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6話 情報と双子

 休憩中、ジャックは医療用ベットの上でコーヒーを味わい、カトレアは眼鏡を外して椅子に座り、机にあるラジオのような物で誰かと話している。

 集中している姿が仕事のできる大人の魅力を感じる。

「…………そう、今回も協力ありがとう。またよろしく。気を付けて」

「なぁ?誰と話してるんだ?それって魔法?」

「違うわよ。これは無線機っていって離れた人と話せる機械なの。この『ディバイ地区』の必需品ね」

 無線機というのも凄いが、また知らない単語が出てきた。

 まだまだ彼女の説明が必要だ。

「ディバイ地区って?」

「休憩もしたしちょうどいいわね、それも含めて説明を再開するわ」

「了解」

 カトレアは眼鏡をかけ、足を組み直し、説明を再開した。

「2年前まで戦争をしていたと言ったのを覚えてる?」

「確か隣国と能力覚醒剤のアンプルを巡って戦争をしたんだっけ」

「能力覚醒剤か……その呼び方でも良いね。まぁそれは置いといて、この国は戦争をして数え切れない程の被害がでた。勿論兵士は私達が殲滅したのだけど、ここら一帯は攻撃に晒された放棄された地区なの」

「放…………棄………………?」

「そう……私達が守れず、来た時にはすでに壊滅してた。軍はこの街と私達を時間稼ぎに利用して、重要人物や金持ちを今の都市に逃がした。だからこの地区は政府が目を向けず、ギャングや犯罪者が住み着き、戦争で残された人々が虐げられ、あらゆる犯罪が起こる無法地帯になってしまったの」

「………………ヒトってのは…………助け合う生き物ではないのか?」

 この地区の人々はジャックの思い描いた幸せに溢れる世界ではなく、暗い残酷な世界に生きているのだと知り、落胆した。

「あら、幻滅でもしたかしら?でもそんなもんよ。世界なんて」

 ジャックは自分がどれだけ人を知らないかを考えさせられた。

 彼女のほうが地獄という地獄を味わっている事を知って。

「………………すまない、続けてくれ」

「勿論そのつもり。続けるわ。戦争で地区によって大きな差がこの国で生まれてしまったのは想像つくわね?」

「貧富の差…………とか?」

「そうね、そのとおり。ディバイ地区は放棄された地区の総称なんだけど、今いる『3番街』、闇市場がある『2番街』、中心街に通じる『1番街』が都市の『ノウリミット』を覆うように存在してるの」

 4つの地区の中で3つの地区は無法地帯という現状を見ると、この国はやはり助け合いを知らない国なんだなとジャックは考えさせられた。

 そんなジャックを差し置いてカトレアは話し続ける。

「ディバイ地区はお察しのとおり貧しい街なんだけど、ノウリミットは違うわ。ノウリミットにはさっき話した金持ちや重要人物が逃げた先だったの。その中には科学者も居たわ。そのお陰でノウリミットはすぐに戦争から立ち直り、瞬く間に復興を果たし、今では欲求を満たす街とも呼ばれているわ」

「欲求を満たす………………というのはどういう?」

「知識欲から性欲まで何から何まで全部。それも科学の発展のお陰ね」

「科学ってのは凄いんだな。他にも説明を頼めるか?」

 ジャックは相当生意気を言ったが、それでもカトレアは話を続ける。

「説明するけど、後で私のリクエストにも答えなさいね。じゃあ次は国の勢力についてね。この国には2つの大きな組織があって、まず君を襲ったウサギマスクだけど、あれは『バースデイアリス』って名前のギャングよ」

 名前は可愛らしいがあの男の力を見る限り恐ろしい集団たのだろう。

「可愛らしい名前だと思ったわね?でもやってる事はクズよ。殺人、略奪、麻薬の製造売買、アンプルの模造品の製造」

「アンプルの模造品ってのは普通のと違うのか?」

「全く違うわ。その偽アンプルは効果は薄いし反動も凄まじくて全く使い物にならない粗悪品よ」

「じゃあそれを使ってギャングは能力を手に入れてるのか?」

「それは不正解。偽アンプルは集金方法のひとつでしかないの。彼らは能力者を『ヤード』に引き渡して、その見返りに純正のアンプルを貰っているの」

「あー…………その『ヤード』って言うのは?」

「治安維持部隊、簡単に言うと警察。これが2つ目の組織ね。基本的にはノウリミットにいるんだけど、能力者の情報を嗅ぎ付けると黒いローブに白いカラスのマスクを着けた別働隊が確かめに行って、能力者がいればそれを連れ去って行く。能力者にとっての死神ね」

「連れ去るったってどこに?」

「さぁ?アンプルの製造元の会社とも言われてるし、ただ殺すだけとか。どれも眉唾ものね」

「どれも能力者にとって不都合な団体しかないんだな。プラスになる団体はないのか?」

「待って」

 カトレアは眼鏡を外し、集中し始めた。

 彼女の左目が赤く染まり、炎が燃えているようにボンヤリと光っている。

「逃げるわよ……………バースデイアリスの構成員が…………2人」

「ウサギマスクか!?」

「質問は後にして…………裏口から行くわよ」

 カトレアに連れられて寂れた裏路地に出た。

 真夜中な上にジャックが初めてセーレンに来た時よりも霧が濃い。

 路地裏はゴミと戦争の爪痕だらけだが、やけに丁寧にブルーシートが掛けられたゴミの山がある。

「…………うん、大丈夫そうね。バイクで行くわよ」

 カトレアがブルーシートを外すと、中にはゴミではなく、厳ついハーレーのバイクが現れた。

「乗って。しっかり捕まってなさいね。このまま2番街まで行くから」

「いいや、君達はそのバイクを動かすことも、2番街に行くことも

させないよ」

「なぜなら僕達が止めるからさ!」

 バイクに跨がろうとした瞬間2人の男がいきなり現れた。

 1人は黒いスーツに白いネクタイを着けた声の低い男。1人は白いスーツに黒いネクタイを着けた声の高い男。

 片方は声が低く背が高いが、もう片方は声が高く背が低い。

 対局的な男達といった印象だ。

「俺はドルダム。こっちはドルディ。双子なんだ」

「そう!双子でバースデイアリスの殺し屋やってまーす!」

 ドルダムは白を基調に黒いセイウチのマークが入ったマスクを着けており、ドルディは黒を基調に白いノコギリのマークが入ったマスクを着けている。

「一応聞いておくけど、何の用?」

「ウチのマーチヘアがそこのカボチャ頭を仕留め損なった」

「その尻拭いってわけさ!」

「あのウサギマスクはマーチヘアって言うのね。情報ありがとう。間抜けさん達」

 カトレアは双子を煽って隙をみつけようとしている。

 確かに味方の名前を暴露するところは間抜けそのものだが。

「そんな間抜けに今からお前達は殺されるんだ」

「悪いけど、私達はまだ生きなきゃいけないの。そうでしょ?ジャック」

「そうだな、わざわざヒトになったのにこんなところで終わってたまるか」

「彼らは何秒態度を貫き通せると思う?ドルディ」

「心変わりさせる前に殺すんだから時間なんて測ってられないよ!ドルダム!」

 濃い霧の夜、戦いの火蓋は落とされた。

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