14話 モノと執行者
((子供達を集めたぞ!カトレアは大丈夫か?))
((えぇ、こちらも集めたわ。地下へ連れて行くわ))
念話で会話する2人は招かれざる客に備えて孤児達をシャトーの地下室に避難させる。
((ところでリアを知らないか?))
((私は見てないけど、急いだ方が良いわね。かなり近付いてる))
「ジャックさん!!」
ジャックの後ろからリアが走って来た。
「ジョ……ジョンがいないんです……どこにも居なくて……」
リアは半泣きと恐怖で引きつった顔をしている。
「オレが探してくるからリアはカトレアと合流して地下で待機してくれ!あ、道分かるか!?」
「カトレアさんなら……能力で」
「了解!待ってろよジョン!!」
「確かに一周した筈なんだが、ジョン……何処だ?」
一周回って中庭に戻ってきた。
((聞こえるか!?ジャック!返事を!))
((キャロルか?ジョンの場所わからないか?))
((単刀直入に言う。援門の前で客の対応を頼む))
((オレはドアマンじゃないぞ?))
((幸運を祈る))
念話が切れ、ジャックはキツイ命令を下された。
「対応か……それで守れるなら喜んで」
門へと足を動かす。
【シャトー 門前】
何もない平坦な道で、ジャックは道の真ん中に2人の人型を捉えた。
恐らくカトレアやキャロルが言っていたのはコレなのだと悟る。
「どういったご用件で?」
「「我等は報復を行う者。執行者なり。汝らが奪いし物は我等が管理せし物である。速やかに渡せ」」
以前戦ったヤードと同じ服装の2人は同じタイミングで機械のように話す。
「渡すモノなんか無い。モノなんかね」
「「ならば奪うのみ。死ぬがよい」」
「オレが無抵抗でいると思うなよ!!」
飛びかかってきた2人を受け流し、応戦する。
(今のオレの敵じゃない。いけるぞ!)
「「我等の任務は貴様の殺害ではない」消える」
1人が黒いローブを脱ぎ捨てると、辺りが闇に包まれた。
「何も見えないならば照らせば!!」
ジャックは能力を使い、自分の真上に炎を発生させた。
しかし闇は晴れず、2m先までしか見えない。
「私は貴様を潰す事にした。任務違反だが首を持っていけば関係あるまい」
執行者は暗闇からジャックの体を傷付け、体が徐々に悲鳴をあげていく。
(このままじゃマズいな……念話も出来ないし、戦闘を重ねて気付いたが、オレの炎は目を向ける先にしか出せない……)
ジャックが考えを巡らせる中、体はどんどん傷ついていく。
「抵抗無しか。ならばこのまま切り刻むのみ。消えろ」
(冷静になれ……相手はどうやって傷つけてる?)
ジャックは目を閉じ、感覚を研ぎ澄ませる。
傷つく度に周りを飛び回る気配を感じた。
気配は背中、右腕、胸、左腕と順番に切っていく。
(背中、右腕、胸、ならば次は!!)
ジャックは自分の左側にキックを予想してとばした。
「ギッ!!!」
執行者は声を上げ、キックの余波で吹っ飛んだ。
「あんまり自分の力を過信するのは良くないぞ。さっさと闇を晴らせ」
ジャックが発言し、闇が晴れる。
「我の任務は達成された……今頃片割れは上手くやっているだろう……」
「片割れ…………まさか!!!」
ジャックは戦慄した。
自分が執行者と戦っている間、もう一人が消えて地下へ行った最悪のシナリオを想像したからだ。
【数分前 シャトー 地下室】
「みんなジッとしててね。ジッと」
「なになにー?」
「かくれんぼー?」
「あそべるのー?」
子供達の番をしながらカトレアは地下で招かれざる客に備えていた。
((逃したか?))
((逃したけど、ジョンという子がいないらしいわ))
((何!?千里眼は使ったのか!?))
((それが……使っても確認できないの……))
((……私が探してくる。カトレアは待機しておけ))
((分かったわ。幸運を))
カトレアはキャロルに幸運を祈り、子供達を支え続けた。
「カトレアさん、こんな状況なのですが何だか眠くなって……」
誰よりも子供達を大切に思っているはずのリアが寝てしまった。
状況が余り良いとは言えないはずなのに。
「リア?リア!?…………リアだけじゃない。他の子供達もか」
リアだけではなく、カトレアの周りの子供達もまた眠っている。
不審に思ったカトレアは千里眼で地下室を見渡した。
「これは……!?このままでは私まで……」
地下室は何者かの能力で睡眠効果のある気体で満たされていた。
((キャロル……招かれざる客を早く……))
最後の力を振り絞って念話を送り、カトレアは倒れてしまった。
【ジャックが闇に包まれた同時刻 シャトー 中庭】
「お前がヤードの手先か」
「執行者なり。知りすぎた者の排除を行う」
キャロルは執行者と対面していた。
子供達が遊んでいた中庭で、殺し合いが始まろうとしている。
「お前が門で闇を作り、気体を流した能力者で相違ないか?」
「然り。最も苦しまない方法で執行したのだ。感謝しろ」
「黙れ……!お前には死んでもらうぞ!!!」
「丸腰の少女が出来るとでも?できるわけがががががががががががががががががががが」
キャロルの左目が輝き、執行者が突然可笑しくなる。
「私の家族に危害を加えたこと、私を少女扱いしたこと、後悔させてやる!!」
「我、私、カー、コレが見え見え見えなないのかーーー???」
執行者がガタガタと震えながら懐から赤黒い布に包まれた物を地面に落とした。
「そ、それは…………」
布から落ちたのはバラバラになった少年と思われる体。
「ははははやくくくくもどもどもどせせせせ」
「ふざけるな……ふざけるなよ!!」
「ガフ!!ゴボボボ……消えろろろろ」
執行者は泡を吹きながらオレンジ色の煙を噴出させた。
「私が言えたことではないが、人を殺めるなんて最も人から離れた行為だ。しかも楽に殺してやったから感謝しろだと?反吐が出る。そんなお前には私の能力で死んでもらおう」
キャロルが話している間、いつの間にか煙の噴出は止まり、執行者はブツブツ呟きながら倒れていた。
(とりあえず煙は止まった……今は早くカトレアの安否を!)
キャロルはカトレアと子供達のいる地下へ急ごうとすると、後ろから声がした。
「キャロル!!」
ジャックが風より早く現れた。
「ジャックか!執行者とか言う奴はどうした?」
「倒してとりあえず縛っといた。それよりもう一人が……」
「それはもう対処した!それより今すぐ私を担いで地下室まで連れてけ!」
「担いで地下室?まさかカトレアに何か」
「あったから急いでるんだ!!早くしろ!!!」
「わ、分かった!」
ジャックはキャロルをお姫様抱っこで運ぼうとした。
「ちょ!お前!!それは!」
「なんだよ!急いでんだろ!?」
「あ、あぁ……」
抱えたままジャックはカトレア達のいる地下室へ急いだ。