4話 救いの手
(あれ、何でまたあの部屋にいるんだ?)
気がつくとジャックはあの悪魔の部屋で座っていた。
ウサギマスクの男に気絶させられたはずなのに。
「やぁ、まずはおめでとうと言っておこう。始めの戦いを生き延びたのだからな」
「ま、まダあるノか………………?」
「勿論だとも。これで終わるとでも思ったか?君はまだ1つの分岐点を通過したに過ぎない。君の破滅が遠退いただけだ」
メイドのジョセフィーヌはおらず、マキーナは不敵な笑みを浮かべている。
「ナ、ナぁ?オレは死ンダのか?また別ノ奴に捕まッたのカ?」
「いいや、君は助けられたのだ。君が気絶する前に見た黒いコートの人間に。ほら、腕治ってるだろう?」
確かに折られた筈の腕は差し支えなく動かせる。
きっとそのヒトは医者なのだろう。そう思った。
「お前を襲ったマスクの男だが、あれが能力者だ。感じただろう?あの人間離れした能力を。あれは君にも与えられているのだが、使い方を知りたくはないかね?望むなら教えよう。全ては君次第だがね」
「ヒトっテのはコロシをシちゃいけなイんじゃナいか?オレはソう思ウね。オレはアの男と同ジ舞台にハ立たナイつもりダ」
そうだ。オレは善良なヒトとしての人生を願ったんだ。
殺人なんかしたくない。しない。するもんか。
オレはそんなコトで第二の人生を滅茶苦茶にしてたまるか。
「いいじゃないか!その想い!私はその想いを尊重しよう!ただし、万が一の時には手助けをさせてもらう」
「ソれでイい」
「さて、そろそろ話も終わりにしよう。君が寝てから現実では少しばかり時が立っている。早く起きろ」
「ナぜ時間が立っテいるンだ?マダ10分も話シテなイじゃナいカ」
「この部屋は言わば夢のようなものだ。時など関係のない精神の世界にいると思っておきたまえ。さて、そろそろ本当に起きるべきだ。また会おう」
目の前がぼやけ、真っ暗になり、身体が動かなくなった。
【数日後】
ジャックは気づくとベットの上でコンクリート剥き出しの天井を見ていた。
「あ、やっと起きた。身体の調子はどう?変なトコある?」
ベットの横の椅子に白衣を着た黒縁眼鏡の知的な女性が足を組んで座っている。セミロングの髪型に黒シャツとデニムの格好がクールな大人の女性の魅力を感じる。
「ココは?オレは腕を折られて気絶したはず…………」
「腕は治しといたよ。耳障りだったからついでに声帯もいじっといた」
確かにあのぎこちない喋り方が治っている。どういじれば喋り方が治るのか疑問は残るが、とりあえず現状の把握を行った。
「落ち着いたみたいね、ジャック。君には色々聞きたいことがあるんだけど、いいわね?」
「待った。まずオレの質問に答えてくれ。答えてくれたらなんでも言おう」
「まぁいいわ。それで?何が聞きたいわけ?」
「なぜオレの名前を知っているのか、君の素性、この街では何が起こってるのか、ウサギマスクの男は何者なのか、ヤードとは何なのか、それに答えてほしいんだ」
だいぶ質問攻めにしてしまったため罪悪感があるが、それぐらい今は情報がほしい。
「じゃあ1つずつ説明していくわ。長くなるけどちゃんと聞いとくのよ?」
そう言って女医は語り出した。