18話 拘束手段と反動
「あぁん?なんだよ……お前らも俺に従わないのか……?」
「その人は関係ねぇだろ、手離せよ」
借金滞納者のコルネルがギャンブルをしようと暴れたため、探偵達は依頼を身柄引き渡しの方向へ変更した。
「は?お前ら誰だよ!善人面してんじゃねーぞ!!」
「我々はキングズリー商会の取り立て人代理だ!ギャンブル行為が発見され次第身柄を引き渡せと命令されている!」
芝居じみた言い方をするカステルを見てマグニは茶々をいれる。
「テンパってるだろ」
「集中しろ」
「ハハ、怖」
「キングズリー……?取り立て……?冗談じゃねぇ!!俺は金なんか払わねーよ!!」
逆上したコルテルはBARのマスターから手を離し、左目を紫色に輝かせ、酒場の老人達を怯えさせる。
「死にたくなけりゃ逃げたがいいぜ!!!」
「アリス!!」
突如BARのガラス製のグラスやボトルが全て宙に浮かび、歪に膨らみ爆発した。ガラスの破片が散り、周囲の人間を傷つける。
「…………おじさん……?」
アリスに飛んだ破片はマグニが覆いかぶさる形で全て庇った。
「おじさん!どうして……」
「暫定保護者だからに決まってんだろ……マスターと一緒に店を出な。後で絶ッ対会いに行くからよ。マスター!いつもんトコに頼んだぞ!」
「わ、分かりました……こちらへ」
マスターがアリスを守るように抱きしめて店を出ていった。
「カステル!!生きてるか!!!」
「当たり前だろ、能力者であり戦争経験のある若者を舐めてもらっちゃこまるね」
コルネルとマグニの間にあったテーブルを盾にしてカステルは回避していた。
「そうか、目標は無力化だ。殺すなよ」
「俺が止めるからその間にぶん殴っちまえ」
「へいへい」
「お前らゴチャゴチャうるさいんだよ!!さっさと死ねよおおお!!」
歯をガチガチ鳴らし、体を震わせながらコルネルは右腕を振り上げた。
破片が宙に浮き、宙から二人を狙い続ける。
「いいか!俺は間違えてない!いつだって間違ってるのは他の誰かだ!金やギャンブルを作った奴が悪いんだ!俺は悪くない!!」
破片がミシミシと音を立て、歪な変形をし始める。
「間違ってるのはお前らだ!そしてそしてそしてそしてぇ!!俺は善人紛い共が大嫌いなんだよォ!!」
コルネルが腕を振り下ろすと浮遊する破片が一斉に爆発した。
破片が飛び、自分の体が傷付くと知りながらマグニはその場から動かなかった。仲間を信じていたからだ。
隠れていたテーブルから左目を紫色に輝かせたカステルが飛び出てきた。
「吹っ飛べ!!!」
手を銃の形にして親指を撃鉄のように下ろすと、指先から衝撃波が弾丸のように発射された。弾丸は破片全てを無力化し、コルネルを唖然とさせた。
「はぁ!?おい何して」
喋っている間にマグニが走って鳩尾に拳を叩き込む。
「カハッ…………!」
コルネルはその場でドサッと倒れ、それを心配したカステルが駆け寄る。
「お前これ加減したのか?」
「してない。死ぬかもしれないだろ?」
「ガバッ……ゴホッ……殺す気かよ」
コルネルがうつ伏せのまま二人に話しかける。
「こちらも死ぬかと思ったんでね。悪かった」
「あぁ……俺は捕まっちまうんだな……?」
「そうだ。金を返さないから拘束して連れてこいと言われている」
「眼鏡の旦那は堅苦しくて息が詰まるぜ。なぁ、一応聞いてほしいんだ。俺は金を借りたことなんかない……記憶と行動が一致しないんだ……」
マグニは言ってる意味が理解できていないが、カステルはこれに心当たりがあった。
「それは…………反動じゃないのか……?」
「俺は能力についてはよく知らねぇんだ。カステル、説明頼んだ」
「反動は能力の過剰使用によって現れる身体の変化の事だ。火の能力、赤の目のリバウンドは触覚の損失とかだが、俺やコルネルの紫の目のは記憶障害や人格分裂などの精神に異常をきたすものだ」
「はは……だからか……どうりでなぁ……」
コルネルの目からボロボロと涙が溢れる。
「戦果も挙げず戦争から帰ってきたら家もなければ娘や妻もいない……残されたのは現実から目を逸らすためのもう一人の自分だけ…………ヤケクソになって手に入れたこの力でさらに自分を苦しめてたのか……」
コルネルの顔は絶望に染まっている。
「なぁ……眼鏡のあんた……俺の力を受け取ってくれ……」
「それは……何故だ……?」
コルネルは両手でカステルの手を握り締め、目を光らせた。
「俺にはもう守るものもない。だがお前らには娘がいるだろ……?その子を守ってやれ……」
「おい!やめろ……受け渡しは……」
コルネルの光が目から腕へと伝わり、カステルの右目へと流れていった。
流れた後、コルネルの体が塵に変わっていく。
「いいか……?能力にはのまれ…………るな……」
とうとう塵になり、どこからか入った風で塵は何処かへ飛んでいってしまった。
「「…………」」
思い空気が流れる。まさか調査対象が根っからの悪人というわけではなく、戦争のせいで気が狂ってしまった被害者だった事は初めての経験だったからだ。
「…………報告はどうする……?」
カステルが切り出す。
「しないわけにはいかんのだがな……」
「……なぁ?こうするのはどうだ……?」
カステルがマグニに耳打ちする。
「なるほど……そいつはいい。俺好みだ」
「なら今から行こう。キングズリー商会へ」
二人はBARを後にし、その足で国の中心に近い取引街へと歩みだした。
コルネルの事を想いながら。