪感が凄まじい。
「…………ここはこういう所なのか?」
「まぁそうね。皆生活に必死だもの。売れなきゃ明日を過ごせない人々が大勢いるのがこの闇市だもの」
「他が頼れないから闇市に行くしかないんだよな。ここのヒト達は」
「そういう事よ。ん、見えてきたわね。あそこが私達の今後の拠点になるシャトーよ」
レンガ造りで3階建ての立派な建物が見えた。
「あれに住むのか。なんだか偉くなった気分だな」
「それもそうね。元々金持ちが住んでた別荘地帯の名残らしいし」
「そんな家に住めるなんて光栄だな」
「まぁ、住む代わりに働かなきゃいけないけどね」
「住まわせてくれるんなら喜んで仕事するぞ!」
「…………まぁ頑張って」
雑談している間にシャトーの前に着いた。
カトレアが門のベルを鳴らす。
「ハイハーイ。誰ですかぁ?……おっと君達か。歓迎するよ」
門を開け、ボサボサな長い髪の小さな女の子が出てきた。
「あー、お父さんかお母さんはいる?」
「あ………」
カトレアは気まずそうだ。
女の子はプルプル震えている。
「あのなぁ…………私は21歳だ!!この身長は成長期に全く背が伸びなかったからこうなっただけで、こう見えて成人過ぎてんだよこのクソカボチャ野郎!!!」
「まぁまぁそこまでにしなさいよ、キャロル」
カトレアがすかさずフォローに入る。
「む、カトレア…………分かった。おいカボチャ頭、ついてこい」
初対面、ものの数秒でこれだけ仲が悪くなる事ができるのか?とジャックは考えた。
「やっぱりヒトは不思議だ」
ジャックはまた1つヒトを学んだ。
「これからこき使ってやるから覚悟しろよ」
「アンタやっぱり子供にしか見えないな」
「うっさい!」
ジャックは騒がしくなると感じた。
いい意味でも悪い意味でも。