11話 アドバイスと初任務
ジャックは自室で明日に備えて眠ろうとしていたが、頭の中からの声のせいで眠れなかった。
「またあの声か」
「いえ、今回は私がこの場にいますよ、マヌケ」
声の方に目をやると、メイド服を着た少女ジョセフィーヌがトランクケースを抱え、ソファに座っていた。
「え、何で!?どこから入った!?」
突然の訪問者に慌ててマッチで蝋燭の火をつけるジャック。
慌てる様子を見てジョセフィーヌはクスクスと笑っている。
「私はどこにでも出入り出来るのですよ、この馬鹿。それより、ご主人から渡すものがあります」
ジョセフィーヌは持っていた革のトランクケースを開け、手紙を取り出し、差し出した。
「噛み締めてお読みください。あと能力の使い方をよく見直しなさい。それでは」
「あ、なぜマキーナは来れなかったのか……いなくなってる……」
いつの間にかジョセフィーヌはいなくなっていた。
その事について深く考えず、ジャックは手紙を読んだ。
【マキーナからの手紙】
ジャック君へ
とうとう能力を使って敵を殺したようだね!
本当は私が出向くべきだったのだが、用事が入ってしまってね。本当に申し訳ない。
さて、君がヒトを殺したと言うならば、また人を殺さねばなるまい。
殺人を一度で止めることは出来ないからね。
と言う訳で君は能力を使いこなせなければいけないのだが、君はまだまだ能力をヒトを超越した力だと思っていないか?
そんな気持ちは捨てて、もっと日常的なものだと考えれば自ずと使いこなせるだろう。
私の言いたい事はそれだけだ。またの再開を楽しみにしているよ。 マキーナより
追伸、君の知らないところで別の運命が動き出した。
【読み終わり、自室にて】
「日常的なものってどんなだよ……蝋燭つけるとか?」
ジャックは考えを巡らせる。
「試してみるのもアリだな」
蝋燭の火を吹き消し、ジャックは能力を発動する。
(蝋燭の火は小さい……出来るだけ小さく抑えて……)
イメージを固め、実行に移す。
出現させた炎は先程までついていた火と変わりない、ごく普通の蝋燭の火となった。
「…………イメージすれば調整も可能なら温度の低い炎もいけそうだ……が、もう寝ないとな。流石に明日に支障がでそうだ」
気付けば2時になっていた。ジャックはそそくさとベットに入り、眠りについた。
【翌日 キャロルの部屋にて】
「おはよ〜ございま〜す……」
「眠そうだな。まぁいい、今からこの組織について説明するから座れ」
ジャックが眠たそうに部屋に来てからすぐに説明は始まった。
カトレアは眼鏡を拭きながら静かに座っている。
「このレジスタンスという組織は革命が主な目的ではなく、国民の安全を守る活動が基盤になっている。そこでだ、君達2人には2番街の見周りをしてもらいたい」
その言葉を聞いたジャックの目は子供のようにキラキラしている。
それを見たカトレアはジャックの心が子供なんだと感じ取り、口元が緩む。
「了解、私がジャックの保護者ってわけね。じゃあ行くわよ」
「え、もう行くのか?早いんじゃ?」
「バイクは車庫に置いてある。この機会に色々学んでこい。ほらほら行った行った」
キャロルが背中を押し、2人を外へ追いやった。
「あ、ジャックは部屋に着替えを用意してるから着替えとけ」
何だかんだキャロルは優しいとジャックは理解した。
【2番街 闇市場】
ジャックはサスペンダーを付けたズボンとワイシャツに着替え、カトレアと市場に向かった。
バイクに揺られ、5分程度で着いた。
相変わらず人々は汚れて光を失っている。
「見回りって何するんだ?」
「散歩よ散歩。たまに暴力沙汰になるけど」
バイクを押しながら市場内を歩き始めた。
子供達が又してもジャックにすがり、その中の1人の白い髪の少女が話しかけてきた。
「カボチャの頭のお兄さん。お金を頂けませんか?この子達にパンを食べさせないと死んでしまうので……」
「君は食べなくていいのか?」
「私はいいのでどうかこの子達を」
「あら、優しいのね。お名前は?」
カトレアが会話に入ってきた。
「わ、私はリアと言って………えっ?あ、あなたはどれだけ人を殺しているのですか……!?」
リアという少女がカトレアに恐怖を感じている。
「何百と殺してるわね。それも戦争が終わると信じてやった事なの」
「じゃあ私のパパやママも殺したの……?」
ぞろぞろと他の子供達がカトレアによって来た。
2人は理解した。リア達は隣国の戦争孤児なんだと。
「私は進行してきた兵士しか殺してないけど、と言うより貴女どうして私が殺している事が分かったの?」
「そ、それは私が…………え?」
リアが何か発言しようとした瞬間、黒く大きな影が横切った。
「嫌ああああああああああああああ!!!!!」
影はリアを抱えて攫い、6メートルはある建物の屋上まで跳び、そのまま走り去る。
「クソッ!!」
ジャックは少女の叫び声を聞き、いても立ってもいられなくなり、影と同じように屋上まで跳び、影を追いかけた。
「嘘でしょ……?いや、言ってる場合じゃないわね」
取り残されたカトレアは急いで能力を発動し、目で後を追う。
リアをさらった影は既に500m程離れているが、ジャックはその後を追いながら段々と近づいている。
「これは報告物ね」
カトレアは耳に手を当て、キャロルの姿を思い浮かべた。
((カトレアどうしたー?念話って事は重大案件かー?))
気だるそうなキャロルの声がする。
((市場で会ったリアという恐らく能力持ちの戦争孤児が黒い影に攫われた。そしてそれをジャックが追いかけた))
((…………バイクを使って追いかけろ。能力は出来るだけ長く発動させて、状況が変わり次第報告せよ。以上))
キャロルはカトレアに指示を出し、念話を切った。
「さて、早く追いつかないとね」
カトレアはバイクに乗ろうと跨ると、リアの周りにいた子供の1人がか細い声で話しかけてきた。
「あ、あの……リアを…………助けてください!お願いです……」
「もちろん助けるわ。なんたって私達はレジスタンスなんだから」
カトレアはバイクで2人の後を追い、バイクを走らせた。